ペニス―ツマン in アローラ 前編

 アローラ地方・アーカラ島。
 世界的に有名なリゾート地とされるハノハノビーチに、夜の帳が下りていた。
 日中は太陽に眩く照らされている純白の砂浜も、今は漆黒に染まっている。
 さざ波が静かに打ち寄せる中、闇に紛れるように一人のスーツ姿の男が佇んでいた。
「とうとう見つけたぞ。お前だな、近頃『島巡り』を荒し回っているというやつは」
 引き締まった上半身をさらけ出した、浅黒い肌の青年が語りかけた。
 アーカラ島の三人の『キャプテン』の一人、ほのおポケモンの使い手・カキである。
「誤魔化したってムダですよ。このアローラ地方で、そんなにキッチリとしたスーツを着てる人なんて、そうは居ないのですから」
「ライチさんを傷つけたこと、きっちりとお返しするんだからっ!」
 青色の髪の襟足が跳ねたショートヘアの少女・スイレン
 緑色の髪と大きな花飾りが特徴的な少女・マオ。
 残る二人の『キャプテン』の少女達もまた、スーツ姿の男を取り囲むように立ち塞がる。
「サカノウエ・サカコと申します。またの名を、哲学する男性器『ペニスーツマン』……」
 スーツ姿の男・サカコが堂々と名乗りを上げた。
 困惑する三人の『キャプテン』達を余所に、サカコは徐にスラックスのジッパーを下ろし、己の逸物をぼろんと出した。
「変身」
 突然の露出行為にひぃっ!?と悲鳴を漏らす少女達に構わずサカコが宣言すると、その逸物から神々しい光が放たれた。
 白濁とした閃光に包まれながら、その姿は異形へ変貌していく。
 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
「ペニス―ツマン、爆現」
 眼前で出現した珍妙な姿形のモンスターに、様々なポケモンと相対してきた『キャプテン』達でさえも言葉を失っていた。
「……ポケモンとは程遠い異形……まさかお前が噂の『ウルトラビースト』とかいう存在なのか……?」
「ウルトラビースト先輩……」
 辛うじて口を開いたカキが困惑の言葉を浮かべ、対峙するペニスーツマンが曖昧な言葉を返す。
「……オォン!」
 やがてペニスーツマンはビクビクとその亀頭部を震わせ、三人の『キャプテン』を威嚇し始めた。
「頼むぞ、エンニュート!」
「お願いします、ヨワシ!」
「行っけぇ、ラランテス!」
『キャプテン』達は即座に、各々が鍛え、育て上げた『ぬしポケモン』と呼ばれる切り札を繰り出した。
 どくトカゲポケモン、エンニュートが喉を震わせ
『海の魔物』と恐れられる『むれたすがた』のヨワシが咆哮し
 鎌状の花びらを振りかざしながら、ラランテスが威嚇する。
「アローラを脅かす脅威……ここで排除させてもらう! エンニュート、『はじけるほのお』!」
 ヴェラ火山公園の『ぬしポケモン』、エンニュートが業火を吐き出した。
「アツゥイ!」
 直撃を受けたペニスーツマンは炸裂した炎に弾かれ、砂浜を転げ回る。
「ずいぶんとイキのよさそうな珍種ですね。ヨワシ、『みずてっぽう』で追撃を!」
 せせらぎの丘の『ぬしポケモン』、ヨワシが激流を放射した。
 特性『ぎょぐん』により『むれたすがた』となっているヨワシの『みずてっぽう』は『ハイドロポンプ』を凌ぐ威力を誇ると言われている。
「溺れるっ!溺れるっ!」
 激流に呑まれたペニスーツマンが奇声を上げながらのたうち回る。
「ラランテス! トドメの『ソーラーブレード』!」
 シェードジャングルの『ぬしポケモン』、ラランテスが光を束ねた斬撃を打ち放つ。
「……アーイキソ」
『パワフルハーブ』により力を溜める隙を補いながら繰り出した『ソーラーブレード』に引き裂かれ、ペニスーツマンは何やら諦めの言葉を呟いていた。
 ペニスーツマンの身体は軽々と吹き飛ばされ、ハノハノビーチの一角に大きな砂塵を巻き上げた。
「やったぁ! 」
 確かな手応えを感じ、マオが歓喜の声を上げる。
「気を抜くな。アレが何であれ、悪さをするならばオレ達で『捕獲』しなくてはならない」
「どうぞどうぞ。あいにく、わたしはみずポケモン専門なので」
 スイレンの軽口に頭を掻きながら、カキはペニスーツマンの元へと歩み寄っていく。
 エンニュートを傍らに携え、油断なくモンスターボールを構えながら近づくと
「『(スペルマ)りゅうせいぐん』!」
 ペニス―ツマンが突如、攻撃を繰り出した。
 その頭頂部から打ち上げた白濁の玉が花火の如く爆ぜ、ハノハノビーチを塗りつぶすように精液の隕石が降り注いだ。
 白濁の隕石群の直撃により、砂浜は視界を覆い尽くす程に巻き上げられた。
「な、何が起きたんだ……!?」
 ペニスーツマンの反撃により、状況は一変していた。
 突然生じた事態に驚愕しながらカキが周囲を見渡すと、傍らでは相棒のエンニュートが精液に塗れた状態で横たわっていた。
「馬鹿なっ! エンニュート!?」
「鍛えに鍛えあげたヨワシが……そんな……」
「ラランテス! お願い、目を覚ましてっ!」
 ペニスーツマンの『りゅうせいぐん』の一撃で、『キャプテン』達が誇りし三匹の『ぬしポケモン』は全滅していた。
「ドキッ☆加藤智大だらけの水泳大会!」
 ペニスーツマンが陽気な声で、意味不明な台詞を叫ぶ。
 カキ・スイレン・マオは怒りのままにモンスターボールを取り出した。
「出てこい、ガラガラ!」
「お願いっ、オニシズグモ!」
「仇をとって、アママイコ!」
『キャプテン』達は手持ちの中から最も高レベルのポケモンを繰り出した。
『アローラのすがた』のガラガラが炎を宿した骨を振り回し
 オニシズグモが頭部の水泡を震わせ威嚇し
 アママイコが可愛らしい顔で精一杯にらみつける。
「『ぬしポケモン』でさえも一撃でやられたんだ。出し惜しみは無しで行くぞ!」
 カキの言葉の意図を察した二人の少女は静かに頷いた。
 カキ・スイレン・マオのZクリスタルが光り輝く。
 カキは燃え盛る炎を模した踊りを
 スイレンは揺蕩う水面を模した踊りを
 マオを咲き誇る花を模した踊りを
 それぞれが捧げた。
 三人の『キャプテン』達の『ゼンリョクポーズ』に共鳴するように、ポケモン達がZパワーを身体にまとっていく。
 ガラガラ・オニシズグモ・ラランテスが解き放つ全力の『Zワザ』!
「『ダイナミックフルフレイム』!」
「『スーパーアクアトルネード』!」
「『ブルームシャインエスストラ』!」
 三種の『Zワザ』が炸裂し、夜のハノハノビーチの一角は眩く照らされた。

☆☆☆

 メレメレ島・ハウオリシティ。
 アローラ地方に建設されたポケモンリーグ
 その初代チャンピオンとなった少女・ミヅキは、リーリエと共にショッピングエリアへ訪れていた。
 長い金髪をポニーテールに結び、動きやすそうなミニスカートを履いた通称『がんばリーリエ』スタイルのリーリエであるが、その表情には影が落とされていた。
「わたし……心配です……『しまキング』さんや『キャプテン』さんが次々とやられてしまうなんて……」
 アローラ地方に突如出現した『スーツ姿の男』。
 その男が『しまキング(クイーン)』や『キャプテン』といったポケモンバトルの達人達を手当たり次第に襲い回っているという。
 ポニ島・ウラウラ島・アーカラ島の実力者はあらかた駆逐されているため、『スーツ姿の男』は残るここメレメレ島に現れるであろうと予想されていた。
「大丈夫。わたしはそう簡単にやられたりなんてしないよ」
 赤いニット帽がトレードマークの少女・ミヅキがにっこりと微笑んだ。
 数々の冒険を共に繰り広げ、多くの強敵達を打ち破り、最期にはアローラ地方のチャンピオンにまで登りつめた少女を、リーリエは心の底から信頼していた。
 それでも、心に突き刺さるような不安は拭えない。
「気をつけてください、ミヅキさん……いやな予感がするのです……その、噂で聞いた『向こうの世界』と関係する何かがやってきているのかもしれませんし……」
「大変だよぉー!!!」
 リーリエの言葉を、突如来訪した少年の声が遮った。
『島巡り』の冒険仲間の一人、ほがらかな笑顔が特徴的な少年・ハウである。
 しかし、その表情は珍しく焦燥した様子であった。
「じいちゃんがー! じいちゃんがやっつけられちゃったんだー! あとイリマさんもー!」
 ハウの言葉に、ミヅキとリーリエは驚愕に目を見開いた。
 ノーマルタイプの使い手、メレメレ島の『キャプテン』イリマ。
 そして、『しまキング』かつ『してんのう』の一角をも担う実力者であるハラが敗北したという事実に、ハウは悔しそうな面持ちで続ける。
「おれ、悔しいよー……じいちゃんのカタキをうちたい……だからさー、ミヅキも手伝ってー!」
「うん……わかったよ!」
 ミヅキは二つ返事で引き受けた。
 アローラの初代チャンピオンとして、これ以上の犠牲者が出るのが許せなかったのである。
「わたしも協力させてください! この通り、スプレーやお薬なら、たくさん持っていますからっ!」
 リーリエもまた、多種多様などうぐが収まっている赤いリュックサックを見せつけながら宣言する。
「ありがとー、リーリエー! さっそくだけど、なんかビーチの方で騒ぎが起きてるみたいだから、一緒に来てー!」
 ハウに先導される形で、ミヅキ・リーリエはブティックを去り、ビーチサイドエリアへと駆け出した。

