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ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その2

 陽炎型航洋直接教育艦「晴風」。
 その内の教室のような一室に『異世界人』達は集い、自己紹介を兼ねて互いの世界の情報を交換していた。
 艦長・岬明乃(みさきあけの)と副長・宗谷ましろが経過を見守る中、議論は進む。
「……成程。つまり我々は、文化や時代背景、そして前提となる常識そのものが異なる世界から集められた、という訳か……」
 年長者である番場宗介が一区切りするように、まとめあげた。
「つまり、ここは遥か未来の日本なんですね。よくわかりませんが、これは紛れもなく、『神喰い』の影響ですね!」
 うんうんと静御前が思案顔で頷くが、おそらく何も理解していない。
「いや、そうとは限らない。君たちが私の知る歴史上の偉人、『静御前』と『源義経』であるとしても、日本で『神喰い』という怪物が跋扈したという記録は残っていない。そもそも、幻暦(げんりゃく)という紀年法にも覚えがない。根本的に私の知る日本とは別世界であると考えた方がいいだろう」
 番場の説明に、静御前は首を傾げながらも「つまり『神喰い』の影響なんですね!」と勝手に結論付けた。
「同じ日ノ本の国であったとしても、歴史に『ズレ』が生じている、ということか……」
「おそらく、そうだろう。私の知る日本では、君のいう『カバネ』の驚異にさらされたという歴史は存在しない。更に言えば技術レベルにおいても違いが見られる。江戸時代に蒸気機関を用いた技術はそこまでの水準には達していないはずだ」
 片腕に物騒な武器を取り付けた青年、生駒(いこま)の呟きに、番場が応じながら
「歴史の『ズレ』といったが……その最たるものが現在、我々がいるこの世界だろう。さながら『日本沈没』のように国土が海に沈み、海上都市と化した日本。ここには日本人が多いようだが、これを当たり前に受け入られる者は少ないはずだ」
「私たちにとっては、海に沈んでいない日本というのが想像できないのですが……」
 明乃が何気なく漏らした言葉に、番場をはじめとする『日本人』達が常識の隔たりを感じ取る。
「火星をテラフォーミングするような計画が進められている未来でも、そんなパニックホラー映画じみた現象は起こっていないぞ……」
 西暦2620年を生きる膝丸燈が呆れた調子で言う。
「人を食らう『奇獣』が生息する世界、『ヒーロー』が職業として存在する世界、人類の存亡をかけて『陰陽師』が戦う世界、『スタンド使い』という超能力者が存在する世界、人のトラウマが具現化する秘境『納鳴村(ななきむら)』が在る世界……ここまではあくまで日本……いや、地球という枠組みの中で語ってきたが……」
 番場が、銀髪のハーフエルフ・エミリアと魔法使いの少女・リコへと視線を向ける。
「……まさか、ここは大瀑布の向こう側にある世界……なの?」
「ナシマホウ界にもいろいろあるのね……勉強不足だわ……」
 ファンタジー世界の住民は共に頭を抱えていた。
 情報量の多さと常識の不一致に、聡明な二人でも理解が追い付いていない様子であった。
「剣と魔法の世界でも、一括りってわけじゃないよ。こちらの世界では、魔法の杖が『杖の木』から生み出されるなんていう風習はないからね」
「リコも『ルグニカ王国』って国は知らないみたいだし、同じマホウ界じゃないのかも?」
 精霊猫パックとナシマホウ界の(すなわち日本の)少女・朝日奈みらいが補足する。
「問題は、如何なる理由で我々は異なる世界から召集されたのか、という点だ。先ほど襲撃してきた『奇獣』への対策と元いた世界への帰還方法についても併せて……」
「……悪りぃ。ちょっといいですか?」
 ジャージ姿の青年、ナツキ・スバルが番場の言葉を遮るように立ち上がった。
 注目を浴びるスバルは、真剣な表情で室内を見渡しながら
「これからのことについて話し合うのも大事だと思うんすけど……あぁと、その……結論から言えば、さっきの怪物にはもっとヤバい元締めみたいな奴がいるんだ。あいつらはだだの尖兵で、近いうちに親玉がやってくる。だから、まずはその対策を……」
「ちょっと待て」
 ミッシェル・K・デイヴスが鋭い声音で割り込んだ。
「スバルといったな? お前はあの化け物を知っているのか?」
「……それは……」
 ミッシェルの指摘に、スバルは押し黙ってしまう。
 ナツキ・スバルは『死に戻り』という力を持っている。
 自らの死をトリガーに特定のポイントまで時間を巻き戻すという、非常に強力な能力である。
 そのため、スバルはこの先の展開、ペニス―ツマンとの激戦を既に経験していた。
 しかしながら、この『死に戻り』の能力に関することは、他人に話すことができないというデメリットが存在する。
 無理に口に出そうとすれば時間が止まり、『漆黒の腕』に心臓を握りつぶされるような激痛に襲われるというペナルティーが発生するのである。
 この先の展開を伝えたくとも、その根拠を口に出せない。そのようなジレンマの中で、スバルは苦悩していた。
「少なくとも、僕の記憶にはあんな姿形の『魔獣』に覚えはないよ。リアも同様のはずさ……スバルはどうかは知らないけどね」
「ちょっと、パック! そんな言い方……」
 パックの保身に走るような言動に、エミリアが抗議の声をあげる。
 そんなやり取りを気にも留めずに、ミッシェルはスバルを鋭く睨み付ける。
「……私は多くの部下と共に危険な任務についていた。今こうしている間にも、火星では部下達は戦い、中には命を落としている者もいるかもしれない……私と燈が抜けたとなっては猶更だ。私達は、一刻も早く元の世界に戻らないといけないんだ」
 静かな声であったが、威圧するような激情が込められた声であった。
「待ってくれ、俺はっ!」
「知っていることがあるならば、全て話してくれ! 何か話せない事情があるようだが、今はそんなものに拘泥している余裕はないっ!」
 ダンッ!と長テーブルに拳を叩きつけながら、ミッシェルは叫んでいた。
 威圧されたスバルが彼女から目を背けていると
「何か知ってるなら、話してよ。時間がないのはわたし達も一緒なんだ」
 気づけば、おかっぱ頭の少女・無名がスバルの目の前まで歩いていた。
「おいっ! 無名っ!」
「生駒だって気づいているでしょ? 甲鉄城を守る『カバネリ』が二人もいなくなったら、どうなるか。話さないっていうなら、ちょっと痛い目にあってもらうよ?」
 剣呑な雰囲気を醸し出す無名を前に、スバルを庇うようにエミリアが立ちあがる。
「ちょ、ちょっと、待って。乱暴なことをするのは……」
「どいてくれないと、きみも痛い目にあってもらうよ。えるふだっけ? そっちの飼い猫はよくわからないけど、きみ自身は『カバネ』よりは脆そうだし……」
「リアに手を出すっていうなら、僕も手加減はできないよ」
 精霊猫パックが冷気を生み出し、無名が首元の枷紐に手をかける。
「馬鹿! よせ、無名っ!」
「パックも落ち着いて!」
 生駒が背後から抱き着くような形で無名を止め、エミリアがパックを宥める。
 そして、一触即発となった空気に呼応するように
「何だかよくわからんが、貴様は元いる世界に帰る方法を知っているのだな! 今すぐ、私と静を戻してもらおうか! できれば、ラブな感じのホテルの一室などになっ!」
 興奮した様子の義経がスバルに詰め寄り
「ちょっと待ってください! 一人によってたかって、こんなのあまりに一方的ですよっ!」
 光宗がスバルを庇うように声をあげる。
 かつて納鳴村で真咲が疑いの目を向けられ、一人の少女が吊し上げられるまで暴走した『真咲狩り』を彷彿させる光景を、見過ごすことができなかったのである。
「そいつの言う通りだ! いい加減にしろよっ! こんなぎゃあぎゃあ騒がれたら、話せるもんも話せないだろうが!」
「……ろくろが一番……声が大きい……」
 八重歯をむき出しに吠えるろくろを、紅緒が平坦な声で諫めた。
「あぁぁぁ……不幸だぁ……訳のわからない怪物だけでなく、異世界人までが暴れまわるなんて……『晴風』はもうおしまいだぁ……」
「ちょっとシロちゃん、落ちついて……とにかく、この騒ぎを収拾しないと……!」
 頭を抱えながらうずくまるましろを余所に、明乃がわいわいと騒ぎ立てる『異世界人』達を宥めるため動こうとする。
「な、何かおっかない空気になっとる……」
「……ブツブツ……異なる世界……異能力……それでも『個性』に通じるものはあるはず……ブツブツ……」
 不安気な声を漏らすお茶子の隣では、モジャモジャ髪の少年・出久がブツブツと念仏のように何かを呟いていた。
 やがて意を決した表情で、出久が勢いよく立ち上がる。
「待ってくださいっ! おそらく、その人には話せない『理由』があるはずなんです!」
 出久の元へと、会議室中の視線が集まる。
「……言ったはずだぞ。どんな事情があろうと、拘泥している時間はないと」
「事情があるから、ではなく『個性』の制約的なものだとしたら?」
 怪訝な顔で眉を顰めるミッシェルへと出久が説明を進める。
「僕達の世界では、殆どの人が『個性』と呼ばれるコミックのヒーローみたいな能力を持っているんですが……それぞれの『個性』は決して万能なものではないんです。例えば、僕の『個性』は超人的なパワーを発揮できるけど、このようにコントロールができなければ、自分の身体を傷つけてしまうというデメリットがあるんです」
 言いながら、出久が骨折した右手の指を見せつけた。
 ボロボロに負傷した指を見て、ミッシェルや無名、スバルに詰め寄っていた者達も含めた全ての人間が息を呑む。
「多分、スバル君の『個性』は『予知』のようなものだと思うんです。ただし、『予知した情報の根拠を話すことはできない』という風なデメリットがあるものだと。それが、彼が話せない『理由』であると、僕は推測します!」
 出久の言葉に、スバルは目を見開き驚愕した。
(こいつ……マジでスゲェ……これなら全員の力を合わせて、アイツと戦うこともできるんじゃないか……?)
 元いた世界でスバルは、『死に戻り』がもたらす弊害、認識の齟齬と情報を共有できない歯がゆさに酷く苦しんでいた。
 思考の方向性が異なる『異世界人』だからこそ、完全ではないがスバルの能力の一端を理解できたのだといえよう。
「校長先生がよくやってる水晶さんの占い、みたいなのかな?」
陰陽道における式占(ちょくせん)……のようなもの……?」
「『死相が見える』っていう子は納鳴村にも居たけれど……」
 出久の解説に、半数以上はなんとか納得しているものの、一部はただ困惑している様子であった。
 そんな混乱の中、仗助と康一、二人の『スタンド使い』が出久の隣に並び立った。
「指、ボロボロじゃあねぇか……ちょっと見せてみな?」
「えっ? 何を……」
 困惑する出久の手を取り、リーゼントの青年・仗助は自らの『スタンド』を出現させた。
『クレイジーダイアモンド』の『治す』能力をもって、出久の骨折した指は完全に治癒されていく。
「あ、ありがとうございます……これはリカバリーガールと同じ『個性』……いや、治癒力の活性化どころじゃない……まるで時間が逆行しているような……」
 ブツブツと呟き続ける出久を余所に、仗助は周りを見渡すように宣言する。
「見ての通り、これが俺の『スタンド』……『クレイジーダイアモンド』の能力って奴ッス。壊れた物や怪我した生き物を元通りに治す能力なんスけど、もちろん万能な力って訳じゃあない。俺自身の怪我を治すことはできないし……失われた命を戻すこともできない」
 突如出現した人型のスタンド像に呆気にとられる『異世界人』達へ向け、小型のエイリアンのような像(ビジョン)を傍らに浮かべた康一が続ける。
「僕の『スタンド』は『エコーズ』と言います。漫画のような擬音を操るっていう、結構応用が利く能力なんですが、これにもパワーが弱いっていう欠点があります」
 二人の『スタンド使い』の解説に、無名は首を傾げた。
「何が言いたいの?」
「……要は異能は万能ではないということだろ。超人的な身体能力を持つ『カバネリ』が人間の血を必要とするのと同じように、異能にも何かしらの欠点があると言いたいんじゃないか?」
 むぅ……と頬を膨らませる無名を宥める生駒を横目に、ミッシェルがスバルと向かい合う。
「……先ほどは済まなかった。こちとら、SFチックな世界観なんでな。魔法やら超能力なんてモンには疎いんだ」
「い、いや……俺も何も説明しなかったわけで……」
「俺の上司が悪かったな。ちょっと怒りっぽいところがあるんだけど、それは誰よりも部下想いだからなんだ。美人さに免じて許してやってくれ」
「お、おぅ……」
 ミッシェルと燈の謝罪に面食らい、スバルは曖昧な反応を返す。
「……さて、話はまとまったようだな。これからは、スバル君の持つ『予知』のような能力に頼ることになるだろう」
 語りかけてくる番場へ向け、今まで放っておいた癖にどの面さげて言うんだこのおっさん……と口元まで出かけた言葉をスバルは何とか飲み込んだ。
「深くは追及しない。答えられる範囲でいいので答えてほしい。君のいう『奇獣』達の元締めは、いつ襲撃すると予測する?」
「あと数時間以内に来るはずだ……まず姿に面食らうと思う。何たって、アイツは……」
 スバルが言いかけた瞬間に、ガグォン!という爆音が船内に轟いた。
 同時に荒波に翻弄されたような揺れが、スバル達を襲う。
「う、そ……だろ……早すぎる!? 前のときはもっと……」
「甲板に向かおう。まずは事態を把握するべきだ」
 番場が困惑するスバルを立たせ、『異世界人』達は会議室を後にした。
 やがて、彼らは甲板で一人の男を目撃する。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
「オタクくんは赤ちゃんがそのままおじさんになったみたいな顔してるね藁」
「坂上(さかのうえ)ェェェッ!!!」
 スーツ姿の男、坂上逆孤(さかのうえさかこ)へとスバルが憎悪を込めた声で激昂する。
『哲学する男性器』ペニス―ツマンとの決戦の火蓋が切って落とされた。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その1

