ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その6

「全身全霊本気の二次元まんこへの愛をぶつけてこい。ちんこでも構わん。幻想の彼岸を飛び越えて羽ばたけやオタク、忌まわしき劣情と共に!」

 

魔法つかいプリキュア』朝日奈みらいと十六夜リコ。
『死に戻り』の青年、ナツキ・スバルと『精霊使い』のハーフエルフ、エミリア。
「晴風」船員の少女達の治療を終えた四人が、ペニスーツマンと相対していた。
「畜生……全員やられちまったのか……」
 苦虫を噛み潰したような面持ちで、スバルが思わず呟いた。
「それでも無傷という訳ではなさそうだよ。それなりの深手は負っていると見てもいいね」
 呑気な調子を崩さずに精霊猫・パックが分析した。
「……まだ死んでいないなら、私が必ず治すわ……治療する時間を稼いでくれた借りがあるんだもの……そのためにも、あの『魔獣』を倒さないと……!」
 エミリアが銀鈴のような声で囁きながら、精霊の光を結集させていく。
「くっさい臭いがプンプンするモフぅ〜〜〜! 鼻が曲がりそうモフぅ〜〜〜!」
 喋るぬいぐるみ・モフルンが涙目で鼻を押さえながら甲板を転げ回る。
「恐ろしい力を感じるわ……あの『ドクロクシー』にも匹敵するかもしれない禍々しい魔力……みらい、最初から全力でいくわよ!」
 秘められし力に圧倒されながらも、リコが戦う覚悟を決めた。
「わたし達は負けない! あなたを倒して、リコとモフルンと一緒に元の世界に帰るんだからっ!」
 真っ向からペニスーツマンを見据えながら、みらいが宣言した。
『『キュアップ・ラパパ!』』
 みらいとリコが魔法の呪文を高らかに唱え始めた。
「「『ダイヤ』! ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!」」
 モフルンの胸元にリンクルストーン・ダイヤが装着され、みらい・リコ・モフルンの三人は手を繋ぎながら眩い光を纏っていく。
「二人の奇跡・キュアミラクル!」
「二人の魔法・キュアマジカル!」
「「魔法つかいプリキュアっ!」」
 伝説の魔法つかい『プリキュア』へと変身を遂げた二人が決めポーズと共に名乗りを上げた。
「姿が変わった!? それに、すごいマナ量……」
「コレは『魔導の加護』…… いや、それ以上の力だね。ヒトの身で大したものだよ」
 エミリアが目を白黒させて驚き、パックもまた二人が発する圧倒的なマナを感じ取り感嘆の声を漏らした。
「エミリアたん、それに魔法少女のお二人さん……俺が一瞬、ヤツの注意を引きつける。その隙を狙って攻撃をしてくれ」
 言葉の意図が理解できず困惑している少女達を他所に、スバルはすぅと息を吸い込み
「聞け! 俺は『死に戻……
 瞬間、スバルの主観で、さながら時が止まったかのように風景が静止する。
 音も光もない世界の中、霧状の『漆黒の腕』が眼前に生成され、指一本動かせないスバルの心臓を優しく撫でるように握っていく。
 嗚咽すら許されない空間で激痛を味わいながらも、スバルは内心目論見が成功したことにほくそ笑む。
『死に戻り』の能力を他人に暴露しようとした際に負うペナルティ。
 それにはとある副産物が存在する。
「チンカスぺろぺろぺろぺろ美味しいですって馬鹿かお前はピザでも食えや!」
 突如、ペニスーツマンが亀頭部をスバルへと差し向けた。
 ペナルティを受けた後に、スバルは『魔女の残り香』と呼ばれる臭いを身に付ける。
 スバルは『魔獣』を引き付けるという特性を持つこの臭いを利用し、ペニスーツマンの意識を引き付けたのである。
「させない!『エルヒューマ』ッ!」
 エミリアとパックが突き出した両手から、数多の氷柱の弾丸が放出された。
 ペニスーツマンは身をクネクネと捩りながらら、氷柱の雨を浴び続ける。
「「ハァァァッッッ!!!」」
 スバルが発した『闇の魔法つかい』の如き力に気を取られたものの、意識を切り替えたキュアミラクルキュアマジカルが一足飛びに距離を詰めた。
 圧倒的なパワーを誇る『プリキュア』の拳がペニスーツマンの身体へと叩き込まる。
「……プールで遊び散らして全ての体力を失った」
 瓦礫の山へと突っ込んだペニスーツマンが、憔悴した様子で立ち上がる。
 12人もの『異世界人』達との激闘は、確実にペニスーツマンを消耗させていた。
『チンポチンポセイヤセイヤ! チンポチンポセイヤセイヤ!』
 ペニスーツマンの股間から野太い漢の掛け声のような呪文?が轟いた。スラックスの社会の窓口から覗く逸物には、桃色に輝く『賢者の石』が埋め込まれていた。
「『エクスプロージョン』、ナーウ」
 指輪を股間にかざし、ペニスーツマンが魔法を撃ち放つ。
 ウィザードの世界で習得した『指輪の魔法』を用いてペニスーツマンが反撃に出た。
「気をつけろっ! アイツは『魔法』も使ってくるんだ!」
 スバルの警告に、エミリアと二人の『プリキュア』が静かに頷いた。
「任せてっ!『リンクル・ムーンストーン』!」
「パック! お願い!」
 キュアマジカルが月のリンクルストーンの銀魔法をもって満月型のバリアを出現させ
 パックが雪の結晶の如き障壁を展開した。
 ペニスーツマンの『指輪の魔法』は、二人の防護魔法により完全に防がれる。
「くらいなさいっ! やぁ!」
『精霊使い』の強みは、精霊と術者が攻撃と防御の役割分担を行えるという点にある。
 パックが障壁で攻撃を防いでいる中、エミリアは巨大な氷塊を生成し、ペニスーツマンへと撃ち放った。
「『テレポート』、ナーウ」
 迫り来る氷塊を前にペニスーツマンが瞬間移動の魔法を発動し、空中へと間逃れた。
「逃がさないっ!『リンクル・アメジスト』!」
 キュアミラクルが扉のリンクルストーンを用いた銀魔法を発動させた。
 空中のペニスーツマンは光の扉に捕らえられ、元いた場所に転送される。
 瞬間移動の魔法に同系統の魔法で返されたペニスーツマンは、困惑の中で巨大な氷塊に押し潰された。
「あなた、氷の魔法が使えるのね?」
「えぇ、そうだけど……?」
「なら、力を合わせましょう! 同時に行くわよ!」
 キュアマジカルの言葉に数瞬ぽかんとなっていたエミリアだが、その意図を察した後に力強く頷いた。
「『リンクル・アクアマリン』!」
「『アルヒューマ』!」
 氷のリンクルストーンを用いた銀魔法と氷系統における最上級の呪文がペニスーツマンに浴びせられた。
「……涼し過ぎて凍え死んでる」
 氷塊から何とか這い出た矢先に二つの氷結魔法を喰らい、ペニスーツマンはなす術もなく氷漬けにされていく。
「IN MY DREAM……臭いオタの魔羅……部屋中に一杯敷き詰めて……」
 辞世の句のような事を呟いた後に、ペニスーツマンは氷像と化した。
「や、やっつけたのかな?」
「まだ、油断はできねぇな。アイツはそれこそ不死身に近いしぶとさなんだ。それこそ、宇宙にでも放り込まない限り、安心はできねぇ……」
 スバルの言葉に、ミラクルとマジカルの二人が顔を合わす。
「わたし達はそういう『魔法』が使えるよ!」
「確かに、浄化しきれるかは自信はないけど、少なくとも宇宙まで追放すれば、危機はなくなるってことよね」
「いやっ!? マジでか!? 本気で言った訳じゃなかったんだけど……それじゃあ一丁、あの猥褻物陳列罪をお星様にしてやってくれ」
 ミラクルとマジカルの言葉に仰天しながらも、スバルが促す。
 二人がリンクルステッキを氷像ペニスーツマンへと差し向けた、その時
「肛門の感覚が完全にバカになってる。何も信じられない」
 突如、ペニスーツマンは氷を溶かし現れた。
 お腹を冷やしてしまったため肛門を気にかけている様子である。
 そして、その全身はぬらぬらとした液体でテカっていた。
「マナ破壊術式か!? 何てことだ……!」
 珍しく焦燥した様子でパックが呟いた。
 ペニスーツマンはウィザードの世界において、『魔法』への耐性を身に付けていた。
 ペニスーツマンは『カウパーバリア』を排出することにより、マジカルとエミリアの氷魔法を内部より打ち破ったのである。
「そんな……それじゃあ、どんな『魔法』も通用しないってこと……?」
 エミリアの漏らした言葉に、ミラクルとマジカルの二人が驚愕する。
 二人の切り札たる金魔法『ダイヤモンド・エターナル』が封じられたという事実に、思考と身体が硬直してしまう。
「スキを見せたな!『まんこ破壊光線』!」
 ペニスーツマンがワイシャツをはだけさせ、乳首より桃色光線を放射した。
 呆気に取られる二人の『プリキュア』に向け、まんこを破壊せしめる怪光線が迫り来る。
「させるかぁッ!!!」
 過去のループで得た経験から攻撃を予測していたスバルが、身を呈して光線を受けた。
「男にゃまんこは付いてねぇんだよ! ざまぁみやがれ馬鹿野郎!」
 下品な事を叫ぶスバルに少女達が複雑な視線を向けている最中、ペニスーツマンの身体が突如消失した。
「な、何だ……?」
「済まなかった」
 物陰より、『影鰐』を宿す男・番場宗介が現れた。
 その姿は、『影鰐』の細胞が広がった影響で、全身が漆黒に染まっていた。
「ある程度は制御できるようにはなったが……目前の者を無差別に食い尽くすという『影鰐』の習性までは変えられなかった。故に、大勢の人がいる状況下では使えなかったのだ」
 番場の足元から伸びる巨大な怪異の影が、ペニスーツマンを丸呑みにし、ガジュリガジュリと咀嚼する。
「い、いや……まさかアンタがこんな切り札を隠し持ってたなんてな……マジでヒビった……こんなにアッサリと喰っちまうなんて……」
 異様な光景に恐怖しながらも、スバルは何とか言葉を紡ぐ。
「『影を喰らう』という特性上、『影鰐』に物理的な頑強さは関係ない。それにしても、慎重を期していたつもりだったが、それまで多くの犠牲者をゴガハァッッッ!?」
 突如、番場が苦悶しながら精液が混じった内容物を嘔吐した。
 足元の『影鰐』も同様に、吐き気を催した様に痙攣した後、ペニスーツマンをペッと吐き出した。
「『スペルマ流星群』」
 ペニスーツマンが静謐な声音で呟いた。
 ペニスーツマンは『影鰐』の腹の中を大量の精液で溢れさせることで、身体を逆流しながら帰還したのである。
「馬鹿……な……」
「世界中のオタクの性欲が暴走して取り返しのつかないことになれや。ヒトモドキで溢れ返れ地球」
 崩れ落ちる番場へ向け、ペニスーツマンが勝ち誇るように宣言する。
 ペニスーツマンと『異世界人』達の激闘は、最終局面を迎える。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その5

スタンド使い東方仗助広瀬康一
『ヒーロー』緑谷出久と麗日お茶子。
「晴風」搭乗員の少女達の治療と避難誘導を終え、一足遅れて駆けつけた一同は呆気に取られた様子でペニスーツマンとの戦場となった甲板を眺めていた。
「野郎ォ……やってくれたじゃあねぇか……!」
 仗助が怒りに声を震わせながら呟く。
 眼前には、ペニスーツマンとの激戦の跡が色濃く残されていた。
 既に、8人もの「異世界人」達がペニスーツマンに敗れ去っているという事実に仗助は歯噛みする。
「東方君、落ち着いて! ……僕に作戦がある。そのために、君の協力が必要なんだ! 麗日さんも、広瀬君も、どうか聞いてほしい」
 真摯な表情で言う出久に、全員が頷き応じた。
 ペニスーツマンへの警戒をしながら、一同は出久の立案した『作戦』に耳を傾ける。
「しょ、正気なのかい? そんな事をしたら、君は……」
「ダメだよっ! そんなん絶対に危険やもん!」
 出久の考案した常軌を逸脱した『作戦』に、康一とお茶子が顔を青くして反論する。
 出久は首を振りながら
「確かにリスクはあるし、僕自身もすごく、その、痛い思いをするかもしれないけど……これくらい徹底してようやく勝機が出来るんだと思う。やられた8人の中には、プロの『ヒーロー』に匹敵するような実力者に見える人もいた。そんな人達があっさりと、あの『敵(ヴィラン)』に倒されたんだ。ここは石橋を叩いてでも、慎重に確実に行くべきだよ」
 出久が淡々とした口調で二人を説き伏せる中、仗助が険しい顔で彼を見据える。
「『本気』なんだな……?」
「本気……だよ」
 出久と仗助の視線が交差した。
 出久の瞳の中に宿る『ヒーロー』としての資質。
 仗助の世界でいうところの『黄金の精神』を見出したリーゼント頭の不良は、優しげな表情で微笑んだ。
「いいぜ。ブッとんでるアイデアだがよぉ、オメーの『作戦』に乗ってやる! 小学生が休み時間にフザけて描いた落書きみてーなバケモンを、いっちょ捻り潰してやろぉじゃあねぇか!」
 仗助の宣言に一同は頷き、ペニスーツマンと戦う『覚悟』を決めた。