☆☆☆

「なにやってんだ、グズマァァァアア!」
 真昼のビーチに一人の男の叫びが轟いた。
 元スカル団ボス・グズマの咆哮である。
 隣りにはエースポケモンであるグソクムシャが倒れ伏している。
「このおれが……よりにもよって『むしポケモン』使いにやられるとはな……」
 忌々しげな視線を送りながら、グズマが呟く。
 その眼前には、スーツ姿の男・サカコが虚空を見つめながら突っ立っていた。
「あーっ!『スーツ姿の男』ー! じいちゃんのカタキ、見つけたぞーっ!」
 ハウの大声に反応し、サカコはゆったりと視線を向ける。
「あのグズマがやられるなんて……」
 次いで駆けつけてきたミヅキが、険しい顔で言葉を漏らした。
 元スカル団ボス・グズマが『キャプテン』や『しまキング』にも引けを取らない実力者である事は、実際に手合わせした彼女自身が最もよく知っていた。
「ミヅキさん、ハウさん……お気をつけて……あの、ポケモンさん達をげんきにしましょうか?」
 リーリエが遠慮気味に声をかけるが、ミヅキは視線で下がるように伝えた。
 やがて、モンスターボールを手にした二人がサカコの前へと立ち塞がった。
「……サカノウエ・サカコと申します」
「おれはハウ! おまえがやっつけた『しまキング』ハラの孫だよー! じいちゃんのカタキ、とらせてもらうからねー!」
 丁寧に自己紹介するサカコを相手に、ハウは闘志をむき出しに応じる。
「あなたがアローラを荒し回っている『スーツ姿の男』なの?」
 ミヅキが単刀直入に切り出すと、サカコはクネクネと身を捩らせながら、二つのモンスターボールを取り出した。
「いかにも……! 一人一人相手をするのも面倒です。二人同時に、かかってきなさいっ!」
 サカコの挑発的な宣言に呼応するように、ミヅキとハウはポケモンを繰り出した。
「出てきて! ドデカバシ!」
「いっけぇ! ライチュウ!」
 その名の通り巨大な嘴が特徴的なとりポケモン・ドデカバシとサイコパワーで宙に浮いてる『アローラのすがた』のライチュウがペニスーツマンと対峙する。
「スピアー! アブリボン! 膣内(なか)で出すぞっ!」
 謎の口上と共に、サカコは2匹のむしポケモンを繰り出した。
 なお、ミヅキとハウは意味がわからず首を傾げているが、リーリエは顔を真っ赤に染めながら俯いていた。
「あの黄色いのはアローラではみないポケモンだねー?」
「あれはスピアーだよ。カントーに住んでたときに見たことがある。たしか、『むし』と『どく』タイプのポケモンだったと思う」
 ハウに視線で合図を送りながら、ミヅキが答える。
「……そっかー。うん、わかったよ! ライチュウ、スピアーに『サイコキネシス』!」
「ドデカバシ! アブリボンへ『ドリルくちばし』!」
 念動力波がスピアーを襲撃し、ドリルのように回転する嘴がアブリボンの小さな体を穿つ。
 こうかはばつぐんだ!
 ミヅキとハウは、各々のポケモンに的確に弱点を突かせる指示を下した。
「スピアー、『こうそくいどう』……アブリボン、『ちょうのまい』……」
 スピアーが翅を高速で羽ばたかせ、アブリボンが神秘的な舞を踊り、すばやさ等の能力値を上昇させていく。
「積んできた……一撃で倒せると思ったんだけど、ずいぶんと育て上げているみたいだね……」
 ミヅキが思わず漏らした感嘆の言葉にも反応せず、サカコは淡々と指示を下していく。
「スピアー、『ドリルライナー』」
ライチュウ、もう一度『サイコキネシス』だ!」
 眼にも映らぬ超スピードで迫り来るスピアーが、ドリルのように回転しながら毒針をライチュウへと突き刺した。
 きゅうしょにあたった!
 こうかばつぐんだ!
 スピアーの特性『スナイパー』の効果により、その威力は激増された。
 その一撃は、ハウが育て上げたライチュウをも容易くひんし状態へせしめた。
「うわぁ! ライチュウーっ!」
 慌てて駆け寄るハウを他所に、サカコが更なる指示を飛ばす。
「アブリボン、『しびれごな』」
「まひ」状態を引き起こすアブリボンの鱗粉がドデカバシへと降りかけられる。
 しかし……
 ドデカバシはミヅキを心配させまいと、気合で「まひ」を治した!
 トレーナーとの絆の力は、ときに何よりもポケモンバトルの行方を左右させる。
「ドデカバシ、『はがねのつばさ』!」
 ドデカバシの鋼の如く固めた翼がアブリボンへと叩きつけられる。
 こうかばつぐんだ!
 アブリボンもまたひんし状態となり崩れ落ちた。
「……じゃあ私アブリボンで普通にシコるね」
「これでお互いに残り一体、だね」
 サカコの言葉の意味が理解できず怪訝な表情となるが、ミヅキは構わずに続けることにした。
 すると、サカコは徐にネクタイを緩め始めた。
「ギアをあげていくぞっ!」
 スピアーのスピアナイトとサカコのメガストーンが反応した!
 ネクタイに埋め込まれたメガストーンが輝き、スピアーは共鳴するように眩い光を纏っていく。
 六枚に分割された翅に五本に増えた凶悪なる毒針。
 全体的にシャープなフォルムとなったその姿は紛れもなく、スピアーが『メガシンカ』した姿、メガスピアーであった。
「これは……『メガシンカ』だな。ミヅキ、気を引き締めてかかれよ!」
 いつの間にか現れた男がミヅキに檄を飛ばした。
 鍛え上げた上半身に白衣を羽織った独特のファッションが特徴的な『ポケモンはかせ』・ククイ博士その人である。
「ククイ博士……わかりました。ドデカバシ、『くちばしキャノン』準備開始!」
 ミヅキの指示を受け、ドデカバシは嘴を加熱し始めた。
メガスピアー、『どくづき』」
 サカコが抑揚のない声音で指示を下す。
 メガスピアーが猛毒に染まった針を突き刺すも、ドデカバシは真っ赤に加熱した嘴で受け止めた。
 メガスピアーは加熱中の嘴に接触したことにより「やけど」を負い、ドデカバシは「どくづき」の追加効果によって「どく」状態となった。
「いけっ!『くちばしキャノン』、発射!」
 ミヅキの掛け声と共に、ドデカバシの嘴の中で加熱されたエネルギーが一気に解放され、メガスピアーに襲いかかった。
「……残像だ」
 メガスピアーはサカコの指示に息を合わせて技をよけた!
 サカコもまたポケモンとの絆の力を見せつける。
「スキの多い技じゃあ避けられちゃう……ドデカバシ、最速最短で『ドリルくちばし』!」
メガスピアー、『シザークロス』」
 ドリルのように旋転させたドデカバシの嘴と鋏のように交差させたメガスピアーの毒針が、真正面から激突した。
「シザークロス」はドデカバシにとって「こうかはいまひとつ」となる技であるが、メガスピアーの特性『てきおうりょく』によってその威力は底上げされていた。
 何とか耐えていたドデカバシであったが、やがて「どく」のダメージに身体を蝕まれ、白い砂浜へと倒れ込んだ。
「うそ……『やけど』を負っていたのに、何て威力……」
 ぶつり技の威力が下がる「やけど」状態でドデカバシを退けたメガスピアーの力に、ミヅキは驚愕の声を漏らす。
 そんなメガスピアーもまた、「こうかばつぐん」となるひこう技を受けた上で「やけど」によるダメージが回り、ひんし状態となり倒れた。
「お見事……残りのポケモンは1体ですが……この場にいる全員でかかってくるのが良いでしょう。誰にも『ペニスーツマン』は止められないのですから……!」
 サカコの挑発的な言葉に、ククイ博士は不敵な笑みを浮かべる。
「ほぉ……それは、ぼくも参戦していいってことかな? あとで『いちゃもん』つけたって、聞かないからね?」
 ククイ博士はモンスターボールを取り出しながら、好戦的な視線をサカコへ注ぐ。
「おれだってー、まだまだ負けてないんだからねーっ!」
 ハウもまた、闘志を燃やしながら声を上げる。
「随分と強気なようだけど、『でんせつのポケモン』でも持っているのかな? それとも『ウルトラビースト』を捕獲したとか? 悪いけど、そのどちらとも、わたし達は渡り合っていたんだからねっ!」
 ミヅキの宣言を合図に、ククイ博士とハウがモンスターボールを投げる。
「お願いっ! アシレーヌ!」
「いっけぇ! ガオガエン!」
「頼んだよ! ジュナイパー!」
 人魚を彷彿させる姿のソリストポケモン・アシレーヌ
 眩く燃える炎のベルトが特徴的なヒールポケモン・ガオガエン。
 百発百中のアーチャーと呼ばれし矢羽ポケモン・ジュナイパー。
 ミヅキ・ハウ・ククイ博士は最も付き合いが長い、パートナーとも呼べるポケモンを繰り出した。
 対するサカコは徐にスラックスのジッパーを下ろし、己の逸物をぼろんと出しながら宣言する。
「変身!」
 逸物から放たれる白濁とした閃光に包まれながら、その姿は異形へ変貌していく。
「我が名は哲学する男性器『ペニス―ツマン』……命をかけて、かかってこい!」

 アローラ地方に君臨せし怪人『ペニス―ツマン』との激闘は続く。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ 最終話

「逃げなくちゃ……逃げなくちゃ……」
「晴風」の艦橋にて、航海長・知床鈴(しれとこりん)が涙目で操舵輪を握っていた。
「生きることから逃げなくちゃ……!」
 涙で溢れた瞳は、『虚無』で染まっていた。
「晴風」を沈めるべく、鈴は暗礁に向けて舵を切る。
「生きることから、逃げちゃ駄目だよ」
 背後から光宗が優しげに声をかけた。
 ひぅ……と悲鳴を漏らす鈴に対し、光宗が続ける。
「君がどんな『ナナキ』……トラウマを抱えているのかはわからないけど……それはちゃんと受け入れないといけないものなんだよ」
 光宗の言葉に、操舵輪を回す鈴に動揺が走った。
「私はね……その、よく『即席占い』みたいのことをしてたんだけど……」
 鈴の手を優しく握りながら、真咲が語りかけた。
「『横断歩道の白いとこだけ歩いて渡れたら風邪ひかない』みたいな感じでね……何かが出来なかったら、不幸になってしまうって思い込んでたの……」
 首を傾げる鈴に対して、真咲は微笑みながら
「でもね、何かを達成できれば、幸せになれるって考えれば、前向きになれると思うんの……例えば『今、戦っている人達が怪物に勝てるかどうか』で占ってみるとか」
「だって……でも……勝てるはずないです……みんな、みんな、やられちゃっているんです!」
 涙目で反論する鈴に対し、光宗と真咲が首を振る。
「全てを諦めるのは戦いを見届けてからでも、遅くはないよね?『ナナキ』よりも恐ろしい怪物を、あの人達は確実に追い詰めてる」
「一緒に勝つ方に賭けましょう。その方がきっと、ここで投げ出すよりも幸せになれるから」
 二人の言葉に、鈴は泣きながら崩れ落ちた。
 真咲が彼女の頭を撫でながら介抱しているのを見届けて、光宗は心の中でひとり呟く。
(僕は信じる。どんな『ナナキ』よりも醜悪なあの怪物を、みんなで力を合わせれば必ず倒すことが出来るって)
 艦橋から戦場となっている甲板を見下ろしながら、光宗もまた『勝利』に賭けた。