「二番砲右! 攻撃始め!」
 陽炎型航洋直接教育艦「晴風」の艦長兼クラス委員長、岬明乃(みさきあけの)が凛然とした声で号令を下した。
「Oui」
 無口な砲術長、立石志摩(たていししま)が短く返答する。
 同時に、5インチ単装砲が火を噴き、砲弾が標的へと叩き込まれた。
「晴風」が交戦している相手は、艦船ではなかった。
 あろうことか、『龍』のような生物と明乃達は対峙していた。
 その生物は、異なる世界では『インベス』と呼ばれる、異形の侵略者であった。
「標的に命中! 海面に墜落した後に行動停止を確認!」
「取舵いっぱい! 第四船速で距離をとって!」
 見張員、野間マチコの報告を受け、明乃が更なる指示を飛ばしていく。
 艦橋要員達は、緊張感に包まれながら経過を見守っていた。
 気弱な航海長、知床鈴(しれとこりん)が涙目で操舵輪を握り、舵を取る。
 普段は騒がしい水雷長、西崎芽依(いりざきめい)すらも、軽口を叩かずに押し黙っていた。
「ココちゃん、何か新しい情報は見つかった? 今は、情報が少なすぎるから、どんな些細なことでもいいから報告してほしいの」
「ええぃ! 連邦軍モビルスーツは化け物か! これだけの攻撃でも……」
「ココちゃん」
 一人芝居を始めようとする記録員、納沙幸子(のさこうこ)を明乃は一声で諫めた。
 身を縮ませながら、幸子は愛用のタブレットを手前に突き出す。
 画面には「検索結果なし」という、虚しいメッセージが表示されていた。
「すみません……様々な方面から検索をしているんですが……」
「……そっか。引き続き情報を集めて。何か新しいことがわかったら報告してね」
 言いながら、明乃は先ほど遭遇した未知の生物について考察していく。
 明乃を筆頭とした「晴風」クルーは、『RATtウイルス』が引き起こした騒動に巻き込まれた。彼女達はときに対立し、ときには助け合い、絆を深めながら、事態を解決に導いたのである。
 明乃達が異常事態に対応できたのは、『RATtウイルス』騒動を乗り越え培ってきた経験によるものが大きいだろう。
「アレは生物兵器……だったのかな? このあたりは美波さんに聞いてみないとわからないけど……」
「艦長! 非常事態ですっ!」
 明乃の思考を、慌ただしく艦橋へ雪崩れこんできた不幸体質の副長、宗谷ましろが打ち切った。
「シロちゃん!? どうしたの?」
「先ほど遭遇した生物が、突如甲板に現れました……それで……それで……」
「落ち着いて。ゆっくりでいいから、何が起きているのか報告して」
 息を荒らげるましろを、明乃はともかくなだめて落ち着かせる。
「さっきの怪物が現れたの? だったら、甲板にいるみんなを避難させないと……」
「見知らぬ人達が甲板で、件の生物と交戦しているんです!」
ましろが語った内容は、明乃の理解の範疇を超えていた。
「……一体、何が起こっているの……?」
 今まで体験してきた以上の不条理な事態に、明乃は言葉を失った。


 見張り台から甲板へ降りた野間マチコは、異形の怪物に取り囲まれていた。
 灰色の体色に、ずんぐりとした達磨のような体系の生物は、『インベス』と呼ばれる侵略者であった。
「……やれやれ。どうやら、海水入りの水鉄砲で対処できるほど、甘い相手ではないらしいな……」
 自嘲的に呟きながら無用となった水鉄砲2丁を放り捨て、マチコが絶望的な状況から抜け出すために、ともかく動こうとすると
「やーっ!」
「瞬迅閃(しゅんじんせん)!」
 矢の雨と輝く剣閃が、インベスの群れを薙ぎ払った。
 突如一変した状況に目を見開き驚愕したマチコは、二人の着物姿の少女を目撃した。
「見知らぬ船に飛ばされたと思ったら、見知らぬ『神喰い』の襲撃……これは間違いなく、『神喰い』の影響ですねっ!」
「落ち着け静(しずか)……いや、その通り、なのか……?」
 肩を丸出しにした桃色の着物と豪奢な大弓が特徴的な少女、静御前(しずかごぜん)。
 青色の着物を纏い、無骨な大太刀を携えた、どこか宗谷ましろに似た外見の少女、義経
鬼斬』。
 二人の姫君が、異形の怪物達をバッサバッサと切り捨てていく。


 小柄な少年と少女が手を握り合い、息を切らせながら「晴風」の甲板を駆け抜ける。
迷家-マヨイガ-』。
 納鳴村(ななきむら)より脱出した二人の男女・光宗と真咲は、後方より捻じれた大角を頭部に備える異形、ヤギインベスに追い立てられていた。
「くそっ! アレは『ナナキ』なのか!? 僕達は納鳴村(ななきむら)から抜け出したはずなのにどうして!?」
「光宗君! こっちにも、怪物が……」
 真咲の声に光宗が前方を確認すると、そこには『インベス』が群れをなして二人を待ち構えていた。
 光宗は、不安気な視線を向ける真咲と自分自身を鼓舞するように
「船の内部に入れる扉がどこかにあるはずだよ! まずはそれを探して、怪物達から身を隠してやり過ごそう!」
 光宗の力強い言葉に、真咲はこくりと頷いた。
 自らのトラウマより生み出される怪物『ナナキ』と向き合い、受け入れることによって納鳴村(ななきむら)から抜け出した二人は、精神的に成長していた。
 絶望的な状況においても活路を見出し、行動しようと一歩踏み出すと
「離れろ……離れなさい」
 突如投げかられた静謐な少女の声の元へと、二人は視線を向ける。
 そこには、異形の右腕を持つ活発な印象の少年と、狐面をかぶった少女が、『インベス』の群れと向き合っていた。
「裂空魔弾!」
「……朧蓮華の舞」
 影が『インベス』の群れを蹂躙した。
 呪力(しゅりょく)が込められた木片が、灰色の身体を引き裂き
 超高速の連続タックルが怪物達を一匹も残さずに破砕していく。
「ここは禍野(まがの)じゃねぇのか!? てか、何で俺たちは船の上にいるんだ?」
「見たこともない『ケガレ』も……いる。いずれにしても、全て祓う……べき!」
「言われるまでもねぇ!」
双星の陰陽師』。
 二人の陰陽師、焔魔堂ろくろと化野紅緒(あだしのべにお)が異形の侵略者と対峙する。
「待ってください! まだ一匹いるんですっ! 僕達を追いかけてきた、ひときわ大きなヤツが!」
「グォォォッッッ!!!」
 光宗の言葉にろくろと紅緒が振り返ると、咆哮をあげながら突貫するヤギインベスが迫っていた。
 同族を殲滅され怒りの形相を浮かべながら迫りくるヤギインベスに対し、陰陽師の二人はそれぞれ異形の右腕と二振りの霊剣を構える。
「DELAWARE SMASH!」
 空間を穿つような衝撃波が、ヤギインベスの側面から襲撃した。
 粉々に砕かれた異形の末路に、光宗と真咲、ろくろと紅緒が驚愕する。
「……指を2本も犠牲にしてしまった……僕の『個性』はただでさえ、制御ができないのに……わからないことだらけの状況で軽率すぎた……もっと『敵(ヴィラン)』の特性を分析してから……」
「デクくん!? 大丈夫なの?」
 指を抑えながらブツブツと念仏じみた呟きを漏らす少年に、おっとりとした印象の少女が心配そうに声をかけている。
 モジャモジャ髪の少年、緑谷出久(みどりやいずく)。
 茶髪のショートボブの少女、麗日お茶子(うららかおちゃこ)。
僕のヒーローアカデミア』。
 雄英高校のヒーロー達がそこにいた。
「あの、あなた達は……?」
 負傷した出久を気遣う様子で、真咲がオズオズと声をかけると
「これでも、僕達は『ヒーロー』なんです。君達を守らせてください」
 骨折の激痛を誤魔化すように笑い、出久は堂々と宣言した。


『ドグォン』という爆音と共に、『インベス』達が大海原の彼方へと吹き飛んだ。
「『エコーズACT2(アクトツー)』」
 静かな闘志を宿した声で、小柄な少年・広瀬康一(ひろせこういち)が囁いた。
 傍らには、小さなエイリアンのような形の『スタンド』が、主人を守るように宙に浮かんでいる。
 甲板には、『ドグォン』という『文字』が道路標示のように刻まれていた。
「こいつらは一体、何者なんだ……?『スタンド使い』ってわけじゃあないみたいだし……『DIO』の細胞が暴走したっていう、億泰(おくやす)君のお父さんみたいな存在に近いのかな……?」
「億泰の親父さんと一緒にするってのは、ちと違うぜ、康一よォ……こいつらは紛れもねぇ『悪意』ってもんを振りかざして、俺達を襲ってきてるからなぁ!」
リーゼントが特徴的な大柄な青年、東方仗助(ひがしかたじょうすけ)が怪物達を見据えながら一括した。
「『クレイジー・ダイヤモンド』! ドラァッ!!!」
 全身にハートマークがあしらわれた純白の『スタンド』、『クレイジー・ダイヤモンド』が、上空より襲撃してきたコウモリインベスの顔面を殴りつけた。
 頭部を歪ませながら甲板に叩きつけられた異形の姿に、「ひぃっ!?」と少女達の悲鳴が漏れる。
 仗助と康一の後方には、逃げ遅れた「晴風」砲術員の少女達が身を寄せ合い固まっていた。
「ともかく、彼女達を守らないとッ!」
「『グレート』……行くぞォ、康一!」
ダイヤモンドは砕けない
 杜王町(もりおうちょう)を守護する『スタンド使い』が、異形の侵略者と対峙する。


 ガシュン!という轟音が響いたのと同時に、『インベス』が軽々と宙を舞った。
 鋲打機のような武器『ツラヌキ筒』を右腕に取り付けた青年、生駒(いこま)が異形の怪物達と相対していた。
「攻撃を受けるなよ、無名! こいつらは『カバネ』とは違う! 俺達『カバネリ』でもどんな影響が出るか予想がつかないからなっ!」
「わかってるよ。それに、わたしは生駒みたいに、捨て身の戦い方なんてしないもん」
 言いながら、おかっぱ頭が特徴的な小柄な少女、無名が重力を感じさせない軽やかな動きで跳躍した。空中より二丁の蒸気銃の狙いを定め、正確無比な射撃を『インベス』の群れへと浴びせていく。
「詳しい状況はわからないが、こいつらが人に仇なす存在であることは間違いない! まずは船上の敵を掃討するぞっ!」
甲鉄城のカバネリ』。
  人外の力を宿す二人の『カバネリ』が、異形の侵略者へと牙をむく。


 甲板に、拘束された『インベス』達が転がっていた。
 灰色の表皮には目に見えないほど細い『糸』が巻き付いており、強靭な力を誇る怪物達を無力化していた。
「お前達は『テラフォーマー』とは違う。ゴキブリと混じっていない、純粋な生物の能力を宿しているのか? 俺達『M.O.手術(モザイク オーガン オペレーション)』の適応者のように……」
 昆虫の触覚のような器官を頭に備える青年が、青い体色の異形、カミキリインベスと向かい合いながら呟いた。
「ベースは髪切虫(カミキリムシ)か? 幼虫であっても堅い樹木の繊維をバリバリ食い荒らすっていう、アレだ」
 禍々しい大顎と鉄鞭のような触覚を持つカミキリインベスが、グルル……と威嚇するように呻き声をあげる。
「だがそんな強靭な顎も、外から縛ってしまえば用をなさない」
 カミキリインベスは、全身を細い『糸』に簀巻きにされ、微動だにできずに捕らわれていた。
 日本原産『大蓑蛾(オオミノガ)』。
 その能力によって生み出された生物界で最も強靭な『糸』が、異形の侵略者を完膚なまでに拘束していた。
「それで、何で俺達は地球に戻っているんだ? ミッシェルさん、マジギレしてるし……さて、どうしたもんか」
 マーズ・ランキング6位・膝丸燈(ひざまるあかり)は足元に転がる異形を一瞥もせずに、爆音を響かせる上司の方へと視線を向けた。
「なぁ、オイ……聞いてくれ。ついさっきまで私は部下達と火星でゴキブリや中国人達とドンパチやっていたんだが……どうして、地球にしか見えない大海原のど真ん中に居るんだ?」
 理知的な眼鏡が印象的な金髪の美女、ミッシェル・K・デイヴスが紅い体色の異形へと問いかける。
 相対するのは、『インベス』の中でも突出した身体能力を持つライオンインベス。
 ミッシェルの言葉に反応せずに、ライオンインベスがその刃のように発達した鋭い爪を振り下ろすと
「テメェ、人の話を聞けよ……ぶっ殺されてぇのか?」
 身長164cmのミッシェルが、244cmものライオンインベスの巨体を片手で釣り上げていた。
 激高したミッシェルが繰り出したのは、技と呼ぶにはおこがましいほどに原始的なプロレス技、『アイアン・クロー(脳天締め)』。    
 掌で顔面を掴み、指先で握力を使って締め上げるだけの技だが、ライオンインベスの頭部の三分の一ほどは、粘土のように歪んていた。
 史上最強の蟻『弾丸蟻(パラポネラ)』の筋力が、百獣の王の名を冠する異形を圧倒する。
「ジタバタ暴れんな」
 宙吊りされたライオンインベスが雄叫びをあげながら爪を振り回し反撃を試みた瞬間に、その身体は内側より爆散した。
 ミッシェルの身に宿る第二の生物『爆弾蟻(ブラストアント)』の能力が作り出した揮発性の液体が、ライオンインベスを内部より破砕したのである。
「ゴキブリよりは可愛げはあるみたいだが、生憎と今の私は機嫌が悪いんでな」
 マーズ・ランキング5位、ミッシェル・K・デイヴスは吐き捨てるように言う。
 そんな上司の姿を見ながら、燈は内心「おっかねぇ」と震えていた。
テラフォーマーズ』。
 地球の生物の能力(ちから)を宿す戦士達が、異世界の怪物達を一掃する。