☆☆☆

「明日も仕事仕事仕事仕事仕事仕事ゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミ就活就活就活就活就活就活仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事ゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミ就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活……」

 ブツブツと怨嗟めいた言葉を吐き出しながら、ペニスーツマンが「晴風」の甲板をフラフラと歩いていた。
「よぉ、随分と元気なさそぉじゃあないッスかぁ?」
 仗助が不敵な態度でペニスーツマンへと語りかける。
長時間労働を美徳と信じる哀れなSEが全員死ぬこと、それだけです」
「テメーの事情はどうでもいい……これ以上暴れまわるってんなら、俺の『クレイジー・ダイヤモンド』でテメーの『ちんちん』をひん曲げてやるからよぉ! 頭に付いてんのと股間にぶら下がってるの、両方ともなぁ!!!」
 全身にハートマークがあしらわれた人型のスタンド像を出現させながら、仗助は雄々しく宣言した。
「ギアを1つ上げていくぞッ!『ハイメガザーメン砲』!」
 ペニスーツマンの頭頂部より、瀑布の如き精液が仗助達へ向け放射された。
「『DELAWARE……SMASH』!」
 出久の指先から放たれた衝撃波が、ペニスーツマンの十八番を真っ向から打ち破る。
 平和の象徴・オールマイトより受け継ぎし『個性』、『ワン・フォー・オール』を込めた一撃が精液の奔流を八方へ飛散させた。
「畳み掛けろ!『エコーズ』ッ!!!」
 衝撃波のあおりを受け、仰け反っていたペニスーツマンに康一の『エコーズACT2(アクトツー)』が襲撃する。
「……畳で横になってよだれ垂らして死んでる」
『ドジュウウ』という尻尾文字を叩きつけられたペニスーツマンは、その身を焦がされながら曖昧な言葉を呟いていた。
 隙を見出した3人は駆け出し、一直線にペニスーツマンの元へと距離を詰める。
「頼むよ、東方君」
「あぁ……任せときな」
 覚悟を決めた面持ちで出久が強く拳を握り締める。
『クレイジー・ダイヤモンド』を携えた仗助が見守る中、出久はペニスーツマンの前へと力強く踏み込んだ。
「『DETROIT SMASH』ッ!」
『ワン・フォー・オール』の100%の出力で放たれた一撃がバグォン!と大気を震わせた。その威力に耐え切れず、出久の右腕は鈍い音を上げながらへし折れる。
「『タートル……ヘッドバット』!」
「もう一度……『SMASH』!」
 ペニスーツマンがギンギンに勃起した亀頭部を叩きつけ、出久は左腕に『ワン・フォー・オール』を込め迎撃する。
 ペニスーツマンは吹き飛び、甲板の縁に叩きつけられるが、ゆったりとした動作で平然と立ち上がった。
「今日は性欲に支配される一日にな『SMASH!』
 ペニスーツマンの言葉を遮るように、出久の『DETROIT SMASH』が三度炸裂した。
 両腕共に負傷した状態で『ワン・フォー・オール』の100%を放てた理由。
 それは……
「オメーの腕は俺の『クレイジー・ダイヤモンド』が『治す』ッ!

 遠慮なくブチかましていけッ!」
 出久が考えた『作戦』とは、自らの腕の負傷を『クレイジー・ダイヤモンド』で治療させながら、全力の『ワン・フォー・オール』を撃ち続けるという捨て身の戦法であった。
「『SMASH』ッ!『SMASH』ッ!『SMASH』ッ!『SMASH』ッ!『SMASH』ッ!『SMASH』ッ!」
「……会社が全部悪い……労働が……日本社会がに憎い……」
 なす術もなくボコボコに殴られながら、ペニスーツマンは怨嗟めいた言葉を呟いていた。
 一撃一撃に甲板が捲れ上がる程の威力を誇る『DETROIT SMASH』を、出久は歯を食いしばりながらペニスーツマンへと叩き込み続ける。
 折れた腕は瞬時に『クレイジー・ダイヤモンド』の能力によって治癒されるものの、殴る度に味わう骨折の激痛は出久の精神を消耗させていく。
(思った通り、こいつはUSJで遭遇した怪人『脳無』に近い『個性』を持っているんだ。あの怪物のように、生半可な攻撃は全て吸収されてしまう。だけど、オールマイトは……)
 かつてUSJを襲撃した敵(ヴィラン)連合がオールマイト対策として用意した怪人『脳無』。
 その怪物は『衝撃吸収』や『超速再生』など複数の『個性』を用いて、平和の象徴たるオールマイトを大いに苦しめた。
「オールマイトは言った!『ヒーローは常にピンチをぶち壊していくもの』だってっ!」
 脂汗を滲ませ、涙目になりながらも、出久は100%の『ワン・フォー・オール』を放ち続ける。
 オールマイトの100%を想定して設計された『脳無』は、彼自身が100%以上の力を発揮したことで打ち破られた。
 オールマイトより受け継ぎし思想・『Plus Ultra (更に向こうへ)』。
 憧れの『ヒーロー』を目指さんとする強靭なる精神が出久の心を支えていた。
「『DETROIT 』ォォォ……『SMASH』ゥゥッッッ!!!」
 最後に放った一撃は、『晴風』の船体そのものを傾かせる程の衝撃を生み出した。
 その成果を見届ける前に、出久の精神は事切れ膝から崩れ落ちる。
 陥没した甲板の底には、血塗れとなったペニスーツマンが仰向けに倒れていた。
「……ここでさかこ選手……日本社会にギブアップ……」
 何やら諦めの言葉を吐いているペニスーツマンの元へ、仗助が歩み寄った。
「呆れる程に『タフ』な野郎だな、テメーはよぉ…… だがな、ぶっ壊れないってんなら、それはそれで俺には考えがあるぜぇ?」
『クレイジー・ダイヤモンド』の拳を握り締めながら、仗助は不敵に言い放つ。
「『船員』の女の子達の目の毒かもしれないケドよぉ、テメーは悪趣味な『オブジェ』に仕立てあげてやっからなぁ!」
 仗助の宣言と共に、『クレイジー・ダイヤモンド』の無骨な拳が虫の息のペニスーツマンにブチかまされた。
「ドララララララララララララララララララララララララララララララアア!!!」
 暴風雨の如き拳のラッシュがペニスーツマンの全身に打ち込まれた。
 同時に、ペニスーツマンの身体は甲板の木板・鉄板・リノニウム等と融合していく。
 かつて殺人鬼・片桐安十郎を『アンジェロ岩』へ変貌させたときのように『治す』能力を応用することで、仗助はペニスーツマンを甲板の材質と同化させ『オブジェ』へ造り変えていた。
「まんこはまんこだしちんこはちんこなんだぞ!!! まんこはさあ、ちんこはさあぁああああああ!!!」
 錯乱したように叫びながら、ペニスーツマンは全身を震わせ融合していく甲板材を吹き飛ばそうと試みる。
 その動きは、さながら小便の後に残った残尿を飛ばすためにちんこを振るような動作であった。
「テメーのその『タフさ』はよぉ、正直『敬意』を払わざるを得ないぜ……」
 飛んでくる甲板材をスタンドの拳で防ぎながら、仗助は呆れた様子で呟いた。
「だがな、これで終いだ」
 瞬間、奇妙な事にペニスーツマンの身体がふわふわと宙に浮き出した。
 困惑した様子で手足をばたつかせるペニスーツマンだが、重力から解き放たれたかのようにその身体は上へ上へと浮いていく。
「さ……『触った』……!」
 瓦礫の影に潜んでいたお茶子が脱力した表情で呟いた。
 出久の立案した『作戦』において、彼女は最後の『切り札』となる役目を担っていた。
「もし僕の『個性』や東方君達の『スタンド』?でも倒し切れなかったら……そのときは麗日さんが『切り札』になって欲しいんだ」
『作戦』を立案していた最中、出久は真摯な表情でお茶子に語りかけた。
 麗日お茶子の『個性』・『無重力(ゼログラビティ)』。
 指先の肉球で触れた人や物体の引力を無効化する力である。
 一見ゆるふわにも見える彼女の『個性』を、出久は対ペニスーツマンの『切り札』とした。
「『引力』がないってことはよぉ〜、長い目で考えれば、宇宙の彼方まで追放されるってことだからなぁ!」
 仗助の言葉に今更慌てだしたペニスーツマンが、空中より亀頭部をお茶子へ差し向ける。
「もう遅いぜ、ドラァッ!」
『クレイジー・ダイヤモンド』が周囲の瓦礫を殴りつけた。それらはペニスーツマンが撒き散らした甲板材の一部であった。
「俺の『自動追尾弾』だぜ! 喰らいやがれッ!」
『治す』能力が発動し、瓦礫はペニスーツマンの身体に埋め込まれた甲板材に引き寄せられ飛んで行く。
「そして僕の『エコーズ』が『文字』を刻むッ!」
 タイミングを見計らっていた康一が『エコーズACT2』の『文字』を『自動追尾弾』に貼り付けた。
 瓦礫には『ドッグォンン』という『文字』がデカデカと刻み込まれていた。
「吹き飛ばせ『エコーズ』ッ!!!」
「尻がプリップリになる高校に通いたかった……」
 空中で遺言のような事を囁いているペニスーツマンの元へと『文字』が貼り付けられた『自動追尾弾』が迫り来る。
 やがて直撃した瓦礫は『エコーズ』の能力により『ドッグォンン』という擬音の力を顕現させ、ペニスーツマンを大気圏の外まで吹き飛ば……せなかった。
「なにがまんこだよ。ちんこをしごき倒せるからって調子乗ってんのとちゃいますか?」
 甲板に足をつけたペニスーツマンが乱れたネクタイを締め直しながら、何やらイチャモンめいた事をまくし立てていた。
 仗助・康一・お茶子の三人は唖然とした表情でペニスーツマンを見つめてた。
 十全に練った『作戦』は全てを功を成した。
 しかしながら、最後の最後でペニスーツマンは彼等の攻撃を無力化したのである。
「テメー……何を……しやがった?」
「『カウパーバリア』」
 仗助の問いにペニスーツマンが端的に答える。
 かつて仮面ライダーウィザードの『指輪の魔法』に耐性を身につけたときのように、ペニスーツマンは『個性』と『スタンド』を防ぐカウパー液を排出したのである。
 結果、お茶子の『無重力(ゼログラビティ)』と康一の『エコーズ』を無力化し、ペニスーツマンは五体満足で再び「晴風」へと降り立った。
「全てのまんこを破壊してほしい……

 それはただ一つの純粋で無垢な祈りの結晶……

 浅ましくも美しき切なる願い……『まんこ破壊光線』!」
「へ、あっ……アアアァァァァッッッ!?」
 謎の口上と共にペニスーツマンの乳首から桃色の光線が放射される。
 まんこを破壊せしめる怪光線の直撃を受け、お茶子は叫び声を上げながら倒れ伏した。
「『クレイジー・ダイヤモンド』ォォォッッッ!!!」
「『エコーズ』ゥゥゥゥッッッ!!!」
 仗助と康一、仲間を害され激昂した二人の『スタンド使い』が各々のスタンドを繰り出した。
 ペニスーツマンは迎え討つように、自らのスラックスを足元まで下ろし
―――チンポチンポセイヤセイヤ(体はちんこで出来ている)……
    精巣捻転・精索旋転・睾丸回転……

『我が精巣は捻れ狂う(テスティキュラー・トライズン)』ッッッ!!!」
 ペニスーツマンが己のキンタマを高速回転させながら、禍々しき言霊を紡いだ。
 瞬間、ビキィッ!と仗助と康一の股間に神経が捻れるような激痛か迸る。
「フ……ザけんなァ……ァァ!」
「グッ……アァァァァッッッ!?」
 腹部と精巣を繋ぐ精索を捻れさせ、精巣捻転症(せいそうねんてんしょう)を引き起こす呪詛『我が精巣は捻れ狂う(テスティキュラー・トライズン)』。
 仗助は忌々しくペニスーツマンを睨みつけながらも膝をつき、康一は激痛から甲板を転げまわっていた。
「『ハイメガザーメン砲・スパイラルエフェクト』!」 
 ペニスーツマンが身を捻り、回転力を加えた『ハイメガザーメン砲』を射精した。
 回転により貫通力を増加させた精液の奔流は仗助の巨体を呑み込み、甲板に倒れていた康一をも巻き込みながら、二人の『スタンド使い』を蹂躙し、その意識を闇に葬った。
「圧倒的な恐怖と嫌悪感と暴力を与えることで性行為ができるんだぞ……凄いだろ……レイプは……」
 自らの力に酔いしれるような言葉を漏らしながら、ペニスーツマンは精液塗れとなった甲板をフラフラと歩いていった。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その4