☆☆☆

「ゼロシステムがあればアニメキャラの無限のスケベな可能性を見ながら常人では耐えられないGがかかるオナニーを遂行できる」
 淡々と宣言するペニスーツマンを、スバルとエミリア・キュアミラクルキュアマジカルの四人が絶望的な眼差しで見つめていた。
 番場宗介の『影鰐』の腹の底よりあっさりと帰還した異形を前に、彼らは対抗策を失っていた。
 比類ない物理的な頑強さを誇り、その上『魔法』の類は『カウパーバリア』によって無力化される。
 特に後者は『魔法つかい』と『精霊使い』にとって致命的ともいえる特性であった。
(……考えろ……考えろ……何か、何かあるはずだろうがっ! ここまでアイツを追い詰めたってのに、これじゃあ、また無駄死になっちまうじゃねぇか!)
 スバルがこれまでのループの経験を反芻しながら必死に対抗策を考えている中、ペニスーツマンは気にせずに『ペペローション』を取り出した。
「『アクセルローション』!」
 雄々しく宣言しながらオレンジ色の容器を握り潰し、ペニスーツマンがローションを全身に浴びる。
 ローションによる摩擦の軽減から生まれる超スピードで、ペニスーツマンが容赦なく突貫した。
「ヌッッッ!?」
 ペニスーツマンは何かを足を取られてすっ転び、超スピードでドンガラガッシャンと瓦礫を巻き上げながら甲板を転がっていった。
「あ、アンタは……」
「『足元がお留守だぜ』って一回は言ってみたい台詞だよな?」
 膝丸燈が『大蓑蛾』の『糸』をもって、ペニスーツマンの足元を掬ったのであった。
 憔悴した様子で身体を引きずりながらも、燈はスバルへと問いかける。
「なぁ、その女の子達の『魔法』を打ち込めば、本当にあの化物を倒せるのか?」
「あ、あぁ……そのはずだったんだけど……アイツには……」
「要はヤツの汚ねぇ『ガマン汁』を取っ払えば、その『魔法』とやらが通じるようになるんだろう?」
 ミッシェル・K・デイヴスが引き継ぐように言う。
 黙って頷くスバルと『プリキュア』の少女達の元に、多数の人影が募っていく。
「……もう残された手立てはこの子達の『魔法』しかねぇ! そのためには、アイツを丸裸にする必要があるんだ!」
「なら、そのための露払いは任せろ」
『異世界人』達の意思が一つに統合された。
 ペニスーツマンという脅威を打倒するために。
「全てうやむやにしたい……『インセクト・エジャキュエーション』ッ!!!」
 燈とミッシェルの変態した姿をオカズに、ペニスーツマンが最大級の射精を放つ。
「「『共振(レゾナンス)』!!!」」
 焔魔堂ろくろと化野紅緒が手を繋ぎ合いながら、一つの霊刀を振るう。
双星の陰陽師』に受け継がれし秘術『共振』。
 互いの呪力を重ね増幅させる秘術をもって、二人は莫大なる呪力を込めた霊刀を振るい、『インセクト・エジャキュエーション』を切り裂いた。
 精液を浴びて失神したろくろは兎も角、まんこを破壊された紅緒が動ける理由。
 それは……
「……ざまぁ……みやがれ……」
 精巣を捻転され、『ハイメガザーメン砲』の直撃を受けた東方仗助が、気力を振り絞り立ち上がっていた。
 仗助が『クレイジー・ダイヤモンド』の能力をもって、ペニスーツマンとの戦いの中負傷していった『異世界人』達を治療していたのである。
「す、すごい……」
「さぁ! コレでHPを回復させてください! 最後にとっておいた虎の子の回復アイテムですよ」
「お前達が最後の希望だ。遠慮なく使ってくれ」
 呆気に取られながら陰陽師達の活劇を見守っている『プリキュア』の二人に、鬼斬の姫君・静御前義経が声をかけた。
 ミラクルとマジカルが手渡されたソウルエッグ(回復アイテム)を手に取り、眩い光に包まれていく。
「癒しの魔法が込められているのね! 助かるわ!」
「私のマナも使って。もどかしいけど、私も少しでも役に立ちたいの」
 エミリアの掌から注がれるとマナの光を受け、二人の魔力が充填されていく。
「アイツの真の恐ろしさは『免疫力』にあるんだ……一定以上の攻撃を受けると、その性質に対して耐性を得てしまう……それでも……」
 ペニスーツマンと相対する緑谷出久が、ブツブツと念仏のように呟く。
「『DELAWARE SMASH』ッ!」
「『エコーズ』ッ!」
『ワン・フォー・オール』により生み出された衝撃波と『エコーズ』の尻尾文字がペニスーツマンに打ち込まれる。
 無論、『個性』と『スタンド』に対して耐性をつけたペニスーツマンの『カウパーバリア』によって容易に防がれる。
「『スタンド』が効かないのは折り込み済みだよ。それでも本当に、君は『無敵』なのかな?」
「おまんこの食い上げだ~」
 広瀬康一が不敵な表情で語りかける。
 上機嫌のペニスーツマンが無視しながら反撃に転じようとした瞬間に、その身体がパパパパン!と弾けた。
「今のは『魔法』でも『超能力』でもない。唯の『科学反応』だよ、クソッタレ」
 ミッシェルが見下しながら宣言する。
『爆弾蟻』が産み出す揮発性の液体をプロレスにおける『毒霧』のように吹きかけたのである。
 出久と康一の攻撃に気を取られていたペニスーツマンは呆気なく直撃を受けていた。
「状況によっては、原始的な武器の方が効果をあるということだ! やれっ、無名!」
「この距離なら外さないよ」
 生駒が大量の『自決袋』を投擲し、無名の蒸気銃による狙撃が着火させていく。
 指向性爆弾の爆撃を受け、ペニスーツマンの『カウパーバリア』は全て剥がされた。
「今だっ!『彗星ホームラン』っ!」
 麗日お茶子が破損した艦砲の砲身をバットのように振り回し、ふわふわと浮かぶ瓦礫群を打ち飛ばした。
『無重力』によって浮かされた瓦礫の雨がペニスーツマンを襲撃し、その身体を軽々と吹き飛ばした。
「責任重大だね、マジカル」
「わたし達なら、きっとできるわ。いくわよ、ミラクル」
 真摯な表情で語りながら、二人の『プリキュア』は飛んでくるペニスーツマンへとリンクルステッキを掲げた。
「「リンクルステッキ・ダイヤ! 永遠の輝きよ、私たちの手に!」」
 リンクルストーン・ダイヤが装着され、リンクルステッキに光の力が巡っていく。
「「フル、フル、リンクル!」
 ミラクルとマジカルがステッキを振るうと、ダイヤモンド状の魔法陣が二人の眼前に現れる。
「それでもあぁーーーー!街はぁーーーーーーーーーー!!」
 最後の足掻きのようなものなのだろう。
 ペニス―ツマンは叫び声を上げながら、金色の光に包まれていく。
 その姿は『怒りのハイパーモード』。
 全ての能力が893倍に増幅されるという恐るべき形態である。しかし、代償として前立腺の感度が334倍になってまうという欠点も持つ、諸刃の剣ともいうべき姿であった。
 ペニスーツマンが空中で体勢を立ち直し、亀頭部をミラクルとマジカルの二人へと差し向け、精液の奔流を放たんとする。
「『ハイメガザーメン……」
「『シャマク』っ!」
 瞬間、ペニスーツマンの視界は暗闇に閉ざされた。世界の形も、色も臭いも、一切の感覚が封じられていく。
 それは、スバルが唯一習得した『魔法』であった。
 陰魔法『シャマク』。
 かつて魔獣ウルガルムを翻弄したときのように、スバルはここ一番で最大の切り札を使用した。
 スバルを中心に生成された黒雲の中で、ペニスーツマンはほんの数秒間、膠着した。
 そんな僅かな時間が決め手となった。
『『プリキュア・ダイヤモンド・エターナル!』』
 最初にペニスーツマンは巨大なダイヤモンドの中に捕らわれた。
 二人の掛け声を合図に、ダイヤモンドはペニスーツマンを載せて遥か上空まで射出。
 光の尾を引きながら成層圏まで達し、外気圏を悠々と突き抜けていく。
 宇宙空間を突き進み、太陽系を外れ、天の川銀河からも抜けていく。
「ほな………」
 宇宙の彼方まで運送されたペニスーツマンが明確な『死』を覚悟した。
 瞬間、ダイヤモンドはビックバンの如き大爆発を引き起こし、宇宙の片隅に豪奢な花火のような閃光が瞬かせた。
 金魔法『ダイヤモンド・エターナル』。
 みらいとリコが『プリキュア』として覚えた最初の『魔法』である。
「本当にお星様になっちゃった……」
「永く生きているけど、こんな『魔法』を見たのは初めてだよ……」
 エミリアを初めとした『異世界人』達は、想像を遥かに超えた『魔法』の威力を天を仰ぎながら見届けていた。
 世界を滅ぼす力を秘める『終末の獣』・パックすらもドン引きさせる『魔法』を放った張本人の二人は、脱力しながら甲板に倒れ込んでいた。
「やったね、リコ?」
「みんなが力を貸してくれたおかげよ。これで、ようやく一安心ね」
 変身が解除され、ただの女子中学生へと戻ったみらいとリコが微笑みながら語り合う。
「あぁ、ようやく一安心だよ……本当に、本当に長かった……」
 幾度なくペニスーツマンに挑んでは敗北してきた記憶を持つスバルが、感慨深く呟いた。