「……うそ……どうして、こんなことに……?」
「晴風」艦長、明乃は異常な事態を把握するべく、甲板まで下りていた。
 そこで目撃したのは、濃密な戦闘の爪痕。
 異形の怪物と超常の力を振るう者達がぶつかり合った結果、頑強な甲板は至る所が捲れ上がっていた。
 自らの艦で生じた惨状に呆気にとられていた明乃の背後より、生き残りの『インベス』が音もなく忍び寄る。
「危ないっ!」
 凛とした鈴の音のような声が響くと同時に、氷の礫が明乃の顔を横切りながら飛来し、背後の異形に叩き込まれた。
 声の主は、長い銀色の髪と紫紺の瞳を持つ少女であった。
 少女の隣には、手の平サイズの猫がぷかぷかと浮かんでいる。
 直前に起きた怪物の襲撃に身を震わせながら、明乃は自らを救った銀髪の少女へと声をかけた。
「あ、ありがとうございます。その、あなたは一体……?」
「お礼を言う必要はないわ。私はあなたに聞きたいことがあるから、自分のために助けただけなんだから」
 銀髪の少女、エミリアの突き放すような言動に明乃が混乱していると
「まだ終わってねぇ! 海だ! この後、海からもっとデカい奴が出てくるはずだ!」
 ジャージ姿の青年が叫んだ言葉に、エミリアと明乃が海へと目を向ける。
 瞬間、緑色の体色の龍のような怪物が、海面から飛び出すように出現した。
「晴風」と交戦したセイリュウインベス強化体が、威嚇するように咆哮を轟かせる。
「さっきの『龍』!? そんな……艦砲でも仕留めきれなかったのっ!?」
「ドラゴンが相手なんて……パック、アレを倒すことはできる?」
「アレはドラゴンなんて呼べるほど大層な存在じゃないさ。せいぜい『魔獣』といったところだよ。それでも、今のリアのマナ量だと、正直厳しいかもしれないね……」
 宙に浮かぶ精霊猫、パックの言葉にエミリアが苦々しい表情になる。
「オドを使ってでも、アレを倒さないと……! 今、この船を失うわけにはいかないもの……!」
 決意を込めた眼差しで、エミリアがセイリュウインベス強化体へと魔法を放とうとすると
「「わたし達に任せてっ!」」
 少女達の声が、上空より響いた。
 明乃が空を仰ぎ見たのは、青を基調とした羽衣風のコスチュームを身にまとう二人の少女であった。
「……人魚?」
 その姿は、明乃に『ブルーマーメイド』の名称の元となった、伝説上の生物を彷彿させた。
 優雅に空を泳ぐ二人の人魚、サファイアスタイルのキュアミラクルキュアマジカルが海上のセイリュウインベス強化体と相対する。
「モフゥ-----------ッッッ!!!」
「「リンクルステッキ・サファイア! 青き知性よ、私たちの手に!」」
 くまのぬいぐるみ、モフルンから放射された閃光が、二人のステッキへと収束されていく。人魚族の秘宝、リンクルストーンサファイアの力が、リンクルステッキに満ちていく。
「「フル、フル、リンクル!」」
 キュアミラクルキュアマジカルが各々のリンクルステッキを振るうと、二つの魔法陣が出現した。
 ひとつはセイリュウインベス強化体を海上に縫い止め、もうひとつは上空で巨大な魔法陣へと展開する。
 いつの間にか表れた満月をバックに上空の魔法陣へと降り立ち、二人の『プリキュア』は手をつなぎ、リンクルステッキを相手に差し向け叫ぶ。
『『プリキュアサファイア・スマーティッシュ!』』
 巨大化した魔法陣より、数多の激流が放射された。
 激流がセイリュウインベス強化体に纏わりつき、その巨体は球体状に包み込まれる。やがてリボン状の光となった水流は圧縮していき、異形を塵一つ残さずに圧壊させた。
魔法つかいプリキュア』。
 キュアミラクルキュアマジカル
 伝説の魔法つかい『プリキュア』の金魔法が異形の侵略者を容赦なく浄化させた。
「パネェ! リアル魔法少女、実際に見ると本当にパネェな! ちょっと技がエゲつないのも、ギャップを感じさせてGOOD!」
 甲板ではしゃぐジャージ姿の青年、ナツキ・スバルを余所にエミリアが不思議そうな表情で首を傾げる。
「……どうして、スバルは敵が現れるってわかったんだろう?」
Re:ゼロから始める異世界生活』。
『死に戻り』の力を持つ青年、ナツキ・スバルはいかなる世界でも、エミリアを助けるために奔走する。
生物兵器とか……そんな規模じゃない……これは、魔法なの?」
 眼前で繰り広げられた非現実的な光景に圧倒された明乃が絞るように言葉を漏らす。
 茫然自失となった明乃の目の前に、甲板で生き残った最後の『インベス』、50mを超す巨大を誇るシカインベス強化体が現れた。
「ひぅっ!?」
「あっぶねぇ!」
「下がって!」
 炎をまとった拳を繰り出すシカインベス強化体に対し、スバルが明乃を強引に突き飛ばし、エミリアが雪の結晶のような障壁を展開させる。
 瞬間、グシャリとシカインベス強化体の上半身は何かに『喰い千切られた』ように消失した。
「すまないが、この艦の責任者と話がしたい」
 残る下半身も咀嚼音と共に消え去った後に、黒いスーツを着こなす理知的な印象の男性が現れた。
 男性の足元では、漆黒の『影』が不気味に蠢いていた。
影鰐-KAGEWANI-』。
 怪異の力をその身に宿す男、番場宗介(ばんばそうすけ)はいつものように奇怪な事件に巻き込まれていた。
「一応、わたしが『晴風』の艦長を務めていますが……」
「君が……? まだ、学生にしか見えないが……ともかく、この場にいる全員と落ち着いて話ができる場を設けてほしい。遭遇した『奇獣』への対策とこれからについて、話し合いたい」
 番場の言葉に、明乃は強い決意を抱いた表情で頷いた。
「わかりました。すぐに用意させていただきます。わたし達も、少しでも現状が知りたいので」
ハイスクール・フリート』。
 陽炎型航洋直接教育艦「晴風」艦長兼クラス委員長、岬明乃は静かに決意した。
(……大丈夫。みんなで力を合わせれば、何とかなるはず。だって、越えられない嵐はないんだから!)
 自らを奮い立てながら、明乃は異常事態と対峙し、乗り越えていくと決心する。

☆☆☆

『ブルーマーメイド』。
鬼斬の姫君』。
『納鳴村の生存者』。
双星の陰陽師』。
『ヒーロー』。
スタンド使い』。
『カバネリ』。
『M.O.手術適応者』。
『死に戻り』と『精霊使い』。
プリキュア』。
『影鰐』。
 様々な種類のキャラクターが集う「晴風」へと、スーツ姿の男が虚ろげな視線を送っていた。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
「全てのオタクを支配したい」
『ペニス―ツマン』坂上逆孤(さかのうえさかこ)がぼそりと呟いた。
 その股間からは『鎧武』の世界で獲得したオーバーロードとしての力の象徴、『黄金の果実』が輝いていた。

「うぃいいいいいいいいいいい↑っす!
 どうも、ライダーのサーヴァント、シャムで~す!」

 斥候として放った『インベス』で敵の力を推し量ったペニス―ツマンは、「晴風」に向け、宣戦布告をする。
 海面に直立するペニス―ツマンが、不気味な挙動でクネクネと身をよじらせた。
 決戦の時は……近い。

岸辺露伴は動かない Ep:114514 『W大学の哲学科』

高田馬場駅」からロータリーを抜け、多種多様な『ラーメン屋』が居並ぶ道を20分程かけて歩き通した先に、『W大学』のキャンパスに辿り着いた。

 

「ふぅん。100年以上の歴史を誇るってワリには、意外と小綺麗じゃあないか」

 

 時計台が目を引くタイル張りの建物『大隈記念講堂』を見ながら、ぼくは適当に呟いた。
 ぼく、岸辺露伴に大学に通った経験はない。
 言い訳をするようで癪だが、16歳の時より「ピンクダークの少年」を『週刊少年ジャンプ』で連載している漫画家に、足蹴く毎週の講義に通うような時間は許されなかったのである。
 そんな縁のない場所にわざわざ訪れた理由は、ひとえに『取材』のためだ。
 来週掲載分の「ピンクダークの少年」の1シーンに、『大学』のキャンパスを描くコマがある。
『大学』を知らないぼくには、『リアリティ』のある絵が描けるとは到底思えなかった。
 創作において『リアリティ』を何よりも重視することを信条しているこの岸辺露伴は、『大学』という未知なる空間をくまなく描写するために、漫画内で登場するキャンパスのモチーフとした『W大学』まで足を運んだのである。
「ええと、『文学部』は向こうの『戸山キャンパス』にあったのか。歩き損だな、全く……」
 広い入口に備え付けられていた案内板を確認すると、キャンパスを間違えてしまったことに気付く。
 漫画内に登場させるキャンパスは『文学部』の『哲学科』の学生が通学するキャンパスである。
『リアリティ』を追求する以上、あらゆる妥協は許されない。
 ぼくは踵を返し、歩いてきた道を戻ろうとした。
 一歩踏み出した瞬間、グニャリと立ち眩みのような感覚に襲われ、ぼくの視界は暗闇の中に閉ざされた。

 

☆☆☆

 

「……何だッ! 今の感覚はッ!? まさか『スタンド能力』!!」

 

 自らを襲った奇妙な感覚に、ぼくはまず『スタンド攻撃』の可能性を疑った。
 警戒しながら周囲を見渡すと、そこにはほんの数秒前とは全く異なった景色が広がっていた。
 先程まで居たキャンパスよりも、落ち着いた雰囲気を感じさせる空間だった。
「ネットで確認した通りの建物ッ! ここは……ぼくが向かおうとしていた『戸山キャンパス』じゃあないか……どういうことだ?」
 どういう訳か、ぼくは目的のキャンパスの入口に突っ立っていた。
 人間を瞬間移動させるような『スタンド攻撃』を受けてしまったのか?
 それとも、自分でも気づかない間にボォーっと歩いて辿り着いたとでもいうのか?
 疑問は尽きないが、ひとまず状況を整理するために、ぼくは道行く学生の一人に声をかけた。
「ちょっといいかな? そこの君、そうだ、君のことを言っている」
「……ハァ、何でしょうか?」
 覇気の感じられない、何とも冴えない学生がけだる気な反応を返す。
「質問をしたいんだが……ここは『哲学科』の学生が通うキャンパスで間違いないか?」
「そうっすよー。ここは『哲学科』のキャンパスであってます」
「そうか……すまない、時間を取らせたな」
「いえいえー。それじゃあ、自分『ゼミ』があるんで……」
 そそくさと学生は人波に紛れるように過ぎ去っていった。
「随分と覇気のない学生だな……スーツ姿だったし、卒業間近になっても『内定』が取れていない『就活生』なのかもしれないな」
 好き勝手言いながらぼくはキャンパス内に入り、早速『取材』に取り掛かった。
 先程体験した奇妙な現象を含めて、この『W大学』には『何か』があると確信していた。
 漫画家として有意義な『取材』ができると胸を膨らませ、最も目を引いた高層棟に入ろうとした、その直後のことだった。
「きゃわわわ~~~! どいてくださいぃぃ~~~!!」
「イチゴのタルト」のように甘ったるい声がキャンパスに響いた。
 慌てて周囲を見渡すも、声の主の姿はどこにも確認できない。
 まさかと思い『上』へ顔を向けると……
「なッッ!? 馬鹿なッッ!!!」
 そこにはファンシーなファッションに身を包んだ女学生が宙を舞っていた。
 いや、『宙を舞う』などという曖昧な言い回しではなく、重力に引かれ『落下』していたと言うべきか。
 あろうことに、女学生は16階もある高層棟から『投身自殺』をはかっていたのだ。
「『ヘブンズ・ドア―――(天国への扉)』ッッッ!!」
 考えるよりも先に、ぼくは自らの『スタンド能力』、『ヘブンズ・ドア―』を出現させていた。
「ピンクダークの少年」の主人公をモチーフとした像(ビジョン)がぼくの身体から浮かび上がり、落下してくる女学生へと手を伸ばす。
 瞬間、女学生の顔は剥がれるように『本』のページと化し、現れたページへと素早く『命令』を書き込んだ。

 

«『五点着地』で受け身を取れ!»

 

『五点着地』。
 正式には『五点接地転回法』という名称の、陸自空挺団が開発した着地法。
 何でも、爪先・脛・太腿・背中・肩の五点で落下による衝撃を分散させることで、全 身で落下の際の衝撃を吸収し、やわらげる技術だという。
 正しくこの着地法を行えば、理論上は10m以上の高さからの落下をも無傷で凌げる、らしい。
 女学生は熟練の空挺隊さながらの動きで衝撃を分散させたことで、一命を取り留めていた。
 無論、高さが高さなので骨折は間逃れなかったようだが……
「はぅぅ~~~……アレぇ? アタシぃ、なんで生きているんですかぁ?」
「……なぁ、君。別に説教じみたことを言うつもりはないんだが……若い身空で命を投げ出すこたぁないんじゃあないのか?」
 骨折の激痛も感じさせないような呑気な声色でとぼける女学生へと、ぼくは柄にもなく諭すようなことを言ってしまう。
「はぇ~~。あなたはもしかして漫画家の岸辺露伴さん? アタシ、大ファンなんですぅ~。こんなとこで会えるなんて、感激ですぅ~。よかったらでいいんですけどぉ~、その『Gペン』、記念にプレゼントしてもらえませんかぁ~~?」
 先程まで『自殺』をはかろうとしていたのが信じられないような間の抜けた声で捲し立てる女学生に、ぼくは苛立ちを隠そうともせずに応じる。
「やるよ。この『Gペン』はぼくの一番の『愛用品』で、漫画を描くのに必要不可欠な『仕事道具』で、魂の一部ともいえる『分身』だけど、こんなもんいくらでもくれてやる。ただし、もう二度とぼくの前で『自殺』をしようなんて馬鹿な真似をしないと約束するのが条件だ」
 有無を言わせず、ぼくは『Gペン』を女学生に押し付けるように握らせた。
 それにしても、漫画家に『サイン』や『イラスト』を求めるならともかく、仕事道具をねだるなんて、この娘は漫画志望か何かなのだろうか?
「はぅぅ~~~、感激ですぅぅ~~~。アタシ、一生大事にしますゔゔッッッ!!!」
 瞬間、ぼくの視界は真紅に染まった。
 渡した『Gペン』を、女学生がその細い首筋の頸動脈へ深々と突き立て、鮮血が勢いよく噴射されたためだ。
「ふ、ふざけるなッ! 何て馬鹿なことをッ! おいッ!誰か、誰かいないのか! 手遅れかもしれないが、救急車を呼んでくれッ!」
 ぼくの言葉も約束も無視し、『自殺』をはかった愚かな女学生を救うべく周囲の人間に呼びかけるも、奇妙なことに誰もが反応を示さなかった。
 傍観者でいたい『対岸の火事』だから、なのか?
 それにしては野次馬に取り囲まれている様子はないが……
 それとも、今時の若者は人が死にかけていようと一切の関心を持たないような冷酷な生き物になってしまったとでもいうのだろうか?
「そこの君ッ! さっき会ったばかりの君のことだッ! 無視するんじゃあないぞ。見ての通りの状況だ。救急車を呼ぶのを頼めるか?」
 たまたま、先程会ったスーツ姿の学生を見つけたので手伝いを頼むと、彼は覇気のない表情で首を傾げた。
「……ハァ……『哲学科』で自殺者なんてそれこそ日常茶飯事ですし……救急車なんて呼んでたらキリがないと思うんすけど……」
 学生は「見知らぬ酔っ払いを介護しているお人好し」を見るような目でぼくを一瞥した後に、高層棟へと入っていった。
 冷たくなっていく女学生の体を支えながら、ぼくは言葉を失い絶句していた。
「……言っている意味がわからない……冗談じゃあないんだぞ……人が一人死んでいるというのに……」
 奇妙な悍ましさを感じながら、ぼくは学生を追いかけるように高層棟へと進んでいった。
 この『大学』は『何か』が決定的に狂っている。
 その『何か』を解明し『取材』するために、ぼくは『深淵』へと足を踏み入れた。

 

☆☆☆

 