鬼斬』の姫君・静御前義経
双星の陰陽師』焔魔堂ろくろと化野紅緒。
 怪異の討伐者達とペニスーツマンが「晴風」の甲板の上で向かい合っていた。
「おちんちんをいじりまくってしまったのか????おちんちんを???いじりまくって???しまったのか????????」
「い、いじってねーよっ!」
 開幕早々に煽られたろくろが犬歯を剥き出しに吠える。
 傍らの相方を呆れた眼差しで見下しながら、紅緒が四種の霊符を取り出した。
「豪腕符・金剛符・韋駄天符・星動読符……陰陽呪装……」
 紅緒は狐面を被りながら
「砕岩獅子急急如律令……鎧包業羅急急如律令……飛天駿脚急急如律令……来災先観急急如律令……」
 静謐な声で詠唱し、攻撃力・防御力・敏捷力・先読みの強化という四つの呪装をその身に宿していく。
「祓い給え! 清め給え! 急急如律令っ!!!」
 ろくろもまた黒い霊符『星装顕符』を用いて、ケガレ堕ちした異形の右腕を解放した。
「バフかけまくりですねー。MMORPG発端のアニメとしては、負けていられませんっ!」
「負けずにこちらもやるとしよう!」
 呑気に言いながら、静御前義経が各々の武器を天に掲げ
「『弓気錬成(きゅうきれんせい)』!」
「『斬気錬成(ざんきれんせい)』!」
 二人の身体に光が満ちていき、各々の武器の威力が上昇していく。
「援護を……して!」
「いざ参るっ!」
 近接戦闘を得意とする紅緒と義経が一直線にペニスーツマンの元へと駆け出した。
「み恵みを受けても背く敵(あだなえ)は……篭弓羽々矢(かごゆみははや)もてぞ射落とすっ!」
「おぉ! かっこいい呪文ですっ!」
 隣ではしゃぐ静御前を無視しながら、ろくろは右手に握り締めていた石礫をばら撒いた。
「『ザーメンとりもち』っ!」
「『烈空魔弾』! 急急如律令っ!!!」
 ペニスーツマンが射精した粘着性の精液の塊を、呪力(しゅりょく)が込められた石礫が薙ぎ払う。
「ではわたしも援護を……『呪怨矢』っ!」
 状態異常を引き起こす呪いの矢が、ペニスーツマンに突き刺さった。
 移動速度低下により動作が鈍ったペニスーツマンへと、紅緒と義経が迫り来る
「合わせろ……合わせなさいっ!」
「ぬぅ、偉そうに」
 文句を言いながらも義経は大太刀を構え、紅緒と共にペニスーツマンへと突貫する。
「……『十六夜彼岸の舞』」
「何のぉ、『包茎ガード』!」
 目視できぬ程のスピードで、二振りの霊剣と大太刀による剣舞がペニスーツマンを襲撃する。四種の呪装を施した紅緒のスピードに、義経は『神喰い』との戦いの中で培った経験則をもって後追いしていく。
 ペニスーツマンは亀頭部の皮を引っ張り上げ防壁とすることで、剣戟を防ごうとする。
「しゅきしゅきだいしゅき~」
 皮一枚の守りはさほど意味を成さなかった。
 剣戟の嵐に身を切り刻まれながら、ペニスーツマンが曖昧な声をあげる。
「とどめだっ!」
 義経の声に合わせるように、紅緒が天高く跳躍した。
「……『鏡花落月断』っ!」
「『聖光煌閻斬』!!!」
 紅緒が二振りの霊剣を束ねて振り下ろし、極大の斬撃を上空から繰り出し
 義経が聖なる輝きを纏った一閃を、横一文字り斬り払う。
 陰陽師鬼斬の姫君、二つの『奥義』がペニスーツマンを十文字に引き裂いた。
「晴風」の装甲を捲りあげ、ペニスーツマンが錐揉み回転しながら吹き飛んでいく。
「よっしゃあ!」
「3分の尺に収まるくらいアッサリと倒せましたねぇ」
 横たわるペニスーツマンを見下ろしながら、ろくろと静御前が安堵した直後のことであった。
「今日もさかこ頑張ってくぞオイ!」
 突如、ペニスーツマンが飛び上がり、高らかに宣言した。
「まだ祓えて……ない!?」
「馬鹿な!? あれ程の攻撃を受けて?」
「オイオイオイ!!さかこさかこさかこ!!うんこぶりぶりぶりぶり!!レイプ!」
 狂ったような言葉を垂れ流すペニスーツマンに圧倒され、二人はただ呆気に取られて見ていた。
 その瞬間であった。
 ペニスーツマンがワイシャツを肌蹴させ、自らの乳首を露出させた。
「『まんこ破壊光線』!!!!」
 突如、ペニスーツマンの乳首から二条の桃色光線が放射された。
「あ、ぐ、アァァァァッッッ!?」
「何が起き、ガァァァァァァッッッ!?」
 桃色光線を受けた紅緒と義経が下半身を抑えながら崩れ落ちた。その表情はこれまでに経験したことのない苦痛を受けたかのように歪んでいた。
 女性器を直接破壊せしめる閃光『まんこ破壊光線』。恐るべき技である。
「紅緒ぉ! 何だ、何が起きてやがる!?」
「よくも義経ちゃんを! 喰らえ『天矢ノ誅罰』ッ!!!」
 混乱するろくろを余所に、仲間を傷つけられ激昂した静御前が弓スキルの奥義を撃ち放った。
 眩い聖光を纏った浄化の矢が直撃するも、ペニスーツマンは構わずに乳首を輝かせた。
「『まんこ破壊光線』」
「あぅ、あ、ギァァァァァァァッッッ!?」
 無情にも炸裂した桃色光線が静御前のまんこを破壊する。
 激痛に顔を引きつらせながら、静御前もまた甲板に膝をつく。
「テメェ……いい加減にしろォッッッ!!!」
 異形の右腕の拳を固く握り締め、ろくろがペニスーツマンの元へと飛び出した。
『星装顕符 』により現出した『ケガレ』の拳が、ペニスーツマンへと叩き込まれる。
「超天変ちんちん見な  強壮にも射精」
「こ、この野郎ォ!!!」
 ペニスーツマンはギンギン勃起させた己の亀頭部をもって、ろくろの拳を真正面から受け止めていた。
「『射精覚醒ドライセン』ッ!」
 ペニスーツマンは徐にスラックスのジッパーを下ろし、露出したちんこから白濁の奔流を放射した。
 精液の濁流を浴びたろくろは、その圧倒的な臭さに意識を闇に葬られた。
「……これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮」
 勝利の余韻に浸るように、ペニスーツマンが囁いた。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その3

「坂上逆孤(さかのうえさかこ)と申します。またの名を、哲学する男性器『ペニスーツマン』……」
「晴風」の甲板に立つスーツ姿の男・坂上が、適当な調子で『異世界人』達へと名乗りをあげた。
 一見、平凡な風貌の男に見えるが、その瞳からは隠し切れない『虚無』が滲み出ていた。

RATtウィルス感染者』
『神喰い』
『ナナキ』
『ケガレ』
『敵(ヴィラン)』
『吐き気を催す邪悪』
『カバネ』
『テラフォーマー』
『魔獣』
『闇の魔法つかい』
『奇獣』

 その圧倒的な禍々しさは、『異世界人』達が対峙してきた様々な存在を彷彿させた。
 しかしながら、危険性という一点において、彼らの意思は統一されていた。
「……やばい……何人くらい、アイツを目撃した?」
「えっ? あの……」
 スバルが呆然とした表情で呟いた。
「他にこの艦を動かしている娘がいるだろっ!? アイツを目撃した可能性がある奴は何人いるかって聞いているんだ!」
 凄まじい剣幕で詰め寄られた明乃が狼狽しながら
「わたしも離れていたから何ともいえないけど……艦橋のみんなは、位置的に間違いなく目撃したと思います……」
「くそっ!」
 明乃の答えにスバルは焦燥した様子で拳を握りしめた。
「スバル君、説明をしてくれ。あのスーツの男が君の言う『奇獣』の元締めなのか? あの男を目視することで何が……」
「どぅぁしゅぃみゅぁしゅぅちゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
 番場の言葉を坂上の奇声が遮った。
 相対する「異世界人」達の緊張感が高まる中、坂上は徐にスラックスのジッパーを下ろし、己の逸物をぼろんと出した。
「変身」
 一声と共に、坂上の逸物が神々しい光を放った。
 やがて白濁とした閃光に包まれながら、その姿が異形へ変貌していく。
 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
「ペニス―ツマン、爆現」
 突如、出現した珍妙な姿の異形に一同は言葉を失っていた。
「何だ……あの姿は……一体、どんな生物をベースにしてやがる?」
「どうみても、人間の雄の生殖器だろう」
 燈の漏らした言葉に、ミッシェルがうんざりとした様子で応じた。
「ふざけた外見に惑わされるな! あの姿になっているってことは、多分、アイツの能力は発動している!」
「冷静になれっ! 奴の異能を知っているのなら、全員に共有させるんだ!」
 生駒の指摘に頭を冷やしたスバルが重々しく口を開く。
「アイツの姿を目撃した人間は……何ていうか、『自殺衝動』に苛まれるんだ……本人が『虚無の哲学』とか呼んでいた能力だ……知ってれば気を強く持つことで抵抗できる力だけど、何も知らない艦の女の子達には対応する手段がねぇ!」
 スバルの解説に、その場にいる全員が息を呑んだ。
 中でも、明乃の顔色は真っ青に染まっていた。苦難を共に乗り越えてきた仲間達が揃って自殺してしまうという最悪な未来が彼女の脳裏をよぎる。
「しかも『虚無』は人から人に伝染する! 一人でも染まったとしたら、今頃はどんどん増殖しているかもしれねぇ!」
「マナ汚染のようなものかな? 魔法というよりは呪術寄りの力だね」
「そんな……私なら治癒魔法で助けられるかもしれない……すぐに行かないと!」
 呑気なペースを崩さない精霊猫パックとは対照的に、エミリアは焦燥感に駆られた様子であった。
「膣は凶器。セックスは殺人術。どんな綺麗事やお題目を口にしてもそれが真実」
「船員を助けるにせよ、誰かがアレを足止めしなければならないだろう」
 訳のわからない言葉を呟くペニスーツマンに目を向けながら、番場は言う。
「俺が行く」
 端的に宣言した生駒へと、全員の視線が注がれる。
「俺は医学には疎いし、異能をどうこうするような力はない……奴と戦う役目は俺が担うべきだ。俺は『カバネリ』だから、多少の負傷で死ぬことはないからな」
「わたしも行くよ、生駒。足止めとか言うけど、あのおちんちんの怪物、わたし達でやっつけちゃってもいいんでしょ?」
 微笑みながら語る無名に「その台詞は不吉だからやめておけ」と出そうになった言葉をスバルは何とか呑み込んだ。
「生憎、私も殴る蹴るしか能がないのでな。あの存在自体がセクハラな物体を叩くのに参戦させてもらおう」
「俺も残る。魔法や超能力やらで、船員の女の子達を治療できる奴は行ってくれ。ここは人命を優先させよう」
 燈とミッシェル、二人の戦士が注射器型の『薬』を取り出しながらペニスーツマンと戦う意思を表明する。
「『自殺衝動』なんてモンにはお手上げだけどよぉ、『怪我』なら『クレイジーダイアモンド』で治せるはずだぜぇ」
「『ピンクトルマリン』の癒しの力なら、何とかできるかもしれないわ!」
「『ケガレ祓い』の領域なら……陰陽術で対処できる……はず」
スタンド使い』・『プリキュア』・『陰陽師』。
 様々な異能を持つ者達が各々の領分で出来ることを確認していく。
「うぬぬ……回復スキル持ちはあまてらすしかいないのだが……」
「私たちはえーと……回復アイテムを持っていってあげましょう! 何しろアニメ本編で一度も使っていなかったもので、十分に余っていますからっ!」
鬼斬』の姫君、静御前義経が何処からか大量の寿司(回復アイテム)を取り出し、わたわたと駆けていく。
「僕達も行こう、真咲さん! 何か手伝えることがあるはずだよ」
「それなら僕達を手伝ってほしい! 雄英高校で習った災害救助マニュアルを活用すれば、きっと多くの人を救えるはずだからっ!」
『ヒーロー』として導くような出久の言葉に、光宗と真咲が力強く頷いた。
「皆さん……ありがとうございますっ! 船内を案内しますので、どうか力を貸してください!」
 明乃に先導されながら、『異世界人』達は甲板を離れていく。
「お前は戦士じゃないだろ? 戦うのは俺達に任せて、お前が持つ『予知』能力とやらで、皆を導いてくれ」
 行くべきか否か判断がつかず足踏みしていたスバルへと、燈が言い放つ。
「すまねぇ! 船員の女の子達を助けたら、必ず戻ってくる! 死ぬんじゃねぇぞ!」
 そう言い残し、スバルはエミリアと共に船内へと駆けていった。
 残された生駒・無名・燈・ミッシェルの4人がペニス―ツマンと対峙する。
「うぬぼれるなよ 邪悪なまんこ 最後のちんぽが枯れるまで
 ここからちんぽも さがらない」
 不気味な台詞を呟くペニス―ツマンへと4人が各々の武器を差し向ける。
「黙れよセクハラ野郎……粗末なモンおっ勃てやがって……直ぐに捻りつぶしてやるから覚悟しろ!」
 ミッシェルが放った宣戦布告の言葉が、ペニス―ツマンとの激闘の幕開けとなった。
『M.O.手術適応者』と『カバネリ』。
 人外の力を秘めし戦士達がペニス―ツマンへと対決する。