☆☆☆

 其処は、霧の深い森であった。
 得体の知れない果実がなる森林は、何処か異世界じみた雰囲気を醸し出していた。
「……2時間半くらい気絶してた」
 ペニスーツマンが一際大きな樹木に背を預け、身体を休めていた。
 その股間には、『黄金の果実』が眩く輝いている。
 絶体絶命の危機の中、ペニスーツマンは『鎧武』の世界で獲得した『オーバーロード』としての能力を使い『クラック』を展開、間一髪『ヘルヘイムの森』へと避難したのであった。
「本気のキモオタおたおたレイプ見せてくれよ……!」
 言いながらペニスーツマンは再び『クラック』を展開する。
 空間に生じた裂け目からは、青い地球が覗いていた
「『スペルマ流星群』のバリエーション……『プラネット・レイプ』!」
『クラック』へ向け、ペニスーツマンは星一つ孕ませる程のザーメンを射精した。
 直後に、ペニスーツマンとしての姿すら維持できなくなり、坂上逆孤が樹木の側にドカっと倒れ込んだ。
「……2日連続でシコってしまったため明日は反動で廃人になる」
 酷く憔悴した様子で、坂上が呟いた。

☆☆☆

「皆さん、本当にありがとうございました! 感謝の言葉もありません!」
「晴風」艦長・岬明乃が船員達を甲板まで引き連れていた。
 その全員が深々と頭を下げ、感謝の意を示している。
「いやぁ……俺達の身を守るためでもあった訳で……」
 何となく代表者になっているスバルが頭を掻きながら言葉を濁していると……
「晴風」の船体に影が落ちた。
「……な……なん、だ……?」
 スバルが怪訝な表情で空を見上げると、空を覆い尽くすかのように広大な巨大な『白濁の塊』が落下していた。
 理性が理解を拒み、思考が静止していく。
 ペニスーツマンの攻撃であると受け止めるのに、スバルは数秒程の時間を要した。
「さ、坂上ェェェェッッッ!!!」
 スバルが天に向けて咆哮する。
 同時に、『魔法』や『スタンド』、『個性』に『陰陽術』。
 あらゆる異能で『異世界人』達が『白濁の塊』を迎撃しようと試みるが……
 全ては無為に終わり、陽炎型航洋直接教育艦「晴風」は精液の直撃を受け、粉微塵に爆散した。

☆☆☆

 次の瞬間、スバルは硬い甲板の上で目を覚ました。
 寝起きのよさには定評があるスバルは瞬時に意識を覚醒させ、周囲を見渡した。
 そこは紛れもなく「晴風」の甲板ではあるが、先程まであった戦闘の痕跡は一切ない、綺麗に手入れの行き届いた甲板であった。
「畜生ォ……また、戻っちまったのか……!」
 ガンッ!床に拳を叩きつけながら、スバルが憎々しげに呟いた。
『死に戻り』が発動したということは、ペニスーツマンの攻撃でスバルが命を落としたという事実の証明である。
 宇宙の彼方まで追放しても尚、ペニスーツマンを倒しきることは出来なかった。
 絶望的な状況に辟易としながらも、スバルは隣で安らかに寝息を立てる銀髪の少女を見て決意する。
「俺は絶対に諦めねぇ……! アイツをブチのめして、エミリアと一緒に元の世界に帰るんだ……!」
 ナツキ・スバルの○○回目のループが始まる。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その6

「全身全霊本気の二次元まんこへの愛をぶつけてこい。ちんこでも構わん。幻想の彼岸を飛び越えて羽ばたけやオタク、忌まわしき劣情と共に!」

 

魔法つかいプリキュア』朝日奈みらいと十六夜リコ。
『死に戻り』の青年、ナツキ・スバルと『精霊使い』のハーフエルフ、エミリア。
「晴風」船員の少女達の治療を終えた四人が、ペニスーツマンと相対していた。
「畜生……全員やられちまったのか……」
 苦虫を噛み潰したような面持ちで、スバルが思わず呟いた。
「それでも無傷という訳ではなさそうだよ。それなりの深手は負っていると見てもいいね」
 呑気な調子を崩さずに精霊猫・パックが分析した。
「……まだ死んでいないなら、私が必ず治すわ……治療する時間を稼いでくれた借りがあるんだもの……そのためにも、あの『魔獣』を倒さないと……!」
 エミリアが銀鈴のような声で囁きながら、精霊の光を結集させていく。
「くっさい臭いがプンプンするモフぅ〜〜〜! 鼻が曲がりそうモフぅ〜〜〜!」
 喋るぬいぐるみ・モフルンが涙目で鼻を押さえながら甲板を転げ回る。
「恐ろしい力を感じるわ……あの『ドクロクシー』にも匹敵するかもしれない禍々しい魔力……みらい、最初から全力でいくわよ!」
 秘められし力に圧倒されながらも、リコが戦う覚悟を決めた。
「わたし達は負けない! あなたを倒して、リコとモフルンと一緒に元の世界に帰るんだからっ!」
 真っ向からペニスーツマンを見据えながら、みらいが宣言した。
『『キュアップ・ラパパ!』』
 みらいとリコが魔法の呪文を高らかに唱え始めた。
「「『ダイヤ』! ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!」」
 モフルンの胸元にリンクルストーン・ダイヤが装着され、みらい・リコ・モフルンの三人は手を繋ぎながら眩い光を纏っていく。
「二人の奇跡・キュアミラクル!」
「二人の魔法・キュアマジカル!」
「「魔法つかいプリキュアっ!」」
 伝説の魔法つかい『プリキュア』へと変身を遂げた二人が決めポーズと共に名乗りを上げた。
「姿が変わった!? それに、すごいマナ量……」
「コレは『魔導の加護』…… いや、それ以上の力だね。ヒトの身で大したものだよ」
 エミリアが目を白黒させて驚き、パックもまた二人が発する圧倒的なマナを感じ取り感嘆の声を漏らした。
「エミリアたん、それに魔法少女のお二人さん……俺が一瞬、ヤツの注意を引きつける。その隙を狙って攻撃をしてくれ」
 言葉の意図が理解できず困惑している少女達を他所に、スバルはすぅと息を吸い込み
「聞け! 俺は『死に戻……
 瞬間、スバルの主観で、さながら時が止まったかのように風景が静止する。
 音も光もない世界の中、霧状の『漆黒の腕』が眼前に生成され、指一本動かせないスバルの心臓を優しく撫でるように握っていく。
 嗚咽すら許されない空間で激痛を味わいながらも、スバルは内心目論見が成功したことにほくそ笑む。
『死に戻り』の能力を他人に暴露しようとした際に負うペナルティ。
 それにはとある副産物が存在する。
「チンカスぺろぺろぺろぺろ美味しいですって馬鹿かお前はピザでも食えや!」
 突如、ペニスーツマンが亀頭部をスバルへと差し向けた。
 ペナルティを受けた後に、スバルは『魔女の残り香』と呼ばれる臭いを身に付ける。
 スバルは『魔獣』を引き付けるという特性を持つこの臭いを利用し、ペニスーツマンの意識を引き付けたのである。
「させない!『エルヒューマ』ッ!」
 エミリアとパックが突き出した両手から、数多の氷柱の弾丸が放出された。
 ペニスーツマンは身をクネクネと捩りながらら、氷柱の雨を浴び続ける。
「「ハァァァッッッ!!!」」
 スバルが発した『闇の魔法つかい』の如き力に気を取られたものの、意識を切り替えたキュアミラクルキュアマジカルが一足飛びに距離を詰めた。
 圧倒的なパワーを誇る『プリキュア』の拳がペニスーツマンの身体へと叩き込まる。
「……プールで遊び散らして全ての体力を失った」
 瓦礫の山へと突っ込んだペニスーツマンが、憔悴した様子で立ち上がる。
 12人もの『異世界人』達との激闘は、確実にペニスーツマンを消耗させていた。
『チンポチンポセイヤセイヤ! チンポチンポセイヤセイヤ!』
 ペニスーツマンの股間から野太い漢の掛け声のような呪文?が轟いた。スラックスの社会の窓口から覗く逸物には、桃色に輝く『賢者の石』が埋め込まれていた。
「『エクスプロージョン』、ナーウ」
 指輪を股間にかざし、ペニスーツマンが魔法を撃ち放つ。
 ウィザードの世界で習得した『指輪の魔法』を用いてペニスーツマンが反撃に出た。
「気をつけろっ! アイツは『魔法』も使ってくるんだ!」
 スバルの警告に、エミリアと二人の『プリキュア』が静かに頷いた。
「任せてっ!『リンクル・ムーンストーン』!」
「パック! お願い!」
 キュアマジカルが月のリンクルストーンの銀魔法をもって満月型のバリアを出現させ
 パックが雪の結晶の如き障壁を展開した。
 ペニスーツマンの『指輪の魔法』は、二人の防護魔法により完全に防がれる。
「くらいなさいっ! やぁ!」
『精霊使い』の強みは、精霊と術者が攻撃と防御の役割分担を行えるという点にある。
 パックが障壁で攻撃を防いでいる中、エミリアは巨大な氷塊を生成し、ペニスーツマンへと撃ち放った。
「『テレポート』、ナーウ」
 迫り来る氷塊を前にペニスーツマンが瞬間移動の魔法を発動し、空中へと間逃れた。
「逃がさないっ!『リンクル・アメジスト』!」
 キュアミラクルが扉のリンクルストーンを用いた銀魔法を発動させた。
 空中のペニスーツマンは光の扉に捕らえられ、元いた場所に転送される。
 瞬間移動の魔法に同系統の魔法で返されたペニスーツマンは、困惑の中で巨大な氷塊に押し潰された。
「あなた、氷の魔法が使えるのね?」
「えぇ、そうだけど……?」
「なら、力を合わせましょう! 同時に行くわよ!」
 キュアマジカルの言葉に数瞬ぽかんとなっていたエミリアだが、その意図を察した後に力強く頷いた。
「『リンクル・アクアマリン』!」
「『アルヒューマ』!」
 氷のリンクルストーンを用いた銀魔法と氷系統における最上級の呪文がペニスーツマンに浴びせられた。
「……涼し過ぎて凍え死んでる」
 氷塊から何とか這い出た矢先に二つの氷結魔法を喰らい、ペニスーツマンはなす術もなく氷漬けにされていく。
「IN MY DREAM……臭いオタの魔羅……部屋中に一杯敷き詰めて……」
 辞世の句のような事を呟いた後に、ペニスーツマンは氷像と化した。
「や、やっつけたのかな?」
「まだ、油断はできねぇな。アイツはそれこそ不死身に近いしぶとさなんだ。それこそ、宇宙にでも放り込まない限り、安心はできねぇ……」
 スバルの言葉に、ミラクルとマジカルの二人が顔を合わす。
「わたし達はそういう『魔法』が使えるよ!」
「確かに、浄化しきれるかは自信はないけど、少なくとも宇宙まで追放すれば、危機はなくなるってことよね」
「いやっ!? マジでか!? 本気で言った訳じゃなかったんだけど……それじゃあ一丁、あの猥褻物陳列罪をお星様にしてやってくれ」
 ミラクルとマジカルの言葉に仰天しながらも、スバルが促す。
 二人がリンクルステッキを氷像ペニスーツマンへと差し向けた、その時
「肛門の感覚が完全にバカになってる。何も信じられない」
 突如、ペニスーツマンは氷を溶かし現れた。
 お腹を冷やしてしまったため肛門を気にかけている様子である。
 そして、その全身はぬらぬらとした液体でテカっていた。
「マナ破壊術式か!? 何てことだ……!」
 珍しく焦燥した様子でパックが呟いた。
 ペニスーツマンはウィザードの世界において、『魔法』への耐性を身に付けていた。
 ペニスーツマンは『カウパーバリア』を排出することにより、マジカルとエミリアの氷魔法を内部より打ち破ったのである。
「そんな……それじゃあ、どんな『魔法』も通用しないってこと……?」
 エミリアの漏らした言葉に、ミラクルとマジカルの二人が驚愕する。
 二人の切り札たる金魔法『ダイヤモンド・エターナル』が封じられたという事実に、思考と身体が硬直してしまう。
「スキを見せたな!『まんこ破壊光線』!」
 ペニスーツマンがワイシャツをはだけさせ、乳首より桃色光線を放射した。
 呆気に取られる二人の『プリキュア』に向け、まんこを破壊せしめる怪光線が迫り来る。
「させるかぁッ!!!」
 過去のループで得た経験から攻撃を予測していたスバルが、身を呈して光線を受けた。
「男にゃまんこは付いてねぇんだよ! ざまぁみやがれ馬鹿野郎!」
 下品な事を叫ぶスバルに少女達が複雑な視線を向けている最中、ペニスーツマンの身体が突如消失した。
「な、何だ……?」
「済まなかった」
 物陰より、『影鰐』を宿す男・番場宗介が現れた。
 その姿は、『影鰐』の細胞が広がった影響で、全身が漆黒に染まっていた。
「ある程度は制御できるようにはなったが……目前の者を無差別に食い尽くすという『影鰐』の習性までは変えられなかった。故に、大勢の人がいる状況下では使えなかったのだ」
 番場の足元から伸びる巨大な怪異の影が、ペニスーツマンを丸呑みにし、ガジュリガジュリと咀嚼する。
「い、いや……まさかアンタがこんな切り札を隠し持ってたなんてな……マジでヒビった……こんなにアッサリと喰っちまうなんて……」
 異様な光景に恐怖しながらも、スバルは何とか言葉を紡ぐ。
「『影を喰らう』という特性上、『影鰐』に物理的な頑強さは関係ない。それにしても、慎重を期していたつもりだったが、それまで多くの犠牲者をゴガハァッッッ!?」
 突如、番場が苦悶しながら精液が混じった内容物を嘔吐した。
 足元の『影鰐』も同様に、吐き気を催した様に痙攣した後、ペニスーツマンをペッと吐き出した。
「『スペルマ流星群』」
 ペニスーツマンが静謐な声音で呟いた。
 ペニスーツマンは『影鰐』の腹の中を大量の精液で溢れさせることで、身体を逆流しながら帰還したのである。
「馬鹿……な……」
「世界中のオタクの性欲が暴走して取り返しのつかないことになれや。ヒトモドキで溢れ返れ地球」
 崩れ落ちる番場へ向け、ペニスーツマンが勝ち誇るように宣言する。
 ペニスーツマンと『異世界人』達の激闘は、最終局面を迎える。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その5