『深淵』へと足を踏み入れたと、ぼくは比喩で言ったつもりだったが、高層棟の内部は紛れもなく地獄絵図だった。
 学生の言葉は嘘ではなかった。
 建物内の至る所に、自殺者の亡骸が転がっていた。
 大量の睡眠薬を撒き散らし、テーブルに突っ伏す女学生達。
 規則的な順番で天井からぶら下がる『首吊り死体』。
 焼身自殺をはかった学生達の末路は、ベンチ脇に黒焦げのオブジェのように設置されていた。
「……『異常』だ。何もかもが常軌を逸脱している。これは個人の『スタンド能力』による現象ではありえないッ! もっと強力な……世界の法則を歪めるような『何か』の力が背後で動いているッ!」
 確信めいたものを胸の内に秘めながら、ぼくは建物内を駆ける。
 目標はあの『学生』だ。
 この『異常』な空間で唯一出会った、自殺志願者ではない『普通』の人間。
 彼が『何か』の鍵を握っていることは、疑いようがないッ!
 学生達の死体を踏み越えながら、ぼくは虱潰しに講義室を見て回っていく。
「彼は『ゼミ』に行くと言っていたッ! ならば、建物内にある『ゼミ室』や『研究室』の何処かに、彼は居るはずッ!」
 体感で30分程の時間を走り回った末に、ぼくは『学生』を見つけ出した。
 5階の壁際に位置する比較的狭めな『ゼミ室』に、死体ではない生きた人間の気配を感じたのだ。
 勢いよく扉を開き中へ入ると、そこには教壇に立つ教授の元、件の『学生』を含めた 10人足らずのゼミ生達が講義を受けていた。
「……これこれこういう訳となります。坂上君、何か質問はありますか?」
「特にありません(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )」
 起立しながら、件の学生は平然とした顔で脱糞していた。
『下痢便』が黒いスラックスに染み込んでいき、鼻を突く異臭が辺りに立ち込める。
奇妙なことに教授も他のゼミ生も、生じた惨劇に顔色一つ変えていない。
「すみません。トイレに行ってきます」
一言残すと、『学生』はそそくさと扉へ向かってきた。
「……なぁ、君……」
「……すみません。早く、パンツとズボン履き替えたいんで……」
 流石の岸辺露伴も、脱糞した直後の人間に『取材』することを躊躇ってしまった。
 彼が『ゼミ室』から立ち去った直後、糞の放つ悪臭とは異なった臭いが教壇の方から生じた。
「死にましょうか、臭いですし」
「教授に賛成します」
「異議なし」
 教授は何処からか取り出したポリタンクの中身を、教壇と周囲のゼミ生達にブチまけていた。
 ゼミ生達も応じるように、各々が『ライター』や『マッチ』を手に取っている。
「この臭いは『灯油』ッ!!! 待て、早まるなぁぁぁッッッ!!!」
 ぼくの制止の声も空しく、教授とゼミ生達は一斉に『焼身自殺』を決行した。
 小さな『ゼミ室』の一角が炎上し、人間が火達磨になっていく悍ましい光景が眼前に広がった。
「……残念だがもう彼等を助けることはできないッ! だが、『情報』は貰っていくッッッ!!!」
 のたうち回るゼミ生の一人へと、ぼくは『ヘブンズ・ドアー』の能力を発動させた。
 ゼミ生の体が薄く剥がれ、『本』のページへと変わる。
『人生の体験』が記された『本』のページへと、ぼくは素早く目を走らせていく。
何しろ『本』と『火』の相性はサイアクなのだ。
 炎上する身体のページは現在進行形で失われつつあり、既に所々が焼け焦げて焼失してしまっているッ!

 

«僕は■■■、出身は下北沢で、趣味はチンポチンポセイヤセイヤ……»
«専攻は『東洋哲学』。でも、就職に役立つか■■■»
«『深淵』に触れてしまった!■■■■■■『虚無の哲学』はチンポチンポセイヤセイヤ»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»

炎上するゼミ生の『本』の内容は一部が焼け焦げていたが、それとは別に理解し難い内容が記載されていた。
「焼失している部分はともかく、『文字化け』を起こしたような意味不明な文章は一体ッ!? だが、手がかりは掴めたぞッ! 『深淵』と『虚無の哲学』ッ! これが意味することをあの『学生』に問い詰めるッ!!!」

 

『疑惑』は『確信』へと変わっていた。
 人々の自殺衝動を発現させている『何か』を、あの『学生』は抱えている。
ヘンゼルとグレーテル」のように床に零れている『下痢便』を追跡しながら、ぼくは『学生』の元へと駆けていく。

☆☆☆

 件の『学生』は『男子トイレ』で遭遇した。
 どうやら、天井からぶら下がっている『首吊り死体』のスラックスを拝借しているようだった。
「これもこれでおしっこまみれなんですけど……まぁ『下痢便』まみれのモノよりはいくらかマシですよねぇ……」
「率直に聞く……きさまは一体『何者』なんだ……?」
 相も変わらず覇気のない声でのたまう『学生』へと、ぼくは鋭く質問を切り込む。
「はぇー……自分ですか? 名前は坂上逆孤(さかのうえさかこ)っす。またの名を『哲学するだ……」
「『ヘブンズ・ドアァ―――ァァァッ』!!!」
 質問の返答を待たず、ぼくは『ヘブンズ・ドア―』を発動させた。
「質問に答える必要はない。答えを『読む』ことができるのが、ぼくの能力だからな」
 全身の皮膚が剥がれるように『本』と化した『学生』坂上がフラフラとたたらを踏む。
 浮かび上がった彼の『人生の体験』をぼくは遠慮なく読み込んだ。

 

«名前は坂上逆孤。またの名を哲学する男性器『ペニス―ツマン』»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»
«最近のお気に入りの妄想は『ウヴァさんと雁夜おじさんのレズセックス』»
«『哲学』の『深淵』に座す境地……『虚無の哲学』»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»

 

「『哲学』の『深淵』……『虚無の哲学』ッ! やはりこいつが原因だったかッ!」
明確な答えを得て好奇心を刺激されたぼくは更に奥のページを読み進めた。

 

«『深淵』を覗く時、『深淵』もまたこちらを覗いているッ!»

 

 最後の文章を読んだ瞬間、全身に怖気が迸った。
 気づけば、ぼくの右手が『Gペン』(予備分)を握りしめていた。
「嘘だろッ! まさか、ぼくもまた『虚無の哲学』とやらに取り込まれてしまったのかッ!?」
 右腕がぼくの意識を離れ、『Gペン』を首筋に突き立てんと勢いをつけて動き出す。
「う、うぉぉぉぉぉッッッ!!!」
 ギリギリのタイミングで『ヘブンズ・ドア―』の像(ビジョン)を動かし、暴走するぼくの右腕を止めた。
ヘブンズ・ドア―』が体が触れたため、ぼくの全身は剥かれるように『本』と化していく。
 男子トイレの鏡に写り込むそのページの内容に、ぼくは言葉を失った。

 

«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»

 

 ぼくの『人生の体験』が記載されるはずの『本』のページが、奇妙な文字列に侵食されていたのである。
 このままでは『深淵』に呑まれてしまうッ!
 全てのページが『虚無の哲学』に侵食される前に、何とかしなければッッッ!!!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッッッ!!!」
 躊躇せずに、ぼくは侵食された『チンポチンポセイヤセイヤ』のページを破り捨てた。
 体が軽くなったのを自覚しながら、『Gペン』で首元を突き刺ささんと暴走していた右腕が大人しくなったことを感じ取る。
「……ハァ……ハァ……そういえば、聞いたことがある……大学の『哲学科』に属する学生の『自殺率』が高いということを……フランスの『ジル・ドゥルーズ』、ドイツの『ヴァルター・ベンヤミン』……歴史上の著名な哲学者の中にも自殺で生涯を終えた者がいる……」
 息を整えながら、ぼくは考察を進めていく。
「……まさか、ぼくが体験しているこの現象が哲学者達の『自殺』の原因なのかッ!? 『哲学』を極めた先に存在する『深淵』、『虚無の哲学』が人の精神を『自殺』へと追い立てるというのかッ!?」
 恐ろしい事実を認識しながら、ぼくはゆらりと立ち上がる『学生』へと目を向ける。
「だが、もう『危機』は去ったッ!」
 不敵な態度でぼくは言い放つ。
 事実、『学生』坂上の目にはぼくの姿は映っていないのだから。

 

«岸辺露伴の姿は『認識』できない!»

 

 そう、最初に『ヘブンズ・ドア―』の能力で『本』に変えた際に、『命令』を書き込んでいたのだ。
 この男と関わりを持った者は『虚無の哲学』に呑まれ、自殺衝動に苛まれてしまう。
ならば、彼の『認識外』にあれば害を受けることはないッ!
「だけどそれでも、それでもなおあなたが干支神という名の輝かしき星、すなわち頂点(ピリオド)を目指すのならば、このウサたんカンパニー代表取締役最高経営責任者、ちょっぴり意識高い系に言うところのCEO、CEOである私ウサたんことウサPP……」
『学生』坂上、否『虚無の哲学者』が意味不明な言葉を羅列する。
 同時に、ぼく達が居る空間が歪み、風景はドロドロとバターのように溶けていく。
「……変身」
 一声と共に、『虚無の哲学者』の姿が眩い光に包まれた。
 身体には変化は見られず、きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が『陰茎』というか『男性器』というか『亀の頭』のような形状へ変化していた。
「何だッ!? その『姿』はッ!?」
「『ハイメガザーメン……」
 亀頭男が『攻撃』の動作に入り、ぼくが咄嗟に『ヘブンズ・ドア―』を出現させ防御の姿勢を取らせた、その直後……
 ぼくは元居る世界へと戻っていた。

☆☆☆

 気づいたときには、ぼくは元居た場所、『W大学』の『本キャンパス』の正門に突っ立っていた。
 周囲を行く学生達も自殺衝動に呑まれた様子もない。
「……ハァ……ハァ……恐ろしい敵だった……! あと一歩、ほんの一瞬の判断が遅れていたら、ぼくの命はなかった……それにしても最後に見せたあの『姿』は一体?」
 坂上が去り際に見せた男性器を頭部に載せたような奇妙な姿。
 あの異形が、彼の『正体』だというのだろうか?
「たしか、それらしいことが『本』に書いてあったな……名前は坂上逆孤、またの名を……哲学する男性器『ペニス―ツマン』、だったか?」
 思案しながら、ぼくはキャンパスを離れ、歩き出す。
 十二分に『大学』の『取材』が行えた以上、ここにいる理由はない。
「思わぬ収穫があった……『哲学』の怪人『ペニス―ツマン』か……また一つ、素晴らしい漫画のネタを得ることができた。さて、『ラーメン』でも食べて帰るとしよう。どれを選ぶか、目移りしてしまうな……」
『ラーメン激戦区』の通りを歩きながら、ぼくは帰路についた。

 

⇒『W大学の哲学科』―取材終了

ペニス―ツマン VS 雪音クリス

「Killiter Ichaival tron

 夜空に少女の聖詠が響き渡る。
 閃光を纏い出現した少女は、あろうことか「ミサイル」の上に両足を踏みしめ、夜空を滑空していた。

「あんのバカ共……早まりやがって……だからアタシの到着を待てっつったんだよ……」

 月の光が照らす霊峰、富士山を見下ろしながら、『イチイバル』のシンフォギア装者、雪音クリスが呟いた。
 超常災害対策機動部タスクフォース。
 通称S.O.N.G(Squad of Nexus Guardians)に所属するシンフォギア装者はノイズ殲滅という任務の他に大規模な災害が生じた際の救助活動も担っていた。
 此度富士山で起きた土砂崩れに対し、暁切歌、月読調の二名の装者が先行し救助に向かった。
 その最中、突如二人からの連絡が途絶えたのである。
 風鳴翼、マリア・カデンツァヴナ・イヴ の二名は米国にて歌姫としての仕事があり
 立花響は別の災害現場に急行している。
 そのため残された雪音クリスが急遽富士山へ向かう運びとなったのである。
「ったく……世話の焼ける後輩共だ……」
 毒づきながらも、クリスは不安に押し潰されそうな程に二人の安否を案じていた。
 制御薬「LiNKER」を服用している二人は、翼やクリスのような完全なる適合者ではない。最悪の場合、副作用によるショック症状から昏倒した可能性も考慮し、クリスは全速力で現場へと駆け抜けていた。
「頼むから無事でいてくれよ……」
 弱々しい囁きを漏らしながら、クリスを載せたミサイルは土砂に埋もれた樹海へと飛翔していく。

☆☆☆

「もうすぐ、二人のアウフヴァッヘン波形が消失した地点へ到着します。雪音さん、降下の準備を!」
 オペレーター、藤尭朔也の指示を受けクリスがミサイルから飛び降りる。
 密度の濃い樹木の合間をすり抜けるように、クリスが富士の樹海へと舞い降りた。
「オイっ! どうしたんだよ、お前ら! 一体、ナニがあったってんだよっ!」
 間も無く、クリスは二人の後輩を見つけ出した。
 切歌と調は、樹木の根元で寄り添うように倒れていた。
 しかし、その姿は……
「畜生ッ! 畜生ッ! 何処のどいつだッ! アタシの後輩にこんな真似をしでかした奴はァッッッ!!!」
「どうした!? 雪音君、現状を報告するんだ!」
 風鳴弦十郎の声すら届かない程に、雪音クリスは激昂した。
 暁切歌と月読調の身体は白濁に染まっていた。
 雪音クリスは初心な少女であるが、幼少期は凄惨な環境を過ごしていた。
 南米バルベルベ共和国の内戦に巻き込まれ両親を失った後に、彼女は奴隷同然に扱われた生活を送っていたのである。
 その陰惨たる記憶があるからこそ、クリスは理解してしまった。
 むせ返るような精液の匂いに塗れた二人が如何なる扱いを受けたのか。
「お百度レイプ」
 突如、不穏な言葉を発しながらスーツ姿の男が木陰より現れた。
 数巡呆気に取られた後に、クリスは男を睨みつける。
「何だ? まさか、テメーがアタシの後輩共を……?」
「限界までちんぽをいじめることができるのも長期休暇ならでは」
 男の言葉にクリスはイグナイトモジュールに飲まれた際にも経験したことのないような、ドス黒い感情に支配された。
「よ……よくも、アタシの後輩を……どう落とし前つけてくれるんだ、テメェーーーッッッ!!!」
「坂上逆孤(さかのうえさかこ)と申します。またの名を、哲学する男性器『ペニスーツマン』……」
 激情のままに吠えるクリスに対し、スーツ姿の男が冷静に自己紹介をする。
「名乗らなくていい……これから消し炭になるテメーを知る必要はねぇからなぁ!」
 クリスの咆哮を何処吹く風と受け流しながら、坂上がスラックスのジッパーを徐に下げ、己の逸物をぼろんと出した。
「なっ……!? テメーは何者なんだ……!?」
 クリスは目を見開く程に驚愕する。
 坂上の逸物は液晶ディスプレイのような光に包まれていた。
 その光彩は、人類の天敵たる『ノイズ』を彷彿させた。
「変身」
 一声と共に、坂上は異形へと変貌していく
 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
「ペニス―ツマン、爆現」
 威風堂々と、『哲学する男性器』ペニスーツマンが名乗りを上げた。