☆☆☆

『『人為変態』』
 燈とミッシェルがそう宣言しながら、注射器型の『薬』を首筋に突き刺し、『変態』を遂げる。
 頭部より触覚が生成され、体表は強化アミロースの甲皮に覆われていく。
 M.O.手術により得た地球生物の力。
『大蓑蛾(オオミノガ)』と『蟻』の能力を二人は解放する。
「これが、遥か未来の技術か……『カバネリ』とは違う、人の手で造り出された異形……どんな力を持っているのか……」
 生駒が変異していく二人の姿を見ながら、思わず呟いた。
 ロクに言葉を交わしていない二人とどのように連携をとるべきか考察していると
「先に行くよ」
 首元の枷紐を外し、『カバネリ』の身体能力を解放した無名が躊躇なく突貫していた。
「馬鹿っ! 先走るなっ!」
 生駒の警告を無視し、無名は二丁の蒸気銃を構えながら、ペニス―ツマンの元へと駆けていく。
「愛は時を越え、お前は祖国に帰れ……『おしっこレーザーカッター』ッ!」
 ペニス―ツマンの亀頭部より、ウォーターカッターの如き勢いで小便が放射された。
「おしっこ飛ばさないでよ。えんがちょー」
 言いながら、無名は軽々と跳躍しながら『おしっこレーザーカッター』を避け、蒸気銃の引き金に指をかける。
 数々の『カバネ』との戦闘で鍛え抜かれた腕前をもって、無名がペニス―ツマンを狙い撃つ。
 バシュン!バシュン!という轟音と共に、ペニス―ツマンの胸元へ噴流弾が叩き込まれた。
 ペニス―ツマンはクネクネと身を捩るだけで、怪我を負った様子はない
「頑丈だな、もうっ!」
 蒸気銃を撃ち続けながら、無名が凄まじい速度で距離を詰める。
「これでも、喰らえ!」
 無名が蒸気銃の先端に備え付けられた刃を、ペニス―ツマンの胸元へと勢いよく突き立てる。
『カバネ』の心臓皮膜でコーティングされた紅い刃が、ペニス―ツマンの心臓を容赦なく貫いた
 ……かのように見えた。
「全身がキャプテンアースになってきた」
「なっ!?」
 刃はジャケットに阻まれ、ペニス―ツマンは傷一つ負っていなかった。
 動揺する無名に向け、ペニス―ツマンがその亀頭部を向けると
「足を止めるな、無名っ!」
 生駒が背後より足払いをかけ、ペニス―ツマンを転倒させた。
 甲板に横たわるペニス―ツマンへと、生駒は右腕の『ツラヌキ筒』を振り下ろす。
「ハァァァッッッッッ!!!!」
 生駒の咆哮と共に、ガシュン!という爆音が轟いた。
 一撃必殺の威力を誇る『ツラヌキ筒』の鉄杭が、ペニス―ツマンの身体を頑強な甲板にめり込ませる。
「……駄目だっ! 無名、一旦引くぞっ!」
「えっ? なんで?」
 呆気にとられる無名の手を引き、生駒はペニス―ツマンから距離を取る。
 やがて、ペニス―ツマンはゆったりとした動作で何事もなかったかのように立ち上がる。
「……うそ。アイツは『カバネ』よりも頑丈だっていうの……」
「……俺達は援護に回るしかない。悔しいが、俺達の武器では奴に歯が立たないようだ……」
『噴流弾』に『ツラヌキ筒』。
 数多の『カバネ』を屠ってきた武器が通用しないという事実に歯噛みしながらも、生駒は現状を冷静に分析していた。
「どうやら、そちらのスチームパンク的な武器は通じないようだな」
「なら、俺達のSFチックな武器に任せな」
 ミッシェルと燈。
 共にマーズ・ランキングの上位ランカーである二人には『専用武器』が支給されていた。
 対テラフォーマー用起爆式単純加速装置『ミカエルズ・ハンマー』
 対テラフォーマー振動式忍者刀『膝丸』
『己の技術』か『己の特性』を最大限に活かすという点に特化した最新鋭の武器を構えながら、ミッシェルと燈がペニス―ツマンと対峙する。
「夏だ!まんこだ!全員死亡!!」
「そーいうのをセクハラっつってな……」
 陽気な声をあげるペニス―ツマンへと、ミッシェルは鋭い眼光で睨み付ける。
「地球では嫌がってる女子に勃起したペニスを見せつけると
 訴訟・罰金・減給・免職、もしくは……」
 瞬間、ミッシェルの右肘に装備された『ミカエルズ・ハンマー』が火を噴いた。
「こうなる!」
 爆発より生じた超加速の力を乗せ、ミッシェルがペニス―ツマンの亀頭部へと拳を叩き込む。
『弾丸蟻(パラポネラ)』×『対テラフォーマー用起爆式単純加速装置≪ミカエルズ・ハンマー≫』
 重量級の『テラフォーマー』でさえも上半身ごと爆砕できる程の一撃が、ドグォン!と大気を震わせた。
「『タートル……ヘッドバット』ッ!」
「ガァッ!?」
 大きく後方へ仰け反ったペニス―ツマンが振り子のように身を起こし、ガチガチに勃起した亀頭部をミッシェルの顔面へと叩き付けた。
 皮肉にも自らが得意とする頭突き(ヘッドバット)を喰らったミッシェルが人形の如く吹き飛んでいく。
「何、やってんだ、テメェッッッ!!!」
 ヒュンヒュンと柄に『糸』が張り付いた忍者刀『膝丸』がペニス―ツマンの周囲を飛び回る。
 やがて、ペニス―ツマンは『大蓑蛾(オオミノガ)』の能力によって生み出された生物界で最も強靭な『糸』に雁字搦めに拘束されていく。
「ミッシェルさんの顔に汚ねぇモンぶつけやがって……覚悟は出来てるんだろうな?」
「……全てを諦めて股間いじりまくってもんどり打って無限に寝てたい」
 何やら諦めの言葉を呟くペニス―ツマンと向かい合い、燈は油断なく忍者刀『膝丸』を構える。
(……燈とかいう奴、手練れだ。剣客としての腕は来栖やあの美馬にも匹敵するかもしれない……)
 体捌きや構えから燈の実力を推し量った生駒が息を呑み経過を見守る中、空気が弾けた。
『大蓑蛾(オオミノガ)』×『対テラフォーマー振動式忍者刀≪膝丸≫』
 日本古武術『膝丸神眼流』の術理をもって、燈が拘束されたペニス―ツマンへと忍者刀『膝丸』を振り下ろした。
「……なッ!? 」
 燈の渾身の一閃はペニス―ツマンに弾かれていた。
『テラフォーマー』の多糖類アミロースの甲皮すら切り裂く『膝丸』の斬撃が通じなかったという事実に燈の心に空白が生じた。
「……『フル勃起、装甲(アーマー)』……」
 ペニス―ツマンは膨張・硬化していき、生物界で最も強靭な『大蓑蛾(オオミノガ)』の『糸』が、内部からの圧力でブチブチと千切れていく。
 ペニス―ツマンは虫の類に欲情するという性癖を持つ。
 故に、『変態』したミッシェルと燈の姿を見て勃起し、ただでさえ頑強なその性質を強化させていたのは自明の理である。
「諦めるなっ! どこかに弱点があるはずだっ!『カバネ』の心臓のように、致命的な急所になりうるような箇所が!」
「……あぁ! 縛法(イト)や剣術(ケン)が通じねぇなら……足腰立たなくなるまで当身技(ブッたた)くまでだ……!」
 生駒と無名が、『ツラヌキ筒』と蒸気銃を構えながら、燈の隣に並び立つ。
 その瞬間を待ち望んでいたかのように、ペニス―ツマンが身体をぶるりと震わせた。
「『重加速』!」
 ペニス―ツマンの股間に、真紅の『ネオバイラルコア』が装着された。
 燈達はさながら時間の流れが変わったかのように、『どんより』としか身体を動かせなくなる空間に捕らわれていく。
『ドライブ』の世界で獲得した『ロイミュード』として能力を駆使し、ペニス―ツマンは『重加速』を発動させていた。
「……な、ん、だ、これ、は……!?」
「『おしっこレーザーカッター 3WAY弾』!」
 燈・生駒・無名の3人は、3方向に枝分かれしたおしっこに各々の胸を貫かれ、やがて甲板へと崩れ落ちた。
「でもちんちんはこんなにギンギンなんだもん。分からないよね〜〜〜〜〜〜」
 ペニス―ツマンの勝利の宣言が、「晴風」に響き渡った。

☆☆☆

「あああぁぁぁーーーーーッッッ!!! 死なせてくださいまし!!!」
「晴風」の水測員兼ラッパ手を務めるお嬢様、万里小路楓(まりこうじかえで)が薙刀を振り回し暴れていた。
キュアップ・ラパパ! ロープよ、あの人を捕まえて!」
『虚無の哲学』に汚染され、自殺衝動に苛まれた少女をみらいの魔法が捕えた。
 ロープに簀巻きにされたお嬢様へと、『スタンド使い』康一が近づき
「音を響かせろ『エコーズ』ッ! 」
『エコーズACT1』がその能力をもって万里小路に音を響かせる。
『生きて!』という康一の声が、彼女の頭に反響していく。
 かつて小林玉美(こばやしたまみ)の『ザ・ロック(錠前)』に心を縛られた母の自害を止めたときのように『エコーズ』の能力を応用し、万里小路の心へと直に声を伝えたのである。
「……あっ……わたくしは何を……?」
 正気を取り戻した万里小路が床にへたり込む。
「まりこうじさん! よかった、早く医務室へ」
 明乃に手を取られながら、困惑している様子の万里小路が医務室へと連れていかれる。
 艦橋をはじめ、無線室・水中聴音室・電探室・機関室等、明乃達は手分けをして艦内の至るところを巡り、『虚無』に捕らわれた少女を保護していた。
(これで全員の無事を確認できた……本当に、よかった……)
 万里小路の手を引きながら、明乃はひとまずは死傷者が生じたなかったことに安堵する。
 やがて、医務室までたどり着くが、そこは大多数の人がすし詰めにされているような有様であった。
「艦長……今度はどんなパンデミックが起きているんだ?」
「み、みなみさん? 大丈夫なの?」
「晴風」の衛生長兼保健委員を務める小さな天才、鏑木美波(かぶらぎみなみ)がやや憔悴した表情で声をかけた。
「大丈夫なわけないだろう……自傷行為を繰り返す生徒達で、医務室は大盛況だよ……」
「そっか……でも、みなみさんが無事でよかった」
 明乃の言葉に、美波は自嘲的な笑みを返しながら
「わたしだって無事なわけではない。『抗うつ剤』を投与して、辛うじて正気を保っているのだからな……自殺衝動を引き起こすウイルスなんて聞いたこともないが、神経伝達物質を乱すような特性を持っているのか?」
「大丈夫だよ……わたし達に手を貸してくれる人を見つけたから」
「あぁ、あのわけのわからない力を持つ輩か」
 明乃の言葉を裏付けるように、医務室では様々な『異世界人』達が異能を行使し、「晴風」のクルー達を治療していた。
 仗助の『クレイジーダイアモンド』が少女達の怪我を治していき
 エミリアの治癒魔法の光が汚染された精神を浄化する。
 そして……
「ほら、大人しく食べてくださいっ!」
「何しやがるんでぃ、べらぼぉーめ!」
 江戸っ子気質の機関長・柳原麻侖(やなぎわらまろん)がワイワイと騒いでいた。
 傍らの静御前が麻侖の小さな口に寿司(回復アイテム)を無理矢理に詰め込んでいる。
 やがて、傷だらけだった彼女の細腕は淡い光に包まれながら治癒されていく。
「あんなんで怪我はちゃんと治るんだから、医者としての存在意義を揺るがされるよ」
 美波の愚痴じみた言葉を、明乃は苦笑で応じるしかなかった。
「アビラウンケンソワカ……アビラウンケンソワカ……」
「あ、ありがとうございます……」
 ろくろと紅緒、二人の陰陽師は霊符を翳し、「晴風」給養員を務める杵崎姉妹の怪我を治療していた。
「これで、治癒符は使い切った! 俺達もあの『ケガレ』を祓いに行くぞ!」
「わたし達も持っているお寿司は全部食べさせました!『神喰い』の討伐に参りましょう!」
双星の陰陽師』、焔魔堂ろくろと化野紅緒。
鬼斬』の姫君、静御前義経
 怪異討伐の専門家達が医務室を飛び出した。
 ペニス―ツマンとの激闘は依然、続く。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その2