スタンド使い東方仗助広瀬康一
『ヒーロー』緑谷出久と麗日お茶子。
「晴風」搭乗員の少女達の治療と避難誘導を終え、一足遅れて駆けつけた一同は呆気に取られた様子でペニスーツマンとの戦場となった甲板を眺めていた。
「野郎ォ……やってくれたじゃあねぇか……!」
 仗助が怒りに声を震わせながら呟く。
 眼前には、ペニスーツマンとの激戦の跡が色濃く残されていた。
 既に、8人もの「異世界人」達がペニスーツマンに敗れ去っているという事実に仗助は歯噛みする。
「東方君、落ち着いて! ……僕に作戦がある。そのために、君の協力が必要なんだ! 麗日さんも、広瀬君も、どうか聞いてほしい」
 真摯な表情で言う出久に、全員が頷き応じた。
 ペニスーツマンへの警戒をしながら、一同は出久の立案した『作戦』に耳を傾ける。
「しょ、正気なのかい? そんな事をしたら、君は……」
「ダメだよっ! そんなん絶対に危険やもん!」
 出久の考案した常軌を逸脱した『作戦』に、康一とお茶子が顔を青くして反論する。
 出久は首を振りながら
「確かにリスクはあるし、僕自身もすごく、その、痛い思いをするかもしれないけど……これくらい徹底してようやく勝機が出来るんだと思う。やられた8人の中には、プロの『ヒーロー』に匹敵するような実力者に見える人もいた。そんな人達があっさりと、あの『敵(ヴィラン)』に倒されたんだ。ここは石橋を叩いてでも、慎重に確実に行くべきだよ」
 出久が淡々とした口調で二人を説き伏せる中、仗助が険しい顔で彼を見据える。
「『本気』なんだな……?」
「本気……だよ」
 出久と仗助の視線が交差した。
 出久の瞳の中に宿る『ヒーロー』としての資質。
 仗助の世界でいうところの『黄金の精神』を見出したリーゼント頭の不良は、優しげな表情で微笑んだ。
「いいぜ。ブッとんでるアイデアだがよぉ、オメーの『作戦』に乗ってやる! 小学生が休み時間にフザけて描いた落書きみてーなバケモンを、いっちょ捻り潰してやろぉじゃあねぇか!」
 仗助の宣言に一同は頷き、ペニスーツマンと戦う『覚悟』を決めた。

☆☆☆

「明日も仕事仕事仕事仕事仕事仕事ゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミ就活就活就活就活就活就活仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事ゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミゼミ就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活就活……」

 ブツブツと怨嗟めいた言葉を吐き出しながら、ペニスーツマンが「晴風」の甲板をフラフラと歩いていた。
「よぉ、随分と元気なさそぉじゃあないッスかぁ?」
 仗助が不敵な態度でペニスーツマンへと語りかける。
長時間労働を美徳と信じる哀れなSEが全員死ぬこと、それだけです」
「テメーの事情はどうでもいい……これ以上暴れまわるってんなら、俺の『クレイジー・ダイヤモンド』でテメーの『ちんちん』をひん曲げてやるからよぉ! 頭に付いてんのと股間にぶら下がってるの、両方ともなぁ!!!」
 全身にハートマークがあしらわれた人型のスタンド像を出現させながら、仗助は雄々しく宣言した。
「ギアを1つ上げていくぞッ!『ハイメガザーメン砲』!」
 ペニスーツマンの頭頂部より、瀑布の如き精液が仗助達へ向け放射された。
「『DELAWARE……SMASH』!」
 出久の指先から放たれた衝撃波が、ペニスーツマンの十八番を真っ向から打ち破る。
 平和の象徴・オールマイトより受け継ぎし『個性』、『ワン・フォー・オール』を込めた一撃が精液の奔流を八方へ飛散させた。
「畳み掛けろ!『エコーズ』ッ!!!」
 衝撃波のあおりを受け、仰け反っていたペニスーツマンに康一の『エコーズACT2(アクトツー)』が襲撃する。
「……畳で横になってよだれ垂らして死んでる」
『ドジュウウ』という尻尾文字を叩きつけられたペニスーツマンは、その身を焦がされながら曖昧な言葉を呟いていた。
 隙を見出した3人は駆け出し、一直線にペニスーツマンの元へと距離を詰める。
「頼むよ、東方君」
「あぁ……任せときな」
 覚悟を決めた面持ちで出久が強く拳を握り締める。
『クレイジー・ダイヤモンド』を携えた仗助が見守る中、出久はペニスーツマンの前へと力強く踏み込んだ。
「『DETROIT SMASH』ッ!」
『ワン・フォー・オール』の100%の出力で放たれた一撃がバグォン!と大気を震わせた。その威力に耐え切れず、出久の右腕は鈍い音を上げながらへし折れる。
「『タートル……ヘッドバット』!」
「もう一度……『SMASH』!」
 ペニスーツマンがギンギンに勃起した亀頭部を叩きつけ、出久は左腕に『ワン・フォー・オール』を込め迎撃する。
 ペニスーツマンは吹き飛び、甲板の縁に叩きつけられるが、ゆったりとした動作で平然と立ち上がった。
「今日は性欲に支配される一日にな『SMASH!』
 ペニスーツマンの言葉を遮るように、出久の『DETROIT SMASH』が三度炸裂した。
 両腕共に負傷した状態で『ワン・フォー・オール』の100%を放てた理由。
 それは……
「オメーの腕は俺の『クレイジー・ダイヤモンド』が『治す』ッ!