☆☆☆

「ペニスーツマン……だとぉ!?」
 S.O.N.Gの司令官、風鳴弦十郎が驚愕の声を上げた。
「ノイズの発生パターンを検知! 同時に未知のアウフヴァッヘン波形も確認されました!」
 オペレーター藤尭が突如発生した敵の分析結果を読み上げるも、その声音には困惑の色が含まれていた。
「アウフヴァッヘン波形が観測されたということはあの男は聖遺物を纏って……いや、『ペニス』という姿形そのものが聖遺物を表しているのかもしれません…… 考えられるのはギリシャ神話におけるアダマントの鎌で切断された天空神ウラノスの性器やヒンドゥーにおける破壊神シヴァの性器を象ったリンガなどでしょう か……?」
 エージェント緒川慎次が戸惑いながらも自らの見解を述べる。
「ボクの記憶の中にも、あのような生物に関する情報はありません……少なくとも錬金術に関連するモノではないかと……」
 自らの記憶を必死に辿りながら、エルフナインが弱々しく呟いた。
 混乱に苛まれるS.O.N.Gのオペレーター室内で、弦十郎はモニターに映る雪音クリスの姿を心配気に見上げていた。
「クリス君、早まるなッ! 今、響君をそちらへ急行させた! 敵の正体がわからないままの交戦は避けるんだ!」
 弦十郎の叫び声が喧騒としたオペレーター室に虚しく響いた。

☆☆☆

「男は8の倍数、女は7の倍数の年齢で同性の性器への興味が増す」
「テメーは何者なのかはこの際どうでもいい。ただ一つ、ハッキリしてんのは、テメーがアタシの後輩達を手にかけたことだってことだからなァッ!」
 意味不明な言葉を発するペニスーツマンを気にかけず、クリスは集音マイク型のペンダントを握りしめた。
『Dáinsleif』
「イグナイトモジュール! 抜剣ッ!」
 雪音クリスの身体が漆黒の閃光に呑まれ、イチイバルの赤い装束に黒の意匠が刻まれていく。
 シンフォギアシステムに追加されし決戦ブースター、イグナイトモジュールの禍々しき力がクリスの身体中を駆け巡る。
 暴走時と同等まで出力を跳ね上げる切り札をクリスは惜しみなく使用した。
「自分の中から浮かんでくるものを丁寧に掬い取れる者になりてえよ……」
 何やら鬱っぽい声を漏らしているペニスーツマンへとクリスが自らのアームドギアを差し向けた。
「鉛玉の大バーゲンッ! 馬鹿に付けるナンチャラはねえッ!」
ーBILLION MAIDENー
 心の内から浮き上がる旋律を歌い上げながら、クリスが四門のガトリング砲を掃射した。
 ペニスーツマンはクネクネを身を捩らせながは、銃弾の洗礼を浴びていく。
「ドンパチ感謝祭さあ躍れぇッ、ロデオの時間さBaby!」
ーMEGA DETH PARTYー
 腰部のリアアーマーより、数多のミサイルが撃ち放たれた。
「何のぉ……『ザーメンとりもち』!」
 ペニスーツマンの頭部から粘着性のザーメンが射精され、飛来してくるミサイルを絡め取り無力化していく。
「世の中へと文句をたれたけりゃ、的―マト―から卒業しなァ!」
ぐぬぬ……『アクセルローション』ッ!」
QUEEN's INFERNDー
 クロスボウから連射されたエネルギー矢の豪雨を、ペニスーツマンがローションを全身に塗りたくり加速することで辛うじて回避する。
「神様ッ!仏様ッ!あ・た・し・様が『許せねえ』ってんだァーーーッッッ!!!」
ーGIGA ZEPPELINー
 激情を込めた歌唱に共鳴するように、クロスボウから放たれた大型の矢が無数の鏃に分散し、富士の樹海の一帯を襲撃した。
「雨食らいまくって溺死した……」
 範囲攻撃は功を成し、ペニスーツマンの背広には複数の鏃が突き刺さっていた。
「傷ごとエグって、涙を誤魔化して、生きた背中でも(Trust heart)……支える事、笑い合う事、上手ク出来ルンデス力?」
ーMEGA DETH QUARTETー
 追撃の手を緩めずに、クリスはギア全体を固定砲台へと変形させ、小型から大型までの無数のミサイルとガトリング砲の一斉掃射をペニスーツマンへ向け撃ち放つ。
「た、タンスの角で小指強打したらそのまま死にそうなくらい声出てない……」
 樹木が消し飛ぶ程の爆撃を受けながら、ペニスーツマンが弱々しい声を漏らす。
「なれねえ敬語でも、どしゃぶる弾丸でもぉ、プチ込んでやるから(Trust heart)」
「お、『おしっこレーザーカッター』!」
ーMEGA DETH FUGAー
 飛来した超大型のミサイル二基を、ウォーターカッターの如き勢いで放射した小便が切断する。
「繫いだ手だけがつーむいーだー、笑顔達を守る強さを教えろォォォーーーッッッ!!!」
ーMEGA DETH SYMPHONYー
 二基の大型ミサイルを凌いだ矢先、ペニスーツマンの眼前には六基もの大型ミサイルが迫っていた。やがてそれらはクラスター弾の様に空中で分裂し、無数の散弾となりペニスーツマンの周囲一帯を爆破した。
 地形そのものが変形する程の攻撃に、富士山は眩い爆炎に包まれた。

☆☆☆

「やり過ぎだ、雪音君ッ! 救助要請者は避難させたとはいえ、このまま爆撃を続ければ、新たな土砂崩れを発生させかねんぞ!」
 弦十郎が懸命に指示を飛ばすも、激昂したクリスは無視を決め込んでいる。
「このままでは富士山の標高も修正かけるハメになりますよ……」
 爆炎に包まれた富士山の様子を映すモニターを見ながら、藤尭が冷や汗を流す。
「ッッッ!? クリスさん! 逃げてください! その生物は進化を遂げています! 恐らく、フォニックゲインを現在進行形でその身に取り組んでいるのですっ!」
「フォニックゲインを取り組んでいる、だとぉ!?」
 エルフナインの解析に、弦十郎が驚愕の声を漏らした。

☆☆☆

「きゃぴきゃぴのぴゃきゃこっ!」
「アレだけしこたま撃ち込んどいて、どうして原形留めていやがるんだ……?」
 何処か陽気な声を上げながら、ペニスーツマンが悠々と爆炎の中より歩み出た。
「しゃらくせぇ! だったら消し灰になるまでブち込んでやるまでだッ!」
 ペニスーツマンの常軌を逸脱した頑強さに微塵も怯まず、クリスがクロスボウ型のアームドギアを構えた。
「オタクーーー!!ウワァァァァァァーーー!!アアァァァァァァーーーーー!!!!!」
 突如、ペニスーツマンが叫び声を上げた。
 同時にスラックスのジッパーを荒々しく引き千切り、液晶ディスプレイのような光に包まれた逸物を露出させる。
 ペニスーツマンのペニスは「マイク」の形に変形していた。
「下品な一発芸を見せつけて、何のつもりだテメー……?」
ヒトカラするぞッ!」
 ペニスーツマンの一声と共に、その下半身より荘厳なる旋律が響き渡った。
「この旋律は……!? 誤魔化しが聞くもんか……あの錬金術士が奏でた『世界を壊す歌』じゃねぇかッ!」
「クリスさん! 逃げてください! オリジナルと遜色なく、70億人分のフォニックゲインが観測されてますっ! 一人では敵う相手ではありませんっ! どうか、どうか、一刻も早く逃げてくださいっ! 」
 エルフナインが一心不乱にクリスへ呼びかけたのと同時に、ペニスーツマンが圧倒的なるフォニックゲインを放射した。

「アァ、チンポチンポセイヤセイヤセーイヤアァー……(嗚呼、終焉への追走曲が薫る......)

 チンポチンポー、セイヤセイヤァ、チンポトチレッ!(殺戮の福音に血反吐と散れッ!)」

ーHIGH MEGA SAMEN CANNONー
 未知の言語で『殲琴・ダウルダヴラ』を歌い上げながら、ペニスーツマンの亀頭部より、膨大なる精液の奔流が放射される。
「な、ナメんじゃねェェーーーーーッッッ!!!」
ーARTHEMIS SPIRALー
 咆哮を上げがら、クリスが反撃の一手を射つ。
 巨大な弓へと変形させたアームドギアへ大型ミサイルを番え、ペニスーツマンへ向け撃ち放った。
 ペニスーツマンが射精した精液の奔流は、イチイバルが放った決死の一矢を呑み込み、やがてクリスの身体を包み込んだ。

☆☆☆

「オチンポ〜セイヤァ〜、オチンポ〜セイセイ〜、オチンポオワラセル〜

 (愛など見えない 愛などわからぬ 愛など終わらせる)」

 一曲歌い終えたペニスーツマンが満足気に眼前の敵を見下ろす。
 そこには、精液塗れの雪音クリスが絶望に呑まれた表情で、地べたに横たわっていた。
(チクショウっ! チクショウッ! 後輩の仇も取れないままに蹂躙されて、これじゃあ先輩失格じゃねぇかッ!)
 悔し涙を浮かべながら、クリスは自らの不甲斐なさを嘆く。
「カラオケもう意味分からん……」
 歌うのに飽きたのか、ペニスーツマンが踵を返し立ち去っていく。
「ま……ちやがれ……アタシが、アタシがあの馬鹿共の落とし前をつけなけれゃならねーんだ……」
 呪詛のように言葉を漏らすクリスに、ペニスーツマンが歩みを止めた。
「まんこ」
 ボロボロになった姿にツボを突かれたのか、ペニスーツマンが好色な視線?をクリスへ差し向ける。
「テメー、な、何を考えてやがる……チクショウ、やめろォ!」
「お前がOTONAになるんだよ!」
 ペニスーツマンが欲望を剥き出しにクリスへ迫った瞬間に、紅き鋸と翠の鎌がその背広へ叩き込まれた。
「インターネットでいつも怒られている……」
 しょんぼりとした声で吹き飛ぶペニスーツマンを他所に、クリスが驚愕に目を見開いた。
「何、発情期に入ってるんデスか! この変態生物めぇ!」
「……先輩、大丈夫?」
『イガリマ』の装者、暁切歌
『シュルシャガナ』の装者、月読調
 復活した二人の後輩が、先輩の危機に馳せ参じた。
「無事……だったのか……?」
「無事じゃあないデスよっ! この通り、身体中ベトベトで気持ち悪いったらありゃしないデスッ!」
「でも、おかげでこの通り私たちは動けるようになったよ……助けに来てくれて、ありがとう」
 二人が満面の笑みで手を差し出すと、クリスが安堵した表情でその手を掴む。ペニスーツマンに対する恐怖心は一切消え失せていた。
(手を取り合い支え合う事の大切さ……アタシとしたことが忘れていた……そうだ、一人ではハナから勝てねぇ相手なんだ……アタシ一人で抱え込む意味なんて、全くねぇ!)
 精液を拭い取りながら、不敵な表情でクリスは立ち上がる。
「お前が大好きなアニメを私が見れなくしてやる理由……!」
 不可思議な言葉を発しながら、相対する三人の装者へとペニスーツマンが亀頭部をぴくぴくと膨張させ威嚇する。
「すごいフォニックゲインを感じる……でも、負けない……!」
「いい加減にするデスよ、この全身猥褻物っ! このイガリマでその淫猥な頭部を切り刻んでやるデェス!」
「いくぞ後輩共っ! シンフォギアの底力を見せつけてやんぞっ!」
 クリス、切歌、調。
 三人の装者がペニスーツマンと相対する意思を見せた瞬間、夜空から三つの影が舞い降りる。
「わたしも力を貸すよッ! クリスちゃん! シンフォギアの底力、一緒に見せつけよう!」
「後輩達の危機に、鞘走らぬ私ではないっ!及ばずながら戦線に加わろう!」
「貴女達を決して独りにはさせないっ!」
『ガングニール』の装者、立花響
『天羽々斬』の装者、風鳴翼
『アガートラーム』の装者、マリア・カデンツァヴナ・イヴ
 三人の頼もしき仲間が現れ、クリス達に檄を飛ばした。
「間に合ったようで何よりだ。急遽、音速機を手配し、間に合わせた甲斐があったものだ」
「……ハッ! 百人力の戦力だよ。これじゃあ、相手の方に同情するぜ」
 弦十郎からの通信に、クリスは顔を綻ばせる。
 集結した六人の装者と対峙したペニスーツマンが、冷や汗だか我慢汁だかわからない液体を垂れ流しながら一歩後ずさった。
「き、今日は地球を死の星にしようと思ったけど咲日和読んでやめることにした」
 捨て台詞のような言葉を残した後、ペニスーツマンは捩れたオーロラのような光に飛び込み消失した。
「旗色が悪くなったら直ぐに逃走か……大したことねーヤツだ。シンフォギアをナメるなってんだぁ!」
 クリスが勝鬨を上げると、シンフォギア装者達が各々のアームドギアを天に掲げた。
 クリス達の勝利の凱歌が、富士の樹海に鳴り響いた。

☆☆☆

 哲学する男性器『ペニスーツマン』
 いくつもの世界を周り、その瞳は何を見る?