 陽炎型航洋直接教育艦「晴風」。
 その内の教室のような一室に『異世界人』達は集い、自己紹介を兼ねて互いの世界の情報を交換していた。
 艦長・岬明乃(みさきあけの)と副長・宗谷ましろが経過を見守る中、議論は進む。
「……成程。つまり我々は、文化や時代背景、そして前提となる常識そのものが異なる世界から集められた、という訳か……」
 年長者である番場宗介が一区切りするように、まとめあげた。
「つまり、ここは遥か未来の日本なんですね。よくわかりませんが、これは紛れもなく、『神喰い』の影響ですね!」
 うんうんと静御前が思案顔で頷くが、おそらく何も理解していない。
「いや、そうとは限らない。君たちが私の知る歴史上の偉人、『静御前』と『源義経』であるとしても、日本で『神喰い』という怪物が跋扈したという記録は残っていない。そもそも、幻暦(げんりゃく)という紀年法にも覚えがない。根本的に私の知る日本とは別世界であると考えた方がいいだろう」
 番場の説明に、静御前は首を傾げながらも「つまり『神喰い』の影響なんですね!」と勝手に結論付けた。
「同じ日ノ本の国であったとしても、歴史に『ズレ』が生じている、ということか……」
「おそらく、そうだろう。私の知る日本では、君のいう『カバネ』の驚異にさらされたという歴史は存在しない。更に言えば技術レベルにおいても違いが見られる。江戸時代に蒸気機関を用いた技術はそこまでの水準には達していないはずだ」
 片腕に物騒な武器を取り付けた青年、生駒(いこま)の呟きに、番場が応じながら
「歴史の『ズレ』といったが……その最たるものが現在、我々がいるこの世界だろう。さながら『日本沈没』のように国土が海に沈み、海上都市と化した日本。ここには日本人が多いようだが、これを当たり前に受け入られる者は少ないはずだ」
「私たちにとっては、海に沈んでいない日本というのが想像できないのですが……」
 明乃が何気なく漏らした言葉に、番場をはじめとする『日本人』達が常識の隔たりを感じ取る。
「火星をテラフォーミングするような計画が進められている未来でも、そんなパニックホラー映画じみた現象は起こっていないぞ……」
 西暦2620年を生きる膝丸燈が呆れた調子で言う。
「人を食らう『奇獣』が生息する世界、『ヒーロー』が職業として存在する世界、人類の存亡をかけて『陰陽師』が戦う世界、『スタンド使い』という超能力者が存在する世界、人のトラウマが具現化する秘境『納鳴村(ななきむら)』が在る世界……ここまではあくまで日本……いや、地球という枠組みの中で語ってきたが……」
 番場が、銀髪のハーフエルフ・エミリアと魔法使いの少女・リコへと視線を向ける。
「……まさか、ここは大瀑布の向こう側にある世界……なの?」
「ナシマホウ界にもいろいろあるのね……勉強不足だわ……」
 ファンタジー世界の住民は共に頭を抱えていた。
 情報量の多さと常識の不一致に、聡明な二人でも理解が追い付いていない様子であった。
「剣と魔法の世界でも、一括りってわけじゃないよ。こちらの世界では、魔法の杖が『杖の木』から生み出されるなんていう風習はないからね」
「リコも『ルグニカ王国』って国は知らないみたいだし、同じマホウ界じゃないのかも?」
 精霊猫パックとナシマホウ界の(すなわち日本の)少女・朝日奈みらいが補足する。
「問題は、如何なる理由で我々は異なる世界から召集されたのか、という点だ。先ほど襲撃してきた『奇獣』への対策と元いた世界への帰還方法についても併せて……」
「……悪りぃ。ちょっといいですか?」
 ジャージ姿の青年、ナツキ・スバルが番場の言葉を遮るように立ち上がった。
 注目を浴びるスバルは、真剣な表情で室内を見渡しながら
「これからのことについて話し合うのも大事だと思うんすけど……あぁと、その……結論から言えば、さっきの怪物にはもっとヤバい元締めみたいな奴がいるんだ。あいつらはだだの尖兵で、近いうちに親玉がやってくる。だから、まずはその対策を……」
「ちょっと待て」
 ミッシェル・K・デイヴスが鋭い声音で割り込んだ。
「スバルといったな? お前はあの化け物を知っているのか?」
「……それは……」
 ミッシェルの指摘に、スバルは押し黙ってしまう。
 ナツキ・スバルは『死に戻り』という力を持っている。
 自らの死をトリガーに特定のポイントまで時間を巻き戻すという、非常に強力な能力である。
 そのため、スバルはこの先の展開、ペニス―ツマンとの激戦を既に経験していた。
 しかしながら、この『死に戻り』の能力に関することは、他人に話すことができないというデメリットが存在する。
 無理に口に出そうとすれば時間が止まり、『漆黒の腕』に心臓を握りつぶされるような激痛に襲われるというペナルティーが発生するのである。
 この先の展開を伝えたくとも、その根拠を口に出せない。そのようなジレンマの中で、スバルは苦悩していた。
「少なくとも、僕の記憶にはあんな姿形の『魔獣』に覚えはないよ。リアも同様のはずさ……スバルはどうかは知らないけどね」
「ちょっと、パック! そんな言い方……」
 パックの保身に走るような言動に、エミリアが抗議の声をあげる。
 そんなやり取りを気にも留めずに、ミッシェルはスバルを鋭く睨み付ける。
「……私は多くの部下と共に危険な任務についていた。今こうしている間にも、火星では部下達は戦い、中には命を落としている者もいるかもしれない……私と燈が抜けたとなっては猶更だ。私達は、一刻も早く元の世界に戻らないといけないんだ」
 静かな声であったが、威圧するような激情が込められた声であった。
「待ってくれ、俺はっ!」
「知っていることがあるならば、全て話してくれ! 何か話せない事情があるようだが、今はそんなものに拘泥している余裕はないっ!」
 ダンッ!と長テーブルに拳を叩きつけながら、ミッシェルは叫んでいた。
 威圧されたスバルが彼女から目を背けていると
「何か知ってるなら、話してよ。時間がないのはわたし達も一緒なんだ」
 気づけば、おかっぱ頭の少女・無名がスバルの目の前まで歩いていた。
「おいっ! 無名っ!」
「生駒だって気づいているでしょ? 甲鉄城を守る『カバネリ』が二人もいなくなったら、どうなるか。話さないっていうなら、ちょっと痛い目にあってもらうよ?」
 剣呑な雰囲気を醸し出す無名を前に、スバルを庇うようにエミリアが立ちあがる。
「ちょ、ちょっと、待って。乱暴なことをするのは……」
「どいてくれないと、きみも痛い目にあってもらうよ。えるふだっけ? そっちの飼い猫はよくわからないけど、きみ自身は『カバネ』よりは脆そうだし……」
「リアに手を出すっていうなら、僕も手加減はできないよ」
 精霊猫パックが冷気を生み出し、無名が首元の枷紐に手をかける。
「馬鹿! よせ、無名っ!」
「パックも落ち着いて!」
 生駒が背後から抱き着くような形で無名を止め、エミリアがパックを宥める。
 そして、一触即発となった空気に呼応するように
「何だかよくわからんが、貴様は元いる世界に帰る方法を知っているのだな! 今すぐ、私と静を戻してもらおうか! できれば、ラブな感じのホテルの一室などになっ!」
 興奮した様子の義経がスバルに詰め寄り
「ちょっと待ってください! 一人によってたかって、こんなのあまりに一方的ですよっ!」
 光宗がスバルを庇うように声をあげる。
 かつて納鳴村で真咲が疑いの目を向けられ、一人の少女が吊し上げられるまで暴走した『真咲狩り』を彷彿させる光景を、見過ごすことができなかったのである。
「そいつの言う通りだ! いい加減にしろよっ! こんなぎゃあぎゃあ騒がれたら、話せるもんも話せないだろうが!」
「……ろくろが一番……声が大きい……」
 八重歯をむき出しに吠えるろくろを、紅緒が平坦な声で諫めた。
「あぁぁぁ……不幸だぁ……訳のわからない怪物だけでなく、異世界人までが暴れまわるなんて……『晴風』はもうおしまいだぁ……」
「ちょっとシロちゃん、落ちついて……とにかく、この騒ぎを収拾しないと……!」
 頭を抱えながらうずくまるましろを余所に、明乃がわいわいと騒ぎ立てる『異世界人』達を宥めるため動こうとする。
「な、何かおっかない空気になっとる……」
「……ブツブツ……異なる世界……異能力……それでも『個性』に通じるものはあるはず……ブツブツ……」
 不安気な声を漏らすお茶子の隣では、モジャモジャ髪の少年・出久がブツブツと念仏のように何かを呟いていた。
 やがて意を決した表情で、出久が勢いよく立ち上がる。
「待ってくださいっ! おそらく、その人には話せない『理由』があるはずなんです!」
 出久の元へと、会議室中の視線が集まる。
「……言ったはずだぞ。どんな事情があろうと、拘泥している時間はないと」
「事情があるから、ではなく『個性』の制約的なものだとしたら?」
 怪訝な顔で眉を顰めるミッシェルへと出久が説明を進める。
「僕達の世界では、殆どの人が『個性』と呼ばれるコミックのヒーローみたいな能力を持っているんですが……それぞれの『個性』は決して万能なものではないんです。例えば、僕の『個性』は超人的なパワーを発揮できるけど、このようにコントロールができなければ、自分の身体を傷つけてしまうというデメリットがあるんです」
 言いながら、出久が骨折した右手の指を見せつけた。
 ボロボロに負傷した指を見て、ミッシェルや無名、スバルに詰め寄っていた者達も含めた全ての人間が息を呑む。
「多分、スバル君の『個性』は『予知』のようなものだと思うんです。ただし、『予知した情報の根拠を話すことはできない』という風なデメリットがあるものだと。それが、彼が話せない『理由』であると、僕は推測します!」
 出久の言葉に、スバルは目を見開き驚愕した。
(こいつ……マジでスゲェ……これなら全員の力を合わせて、アイツと戦うこともできるんじゃないか……?)
 元いた世界でスバルは、『死に戻り』がもたらす弊害、認識の齟齬と情報を共有できない歯がゆさに酷く苦しんでいた。
 思考の方向性が異なる『異世界人』だからこそ、完全ではないがスバルの能力の一端を理解できたのだといえよう。
「校長先生がよくやってる水晶さんの占い、みたいなのかな?」
陰陽道における式占(ちょくせん)……のようなもの……?」
「『死相が見える』っていう子は納鳴村にも居たけれど……」
 出久の解説に、半数以上はなんとか納得しているものの、一部はただ困惑している様子であった。
 そんな混乱の中、仗助と康一、二人の『スタンド使い』が出久の隣に並び立った。
「指、ボロボロじゃあねぇか……ちょっと見せてみな?」
「えっ? 何を……」
 困惑する出久の手を取り、リーゼントの青年・仗助は自らの『スタンド』を出現させた。
『クレイジーダイアモンド』の『治す』能力をもって、出久の骨折した指は完全に治癒されていく。
「あ、ありがとうございます……これはリカバリーガールと同じ『個性』……いや、治癒力の活性化どころじゃない……まるで時間が逆行しているような……」
 ブツブツと呟き続ける出久を余所に、仗助は周りを見渡すように宣言する。
「見ての通り、これが俺の『スタンド』……『クレイジーダイアモンド』の能力って奴ッス。壊れた物や怪我した生き物を元通りに治す能力なんスけど、もちろん万能な力って訳じゃあない。俺自身の怪我を治すことはできないし……失われた命を戻すこともできない」
 突如出現した人型のスタンド像に呆気にとられる『異世界人』達へ向け、小型のエイリアンのような像(ビジョン)を傍らに浮かべた康一が続ける。
「僕の『スタンド』は『エコーズ』と言います。漫画のような擬音を操るっていう、結構応用が利く能力なんですが、これにもパワーが弱いっていう欠点があります」
 二人の『スタンド使い』の解説に、無名は首を傾げた。
「何が言いたいの?」
「……要は異能は万能ではないということだろ。超人的な身体能力を持つ『カバネリ』が人間の血を必要とするのと同じように、異能にも何かしらの欠点があると言いたいんじゃないか?」
 むぅ……と頬を膨らませる無名を宥める生駒を横目に、ミッシェルがスバルと向かい合う。
「……先ほどは済まなかった。こちとら、SFチックな世界観なんでな。魔法やら超能力なんてモンには疎いんだ」
「い、いや……俺も何も説明しなかったわけで……」
「俺の上司が悪かったな。ちょっと怒りっぽいところがあるんだけど、それは誰よりも部下想いだからなんだ。美人さに免じて許してやってくれ」
「お、おぅ……」
 ミッシェルと燈の謝罪に面食らい、スバルは曖昧な反応を返す。
「……さて、話はまとまったようだな。これからは、スバル君の持つ『予知』のような能力に頼ることになるだろう」
 語りかけてくる番場へ向け、今まで放っておいた癖にどの面さげて言うんだこのおっさん……と口元まで出かけた言葉をスバルは何とか飲み込んだ。
「深くは追及しない。答えられる範囲でいいので答えてほしい。君のいう『奇獣』達の元締めは、いつ襲撃すると予測する?」
「あと数時間以内に来るはずだ……まず姿に面食らうと思う。何たって、アイツは……」
 スバルが言いかけた瞬間に、ガグォン!という爆音が船内に轟いた。
 同時に荒波に翻弄されたような揺れが、スバル達を襲う。
「う、そ……だろ……早すぎる!? 前のときはもっと……」
「甲板に向かおう。まずは事態を把握するべきだ」
 番場が困惑するスバルを立たせ、『異世界人』達は会議室を後にした。
 やがて、彼らは甲板で一人の男を目撃する。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
「オタクくんは赤ちゃんがそのままおじさんになったみたいな顔してるね藁」
「坂上(さかのうえ)ェェェッ!!!」
 スーツ姿の男、坂上逆孤(さかのうえさかこ)へとスバルが憎悪を込めた声で激昂する。
『哲学する男性器』ペニス―ツマンとの決戦の火蓋が切って落とされた。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その1