 遠慮なくブチかましていけッ!」
 出久が考えた『作戦』とは、自らの腕の負傷を『クレイジー・ダイヤモンド』で治療させながら、全力の『ワン・フォー・オール』を撃ち続けるという捨て身の戦法であった。
「『SMASH』ッ!『SMASH』ッ!『SMASH』ッ!『SMASH』ッ!『SMASH』ッ!『SMASH』ッ!」
「……会社が全部悪い……労働が……日本社会がに憎い……」
 なす術もなくボコボコに殴られながら、ペニスーツマンは怨嗟めいた言葉を呟いていた。
 一撃一撃に甲板が捲れ上がる程の威力を誇る『DETROIT SMASH』を、出久は歯を食いしばりながらペニスーツマンへと叩き込み続ける。
 折れた腕は瞬時に『クレイジー・ダイヤモンド』の能力によって治癒されるものの、殴る度に味わう骨折の激痛は出久の精神を消耗させていく。
(思った通り、こいつはUSJで遭遇した怪人『脳無』に近い『個性』を持っているんだ。あの怪物のように、生半可な攻撃は全て吸収されてしまう。だけど、オールマイトは……)
 かつてUSJを襲撃した敵(ヴィラン)連合がオールマイト対策として用意した怪人『脳無』。
 その怪物は『衝撃吸収』や『超速再生』など複数の『個性』を用いて、平和の象徴たるオールマイトを大いに苦しめた。
「オールマイトは言った!『ヒーローは常にピンチをぶち壊していくもの』だってっ!」
 脂汗を滲ませ、涙目になりながらも、出久は100%の『ワン・フォー・オール』を放ち続ける。
 オールマイトの100%を想定して設計された『脳無』は、彼自身が100%以上の力を発揮したことで打ち破られた。
 オールマイトより受け継ぎし思想・『Plus Ultra (更に向こうへ)』。
 憧れの『ヒーロー』を目指さんとする強靭なる精神が出久の心を支えていた。
「『DETROIT 』ォォォ……『SMASH』ゥゥッッッ!!!」
 最後に放った一撃は、『晴風』の船体そのものを傾かせる程の衝撃を生み出した。
 その成果を見届ける前に、出久の精神は事切れ膝から崩れ落ちる。
 陥没した甲板の底には、血塗れとなったペニスーツマンが仰向けに倒れていた。
「……ここでさかこ選手……日本社会にギブアップ……」
 何やら諦めの言葉を吐いているペニスーツマンの元へ、仗助が歩み寄った。
「呆れる程に『タフ』な野郎だな、テメーはよぉ…… だがな、ぶっ壊れないってんなら、それはそれで俺には考えがあるぜぇ?」
『クレイジー・ダイヤモンド』の拳を握り締めながら、仗助は不敵に言い放つ。
「『船員』の女の子達の目の毒かもしれないケドよぉ、テメーは悪趣味な『オブジェ』に仕立てあげてやっからなぁ!」
 仗助の宣言と共に、『クレイジー・ダイヤモンド』の無骨な拳が虫の息のペニスーツマンにブチかまされた。
「ドララララララララララララララララララララララララララララララアア!!!」
 暴風雨の如き拳のラッシュがペニスーツマンの全身に打ち込まれた。
 同時に、ペニスーツマンの身体は甲板の木板・鉄板・リノニウム等と融合していく。
 かつて殺人鬼・片桐安十郎を『アンジェロ岩』へ変貌させたときのように『治す』能力を応用することで、仗助はペニスーツマンを甲板の材質と同化させ『オブジェ』へ造り変えていた。
「まんこはまんこだしちんこはちんこなんだぞ!!! まんこはさあ、ちんこはさあぁああああああ!!!」
 錯乱したように叫びながら、ペニスーツマンは全身を震わせ融合していく甲板材を吹き飛ばそうと試みる。
 その動きは、さながら小便の後に残った残尿を飛ばすためにちんこを振るような動作であった。
「テメーのその『タフさ』はよぉ、正直『敬意』を払わざるを得ないぜ……」
 飛んでくる甲板材をスタンドの拳で防ぎながら、仗助は呆れた様子で呟いた。
「だがな、これで終いだ」
 瞬間、奇妙な事にペニスーツマンの身体がふわふわと宙に浮き出した。
 困惑した様子で手足をばたつかせるペニスーツマンだが、重力から解き放たれたかのようにその身体は上へ上へと浮いていく。
「さ……『触った』……!」
 瓦礫の影に潜んでいたお茶子が脱力した表情で呟いた。
 出久の立案した『作戦』において、彼女は最後の『切り札』となる役目を担っていた。
「もし僕の『個性』や東方君達の『スタンド』?でも倒し切れなかったら……そのときは麗日さんが『切り札』になって欲しいんだ」
『作戦』を立案していた最中、出久は真摯な表情でお茶子に語りかけた。
 麗日お茶子の『個性』・『無重力(ゼログラビティ)』。
 指先の肉球で触れた人や物体の引力を無効化する力である。
 一見ゆるふわにも見える彼女の『個性』を、出久は対ペニスーツマンの『切り札』とした。
「『引力』がないってことはよぉ〜、長い目で考えれば、宇宙の彼方まで追放されるってことだからなぁ!」
 仗助の言葉に今更慌てだしたペニスーツマンが、空中より亀頭部をお茶子へ差し向ける。
「もう遅いぜ、ドラァッ!」
『クレイジー・ダイヤモンド』が周囲の瓦礫を殴りつけた。それらはペニスーツマンが撒き散らした甲板材の一部であった。
「俺の『自動追尾弾』だぜ! 喰らいやがれッ!」
『治す』能力が発動し、瓦礫はペニスーツマンの身体に埋め込まれた甲板材に引き寄せられ飛んで行く。
「そして僕の『エコーズ』が『文字』を刻むッ!」
 タイミングを見計らっていた康一が『エコーズACT2』の『文字』を『自動追尾弾』に貼り付けた。
 瓦礫には『ドッグォンン』という『文字』がデカデカと刻み込まれていた。
「吹き飛ばせ『エコーズ』ッ!!!」
「尻がプリップリになる高校に通いたかった……」
 空中で遺言のような事を囁いているペニスーツマンの元へと『文字』が貼り付けられた『自動追尾弾』が迫り来る。
 やがて直撃した瓦礫は『エコーズ』の能力により『ドッグォンン』という擬音の力を顕現させ、ペニスーツマンを大気圏の外まで吹き飛ば……せなかった。
「なにがまんこだよ。ちんこをしごき倒せるからって調子乗ってんのとちゃいますか?」
 甲板に足をつけたペニスーツマンが乱れたネクタイを締め直しながら、何やらイチャモンめいた事をまくし立てていた。
 仗助・康一・お茶子の三人は唖然とした表情でペニスーツマンを見つめてた。
 十全に練った『作戦』は全てを功を成した。
 しかしながら、最後の最後でペニスーツマンは彼等の攻撃を無力化したのである。
「テメー……何を……しやがった?」
「『カウパーバリア』」
 仗助の問いにペニスーツマンが端的に答える。
 かつて仮面ライダーウィザードの『指輪の魔法』に耐性を身につけたときのように、ペニスーツマンは『個性』と『スタンド』を防ぐカウパー液を排出したのである。
 結果、お茶子の『無重力(ゼログラビティ)』と康一の『エコーズ』を無力化し、ペニスーツマンは五体満足で再び「晴風」へと降り立った。
「全てのまんこを破壊してほしい……

 それはただ一つの純粋で無垢な祈りの結晶……

 浅ましくも美しき切なる願い……『まんこ破壊光線』!」
「へ、あっ……アアアァァァァッッッ!?」
 謎の口上と共にペニスーツマンの乳首から桃色の光線が放射される。
 まんこを破壊せしめる怪光線の直撃を受け、お茶子は叫び声を上げながら倒れ伏した。
「『クレイジー・ダイヤモンド』ォォォッッッ!!!」
「『エコーズ』ゥゥゥゥッッッ!!!」
 仗助と康一、仲間を害され激昂した二人の『スタンド使い』が各々のスタンドを繰り出した。
 ペニスーツマンは迎え討つように、自らのスラックスを足元まで下ろし
―――チンポチンポセイヤセイヤ(体はちんこで出来ている)……
    精巣捻転・精索旋転・睾丸回転……

『我が精巣は捻れ狂う(テスティキュラー・トライズン)』ッッッ!!!」
 ペニスーツマンが己のキンタマを高速回転させながら、禍々しき言霊を紡いだ。
 瞬間、ビキィッ!と仗助と康一の股間に神経が捻れるような激痛か迸る。
「フ……ザけんなァ……ァァ!」
「グッ……アァァァァッッッ!?」
 腹部と精巣を繋ぐ精索を捻れさせ、精巣捻転症(せいそうねんてんしょう)を引き起こす呪詛『我が精巣は捻れ狂う(テスティキュラー・トライズン)』。
 仗助は忌々しくペニスーツマンを睨みつけながらも膝をつき、康一は激痛から甲板を転げまわっていた。
「『ハイメガザーメン砲・スパイラルエフェクト』!」 
 ペニスーツマンが身を捻り、回転力を加えた『ハイメガザーメン砲』を射精した。
 回転により貫通力を増加させた精液の奔流は仗助の巨体を呑み込み、甲板に倒れていた康一をも巻き込みながら、二人の『スタンド使い』を蹂躙し、その意識を闇に葬った。
「圧倒的な恐怖と嫌悪感と暴力を与えることで性行為ができるんだぞ……凄いだろ……レイプは……」
 自らの力に酔いしれるような言葉を漏らしながら、ペニスーツマンは精液塗れとなった甲板をフラフラと歩いていった。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その4