ペニスーツマン VS 仮面ライダーウィザード

 紅い宝石を彷彿させるフロントが特徴的なオフロードバイク『マシンウィンガー』が広大なる平原を駆け抜ける。

 仮面ライダーウィザード、操真晴人はコヨミの形見ともいえる『ホープリング』を眠らせる場所を求めて、世界中を旅していた。

 今日もまた求める場所を探し出すことができぬままに、紅い夕日が傾き始めていた。
「焦ることはないさ……時間は、たっぷりとあるんだからな……」

 オレンジ色に染まる平原を眺めながら、晴人は誰ともなしにそう呟いた。

 どれだけの時間を費やそうとも、コヨミの意思を継がなければならない。

 誰の手も届かないような場所へ『ホープリング』を眠らせるという願いを叶えることが、晴人が『魔法使い』として行える最後の使命であった。
「アレは……何だ?」

 晴人は怪訝な表情で空を仰いだ。

 空には捩れたオーロラのような光から、何の前触れもなくスーツ姿の成人男性が出現していた。

 マシンウィンガーを止め、晴人は宙より舞い降りた男と対面する。

 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
『白い魔法使い』笛木奏や『金色の魔法使い』オーマを彷彿させる圧倒的な魔力量を感じ取り、晴人の『魔法使い』としての経験則が警鐘を鳴らしていた。
「もしかしたらアンタも『魔法使い』なのか? スーツ姿で魔法を使うなんて洒落てるねぇ」

 警戒心をおくびにも出さず軽口を叩く晴人に、スーツ姿の男は一切の反応を示さなかった。

 やがて、虚空を見つめていた男が口を開いた。
「久しぶりに他人の男性器を触りたくなってきた」
「な、何言ってんだよ、アンタ! 変態かっ!?」

 貞操の危機を感じ取り、晴人は股間を押さえながら一気に距離を開いた。
「坂上逆孤(さかのうえさかこ)と申します。またの名を、哲学する男性器『ペニスーツマン』……」
「操真晴人。指輪の魔法使い『ウィザード』だ。アンタ、唯の変態って訳じゃなさそうだな」

 晴人は油断なく数種の『ウィザードリング』を取り出し、突然名乗りだした男に応じた。
「『魔法使い』如きでは辿り着けぬ哲学の深淵、とくとお見せしましょう」

 坂上は徐にスラックスのジッパーを下げ、己の逸物をぼろんと出した。

 晴人は目を見開く程に驚愕した。

 その逸物には、桃色に輝く『賢者の石』が埋め込まれていたのである。
『ドライバーオーン!プリーズ!』

 晴人はバックル前方へリングを翳し、腰部にウィザードドライバーを出現させた。
『シャバドゥビタッチヘンシ~ン!シャバドゥビタッチヘンシ~ン!』

 魔法の呪文を符号化させた軽快なる電子音声の歌がウィザードドライバーより鳴り響く。やがて、晴人は『フレイムリング』を左手に嵌め、ドライバーのハンドオーサーへと翳した。
「変身」
『フレイム!プリーズ!』
『ヒー! ヒー! ヒーヒーヒー!!』

 左手のウィザードリングに吸い付くように、魔法陣が晴人の身体を包み込んでいく。 やがて、漆黒の魔法衣ウィザードローブを翻し、仮面ライダーウィザード・フレイムスタイルが降誕した。
「さぁ……ショータイムだ!」

 左手のウィザードリングを見せつけるようなポーズで、ウィザードはキザな台詞を決めた。
「チンポチンポセイヤセイヤ!チンポチンポセイヤセイヤ!」

 坂上の逸物から野太い漢の掛け声のような呪文?が轟いた。

 ウィザードドライバーが奏でる呪文も珍妙であるが、坂上の逸物が唱える呪文もまた別のベクトルに逸脱していた。

 呆気に取られるウィザードを置き去りにしながら、坂上は男性器が刻まれたリングを己が逸物の『賢者の石』へ翳した。
「変身」

 真白い魔法陣に全身を包まれ、坂上は異形へと変貌していく。

 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
「ペニス―ツマン、爆現」

 威風堂々とした宣言と共に、哲学する男性器『ペニスーツマン』が光臨した。

 紅い宝石を模した仮面ベゼルフレイムの内側で、晴人は混乱の極地に苛まれていた。
(この男は一体何が目的なんだ? そもそも、コレは『ファントム』なのか? それとも『魔法使い』なのか?)

 眼前の敵の正体が看破できず戸惑っているウィザードへと、ペニスーツマンが凜然とした視線?を向け声をあげる。
「女に生まれ直したとして本当にオタサーの姫になったりキモオタと性行為したいですか?」
「知るか。アンタが一体何が言いたいのかさっぱりだよ。でもな……」

 真剣そのものな口調で問い詰めるペニスーツマンへ、ウィザードはあくまで軽薄な口調で応じる。
『コネクト!プリーズ!』

 魔法陣へと腕を突っ込み、ウィザードは銃と剣が一体となった武具『ウィザーソードガン』を取り出した。
「アンタが絶望を振り撒く存在だということはわかる! 行くぞ!」

 ウィザーソードガンのブライトンマズルが火を噴き、魔力で構成された銀の弾丸がペニスーツマンを襲撃した。

 クネクネと身を捩らせながら、ペニスーツマンは銃弾の雨を受ける。
「『おしっこレーザーカッター』っ!」

 ペニスーツマンはお返しとばかりに小便を飛ばす。
『ディフェンド!プリーズ!』

 燃え盛る劫火の障壁がウォーターカッターの如き勢いで放射された小便を防いだ

 ウィザードはウィザーソードガンをソードモードに変形させ、優雅な動きでペニスーツマンへと接近した。
「フゥッ!タァッ!」

 ウィザードは舞うように回転し、蹴りを織り交ぜた剣戟をペニスーツマンへ打ち込む。ウィザーソードガンのアストラルレザーがスーツを切り刻み、魔力によって硬化されしヘルメタリーブーツの蹴撃がペニスーツマンの体を軽々と吹き飛ばした。
「今年の正月も僕以外の家族が体調不良で全滅している……」

 曖昧な言葉を呟きながら、ペニスーツマンは悠々と立ち上がった。
「タフな奴だな……なら、コレならどうだ?」
『キャモナスラッシュシェイクハンズ!』
『フレイム!スラッシュストライク!』
『ヒー! ヒー! ヒーヒーヒー!!』

 ウィザーソードガンのハンドオーサーを展開し、さながら握手をするように左手のフレイムリングを認証させた。

 電子音声による詠唱が鳴り響き、やがてウィザーソードガンの刀身に劫火が灯る。
「タァッ!」
「うぬぅ……『包茎モード』ッ!」

 十字に引き裂くように放たれた『スラッシュストライク』をペニスーツマンは頭部の皮を引っ張りあげ防壁とすることで凌ごうとする。
「ひぎぃぃぃ~」

 無論、申し訳程度しか効果はなく、ペニスーツマンの皮に十文字の裂傷が刻まれた。
「なるほど……物理攻撃には滅法強くても、『魔法』は有効ってことだな」

 ペニスーツマンの弱点を看破したウィザードが更なる『ウィザードリング』を取り出した。
「く、喰らいなさい……『ハイメガザーメン……」
『バインド!プリーズ!』

 精液を放たんと膨れ上がったペニスーツマンの頭部を、鉄の鎖が締め上げた。

 拘束魔法に動きを封じられ、射精することが叶わなくなったペニスーツマンがジタバタともがく。
『フレイム・ドラゴン』
『ボゥー!ボゥー!ボゥーボゥーボォー!!』
「さぁ、畳み掛けるぞ」
『ドラゴタイム、セットアップ! 』

 フレイムドラゴンへエレメント変化を果たしたウィザードが『ドラゴタイマー』を腕に装備し起動させる。
『ウォータードラゴン !』
『ハリケーンドラゴン !』
『ランドドラゴン !』

 拘束されたペニスーツマンを取り囲むように、三体のウィザードの分身体が出現した。
「……ハチャメチャが押し寄せてきた」

 心なしか震え声で呟くペニスーツマンに構わず、ウィザードが複数の『魔法』を発動させた。
『『『ルパッチマジック タッチ ゴー!』』』
『チョーイイネ!ブリザード!サイコー!』
『チョーイイネ!サンダー!サイコー!』
『チョーイイネ!グラビティ!サイコー!』

 ペニスーツマンの身体を冷気が凍結させ、雷撃が焦がし、重力波が圧力をかける。

 満身創痍のペニスーツマンへと、ウィザードが止めとばかりに『魔法』を放った。
「さぁ、フィナーレだ!」
『チョーイイネ!スペシャル!サイコー!』

 胸部に現出した『ドラゴスカル』の顎より、竜の息吹が放たれた。

 広大なる平原の一角に、紅き劫火が吹き上がる。

 炸裂した『ドラゴンブレス』がペニスーツマンを身体を灰燼すら残さず焼き尽くした。
    ……かのように見えた。
「……何だとっ!?」

 ウィザードが驚愕の声を漏らす。

 竜の息吹の劫火より、ペニスーツマンがゆらりと立ち上がったのである。
「……『カウパーバリア』」

 ペニスーツマンの体には無色透明の液体がぬらぬらとテカっていた。
「まさか……『魔法』を防いだのかっ!?」

 生命の危機に瀕したペニスーツマンは『魔法』に対する耐性を身に付けていた。

 尿道を絞られ射精を封じられたペニスーツマンは、『魔法』を防ぐカウパー液を排出することでその身を守ったのである。
「ものの歩の十歩くん、島風くんコスしてキモオタにハメられてそう」

 不可思議な言葉を発しながら、ペニスーツマンが歩み寄る。

 圧倒的なる悍ましさを感じ取り、ウィザードが一歩後ずさった。環境へ適応し身体を造り変え、『魔法』にすら対応するペニスーツマンの生命力に、これまで対峙してきた如何なる敵よりも脅威を感じたのである。
「あふれ出す感情がこの身体突き破るんだよなあ!」

 ペニスーツマンは雄々しく宣言すると、懐より『ペペローション』を取り出した。オレンジ色の容器を握り潰し、ローションを全身に塗りたくる。
「『アクセルローション』ッ!」

 一声と共に、ペニスーツマンの姿が消失した。

 平原に一陣の風が吹き抜ける。

 同時にウィザードの分身体が宙を舞い霧散した。

 目にも映らぬスピードまで加速したペニスーツマンがウィザード分身体を攻撃したのである。
「……出し惜しみしている状況じゃないみたいだな」

 宿敵グレムリンを彷彿させる圧倒的なスピードを見て、ウィザードは切り札を使うことを決意した。
『インフィニティー!プリィィィィズ!』
『ヒー! スイ! フー! ドー! ボー! ザバ! ビュー! ドゴーン!』

 ダイヤモンドの如き結晶『アダマントストーン』が煌めく白銀の戦士

 操真晴人が自ら生み出した最強の『魔法』

 仮面ライダーウィザード・インフィニティスタイルが光臨した。
「行くぞっ!」

 ウィザードは『アックスカリバー』を振りかざし、高速で迫るペニスーツマンと対峙する。
『インフィニティ!』

 時間流に干渉する魔法によって加速したウィザードが、カリバーモードのアックスカリバーをペニスーツマンへ斬りつける。
『アクセルローション』のスピードに悠々と追いついたウィザードの剣戟にペニスーツマンはなす術もなく切り刻まれた。
「死ぬんだよなあ……」

 何やら諦めモードのペニスーツマンに構わず、ウィザードが決着を付けるべく最強の『魔法』を撃ち放つ。
『ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイタッチ! 』
『プラズマ!シャイニングストライク!』

 アックスカリバーのハンドオーサーへ『インフィニティリング』を五度翳すと、電子音声による呪文が軽快に響き渡った。

 やがてウィザードの振りかぶったアックスカリバーが見上げる程に巨大化し、大地を砕かんばかりの必殺の一撃『プラズマドラゴンシャイニング』がペニスーツマンへ打ち込まれた。
「頑張っていきたい……にゃんにゃかにゅんっ!『ハイメガザーメン砲』っ!」

 ペニスーツマンは咄嗟に怒りのハイパーモードへ変化し、十八番である『ハイメガザーメン砲』を射精した。

 しかし……

『キラ・キラ! キラ・キラ!』

『プラズマドラゴンシャイニング』は精液の奔流を切り裂きながら、ペニスーツマンの目?と鼻?の先まで迫っていた。

 インフィニティスタイルのスピードに翻弄され体制を崩していたために、『ハイメガザーメン砲』を射精するタイミングが遅れたのである。

 いくら早漏で知られるペニスーツマンであれど、『アクセルローション』を凌駕する程のスピードで襲撃されては後手に回ざるを得なかった。
「の……野間口律……」

 万策尽きたペニスーツマンが諦めの言葉を呟いた瞬間に、奇跡が起きた。
『プラズマドラゴンシャイニング』と鬩ぎ合っていた『ハイメガザーメン砲』の精液のほんの一滴が、ウィザードの腰部へと飛散したのである。

 一見その現象は、不快ではあるが戦闘においては何の影響もないように見えた。
  しかし、飛び散った精液はよりにもよってコヨミの形見である『ホープリング』へと付着してしまったのであった。
「なっ!?」
『ホープリング』を汚すことは、コヨミが汚されることに等しい。

 晴人は目に見えて動揺しながら付着した精液を拭った。

 ほんの数瞬の隙であったが、ペニスーツマンは見逃さなかった。
  ウィザードの意識がなくなった瞬間を見極め、ペニスーツマンがその身を大きく捻る。
「『ハイメガザーメン砲・スパイラルエフェクト』っ!」

 ペニスーツマンの全身を捻るような駆動に合わさり、精液の奔流が螺旋状に回転した。『ライフリング』の原理を用い、『ハイメガザーメン砲』の貫通力を増大させたのである。

 螺旋力を加えた『ハイメガザーメン砲』が『プラズマドラゴンシャイニング』を貫き、ウィザードの身を呑み込んだ。

 ダイヤモンドを凌駕する硬度を誇る『アダマントストーン』の装甲を傷付けることは叶わなかったが、反吐が出る程生々しい精液の臭いに耐え切らず、晴人は意識を葬られた。

☆☆☆

「……何だったんだ、一体?」

 数時間気絶した後に目を覚ました晴人は、第一に『ホープリング』の安否を確認した。『賢者の石』より生成されたリングは希少価値が高く、ペニスーツマンの襲撃はコレを狙ってのものであると推測したのだ。

 しかしながら、『ホープリング』どころか晴人の所持する全ての『ウィザードリング』にも手をつけられていなかった。

 ならば金銭目的かと荷物を確認するも、何処にも漁られた形跡がなかった。

 最期まで目的がわからず混乱するばかりだと、晴人は項垂れた。
「あんな奴が存在するなんてな……コヨミを安全に眠らせる場所を……誰の手も届かないような場所を、必ずに見つけ出してやる!」

 決意を新たに、仮面ライダーウィザード 操真晴人はマシンウィンガーへ跨り平原を疾走していく。

☆☆☆

 哲学する男性器『ペニスーツマン』
 いくつもの世界を周り、その瞳は何を見る?