「二番砲右! 攻撃始め!」
 陽炎型航洋直接教育艦「晴風」の艦長兼クラス委員長、岬明乃(みさきあけの)が凛然とした声で号令を下した。
「Oui」
 無口な砲術長、立石志摩(たていししま)が短く返答する。
 同時に、5インチ単装砲が火を噴き、砲弾が標的へと叩き込まれた。
「晴風」が交戦している相手は、艦船ではなかった。
 あろうことか、『龍』のような生物と明乃達は対峙していた。
 その生物は、異なる世界では『インベス』と呼ばれる、異形の侵略者であった。
「標的に命中! 海面に墜落した後に行動停止を確認!」
「取舵いっぱい! 第四船速で距離をとって!」
 見張員、野間マチコの報告を受け、明乃が更なる指示を飛ばしていく。
 艦橋要員達は、緊張感に包まれながら経過を見守っていた。
 気弱な航海長、知床鈴(しれとこりん)が涙目で操舵輪を握り、舵を取る。
 普段は騒がしい水雷長、西崎芽依(いりざきめい)すらも、軽口を叩かずに押し黙っていた。
「ココちゃん、何か新しい情報は見つかった? 今は、情報が少なすぎるから、どんな些細なことでもいいから報告してほしいの」
「ええぃ! 連邦軍モビルスーツは化け物か! これだけの攻撃でも……」
「ココちゃん」
 一人芝居を始めようとする記録員、納沙幸子(のさこうこ)を明乃は一声で諫めた。
 身を縮ませながら、幸子は愛用のタブレットを手前に突き出す。
 画面には「検索結果なし」という、虚しいメッセージが表示されていた。
「すみません……様々な方面から検索をしているんですが……」
「……そっか。引き続き情報を集めて。何か新しいことがわかったら報告してね」
 言いながら、明乃は先ほど遭遇した未知の生物について考察していく。
 明乃を筆頭とした「晴風」クルーは、『RATtウイルス』が引き起こした騒動に巻き込まれた。彼女達はときに対立し、ときには助け合い、絆を深めながら、事態を解決に導いたのである。
 明乃達が異常事態に対応できたのは、『RATtウイルス』騒動を乗り越え培ってきた経験によるものが大きいだろう。
「アレは生物兵器……だったのかな? このあたりは美波さんに聞いてみないとわからないけど……」
「艦長! 非常事態ですっ!」
 明乃の思考を、慌ただしく艦橋へ雪崩れこんできた不幸体質の副長、宗谷ましろが打ち切った。
「シロちゃん!? どうしたの?」
「先ほど遭遇した生物が、突如甲板に現れました……それで……それで……」
「落ち着いて。ゆっくりでいいから、何が起きているのか報告して」
 息を荒らげるましろを、明乃はともかくなだめて落ち着かせる。
「さっきの怪物が現れたの? だったら、甲板にいるみんなを避難させないと……」
「見知らぬ人達が甲板で、件の生物と交戦しているんです!」
ましろが語った内容は、明乃の理解の範疇を超えていた。
「……一体、何が起こっているの……?」
 今まで体験してきた以上の不条理な事態に、明乃は言葉を失った。


 見張り台から甲板へ降りた野間マチコは、異形の怪物に取り囲まれていた。
 灰色の体色に、ずんぐりとした達磨のような体系の生物は、『インベス』と呼ばれる侵略者であった。
「……やれやれ。どうやら、海水入りの水鉄砲で対処できるほど、甘い相手ではないらしいな……」
 自嘲的に呟きながら無用となった水鉄砲2丁を放り捨て、マチコが絶望的な状況から抜け出すために、ともかく動こうとすると
「やーっ!」
「瞬迅閃(しゅんじんせん)!」
 矢の雨と輝く剣閃が、インベスの群れを薙ぎ払った。
 突如一変した状況に目を見開き驚愕したマチコは、二人の着物姿の少女を目撃した。
「見知らぬ船に飛ばされたと思ったら、見知らぬ『神喰い』の襲撃……これは間違いなく、『神喰い』の影響ですねっ!」
「落ち着け静(しずか)……いや、その通り、なのか……?」
 肩を丸出しにした桃色の着物と豪奢な大弓が特徴的な少女、静御前(しずかごぜん)。
 青色の着物を纏い、無骨な大太刀を携えた、どこか宗谷ましろに似た外見の少女、義経
鬼斬』。
 二人の姫君が、異形の怪物達をバッサバッサと切り捨てていく。


 小柄な少年と少女が手を握り合い、息を切らせながら「晴風」の甲板を駆け抜ける。
迷家-マヨイガ-』。
 納鳴村(ななきむら)より脱出した二人の男女・光宗と真咲は、後方より捻じれた大角を頭部に備える異形、ヤギインベスに追い立てられていた。
「くそっ! アレは『ナナキ』なのか!? 僕達は納鳴村(ななきむら)から抜け出したはずなのにどうして!?」
「光宗君! こっちにも、怪物が……」
 真咲の声に光宗が前方を確認すると、そこには『インベス』が群れをなして二人を待ち構えていた。
 光宗は、不安気な視線を向ける真咲と自分自身を鼓舞するように
「船の内部に入れる扉がどこかにあるはずだよ! まずはそれを探して、怪物達から身を隠してやり過ごそう!」
 光宗の力強い言葉に、真咲はこくりと頷いた。
 自らのトラウマより生み出される怪物『ナナキ』と向き合い、受け入れることによって納鳴村(ななきむら)から抜け出した二人は、精神的に成長していた。
 絶望的な状況においても活路を見出し、行動しようと一歩踏み出すと
「離れろ……離れなさい」
 突如投げかられた静謐な少女の声の元へと、二人は視線を向ける。
 そこには、異形の右腕を持つ活発な印象の少年と、狐面をかぶった少女が、『インベス』の群れと向き合っていた。
「裂空魔弾!」
「……朧蓮華の舞」
 影が『インベス』の群れを蹂躙した。
 呪力(しゅりょく)が込められた木片が、灰色の身体を引き裂き
 超高速の連続タックルが怪物達を一匹も残さずに破砕していく。
「ここは禍野(まがの)じゃねぇのか!? てか、何で俺たちは船の上にいるんだ?」
「見たこともない『ケガレ』も……いる。いずれにしても、全て祓う……べき!」
「言われるまでもねぇ!」
双星の陰陽師』。
 二人の陰陽師、焔魔堂ろくろと化野紅緒(あだしのべにお)が異形の侵略者と対峙する。
「待ってください! まだ一匹いるんですっ! 僕達を追いかけてきた、ひときわ大きなヤツが!」
「グォォォッッッ!!!」
 光宗の言葉にろくろと紅緒が振り返ると、咆哮をあげながら突貫するヤギインベスが迫っていた。
 同族を殲滅され怒りの形相を浮かべながら迫りくるヤギインベスに対し、陰陽師の二人はそれぞれ異形の右腕と二振りの霊剣を構える。
「DELAWARE SMASH!」
 空間を穿つような衝撃波が、ヤギインベスの側面から襲撃した。
 粉々に砕かれた異形の末路に、光宗と真咲、ろくろと紅緒が驚愕する。
「……指を2本も犠牲にしてしまった……僕の『個性』はただでさえ、制御ができないのに……わからないことだらけの状況で軽率すぎた……もっと『敵(ヴィラン)』の特性を分析してから……」
「デクくん!? 大丈夫なの?」
 指を抑えながらブツブツと念仏じみた呟きを漏らす少年に、おっとりとした印象の少女が心配そうに声をかけている。
 モジャモジャ髪の少年、緑谷出久(みどりやいずく)。
 茶髪のショートボブの少女、麗日お茶子(うららかおちゃこ)。
僕のヒーローアカデミア』。
 雄英高校のヒーロー達がそこにいた。
「あの、あなた達は……?」
 負傷した出久を気遣う様子で、真咲がオズオズと声をかけると
「これでも、僕達は『ヒーロー』なんです。君達を守らせてください」
 骨折の激痛を誤魔化すように笑い、出久は堂々と宣言した。


『ドグォン』という爆音と共に、『インベス』達が大海原の彼方へと吹き飛んだ。
「『エコーズACT2(アクトツー)』」
 静かな闘志を宿した声で、小柄な少年・広瀬康一(ひろせこういち)が囁いた。
 傍らには、小さなエイリアンのような形の『スタンド』が、主人を守るように宙に浮かんでいる。
 甲板には、『ドグォン』という『文字』が道路標示のように刻まれていた。
「こいつらは一体、何者なんだ……?『スタンド使い』ってわけじゃあないみたいだし……『DIO』の細胞が暴走したっていう、億泰(おくやす)君のお父さんみたいな存在に近いのかな……?」
「億泰の親父さんと一緒にするってのは、ちと違うぜ、康一よォ……こいつらは紛れもねぇ『悪意』ってもんを振りかざして、俺達を襲ってきてるからなぁ!」
リーゼントが特徴的な大柄な青年、東方仗助(ひがしかたじょうすけ)が怪物達を見据えながら一括した。
「『クレイジー・ダイヤモンド』! ドラァッ!!!」
 全身にハートマークがあしらわれた純白の『スタンド』、『クレイジー・ダイヤモンド』が、上空より襲撃してきたコウモリインベスの顔面を殴りつけた。
 頭部を歪ませながら甲板に叩きつけられた異形の姿に、「ひぃっ!?」と少女達の悲鳴が漏れる。
 仗助と康一の後方には、逃げ遅れた「晴風」砲術員の少女達が身を寄せ合い固まっていた。
「ともかく、彼女達を守らないとッ!」
「『グレート』……行くぞォ、康一!」
ダイヤモンドは砕けない
 杜王町(もりおうちょう)を守護する『スタンド使い』が、異形の侵略者と対峙する。


 ガシュン!という轟音が響いたのと同時に、『インベス』が軽々と宙を舞った。
 鋲打機のような武器『ツラヌキ筒』を右腕に取り付けた青年、生駒(いこま)が異形の怪物達と相対していた。
「攻撃を受けるなよ、無名! こいつらは『カバネ』とは違う! 俺達『カバネリ』でもどんな影響が出るか予想がつかないからなっ!」
「わかってるよ。それに、わたしは生駒みたいに、捨て身の戦い方なんてしないもん」
 言いながら、おかっぱ頭が特徴的な小柄な少女、無名が重力を感じさせない軽やかな動きで跳躍した。空中より二丁の蒸気銃の狙いを定め、正確無比な射撃を『インベス』の群れへと浴びせていく。
「詳しい状況はわからないが、こいつらが人に仇なす存在であることは間違いない! まずは船上の敵を掃討するぞっ!」
甲鉄城のカバネリ』。
  人外の力を宿す二人の『カバネリ』が、異形の侵略者へと牙をむく。


 甲板に、拘束された『インベス』達が転がっていた。
 灰色の表皮には目に見えないほど細い『糸』が巻き付いており、強靭な力を誇る怪物達を無力化していた。
「お前達は『テラフォーマー』とは違う。ゴキブリと混じっていない、純粋な生物の能力を宿しているのか? 俺達『M.O.手術(モザイク オーガン オペレーション)』の適応者のように……」
 昆虫の触覚のような器官を頭に備える青年が、青い体色の異形、カミキリインベスと向かい合いながら呟いた。
「ベースは髪切虫(カミキリムシ)か? 幼虫であっても堅い樹木の繊維をバリバリ食い荒らすっていう、アレだ」
 禍々しい大顎と鉄鞭のような触覚を持つカミキリインベスが、グルル……と威嚇するように呻き声をあげる。
「だがそんな強靭な顎も、外から縛ってしまえば用をなさない」
 カミキリインベスは、全身を細い『糸』に簀巻きにされ、微動だにできずに捕らわれていた。
 日本原産『大蓑蛾(オオミノガ)』。
 その能力によって生み出された生物界で最も強靭な『糸』が、異形の侵略者を完膚なまでに拘束していた。
「それで、何で俺達は地球に戻っているんだ? ミッシェルさん、マジギレしてるし……さて、どうしたもんか」
 マーズ・ランキング6位・膝丸燈(ひざまるあかり)は足元に転がる異形を一瞥もせずに、爆音を響かせる上司の方へと視線を向けた。
「なぁ、オイ……聞いてくれ。ついさっきまで私は部下達と火星でゴキブリや中国人達とドンパチやっていたんだが……どうして、地球にしか見えない大海原のど真ん中に居るんだ?」
 理知的な眼鏡が印象的な金髪の美女、ミッシェル・K・デイヴスが紅い体色の異形へと問いかける。
 相対するのは、『インベス』の中でも突出した身体能力を持つライオンインベス。
 ミッシェルの言葉に反応せずに、ライオンインベスがその刃のように発達した鋭い爪を振り下ろすと
「テメェ、人の話を聞けよ……ぶっ殺されてぇのか?」
 身長164cmのミッシェルが、244cmものライオンインベスの巨体を片手で釣り上げていた。
 激高したミッシェルが繰り出したのは、技と呼ぶにはおこがましいほどに原始的なプロレス技、『アイアン・クロー(脳天締め)』。    
 掌で顔面を掴み、指先で握力を使って締め上げるだけの技だが、ライオンインベスの頭部の三分の一ほどは、粘土のように歪んていた。
 史上最強の蟻『弾丸蟻(パラポネラ)』の筋力が、百獣の王の名を冠する異形を圧倒する。
「ジタバタ暴れんな」
 宙吊りされたライオンインベスが雄叫びをあげながら爪を振り回し反撃を試みた瞬間に、その身体は内側より爆散した。
 ミッシェルの身に宿る第二の生物『爆弾蟻(ブラストアント)』の能力が作り出した揮発性の液体が、ライオンインベスを内部より破砕したのである。
「ゴキブリよりは可愛げはあるみたいだが、生憎と今の私は機嫌が悪いんでな」
 マーズ・ランキング5位、ミッシェル・K・デイヴスは吐き捨てるように言う。
 そんな上司の姿を見ながら、燈は内心「おっかねぇ」と震えていた。
テラフォーマーズ』。
 地球の生物の能力(ちから)を宿す戦士達が、異世界の怪物達を一掃する。