鬼斬』の姫君・静御前義経
双星の陰陽師』焔魔堂ろくろと化野紅緒。
 怪異の討伐者達とペニスーツマンが「晴風」の甲板の上で向かい合っていた。
「おちんちんをいじりまくってしまったのか????おちんちんを???いじりまくって???しまったのか????????」
「い、いじってねーよっ!」
 開幕早々に煽られたろくろが犬歯を剥き出しに吠える。
 傍らの相方を呆れた眼差しで見下しながら、紅緒が四種の霊符を取り出した。
「豪腕符・金剛符・韋駄天符・星動読符……陰陽呪装……」
 紅緒は狐面を被りながら
「砕岩獅子急急如律令……鎧包業羅急急如律令……飛天駿脚急急如律令……来災先観急急如律令……」
 静謐な声で詠唱し、攻撃力・防御力・敏捷力・先読みの強化という四つの呪装をその身に宿していく。
「祓い給え! 清め給え! 急急如律令っ!!!」
 ろくろもまた黒い霊符『星装顕符』を用いて、ケガレ堕ちした異形の右腕を解放した。
「バフかけまくりですねー。MMORPG発端のアニメとしては、負けていられませんっ!」
「負けずにこちらもやるとしよう!」
 呑気に言いながら、静御前義経が各々の武器を天に掲げ
「『弓気錬成(きゅうきれんせい)』!」
「『斬気錬成(ざんきれんせい)』!」
 二人の身体に光が満ちていき、各々の武器の威力が上昇していく。
「援護を……して!」
「いざ参るっ!」
 近接戦闘を得意とする紅緒と義経が一直線にペニスーツマンの元へと駆け出した。
「み恵みを受けても背く敵(あだなえ)は……篭弓羽々矢(かごゆみははや)もてぞ射落とすっ!」
「おぉ! かっこいい呪文ですっ!」
 隣ではしゃぐ静御前を無視しながら、ろくろは右手に握り締めていた石礫をばら撒いた。
「『ザーメンとりもち』っ!」
「『烈空魔弾』! 急急如律令っ!!!」
 ペニスーツマンが射精した粘着性の精液の塊を、呪力(しゅりょく)が込められた石礫が薙ぎ払う。
「ではわたしも援護を……『呪怨矢』っ!」
 状態異常を引き起こす呪いの矢が、ペニスーツマンに突き刺さった。
 移動速度低下により動作が鈍ったペニスーツマンへと、紅緒と義経が迫り来る
「合わせろ……合わせなさいっ!」
「ぬぅ、偉そうに」
 文句を言いながらも義経は大太刀を構え、紅緒と共にペニスーツマンへと突貫する。
「……『十六夜彼岸の舞』」
「何のぉ、『包茎ガード』!」
 目視できぬ程のスピードで、二振りの霊剣と大太刀による剣舞がペニスーツマンを襲撃する。四種の呪装を施した紅緒のスピードに、義経は『神喰い』との戦いの中で培った経験則をもって後追いしていく。
 ペニスーツマンは亀頭部の皮を引っ張り上げ防壁とすることで、剣戟を防ごうとする。
「しゅきしゅきだいしゅき~」
 皮一枚の守りはさほど意味を成さなかった。
 剣戟の嵐に身を切り刻まれながら、ペニスーツマンが曖昧な声をあげる。
「とどめだっ!」
 義経の声に合わせるように、紅緒が天高く跳躍した。
「……『鏡花落月断』っ!」
「『聖光煌閻斬』!!!」
 紅緒が二振りの霊剣を束ねて振り下ろし、極大の斬撃を上空から繰り出し
 義経が聖なる輝きを纏った一閃を、横一文字り斬り払う。
 陰陽師鬼斬の姫君、二つの『奥義』がペニスーツマンを十文字に引き裂いた。
「晴風」の装甲を捲りあげ、ペニスーツマンが錐揉み回転しながら吹き飛んでいく。
「よっしゃあ!」
「3分の尺に収まるくらいアッサリと倒せましたねぇ」
 横たわるペニスーツマンを見下ろしながら、ろくろと静御前が安堵した直後のことであった。
「今日もさかこ頑張ってくぞオイ!」
 突如、ペニスーツマンが飛び上がり、高らかに宣言した。
「まだ祓えて……ない!?」
「馬鹿な!? あれ程の攻撃を受けて?」
「オイオイオイ!!さかこさかこさかこ!!うんこぶりぶりぶりぶり!!レイプ!」
 狂ったような言葉を垂れ流すペニスーツマンに圧倒され、二人はただ呆気に取られて見ていた。
 その瞬間であった。
 ペニスーツマンがワイシャツを肌蹴させ、自らの乳首を露出させた。
「『まんこ破壊光線』!!!!」
 突如、ペニスーツマンの乳首から二条の桃色光線が放射された。
「あ、ぐ、アァァァァッッッ!?」
「何が起き、ガァァァァァァッッッ!?」
 桃色光線を受けた紅緒と義経が下半身を抑えながら崩れ落ちた。その表情はこれまでに経験したことのない苦痛を受けたかのように歪んでいた。
 女性器を直接破壊せしめる閃光『まんこ破壊光線』。恐るべき技である。
「紅緒ぉ! 何だ、何が起きてやがる!?」
「よくも義経ちゃんを! 喰らえ『天矢ノ誅罰』ッ!!!」
 混乱するろくろを余所に、仲間を傷つけられ激昂した静御前が弓スキルの奥義を撃ち放った。
 眩い聖光を纏った浄化の矢が直撃するも、ペニスーツマンは構わずに乳首を輝かせた。
「『まんこ破壊光線』」
「あぅ、あ、ギァァァァァァァッッッ!?」
 無情にも炸裂した桃色光線が静御前のまんこを破壊する。
 激痛に顔を引きつらせながら、静御前もまた甲板に膝をつく。
「テメェ……いい加減にしろォッッッ!!!」
 異形の右腕の拳を固く握り締め、ろくろがペニスーツマンの元へと飛び出した。
『星装顕符 』により現出した『ケガレ』の拳が、ペニスーツマンへと叩き込まれる。
「超天変ちんちん見な  強壮にも射精」
「こ、この野郎ォ!!!」
 ペニスーツマンはギンギン勃起させた己の亀頭部をもって、ろくろの拳を真正面から受け止めていた。
「『射精覚醒ドライセン』ッ!」
 ペニスーツマンは徐にスラックスのジッパーを下ろし、露出したちんこから白濁の奔流を放射した。
 精液の濁流を浴びたろくろは、その圧倒的な臭さに意識を闇に葬られた。
「……これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮」
 勝利の余韻に浸るように、ペニスーツマンが囁いた。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その3

「坂上逆孤(さかのうえさかこ)と申します。またの名を、哲学する男性器『ペニスーツマン』……」
「晴風」の甲板に立つスーツ姿の男・坂上が、適当な調子で『異世界人』達へと名乗りをあげた。
 一見、平凡な風貌の男に見えるが、その瞳からは隠し切れない『虚無』が滲み出ていた。

RATtウィルス感染者』
『神喰い』
『ナナキ』
『ケガレ』
『敵(ヴィラン)』
『吐き気を催す邪悪』
『カバネ』
『テラフォーマー』
『魔獣』
『闇の魔法つかい』
『奇獣』

 その圧倒的な禍々しさは、『異世界人』達が対峙してきた様々な存在を彷彿させた。
 しかしながら、危険性という一点において、彼らの意思は統一されていた。
「……やばい……何人くらい、アイツを目撃した?」
「えっ? あの……」
 スバルが呆然とした表情で呟いた。
「他にこの艦を動かしている娘がいるだろっ!? アイツを目撃した可能性がある奴は何人いるかって聞いているんだ!」
 凄まじい剣幕で詰め寄られた明乃が狼狽しながら
「わたしも離れていたから何ともいえないけど……艦橋のみんなは、位置的に間違いなく目撃したと思います……」
「くそっ!」
 明乃の答えにスバルは焦燥した様子で拳を握りしめた。
「スバル君、説明をしてくれ。あのスーツの男が君の言う『奇獣』の元締めなのか? あの男を目視することで何が……」
「どぅぁしゅぃみゅぁしゅぅちゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
 番場の言葉を坂上の奇声が遮った。
 相対する「異世界人」達の緊張感が高まる中、坂上は徐にスラックスのジッパーを下ろし、己の逸物をぼろんと出した。
「変身」
 一声と共に、坂上の逸物が神々しい光を放った。
 やがて白濁とした閃光に包まれながら、その姿が異形へ変貌していく。
 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
「ペニス―ツマン、爆現」
 突如、出現した珍妙な姿の異形に一同は言葉を失っていた。
「何だ……あの姿は……一体、どんな生物をベースにしてやがる?」
「どうみても、人間の雄の生殖器だろう」
 燈の漏らした言葉に、ミッシェルがうんざりとした様子で応じた。
「ふざけた外見に惑わされるな! あの姿になっているってことは、多分、アイツの能力は発動している!」
「冷静になれっ! 奴の異能を知っているのなら、全員に共有させるんだ!」
 生駒の指摘に頭を冷やしたスバルが重々しく口を開く。
「アイツの姿を目撃した人間は……何ていうか、『自殺衝動』に苛まれるんだ……本人が『虚無の哲学』とか呼んでいた能力だ……知ってれば気を強く持つことで抵抗できる力だけど、何も知らない艦の女の子達には対応する手段がねぇ!」
 スバルの解説に、その場にいる全員が息を呑んだ。
 中でも、明乃の顔色は真っ青に染まっていた。苦難を共に乗り越えてきた仲間達が揃って自殺してしまうという最悪な未来が彼女の脳裏をよぎる。
「しかも『虚無』は人から人に伝染する! 一人でも染まったとしたら、今頃はどんどん増殖しているかもしれねぇ!」
「マナ汚染のようなものかな? 魔法というよりは呪術寄りの力だね」
「そんな……私なら治癒魔法で助けられるかもしれない……すぐに行かないと!」
 呑気なペースを崩さない精霊猫パックとは対照的に、エミリアは焦燥感に駆られた様子であった。
「膣は凶器。セックスは殺人術。どんな綺麗事やお題目を口にしてもそれが真実」
「船員を助けるにせよ、誰かがアレを足止めしなければならないだろう」
 訳のわからない言葉を呟くペニスーツマンに目を向けながら、番場は言う。
「俺が行く」
 端的に宣言した生駒へと、全員の視線が注がれる。
「俺は医学には疎いし、異能をどうこうするような力はない……奴と戦う役目は俺が担うべきだ。俺は『カバネリ』だから、多少の負傷で死ぬことはないからな」
「わたしも行くよ、生駒。足止めとか言うけど、あのおちんちんの怪物、わたし達でやっつけちゃってもいいんでしょ?」
 微笑みながら語る無名に「その台詞は不吉だからやめておけ」と出そうになった言葉をスバルは何とか呑み込んだ。
「生憎、私も殴る蹴るしか能がないのでな。あの存在自体がセクハラな物体を叩くのに参戦させてもらおう」
「俺も残る。魔法や超能力やらで、船員の女の子達を治療できる奴は行ってくれ。ここは人命を優先させよう」
 燈とミッシェル、二人の戦士が注射器型の『薬』を取り出しながらペニスーツマンと戦う意思を表明する。
「『自殺衝動』なんてモンにはお手上げだけどよぉ、『怪我』なら『クレイジーダイアモンド』で治せるはずだぜぇ」
「『ピンクトルマリン』の癒しの力なら、何とかできるかもしれないわ!」
「『ケガレ祓い』の領域なら……陰陽術で対処できる……はず」
スタンド使い』・『プリキュア』・『陰陽師』。
 様々な異能を持つ者達が各々の領分で出来ることを確認していく。
「うぬぬ……回復スキル持ちはあまてらすしかいないのだが……」
「私たちはえーと……回復アイテムを持っていってあげましょう! 何しろアニメ本編で一度も使っていなかったもので、十分に余っていますからっ!」
鬼斬』の姫君、静御前義経が何処からか大量の寿司(回復アイテム)を取り出し、わたわたと駆けていく。
「僕達も行こう、真咲さん! 何か手伝えることがあるはずだよ」
「それなら僕達を手伝ってほしい! 雄英高校で習った災害救助マニュアルを活用すれば、きっと多くの人を救えるはずだからっ!」
『ヒーロー』として導くような出久の言葉に、光宗と真咲が力強く頷いた。
「皆さん……ありがとうございますっ! 船内を案内しますので、どうか力を貸してください!」
 明乃に先導されながら、『異世界人』達は甲板を離れていく。
「お前は戦士じゃないだろ? 戦うのは俺達に任せて、お前が持つ『予知』能力とやらで、皆を導いてくれ」
 行くべきか否か判断がつかず足踏みしていたスバルへと、燈が言い放つ。
「すまねぇ! 船員の女の子達を助けたら、必ず戻ってくる! 死ぬんじゃねぇぞ!」
 そう言い残し、スバルはエミリアと共に船内へと駆けていった。
 残された生駒・無名・燈・ミッシェルの4人がペニス―ツマンと対峙する。
「うぬぼれるなよ 邪悪なまんこ 最後のちんぽが枯れるまで
 ここからちんぽも さがらない」
 不気味な台詞を呟くペニス―ツマンへと4人が各々の武器を差し向ける。
「黙れよセクハラ野郎……粗末なモンおっ勃てやがって……直ぐに捻りつぶしてやるから覚悟しろ!」
 ミッシェルが放った宣戦布告の言葉が、ペニス―ツマンとの激闘の幕開けとなった。
『M.O.手術適応者』と『カバネリ』。
 人外の力を秘めし戦士達がペニス―ツマンへと対決する。