ペニスーツマン VS 仮面ライダー鎧武

 風光明媚なる自然が育まれた名も無き惑星にて『始まりの男』葛葉紘汰は佇んでいた。輝くような金髪、翠と朱のオッドアイ、そして銀色の鎧を身に纏うその姿はコスプレではなく、『黄金の果実』を口にし神そのものへ生まれ変わった葛葉紘汰の新たな姿であった。
 一切の生命が存在しない死の惑星の開拓がひと段落つき、紘汰は生まれ変わった自らの星を眺めていた。
「ようやくヘルヘイム以外の植物が生まれた。魚や虫も、この調子なら生まれるかな……」
 感慨深く呟きながら空を仰ぐ紘汰の瞳に、奇妙なシルエットが映り込む。
何の前触れもなく発生した歪んだオーロラのような光から、スーツ姿の男が空中に出現したのである。
 男は空を切り落下していき、紘汰の眼前へ優雅に舞い降りた。
 葛葉紘汰と高司舞、二人の神が管理している惑星にこのような生物は存在しない。
 警戒心を露わに睨む紘汰を気にせずに、スーツ姿の男は口を開いた。
PM2.5を吸いまくって肺を鍛えるしかない」
「なっ!? 失礼だなっ! この惑星は植物が生まれたばっかなんだぞ! 公害なんてあるわけないだろうが!」
 創造主として舞と共に世界を創りあげてきた努力を踏み躙るような言葉に、紘汰は怒りを感じていた。
「わかる(わかる)」
「あ、あぁ……? わかればいいけど……」
 突如、言葉を翻した男に、紘汰は怪訝な表情となる。
 改めて眼前の男を観察すると、紘汰は男が醸し出す尋常ならぬ雰囲気を感じ取った。 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
「お前は……何者なんだ?」
 男が醸し出す『虚無』は、アーマードライダーとして数多くのライダーやインベス、そして超越者たるオーバーロード達と戦い抜いてきた紘汰にさえ、得体の知れない悍ましさを感じさせた。
「坂上逆孤(さかのうえさかこ)と申しまする」
「葛葉紘汰だ…もう一度聞くぞ。お前は何者で、どんな目的でこの星に来たんだ?」
警戒を続けながらも対話を試みようとした紘汰だが、突如その表情は驚愕に染まった。
『虚無』に満ちていた坂上の瞳に熱が灯ったからである。
 情熱を込めた視線の先には、花畑で戯れているインベスの群があった。
 坂上はその中でも青色の外骨格が特徴的な『カミキリインベス』をハァハァと息を荒らげながらを凝視していた。股間はスラックス越しでも明確に見て取れる程にいきり勃っている。
 (こいつ……インベスに欲情しているのかっ!?)
 不快感に顔を歪ませながら、紘汰は考える。
 元よりインベスとは人々に牙を剥く存在であった。その正体はヘルヘイムの森の果実 には生物であり、中には人間から変態したインベスも存在する。
 しかしながら……
 この世界の創造主として、紘汰はこの惑星で暮らす生命を害する存在を許す訳にはいかなかった。
「ゴムゴムのしょかさんをイカせ隊!」
「この惑星を汚す奴は許せねぇ……!」
 紘汰と坂上は静かに睨み合う。
 やがて紘汰は戦極ドライバーを腰に出現させ、相対する坂上は己の逸物をぼろんと出した。
「お前は……オーバーロードだったのかっ!?」
 坂上の逸物には光り輝く『黄金の果実』が埋め込まれていた。
 坂上もまたヘルヘイムの森の侵食を乗り越えた超越者であると、紘汰は確信した。
フルーツバスケット!』
 極ロックシードを起動させた瞬間、オレンジ、バナナ、ブドウ、マツボックリ、ドングリ、ドリアン、クルミ、レモンエナジー、チェリーエナジー、ピーチエナジー、メロンエナジー、合計11種の鎧(アームズ)が紘汰を取り囲むように出現した。
『ロックオープン!!極アームズ!! 大・大・大・大・大将軍!!』
 極ロックシードをカチドキロックシードのロックスリットへ差し込むと、11種の鎧が掻き混ぜられるように融合し、一つの銀色の鎧として紘汰の身体へ装着された。
「俺達の新しいステージを汚す奴は絶対に許せねぇ!」
 仮面ライダー鎧武・極アームズへ変身を遂げた紘汰が威風堂々と宣言した。
「変身」
 坂上の逸物が神々しい光を放った。
 やがてヘルヘイムの植物に全身を覆われ、その姿が異形へ変貌していく。
 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
「ペニス―ツマン、爆現」
 変身を遂げた超越者二人が向かい合い、一陣の風が両者の間に巻き起こった。
「紘汰っ!? ソレは、何者なの……!?」
 騒動を聞き駆けつけた『始まりの女』高司舞が、不安気な声を漏らした。
「離れてろ、舞。新しいオーバーロードだ。この惑星を侵略するつもりかもしれねぇ」
 紘汰の言葉を受け、舞は静かにインベス達を誘導し避難させていった。
「下半身がエレクトリカルパレードになってきたので僕はもう駄目かもしれません……」
 テンションが落ちた声音で、ペニスーツマンが呟いた。ビンビンとなっていた頭部も若干元気を失っている。
 その視線?の先には、『始まりの女』高司舞が居た。顔立ちは整っているものの、あまりにも似合わない金髪にショックを受けたのかもしれない。
「なんか凄く失礼なことを思われた気がする……紘汰っ! 徹底的にやっちゃって!」
「言われなくても!」
『無双セイバー』『大橙丸』
 極アームズは全てのアームズウェポンを召喚する能力を有する。
 鎧武は極ロックシードを起動させ、最も使い慣れた二つの武器を呼び出した。
「ハァッ!セィッ!」
 高い切れ味を誇る無双セイバーのハモンエッジが、物質の科学結合に作用する大橙丸のカヒノジンが、容赦なくペニスーツマンを斬り刻む。
 荒々しくも力強い鎧武の二刀剣戟は、ペニスーツマンに反撃の隙を一切与えなかった。
「げんきぃ……」
 ペニスーツマンは曖昧を漏らすのみで、鎧武が剣戟に怯んでいる様子はない。
『マンゴーパニッシャー
 ペニスーツマンの佇まいに不気味を感じながらも、鎧武は新たなるアームズウェポンを召喚した。
 大人数人がかりでも持ち上げることが出来ないほどの重量を誇るメイスを、鎧武は軽々と振り回しペニスーツマンの亀頭へと叩き込んだ。
「セィイ!ドォリァ!」
 同時に撃ち出した『パニッシュマニッシュ』のエネルギー弾がペニスーツマンを遥か遠くの浮島へと吹き飛ばした。
『黄金の果実』を口にした紘汰は、人知を超えた力を宿している。鎧武はさも当然のように宙に浮き、浮島へ向けて飛び立った。
 鎧武は浮島の大樹の根元で蹲っているペニスーツマンを発見した。
「最近は社会にも親にもオタクにも風邪にも負けまくってるので全くいいところがない……」
 プルプルと全身を震わせながら、ペニスーツマンはまたもや曖昧な言葉を発していた。
「こいつ、あんなふざけた見かけなのに何て頑丈なんだ……」
 確かな手応えを感じた鎧武だったが、ペニスーツマンは殆どの外傷を負ってなかった。
 鎧武が次の一手を考えている最中、ペニスーツマンは徐にその頭部をギンギンにいきり勃たせた。
「欲望の雨だ……『スペルマ流星群』のバリエーション……『プラネット・レイプ』!」
 ペニス―ツマンはその頭頂部から白濁の玉を遥か天空まで打ち上げた。
 やがて成層圏程の高さまで打ち上がった白濁の玉が眩い大爆発を起こした。
 そして……大陸全土を塗りつぶすかのような精液の豪雨が惑星に降り注がれた。
「ふざけるなっ! 俺達の惑星は、絶対に汚させやしないっ!!」
 鎧武が空を仰ぎ両腕を翳すと、何もなかったはずの空間に大きな亀裂が出現した。
 オーバーロードの力を用い展開した数多の『クラック』は、惑星を妊娠させうる程の量の精液を吸い込み亜空間の彼方へと消し飛ばした。
「にゃー!」
『メロンディフェンダー』『ブドウ龍砲』
 ペニスーツマンが高圧水流の如き勢いで飛ばした射精後の小便をメロンディフェンダーで防ぎながら、鎧武がブドウ龍砲を乱射する。
「ハッカドール4号の喋り方Syamu_gameさんに似てる……」
 全身に弾丸を浴びながら、ペニスーツマンはクネクネと体をよじりながら意味不明な言葉を並び立てていた。
「ウォリィャァ!! まとめて喰らいやがれ!」
『イチゴクナイ』『パインアイアン』『ドリノコ』『ドンカチ』『キウイ撃輪』
 極ロックシードを何度も起動させ、鎧武は大量のアームズウェポンを虚空より射出した。
「何のぉ、『包茎モード』!」
 複数のアームズウェポンによる襲撃を、ペニスーツマンは頭部の皮を引っ張り上げ防壁とすることで凌ごうとしていた。
 しかし……
「うぐぐ……足腰がバキバキになっとる……」
 当然効果は申し訳程度しかなく、ペニスーツマンは全身に擦過傷を負っていた。
 鎧武のパルプアイが怪しく煌めくと、堪らず逃げようとしたペニスーツマンの足元を蔦が絡め取った。オーバーロードが有するヘルヘイムの植物を操る能力を用いて、ペニスーツマンの逃げ道を塞いだのである。
「ならば……にゃんにゃかにゅんっ!」
 不可思議な言葉と共に、ペニス―ツマンの全身が金色の光に包まれていく。
 ペニスーツマンは、全ての能力が893倍に増幅される怒りのハイパーモードへと変貌した。代償として前立腺の感度が334倍になってまうという欠点も持つ、諸刃の剣ともいうべき姿で勝負に打ったのである。
『無双セイバー』『火縄大橙DJ銃』
 無双セイバーが差し込まれた火縄大橙DJ銃大剣モードを呼び出し、鎧武はドライバーのカッティングブレードを勢いよく倒した。
『ソイヤッ!』『極オーレ!』
 戦極ドライバーより軽快な音声が鳴り響き、火縄大橙DJ銃の刀身に虹色の光が満ちていく。
「ウォリィヤァ!!!」
 やがて鎧武は一振りと共に、数多のロックシードのエネルギーを込めた斬撃『火縄大橙無双斬』を撃ち放った。
「むんっ!『ハイメガザーメン砲』!」

 ペニス―ツマンの頭頂部より瀑布の如き精液を放射された。
 通常の893倍に増幅されたペニス―ツマンの十八番『ハイメガザーメン砲』であるが、此度の射精は幾分か威力が落ちていた。
 星一つ覆い尽くす程の莫大なる精液を要する大技『プラネット・レイプ』を射精した後では、さしものペニス―ツマンであれど種切れ状態であったのだ。
『火縄大橙無双斬』が『ハイメガザーメン砲』を切り裂き押し寄せる。
 絶体絶命と思われたその時、ペニス―ツマンの瞳?が一つの希望を捉えた。
『カミキリインベス』の群れが、大樹の上で身を寄せ合いながら両者の戦いを見守っていたのである。
 虫の類に欲情する性癖を持つペニス―ツマンは極上のオカズを視界に収め、頭頂部をビンビンに勃起させた。
「ぬぁぁぁぁん!『インセクト・エジャキュエーション』」
 噴射されたザーメンの激流が『火縄大橙無双斬』を呑み込み、ペニス―ツマンの眼前の一切を白濁に染め上げた。
 鎧武は精液の激流に押し流され、やがて咽かえるような臭いに耐え切れず意識を手放した。

 ☆☆☆

「紘汰っ!お願い、しっかりして!」
 舞の悲痛な声を受け、紘汰は目を覚ました。
「俺は、負けたのか……?」
 精液でベトベトになっている鎧を拭いながら、紘汰が呟いた。
「ううん……あの後アイツは、『頭痛で力がでない』とか言いながら逃げていったの。だから、もう危機は去ったんだよ」
「そう……なのか……?」
 紘汰は仮面ライダー鎧武としての武力とオーバーロードとして有する超常的な能力の限りを尽くしてペニス―ツマンと戦い抜いた。
 それでも、最後まであの亀頭男に翻弄され続けたという実感がどうしてもぬぐえなかった。
 深刻な表情で黙り込む紘汰へと、若干躊躇しながら舞が口を開く。
「それでね……アイツが逃げるときに、インベスが一匹、お持ち帰りされちゃったの……あの青い虫みたなタイプのインベスを……ゴメンなさい、わたし、止められなかった」
「そうか……くそぅ!」
 紘汰はダンっ!と地面を殴りつけながら、自らの不甲斐なさを呪った。
 この惑星で平和に暮らす無垢なる生命を守れなくて何が『神』なのか。
 後悔を胸に秘めながら、紘汰は再び自らの星を眺めた。
「小便だの精液だの遠慮なしに巻き散らかしやがって……汚ったねぇ野郎だ」
「また二人で綺麗にしていこう。何もない死の惑星だったこの星を、ここまで開拓できたんだもん。あんな変態を鼻で笑えるくらい、綺麗な星にしてやろうよ!」
「そうだな……俺達のステージはまだ終わっちゃいねぇ!」
 新たな決意を胸に、仮面ライダー鎧武 葛葉紘汰が自らの惑星へ宣言した。

 ☆☆☆

 哲学する男性器ペニス―ツマン
 いくつもの世界を周り、その瞳は何を見る?

ペニス―ツマン  VS 仮面ライダードライブ

「『ぺぺローション』を流行らせるロイミュード?何の冗談だよ、ベルトさん」

 

 真紅の愛車『トライドロン』を運転しながら、泊進ノ介が怪訝な声で言った。
 運転席のフロントに設置されたベルトさんことドライブドライバーの液晶モニターに、困惑の表情パターンが浮かび上がった。
「それがな、ふざけてなどいないのだよ、シンノスケ。これはれっきとしたロイミュード犯罪、即ち我々『特状課』の管轄という訳だ」
 困惑の色が含まれているが、ベルトさんは至極真面目に事件についてのいきさつを語り始める。
 なんでも、近頃『ぺぺローション』の売上が異常な数値で急増しているという。ひと月前と比べると発注数は数十倍にも達しており、メーカーの生産が追い付かないほどの一種の社会現象にもなっていた。
 あの天皇陛下が御用達にしているという衝撃的なニュースが報道されたのも記憶に新しい。
「それで、その異常な社会現象はロイミュードによって引き起こされたと、ベルトさんは言いたいんだな?」
「Exactly!その通りだシンノスケ。この現象は何者かが確固たる目的をもって引き起こしていると私は考える。そして我々は、その黒幕の尻尾をとうとう掴んだのだ。気を引き締めてかかるのだぞ、シンノスケ」
 ボケーっと景色を流し見ながら、はいはいと進ノ介は気の抜けた返事をする。
 ふざけた冗談としか思えない事件に、進ノ介のギアは極限まで落ちていた。
「そもそも『ぺぺローション』とは何なのですか?アロマオイル等の一種、なのでしょうか?」
 助手席の詩島霧子が首を傾げながら、言葉を漏らす。
 進ノ介が曖昧な表情で言葉を濁していると、ベルトさんの液晶モニターに満面の笑顔の表情パターンが浮かび上がる。
「良い質問だ、キリコ。『ぺぺローション』とは、中島化学産業が誇る日本で最も有名なローションのことだ。その用途は、主に性行為の補助に使用される。マット・素股・手コキ等のプレイ、またはバイブやオナホールの使用する際にも有効だ。特に『ペペ』はローションの代名詞と呼ばれるほどに信頼性が厚く、無味、無害、無臭の三拍子揃っていると専ら評判だ。キリコも、シンノスケとの『夜のドライブ』の際に使えば、パートナーを満足させ……ウワォ!?何をする、シンノスケッ!?」
 ペラペラとまくしたてるベルトさんのスイッチを進ノ介が無言で切った。
 恐る恐る助手席に顔を向けると、そこには羞恥で顔を真っ赤に染めた霧子がぷるぷると震えていた。
「確保ですっ!そんな卑猥で淫らで破廉恥な性犯罪者はわたし達の手で確保しましょう!泊さん、飛ばしてください!」
 激高した霧子に逆らえず、進ノ介はペダルを踏みしめ現場へとトライドロンを急行させた。

 

 ☆☆☆

 