「……うそ……どうして、こんなことに……?」
「晴風」艦長、明乃は異常な事態を把握するべく、甲板まで下りていた。
 そこで目撃したのは、濃密な戦闘の爪痕。
 異形の怪物と超常の力を振るう者達がぶつかり合った結果、頑強な甲板は至る所が捲れ上がっていた。
 自らの艦で生じた惨状に呆気にとられていた明乃の背後より、生き残りの『インベス』が音もなく忍び寄る。
「危ないっ!」
 凛とした鈴の音のような声が響くと同時に、氷の礫が明乃の顔を横切りながら飛来し、背後の異形に叩き込まれた。
 声の主は、長い銀色の髪と紫紺の瞳を持つ少女であった。
 少女の隣には、手の平サイズの猫がぷかぷかと浮かんでいる。
 直前に起きた怪物の襲撃に身を震わせながら、明乃は自らを救った銀髪の少女へと声をかけた。
「あ、ありがとうございます。その、あなたは一体……?」
「お礼を言う必要はないわ。私はあなたに聞きたいことがあるから、自分のために助けただけなんだから」
 銀髪の少女、エミリアの突き放すような言動に明乃が混乱していると
「まだ終わってねぇ! 海だ! この後、海からもっとデカい奴が出てくるはずだ!」
 ジャージ姿の青年が叫んだ言葉に、エミリアと明乃が海へと目を向ける。
 瞬間、緑色の体色の龍のような怪物が、海面から飛び出すように出現した。
「晴風」と交戦したセイリュウインベス強化体が、威嚇するように咆哮を轟かせる。
「さっきの『龍』!? そんな……艦砲でも仕留めきれなかったのっ!?」
「ドラゴンが相手なんて……パック、アレを倒すことはできる?」
「アレはドラゴンなんて呼べるほど大層な存在じゃないさ。せいぜい『魔獣』といったところだよ。それでも、今のリアのマナ量だと、正直厳しいかもしれないね……」
 宙に浮かぶ精霊猫、パックの言葉にエミリアが苦々しい表情になる。
「オドを使ってでも、アレを倒さないと……! 今、この船を失うわけにはいかないもの……!」
 決意を込めた眼差しで、エミリアがセイリュウインベス強化体へと魔法を放とうとすると
「「わたし達に任せてっ!」」
 少女達の声が、上空より響いた。
 明乃が空を仰ぎ見たのは、青を基調とした羽衣風のコスチュームを身にまとう二人の少女であった。
「……人魚?」
 その姿は、明乃に『ブルーマーメイド』の名称の元となった、伝説上の生物を彷彿させた。
 優雅に空を泳ぐ二人の人魚、サファイアスタイルのキュアミラクルキュアマジカルが海上のセイリュウインベス強化体と相対する。
「モフゥ-----------ッッッ!!!」
「「リンクルステッキ・サファイア! 青き知性よ、私たちの手に!」」
 くまのぬいぐるみ、モフルンから放射された閃光が、二人のステッキへと収束されていく。人魚族の秘宝、リンクルストーンサファイアの力が、リンクルステッキに満ちていく。
「「フル、フル、リンクル!」」
 キュアミラクルキュアマジカルが各々のリンクルステッキを振るうと、二つの魔法陣が出現した。
 ひとつはセイリュウインベス強化体を海上に縫い止め、もうひとつは上空で巨大な魔法陣へと展開する。
 いつの間にか表れた満月をバックに上空の魔法陣へと降り立ち、二人の『プリキュア』は手をつなぎ、リンクルステッキを相手に差し向け叫ぶ。
『『プリキュアサファイア・スマーティッシュ!』』
 巨大化した魔法陣より、数多の激流が放射された。
 激流がセイリュウインベス強化体に纏わりつき、その巨体は球体状に包み込まれる。やがてリボン状の光となった水流は圧縮していき、異形を塵一つ残さずに圧壊させた。
魔法つかいプリキュア』。
 キュアミラクルキュアマジカル
 伝説の魔法つかい『プリキュア』の金魔法が異形の侵略者を容赦なく浄化させた。
「パネェ! リアル魔法少女、実際に見ると本当にパネェな! ちょっと技がエゲつないのも、ギャップを感じさせてGOOD!」
 甲板ではしゃぐジャージ姿の青年、ナツキ・スバルを余所にエミリアが不思議そうな表情で首を傾げる。
「……どうして、スバルは敵が現れるってわかったんだろう?」
Re:ゼロから始める異世界生活』。
『死に戻り』の力を持つ青年、ナツキ・スバルはいかなる世界でも、エミリアを助けるために奔走する。
生物兵器とか……そんな規模じゃない……これは、魔法なの?」
 眼前で繰り広げられた非現実的な光景に圧倒された明乃が絞るように言葉を漏らす。
 茫然自失となった明乃の目の前に、甲板で生き残った最後の『インベス』、50mを超す巨大を誇るシカインベス強化体が現れた。
「ひぅっ!?」
「あっぶねぇ!」
「下がって!」
 炎をまとった拳を繰り出すシカインベス強化体に対し、スバルが明乃を強引に突き飛ばし、エミリアが雪の結晶のような障壁を展開させる。
 瞬間、グシャリとシカインベス強化体の上半身は何かに『喰い千切られた』ように消失した。
「すまないが、この艦の責任者と話がしたい」
 残る下半身も咀嚼音と共に消え去った後に、黒いスーツを着こなす理知的な印象の男性が現れた。
 男性の足元では、漆黒の『影』が不気味に蠢いていた。
影鰐-KAGEWANI-』。
 怪異の力をその身に宿す男、番場宗介(ばんばそうすけ)はいつものように奇怪な事件に巻き込まれていた。
「一応、わたしが『晴風』の艦長を務めていますが……」
「君が……? まだ、学生にしか見えないが……ともかく、この場にいる全員と落ち着いて話ができる場を設けてほしい。遭遇した『奇獣』への対策とこれからについて、話し合いたい」
 番場の言葉に、明乃は強い決意を抱いた表情で頷いた。
「わかりました。すぐに用意させていただきます。わたし達も、少しでも現状が知りたいので」
ハイスクール・フリート』。
 陽炎型航洋直接教育艦「晴風」艦長兼クラス委員長、岬明乃は静かに決意した。
(……大丈夫。みんなで力を合わせれば、何とかなるはず。だって、越えられない嵐はないんだから!)
 自らを奮い立てながら、明乃は異常事態と対峙し、乗り越えていくと決心する。

☆☆☆

『ブルーマーメイド』。
鬼斬の姫君』。
『納鳴村の生存者』。
双星の陰陽師』。
『ヒーロー』。
スタンド使い』。
『カバネリ』。
『M.O.手術適応者』。
『死に戻り』と『精霊使い』。
プリキュア』。
『影鰐』。
 様々な種類のキャラクターが集う「晴風」へと、スーツ姿の男が虚ろげな視線を送っていた。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
「全てのオタクを支配したい」
『ペニス―ツマン』坂上逆孤(さかのうえさかこ)がぼそりと呟いた。
 その股間からは『鎧武』の世界で獲得したオーバーロードとしての力の象徴、『黄金の果実』が輝いていた。

「うぃいいいいいいいいいいい↑っす!
 どうも、ライダーのサーヴァント、シャムで~す!」

 斥候として放った『インベス』で敵の力を推し量ったペニス―ツマンは、「晴風」に向け、宣戦布告をする。
 海面に直立するペニス―ツマンが、不気味な挙動でクネクネと身をよじらせた。
 決戦の時は……近い。

岸辺露伴は動かない Ep:114514 『W大学の哲学科』

高田馬場駅」からロータリーを抜け、多種多様な『ラーメン屋』が居並ぶ道を20分程かけて歩き通した先に、『W大学』のキャンパスに辿り着いた。

 

「ふぅん。100年以上の歴史を誇るってワリには、意外と小綺麗じゃあないか」

 

 時計台が目を引くタイル張りの建物『大隈記念講堂』を見ながら、ぼくは適当に呟いた。
 ぼく、岸辺露伴に大学に通った経験はない。
 言い訳をするようで癪だが、16歳の時より「ピンクダークの少年」を『週刊少年ジャンプ』で連載している漫画家に、足蹴く毎週の講義に通うような時間は許されなかったのである。
 そんな縁のない場所にわざわざ訪れた理由は、ひとえに『取材』のためだ。
 来週掲載分の「ピンクダークの少年」の1シーンに、『大学』のキャンパスを描くコマがある。
『大学』を知らないぼくには、『リアリティ』のある絵が描けるとは到底思えなかった。
 創作において『リアリティ』を何よりも重視することを信条しているこの岸辺露伴は、『大学』という未知なる空間をくまなく描写するために、漫画内で登場するキャンパスのモチーフとした『W大学』まで足を運んだのである。
「ええと、『文学部』は向こうの『戸山キャンパス』にあったのか。歩き損だな、全く……」
 広い入口に備え付けられていた案内板を確認すると、キャンパスを間違えてしまったことに気付く。
 漫画内に登場させるキャンパスは『文学部』の『哲学科』の学生が通学するキャンパスである。
『リアリティ』を追求する以上、あらゆる妥協は許されない。
 ぼくは踵を返し、歩いてきた道を戻ろうとした。
 一歩踏み出した瞬間、グニャリと立ち眩みのような感覚に襲われ、ぼくの視界は暗闇の中に閉ざされた。

 

☆☆☆

 

「……何だッ! 今の感覚はッ!? まさか『スタンド能力』!!」

 

 自らを襲った奇妙な感覚に、ぼくはまず『スタンド攻撃』の可能性を疑った。
 警戒しながら周囲を見渡すと、そこにはほんの数秒前とは全く異なった景色が広がっていた。
 先程まで居たキャンパスよりも、落ち着いた雰囲気を感じさせる空間だった。
「ネットで確認した通りの建物ッ! ここは……ぼくが向かおうとしていた『戸山キャンパス』じゃあないか……どういうことだ?」
 どういう訳か、ぼくは目的のキャンパスの入口に突っ立っていた。
 人間を瞬間移動させるような『スタンド攻撃』を受けてしまったのか?
 それとも、自分でも気づかない間にボォーっと歩いて辿り着いたとでもいうのか?
 疑問は尽きないが、ひとまず状況を整理するために、ぼくは道行く学生の一人に声をかけた。
「ちょっといいかな? そこの君、そうだ、君のことを言っている」
「……ハァ、何でしょうか?」
 覇気の感じられない、何とも冴えない学生がけだる気な反応を返す。
「質問をしたいんだが……ここは『哲学科』の学生が通うキャンパスで間違いないか?」
「そうっすよー。ここは『哲学科』のキャンパスであってます」
「そうか……すまない、時間を取らせたな」
「いえいえー。それじゃあ、自分『ゼミ』があるんで……」
 そそくさと学生は人波に紛れるように過ぎ去っていった。
「随分と覇気のない学生だな……スーツ姿だったし、卒業間近になっても『内定』が取れていない『就活生』なのかもしれないな」
 好き勝手言いながらぼくはキャンパス内に入り、早速『取材』に取り掛かった。
 先程体験した奇妙な現象を含めて、この『W大学』には『何か』があると確信していた。
 漫画家として有意義な『取材』ができると胸を膨らませ、最も目を引いた高層棟に入ろうとした、その直後のことだった。
「きゃわわわ~~~! どいてくださいぃぃ~~~!!」
「イチゴのタルト」のように甘ったるい声がキャンパスに響いた。
 慌てて周囲を見渡すも、声の主の姿はどこにも確認できない。
 まさかと思い『上』へ顔を向けると……
「なッッ!? 馬鹿なッッ!!!」
 そこにはファンシーなファッションに身を包んだ女学生が宙を舞っていた。
 いや、『宙を舞う』などという曖昧な言い回しではなく、重力に引かれ『落下』していたと言うべきか。
 あろうことに、女学生は16階もある高層棟から『投身自殺』をはかっていたのだ。
「『ヘブンズ・ドア―――(天国への扉)』ッッッ!!」
 考えるよりも先に、ぼくは自らの『スタンド能力』、『ヘブンズ・ドア―』を出現させていた。
「ピンクダークの少年」の主人公をモチーフとした像(ビジョン)がぼくの身体から浮かび上がり、落下してくる女学生へと手を伸ばす。
 瞬間、女学生の顔は剥がれるように『本』のページと化し、現れたページへと素早く『命令』を書き込んだ。

 

«『五点着地』で受け身を取れ!»

 

『五点着地』。
 正式には『五点接地転回法』という名称の、陸自空挺団が開発した着地法。
 何でも、爪先・脛・太腿・背中・肩の五点で落下による衝撃を分散させることで、全 身で落下の際の衝撃を吸収し、やわらげる技術だという。
 正しくこの着地法を行えば、理論上は10m以上の高さからの落下をも無傷で凌げる、らしい。
 女学生は熟練の空挺隊さながらの動きで衝撃を分散させたことで、一命を取り留めていた。
 無論、高さが高さなので骨折は間逃れなかったようだが……
「はぅぅ~~~……アレぇ? アタシぃ、なんで生きているんですかぁ?」
「……なぁ、君。別に説教じみたことを言うつもりはないんだが……若い身空で命を投げ出すこたぁないんじゃあないのか?」
 骨折の激痛も感じさせないような呑気な声色でとぼける女学生へと、ぼくは柄にもなく諭すようなことを言ってしまう。
「はぇ~~。あなたはもしかして漫画家の岸辺露伴さん? アタシ、大ファンなんですぅ~。こんなとこで会えるなんて、感激ですぅ~。よかったらでいいんですけどぉ~、その『Gペン』、記念にプレゼントしてもらえませんかぁ~~?」
 先程まで『自殺』をはかろうとしていたのが信じられないような間の抜けた声で捲し立てる女学生に、ぼくは苛立ちを隠そうともせずに応じる。
「やるよ。この『Gペン』はぼくの一番の『愛用品』で、漫画を描くのに必要不可欠な『仕事道具』で、魂の一部ともいえる『分身』だけど、こんなもんいくらでもくれてやる。ただし、もう二度とぼくの前で『自殺』をしようなんて馬鹿な真似をしないと約束するのが条件だ」
 有無を言わせず、ぼくは『Gペン』を女学生に押し付けるように握らせた。
 それにしても、漫画家に『サイン』や『イラスト』を求めるならともかく、仕事道具をねだるなんて、この娘は漫画志望か何かなのだろうか?
「はぅぅ~~~、感激ですぅぅ~~~。アタシ、一生大事にしますゔゔッッッ!!!」
 瞬間、ぼくの視界は真紅に染まった。
 渡した『Gペン』を、女学生がその細い首筋の頸動脈へ深々と突き立て、鮮血が勢いよく噴射されたためだ。
「ふ、ふざけるなッ! 何て馬鹿なことをッ! おいッ!誰か、誰かいないのか! 手遅れかもしれないが、救急車を呼んでくれッ!」
 ぼくの言葉も約束も無視し、『自殺』をはかった愚かな女学生を救うべく周囲の人間に呼びかけるも、奇妙なことに誰もが反応を示さなかった。
 傍観者でいたい『対岸の火事』だから、なのか?
 それにしては野次馬に取り囲まれている様子はないが……
 それとも、今時の若者は人が死にかけていようと一切の関心を持たないような冷酷な生き物になってしまったとでもいうのだろうか?
「そこの君ッ! さっき会ったばかりの君のことだッ! 無視するんじゃあないぞ。見ての通りの状況だ。救急車を呼ぶのを頼めるか?」
 たまたま、先程会ったスーツ姿の学生を見つけたので手伝いを頼むと、彼は覇気のない表情で首を傾げた。
「……ハァ……『哲学科』で自殺者なんてそれこそ日常茶飯事ですし……救急車なんて呼んでたらキリがないと思うんすけど……」
 学生は「見知らぬ酔っ払いを介護しているお人好し」を見るような目でぼくを一瞥した後に、高層棟へと入っていった。
 冷たくなっていく女学生の体を支えながら、ぼくは言葉を失い絶句していた。
「……言っている意味がわからない……冗談じゃあないんだぞ……人が一人死んでいるというのに……」
 奇妙な悍ましさを感じながら、ぼくは学生を追いかけるように高層棟へと進んでいった。
 この『大学』は『何か』が決定的に狂っている。
 その『何か』を解明し『取材』するために、ぼくは『深淵』へと足を踏み入れた。

 

☆☆☆

 

『深淵』へと足を踏み入れたと、ぼくは比喩で言ったつもりだったが、高層棟の内部は紛れもなく地獄絵図だった。
 学生の言葉は嘘ではなかった。
 建物内の至る所に、自殺者の亡骸が転がっていた。
 大量の睡眠薬を撒き散らし、テーブルに突っ伏す女学生達。
 規則的な順番で天井からぶら下がる『首吊り死体』。
 焼身自殺をはかった学生達の末路は、ベンチ脇に黒焦げのオブジェのように設置されていた。
「……『異常』だ。何もかもが常軌を逸脱している。これは個人の『スタンド能力』による現象ではありえないッ! もっと強力な……世界の法則を歪めるような『何か』の力が背後で動いているッ!」
 確信めいたものを胸の内に秘めながら、ぼくは建物内を駆ける。
 目標はあの『学生』だ。
 この『異常』な空間で唯一出会った、自殺志願者ではない『普通』の人間。
 彼が『何か』の鍵を握っていることは、疑いようがないッ!
 学生達の死体を踏み越えながら、ぼくは虱潰しに講義室を見て回っていく。
「彼は『ゼミ』に行くと言っていたッ! ならば、建物内にある『ゼミ室』や『研究室』の何処かに、彼は居るはずッ!」
 体感で30分程の時間を走り回った末に、ぼくは『学生』を見つけ出した。
 5階の壁際に位置する比較的狭めな『ゼミ室』に、死体ではない生きた人間の気配を感じたのだ。
 勢いよく扉を開き中へ入ると、そこには教壇に立つ教授の元、件の『学生』を含めた 10人足らずのゼミ生達が講義を受けていた。
「……これこれこういう訳となります。坂上君、何か質問はありますか?」
「特にありません(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )」
 起立しながら、件の学生は平然とした顔で脱糞していた。
『下痢便』が黒いスラックスに染み込んでいき、鼻を突く異臭が辺りに立ち込める。
奇妙なことに教授も他のゼミ生も、生じた惨劇に顔色一つ変えていない。
「すみません。トイレに行ってきます」
一言残すと、『学生』はそそくさと扉へ向かってきた。
「……なぁ、君……」
「……すみません。早く、パンツとズボン履き替えたいんで……」
 流石の岸辺露伴も、脱糞した直後の人間に『取材』することを躊躇ってしまった。
 彼が『ゼミ室』から立ち去った直後、糞の放つ悪臭とは異なった臭いが教壇の方から生じた。
「死にましょうか、臭いですし」
「教授に賛成します」
「異議なし」
 教授は何処からか取り出したポリタンクの中身を、教壇と周囲のゼミ生達にブチまけていた。
 ゼミ生達も応じるように、各々が『ライター』や『マッチ』を手に取っている。
「この臭いは『灯油』ッ!!! 待て、早まるなぁぁぁッッッ!!!」
 ぼくの制止の声も空しく、教授とゼミ生達は一斉に『焼身自殺』を決行した。
 小さな『ゼミ室』の一角が炎上し、人間が火達磨になっていく悍ましい光景が眼前に広がった。
「……残念だがもう彼等を助けることはできないッ! だが、『情報』は貰っていくッッッ!!!」
 のたうち回るゼミ生の一人へと、ぼくは『ヘブンズ・ドアー』の能力を発動させた。
 ゼミ生の体が薄く剥がれ、『本』のページへと変わる。
『人生の体験』が記された『本』のページへと、ぼくは素早く目を走らせていく。
何しろ『本』と『火』の相性はサイアクなのだ。
 炎上する身体のページは現在進行形で失われつつあり、既に所々が焼け焦げて焼失してしまっているッ!

 

«僕は■■■、出身は下北沢で、趣味はチンポチンポセイヤセイヤ……»
«専攻は『東洋哲学』。でも、就職に役立つか■■■»
«『深淵』に触れてしまった!■■■■■■『虚無の哲学』はチンポチンポセイヤセイヤ»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»

炎上するゼミ生の『本』の内容は一部が焼け焦げていたが、それとは別に理解し難い内容が記載されていた。
「焼失している部分はともかく、『文字化け』を起こしたような意味不明な文章は一体ッ!? だが、手がかりは掴めたぞッ! 『深淵』と『虚無の哲学』ッ! これが意味することをあの『学生』に問い詰めるッ!!!」

 

『疑惑』は『確信』へと変わっていた。
 人々の自殺衝動を発現させている『何か』を、あの『学生』は抱えている。
ヘンゼルとグレーテル」のように床に零れている『下痢便』を追跡しながら、ぼくは『学生』の元へと駆けていく。

☆☆☆

 件の『学生』は『男子トイレ』で遭遇した。
 どうやら、天井からぶら下がっている『首吊り死体』のスラックスを拝借しているようだった。
「これもこれでおしっこまみれなんですけど……まぁ『下痢便』まみれのモノよりはいくらかマシですよねぇ……」
「率直に聞く……きさまは一体『何者』なんだ……?」
 相も変わらず覇気のない声でのたまう『学生』へと、ぼくは鋭く質問を切り込む。
「はぇー……自分ですか? 名前は坂上逆孤(さかのうえさかこ)っす。またの名を『哲学するだ……」
「『ヘブンズ・ドアァ―――ァァァッ』!!!」
 質問の返答を待たず、ぼくは『ヘブンズ・ドア―』を発動させた。
「質問に答える必要はない。答えを『読む』ことができるのが、ぼくの能力だからな」
 全身の皮膚が剥がれるように『本』と化した『学生』坂上がフラフラとたたらを踏む。
 浮かび上がった彼の『人生の体験』をぼくは遠慮なく読み込んだ。

 

«名前は坂上逆孤。またの名を哲学する男性器『ペニス―ツマン』»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»
«最近のお気に入りの妄想は『ウヴァさんと雁夜おじさんのレズセックス』»
«『哲学』の『深淵』に座す境地……『虚無の哲学』»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»

 

「『哲学』の『深淵』……『虚無の哲学』ッ! やはりこいつが原因だったかッ!」
明確な答えを得て好奇心を刺激されたぼくは更に奥のページを読み進めた。

 

«『深淵』を覗く時、『深淵』もまたこちらを覗いているッ!»

 

 最後の文章を読んだ瞬間、全身に怖気が迸った。
 気づけば、ぼくの右手が『Gペン』(予備分)を握りしめていた。
「嘘だろッ! まさか、ぼくもまた『虚無の哲学』とやらに取り込まれてしまったのかッ!?」
 右腕がぼくの意識を離れ、『Gペン』を首筋に突き立てんと勢いをつけて動き出す。
「う、うぉぉぉぉぉッッッ!!!」
 ギリギリのタイミングで『ヘブンズ・ドア―』の像(ビジョン)を動かし、暴走するぼくの右腕を止めた。
ヘブンズ・ドア―』が体が触れたため、ぼくの全身は剥かれるように『本』と化していく。
 男子トイレの鏡に写り込むそのページの内容に、ぼくは言葉を失った。

 

«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»

 

 ぼくの『人生の体験』が記載されるはずの『本』のページが、奇妙な文字列に侵食されていたのである。
 このままでは『深淵』に呑まれてしまうッ!
 全てのページが『虚無の哲学』に侵食される前に、何とかしなければッッッ!!!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッッッ!!!」
 躊躇せずに、ぼくは侵食された『チンポチンポセイヤセイヤ』のページを破り捨てた。
 体が軽くなったのを自覚しながら、『Gペン』で首元を突き刺ささんと暴走していた右腕が大人しくなったことを感じ取る。
「……ハァ……ハァ……そういえば、聞いたことがある……大学の『哲学科』に属する学生の『自殺率』が高いということを……フランスの『ジル・ドゥルーズ』、ドイツの『ヴァルター・ベンヤミン』……歴史上の著名な哲学者の中にも自殺で生涯を終えた者がいる……」
 息を整えながら、ぼくは考察を進めていく。
「……まさか、ぼくが体験しているこの現象が哲学者達の『自殺』の原因なのかッ!? 『哲学』を極めた先に存在する『深淵』、『虚無の哲学』が人の精神を『自殺』へと追い立てるというのかッ!?」
 恐ろしい事実を認識しながら、ぼくはゆらりと立ち上がる『学生』へと目を向ける。
「だが、もう『危機』は去ったッ!」
 不敵な態度でぼくは言い放つ。
 事実、『学生』坂上の目にはぼくの姿は映っていないのだから。

 

«岸辺露伴の姿は『認識』できない!»

 

 そう、最初に『ヘブンズ・ドア―』の能力で『本』に変えた際に、『命令』を書き込んでいたのだ。
 この男と関わりを持った者は『虚無の哲学』に呑まれ、自殺衝動に苛まれてしまう。
ならば、彼の『認識外』にあれば害を受けることはないッ!
「だけどそれでも、それでもなおあなたが干支神という名の輝かしき星、すなわち頂点(ピリオド)を目指すのならば、このウサたんカンパニー代表取締役最高経営責任者、ちょっぴり意識高い系に言うところのCEO、CEOである私ウサたんことウサPP……」
『学生』坂上、否『虚無の哲学者』が意味不明な言葉を羅列する。
 同時に、ぼく達が居る空間が歪み、風景はドロドロとバターのように溶けていく。
「……変身」
 一声と共に、『虚無の哲学者』の姿が眩い光に包まれた。
 身体には変化は見られず、きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が『陰茎』というか『男性器』というか『亀の頭』のような形状へ変化していた。
「何だッ!? その『姿』はッ!?」
「『ハイメガザーメン……」
 亀頭男が『攻撃』の動作に入り、ぼくが咄嗟に『ヘブンズ・ドア―』を出現させ防御の姿勢を取らせた、その直後……
 ぼくは元居る世界へと戻っていた。

☆☆☆

 気づいたときには、ぼくは元居た場所、『W大学』の『本キャンパス』の正門に突っ立っていた。
 周囲を行く学生達も自殺衝動に呑まれた様子もない。
「……ハァ……ハァ……恐ろしい敵だった……! あと一歩、ほんの一瞬の判断が遅れていたら、ぼくの命はなかった……それにしても最後に見せたあの『姿』は一体?」
 坂上が去り際に見せた男性器を頭部に載せたような奇妙な姿。
 あの異形が、彼の『正体』だというのだろうか?
「たしか、それらしいことが『本』に書いてあったな……名前は坂上逆孤、またの名を……哲学する男性器『ペニス―ツマン』、だったか?」
 思案しながら、ぼくはキャンパスを離れ、歩き出す。
 十二分に『大学』の『取材』が行えた以上、ここにいる理由はない。
「思わぬ収穫があった……『哲学』の怪人『ペニス―ツマン』か……また一つ、素晴らしい漫画のネタを得ることができた。さて、『ラーメン』でも食べて帰るとしよう。どれを選ぶか、目移りしてしまうな……」
『ラーメン激戦区』の通りを歩きながら、ぼくは帰路についた。

 

⇒『W大学の哲学科』―取材終了