 事件現場は市民公園であった。
 住宅街に無理矢理開かれた公園であるため面積は狭く、遊具も少ない。
 しかし、そこは紛れもなく『事件現場』という様相を呈していた。
「大丈夫ですか、しっかりしてください!」
 霧子が地べたに倒れていた母娘へ駆け寄り、身体を揺する。
 同時に、母娘の全身がローション塗れであるという事実に顔が青ざめるほどに絶句した。
「何てことだ。これは性犯罪じゃないか……」
 進ノ介が静かな怒りを込めた声音で呟いた。
 事件現場を目撃した瞬間から、脳細胞はトップギアに入っている。
 数ある犯罪の中でも、特に弱い立場にある女性や子供を魔の手にかける『性犯罪』を、進ノ介は嫌悪していた。
 被害者の介抱を同性である霧子に任せ、進ノ介は犯人探しに奔走する。
 間もなく、『犯人』はあっさりと見つかった。
「坂上逆孤(さかのうえさかこ)。重加速犯罪、及び『ぺぺローション拡散事件』の首謀者、並びに婦女暴行の疑いで確保する!」
 砂場に座り込んでいるスーツ姿の男を鋭く見据え、進ノ介が宣言した。
 進ノ介の声に耳を傾けず、男は砂を『ぺぺローション』で固めながら、砂遊びに興じていた。
 構わず手錠を取り出した進ノ介を牽制するように、男は口を開いた。

「我はメシア、明日世界を再生する」

 唐突な言葉に困惑する進ノ介に畳みかけるように、男は語る。
「頭がうんこになっちゃいました~、べろべろべろ~」
「乳首比丘尼
「はにゃむめも純」
「疾風の如く髪の毛を生やす」
「原因不明な動悸がする」
 意味のわからない言葉を並び立てられ、進ノ介はいよいよ精神異常者と相対しているのではないかと疑いはじめた。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
 坂上が醸し出す『虚無』は、警察官として様々な凶悪犯罪者と相対し、また仮面ライダーとして数多くの敵と戦い抜いてきた進ノ介にも、得体の知れない悍ましさを感じさせていた。
「動揺するな、シンノスケ!間違いなく、目の前の男が今回の事件の犯人だ!」
「わかっているってベルトさん!でも、一筋縄ではいかない。刑事としての勘がそう言っている!」
 瞬間、ゴォンという爆音が轟き、眼前の砂場に大爆発が起こる。
 そこにはコブラ型の下級ロイミュードが坂上を守るように出現していた。
 坂上は徐にスラックスのファスナーを下げると、己の逸物をぼろんと出した。
 ソコには、真紅のネオバイラルコアが埋め込まれていた。
「変身」
 一声と共に、坂上とロイミュードは電子的な光に包まれ、その姿を変貌させた。
 ソレは異形であった。
 身体には変化は見られず、きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
「ペニス―ツマン、爆現」
 威風堂々とした宣言を受け、進ノ介に緊張が走る。
「融合進化態か……厄介だな」
「どういうことだ……ナンバリングプレートが存在しないとは……」
 総数108体しか存在しないロイミュードには、各々に番号が割り振られている。
 しかし、坂上が媒体として選んだロイミュードにそれが存在しないという事実にベルトさん内部のクリム・スタインベルトの頭脳が違和感を覚える。
「細かいことを考えるのはやめだ!いくぞ、ベルトさん!」
「OK! Start Your Engine」
 進ノ介が左腕のシフトブレスにレバー形態のシフトスピードを装填する。
 そして、ガチャリとシフトレバーを倒し、ドライブドライバーへ変身信号を伝達させた。
「変身!」
「ドライブ!!タイプ・スピード!!」
 進ノ介の身体が真紅の装甲に包まれ、やがてトライドロンから飛んできたタイヤが左胸に襷のごとく装着される。
 仮面ライダードライブ・タイプスピードが目の前のペニス―ツマンと相対した。
「さぁ……ひとっ走り、付き合えよ!」
 決め台詞を放つと、ドライブは疾風の如く駆けだした。
 トライドロンから排出されたハンドル剣を手に、眼前のペニスロイミュード(仮)へと一直線に突撃した。
「トゥア!」
「TURN!」
 圧縮SO-1合金で生成された青い刀身がペニス―ツマンを襲撃する。
 ハンドル剣は鍔部のハンドルを回転させることで運動エネルギーを注入するギミックがある。ドライブの腕力で打ち込まれるその斬撃は、ロイミュードの鋼の身体すら易々と切り裂く威力を誇る。
「にゃー」
 しかし、怪人ペニス―ツマンは幾度斬り込まれようと、曖昧な言葉を漏らすだけであった。
 やがて、ペニス―ツマンはその亀頭をぶるると震わせた。
「こんな見かけでも、融合進化態か。かなり固いぞ」  
「シンノスケ!警戒しろ、何かしらの攻撃が来るぞ!」
 ベルトさんの警告を受け、ドライブは咄嗟にシフトレバーを三度動かした。
「スピ・スピ・スピード!!」
 軽快な音声と共に左胸の『タイプスピードタイヤ』 が唸りをあげ回転する。
 やがて反重力フィールドの恩恵を受けたドライブが円を描くように高速移動する。
 瞬間、ピッとペニス―ツマンの頭頂部から液体がレーザーのように放射された。
 それは加速したドライブに当たることなく、公園の数少ない遊具であるシーソーをバターの如く両断した。
「危ないな……何を飛ばしたんだ、アイツは」
「今、成分を分析したが……九割以上が唯の水のようだ。他には塩素、ナトリウム、カリウムマグネシウム、リン酸、クレアチニンアンモニア、そして……尿酸。非常に言いにくいのだが、奴は尿を飛ばして攻撃したようだ……」
「うわ、バッチィーな!愛車に小便かけられるなんて、車乗りとして想像するだけでもゾッとするよ」
 軽口を叩きながらも、ドライブは加速した状態でペニス―ツマンへと迫って行く。
 そして、左腕のシフトブレスに紫色のシフトカーを装填し、素早くレバーを動かした。
「タイヤコウカーン!!ミッドナイト、シャドー!!」
 胸部の転移ポータルへと十字手裏剣の形をした紫色のタイヤが装備され、仮面ライダードライブ・タイプスピードシャドーへと変化した。
「一気に決めるぞベルトさん!」
「ヒッサーツ!!」
 ドライブがシフトブレスのイグナイターを押すと、ベルトさんの音声が鳴り響く。
 そして、ドライブがシフトレバーを倒し
フルスロットル!!シャドー!!」
 トライドロンが高速でペニス―ツマンの周囲を爆走する。
 三体に分身したドライブがトライドロンの高速移動の反動を利用し、全方位から連続でキックを浴びせた。
 紫の閃光と共に、ドライブはペニス―ツマンを蹴り抜いた。
 人形のように軽々と吹き飛ばされたペニス―ツマンは、木製のベンチを砕きながら地面へ突っ伏していた。
「完全にふらふらになってしまった」
 炸裂した『スピードロップ』はペニス―ツマンを満身創痍にしていた。
 しかし、何処か余裕のある声色がドライブとベルトさんに警鐘を鳴らす。
「んあー」
 びくりびくりと全身を震わせながら、ペニス―ツマンが声を漏らす。
「何だ、また小便か?トイレの近い奴だな」
「違うぞシンノスケ……奴はダメージにエクスタシーを感じているのだ。このままではオーガニズムに達してしまう……」
 深刻な声音で言うベルトさんに、ドライブが言葉を失った。
「……嘘だろ、ベルトさん……オーガニズムってのはつまり……」
「避けろシンノスケ!奴は『射精』するつもりだッ!」
「『スペルマ流星群』」
 ベルトさんの叫びと同時に、ペニス―ツマンはその頭頂部から白濁の玉を打ち上げた。
 やがて上空に達した白濁の玉が花火の如く爆ぜ、公園を塗りつぶすように精液の雨が降り注いだ。
「ドライブ!!タイプ・フォーミュラ!!」
 来るべく危機に対応するため、ドライブはタイプフォーミュラへと変化していた。
「フォ・フォ・フォーミュラ!!」
 シフトレバーを三度動かし、ドライブ・タイプフォーミュラの速度はマッハ2.45まで加速される。
 降り注ぐ白濁の雨をドライブは超スピードで回避した。
「ハァ……ハァ……なんて奴だ……こんな敵は始めてだ……」
 タイプフォーミュラのGの負担に進ノ介は息を切らしていた。
 それ以上に、相対するペニス―ツマンの下劣なる攻撃に精神を擦り減らしていたのだ。
「そうだっ!霧子!霧子は無事かっ!?」
 今だ公園に居るはずのバディの姿を思い出し、進ノ介の脳裏に最悪の予感が過る。
 入口付近へと視線を動かすと、そこには白濁に染まった霧子の姿が居た。
 その身を挺して、被害者である母娘を守っていたのだ。
 汚されたバディを目撃した進ノ介は静かに激高した。
「久しぶりだよ……怒りで頭がシーンと冷えたのは……お前を逮捕して、必ず自らの罪と向き合わせる!」
「罪?なんのことを言っているのですか?」
 進ノ介の怒りの言葉を、ペニス―ツマンはぽかんとした口調で返した。
「ふざけるな!婦女暴行の現行犯が!幸せな母娘だけでなく、霧子にも手をかけたお前が言い逃れるか!」
「手をかけたってというか、精液をかけたんですけどね……いや、それよりも私はそこの母娘を襲ったりなんてしてないんですよ」
「いい加減なことを……この期に及んで自分の罪を認めないつもりか!」
 突如変貌したように流暢に話すペニス―ツマンに、進ノ介は怒りを抑えきれない口調で言い返す。
「その人の言う通りです。私はその方から『ぺぺローション』を購入しただけです。わたし達は指一本触れられていません」
「そーだよー。その後に、ローション使ってお母さんとレズセックスしてたら、気持ち良すぎてそのまま寝ちゃったのー」
 突如、被害者達から援護の声が上がった。
 仮面ライダードライブの中の進ノ介はぽかんとした表情で立ち尽くしていた。
 霧子は咽かえるような精液の臭さに耐え切れず失神している。
「オホン……では、我々は誤解の末に君を攻撃してしまったということ、なのかね?」
「そうっすよ~。びっくりしましたよ、ホント」
 何とか取り繕いながらベルトさんが声をかけるも、動揺の色は隠せていない。
「なぁ、アンタ。じゃあ『ぺぺローション拡散事件』の首謀者ってのも誤解なのか?」
「あっ、それは本当っす。発注数間違えちゃたんで、うへへ~」
「どうやって『ぺぺローション』を拡散させたんだ?」
「皇室に忍び込み、天皇陛下に快楽を覚えさせて流行らせたっす」
「やっぱり性犯罪者じゃないかっ!」
「その通りだ、シンノスケ!」
 怒りを胸に、進ノ介はシフトトライドロンをブレスに装填させた。
「ファイヤー、オールエンジン!!」
 姿形はともあれ、ペニス―ツマンは強敵であると認めざるを得なかった。
 故に、仮面ライダードライブの最強形態でもって打ち砕くことを二人は決意した。
「ドライブ!! タイプ・トライドロン!!」
 トライドロンがアーマーへ変化しドライブに装着され、全てのシフトカーがシフトトライドロンへと結集していく。
 進ノ介とクリム・スタインベルトが本当の意味で一心同体となった“人機一体”の戦闘形態、仮面ライダードライブ タイプ・トライドロンが出現した。
「にゃんにゃかにゅん」
 不可思議な言葉を呟きながら、ペニス―ツマンもまたその姿を変貌させた。
 ペニス―ツマンの全身が金色の光に包まれていく。
 怒りのハイパーモードと呼ばれしその姿は、全ての能力が893倍に増幅される恐るべき形態である。しかし、代償として前立腺の感度が334倍になってまうという欠点も持つ、諸刃の剣ともいうべき姿であった。
「超進化態だと!通りで、恐るべき力を秘めている訳だ」
「ベルトさん、小細工は抜きだ。全力で、フルスロットルで飛ばしていくぞ!」
 何処からともなく飛来してきたトレーラー砲を掴み取り、ドライブがペニス―ツマンへとその砲身を向ける。
 上部のシフトランディングスロットにシフトスピードを、下部のシャッターゲートパネルにシフトトライドロンが装填された。
「ヒッサーツ!!フルスロットル!!」
「フルフル・スピード・ビッグ大砲!!!」
 シフトトライドロンに込められた全エネルギーを束ね、巨大な光弾となったトライドロンそのものが放たれた。
 仮面ライダードライブ最強の必殺技『トレーラービッグインパクト』がペニス―ツマンを襲撃する。
「喰らいなさい……『ハイメガザーメン砲』!!!」
 ペニス―ツマンの頭頂部より、瀑布の如く精液が放射された。
 通常の893倍に増幅された『ハイメガザーメン砲』が『トレーラービッグインパクト』と鬩ぎ合う。
「何という奴だ!まだ精巣に精液が残されていたとは!」
「言ってる場合かベルトさん!畳みかけるぞ」
 ドライブはシフトトライドロンのボタンを連続で押し、また幾度もレバーを動かした。
「カモン・カモン・カモン・カモン・カモン・カモン」
「タイヤ・タイヤ・タイヤ・カキマゼ―ル!!!」
 連続でカキマゼールを発動し、シフトカー全てのタイヤが融合した白いタイヤがドライブの元へ結集された。
「ヒッサーツ!!フルスロットル!!トライドロン!!!」
『トレーラービッグインパクト』の後押すように、必殺のキック『トライドロップ』が炸裂した。
 仮面ライダードライブが誇りし最大の技の重ね掛けとペニス―ツマンが射精した『ハイメガザーメン砲』が拮抗する。
 やがて、視界を埋め尽くす極彩色の爆発が起こり、進ノ介の意識が途絶えた。

 

 ☆☆☆

 

「泊さん!泊さん!しっかりしてください!」
 霧子の悲痛な声に進ノ介は意識を取り戻した。
 変身は解除され、制服姿で精液に塗れた地面に横たわっていた。
 傍らには精液でべたべたになった愛車トライドロンが見守っている。
「アイツは……あのロイミュードは倒せたのか……?」
 意識が朦朧となりながら、進ノ介が呟いた。
「わからない……膨大なエネルギーの衝突によって生じた空間の裂け目に、奴は吸い込まれていった。少なくともこの世界からは消失したと考えてもいいだろう」
「そうか……」
 ベルトさんの分析に、進ノ介が顔を俯かせる。
 警察官としての勝利は犯人を『逮捕』することにある。
 現行犯を取り逃がしたとあっては、警察官としての敗北を意味していた。
「あの男、最後にこう言い残していました。
『時には社会に迎合しても強く生きてほしい』……と
 一体、何が言いたいのでしょうか?」
 激励の言葉とも受け取れる捨て台詞に、霧子は困惑の表情を浮かべている。
 進ノ介もベルトさんも、その意味を理解することは叶わなかった。
「言わせておけばいいさ。今度この世界に現れたときには、絶対に俺が、仮面ライダードライブが逮捕する。そして自分の罪を認めさせてやる!」
 仮面ライダードライブ泊進ノ介が力強い言葉と共に決意した。

 ☆☆☆

 哲学する男性器ペニス―ツマン
 いくつもの世界を周り、その瞳は何を見る?