☆☆☆

『『人為変態』』
 燈とミッシェルがそう宣言しながら、注射器型の『薬』を首筋に突き刺し、『変態』を遂げる。
 頭部より触覚が生成され、体表は強化アミロースの甲皮に覆われていく。
 M.O.手術により得た地球生物の力。
『大蓑蛾(オオミノガ)』と『蟻』の能力を二人は解放する。
「これが、遥か未来の技術か……『カバネリ』とは違う、人の手で造り出された異形……どんな力を持っているのか……」
 生駒が変異していく二人の姿を見ながら、思わず呟いた。
 ロクに言葉を交わしていない二人とどのように連携をとるべきか考察していると
「先に行くよ」
 首元の枷紐を外し、『カバネリ』の身体能力を解放した無名が躊躇なく突貫していた。
「馬鹿っ! 先走るなっ!」
 生駒の警告を無視し、無名は二丁の蒸気銃を構えながら、ペニス―ツマンの元へと駆けていく。
「愛は時を越え、お前は祖国に帰れ……『おしっこレーザーカッター』ッ!」
 ペニス―ツマンの亀頭部より、ウォーターカッターの如き勢いで小便が放射された。
「おしっこ飛ばさないでよ。えんがちょー」
 言いながら、無名は軽々と跳躍しながら『おしっこレーザーカッター』を避け、蒸気銃の引き金に指をかける。
 数々の『カバネ』との戦闘で鍛え抜かれた腕前をもって、無名がペニス―ツマンを狙い撃つ。
 バシュン!バシュン!という轟音と共に、ペニス―ツマンの胸元へ噴流弾が叩き込まれた。
 ペニス―ツマンはクネクネと身を捩るだけで、怪我を負った様子はない
「頑丈だな、もうっ!」
 蒸気銃を撃ち続けながら、無名が凄まじい速度で距離を詰める。
「これでも、喰らえ!」
 無名が蒸気銃の先端に備え付けられた刃を、ペニス―ツマンの胸元へと勢いよく突き立てる。
『カバネ』の心臓皮膜でコーティングされた紅い刃が、ペニス―ツマンの心臓を容赦なく貫いた
 ……かのように見えた。
「全身がキャプテンアースになってきた」
「なっ!?」
 刃はジャケットに阻まれ、ペニス―ツマンは傷一つ負っていなかった。
 動揺する無名に向け、ペニス―ツマンがその亀頭部を向けると
「足を止めるな、無名っ!」
 生駒が背後より足払いをかけ、ペニス―ツマンを転倒させた。
 甲板に横たわるペニス―ツマンへと、生駒は右腕の『ツラヌキ筒』を振り下ろす。
「ハァァァッッッッッ!!!!」
 生駒の咆哮と共に、ガシュン!という爆音が轟いた。
 一撃必殺の威力を誇る『ツラヌキ筒』の鉄杭が、ペニス―ツマンの身体を頑強な甲板にめり込ませる。
「……駄目だっ! 無名、一旦引くぞっ!」
「えっ? なんで?」
 呆気にとられる無名の手を引き、生駒はペニス―ツマンから距離を取る。
 やがて、ペニス―ツマンはゆったりとした動作で何事もなかったかのように立ち上がる。
「……うそ。アイツは『カバネ』よりも頑丈だっていうの……」
「……俺達は援護に回るしかない。悔しいが、俺達の武器では奴に歯が立たないようだ……」
『噴流弾』に『ツラヌキ筒』。
 数多の『カバネ』を屠ってきた武器が通用しないという事実に歯噛みしながらも、生駒は現状を冷静に分析していた。
「どうやら、そちらのスチームパンク的な武器は通じないようだな」
「なら、俺達のSFチックな武器に任せな」
 ミッシェルと燈。
 共にマーズ・ランキングの上位ランカーである二人には『専用武器』が支給されていた。
 対テラフォーマー用起爆式単純加速装置『ミカエルズ・ハンマー』
 対テラフォーマー振動式忍者刀『膝丸』
『己の技術』か『己の特性』を最大限に活かすという点に特化した最新鋭の武器を構えながら、ミッシェルと燈がペニス―ツマンと対峙する。
「夏だ!まんこだ!全員死亡!!」
「そーいうのをセクハラっつってな……」
 陽気な声をあげるペニス―ツマンへと、ミッシェルは鋭い眼光で睨み付ける。
「地球では嫌がってる女子に勃起したペニスを見せつけると
 訴訟・罰金・減給・免職、もしくは……」
 瞬間、ミッシェルの右肘に装備された『ミカエルズ・ハンマー』が火を噴いた。
「こうなる!」
 爆発より生じた超加速の力を乗せ、ミッシェルがペニス―ツマンの亀頭部へと拳を叩き込む。
『弾丸蟻(パラポネラ)』×『対テラフォーマー用起爆式単純加速装置≪ミカエルズ・ハンマー≫』
 重量級の『テラフォーマー』でさえも上半身ごと爆砕できる程の一撃が、ドグォン!と大気を震わせた。
「『タートル……ヘッドバット』ッ!」
「ガァッ!?」
 大きく後方へ仰け反ったペニス―ツマンが振り子のように身を起こし、ガチガチに勃起した亀頭部をミッシェルの顔面へと叩き付けた。
 皮肉にも自らが得意とする頭突き(ヘッドバット)を喰らったミッシェルが人形の如く吹き飛んでいく。
「何、やってんだ、テメェッッッ!!!」
 ヒュンヒュンと柄に『糸』が張り付いた忍者刀『膝丸』がペニス―ツマンの周囲を飛び回る。
 やがて、ペニス―ツマンは『大蓑蛾(オオミノガ)』の能力によって生み出された生物界で最も強靭な『糸』に雁字搦めに拘束されていく。
「ミッシェルさんの顔に汚ねぇモンぶつけやがって……覚悟は出来てるんだろうな?」
「……全てを諦めて股間いじりまくってもんどり打って無限に寝てたい」
 何やら諦めの言葉を呟くペニス―ツマンと向かい合い、燈は油断なく忍者刀『膝丸』を構える。
(……燈とかいう奴、手練れだ。剣客としての腕は来栖やあの美馬にも匹敵するかもしれない……)
 体捌きや構えから燈の実力を推し量った生駒が息を呑み経過を見守る中、空気が弾けた。
『大蓑蛾(オオミノガ)』×『対テラフォーマー振動式忍者刀≪膝丸≫』
 日本古武術『膝丸神眼流』の術理をもって、燈が拘束されたペニス―ツマンへと忍者刀『膝丸』を振り下ろした。
「……なッ!? 」
 燈の渾身の一閃はペニス―ツマンに弾かれていた。
『テラフォーマー』の多糖類アミロースの甲皮すら切り裂く『膝丸』の斬撃が通じなかったという事実に燈の心に空白が生じた。
「……『フル勃起、装甲(アーマー)』……」
 ペニス―ツマンは膨張・硬化していき、生物界で最も強靭な『大蓑蛾(オオミノガ)』の『糸』が、内部からの圧力でブチブチと千切れていく。
 ペニス―ツマンは虫の類に欲情するという性癖を持つ。
 故に、『変態』したミッシェルと燈の姿を見て勃起し、ただでさえ頑強なその性質を強化させていたのは自明の理である。
「諦めるなっ! どこかに弱点があるはずだっ!『カバネ』の心臓のように、致命的な急所になりうるような箇所が!」
「……あぁ! 縛法(イト)や剣術(ケン)が通じねぇなら……足腰立たなくなるまで当身技(ブッたた)くまでだ……!」
 生駒と無名が、『ツラヌキ筒』と蒸気銃を構えながら、燈の隣に並び立つ。
 その瞬間を待ち望んでいたかのように、ペニス―ツマンが身体をぶるりと震わせた。
「『重加速』!」
 ペニス―ツマンの股間に、真紅の『ネオバイラルコア』が装着された。
 燈達はさながら時間の流れが変わったかのように、『どんより』としか身体を動かせなくなる空間に捕らわれていく。
『ドライブ』の世界で獲得した『ロイミュード』として能力を駆使し、ペニス―ツマンは『重加速』を発動させていた。
「……な、ん、だ、これ、は……!?」
「『おしっこレーザーカッター 3WAY弾』!」
 燈・生駒・無名の3人は、3方向に枝分かれしたおしっこに各々の胸を貫かれ、やがて甲板へと崩れ落ちた。
「でもちんちんはこんなにギンギンなんだもん。分からないよね〜〜〜〜〜〜」
 ペニス―ツマンの勝利の宣言が、「晴風」に響き渡った。

☆☆☆

「あああぁぁぁーーーーーッッッ!!! 死なせてくださいまし!!!」
「晴風」の水測員兼ラッパ手を務めるお嬢様、万里小路楓(まりこうじかえで)が薙刀を振り回し暴れていた。
キュアップ・ラパパ! ロープよ、あの人を捕まえて!」
『虚無の哲学』に汚染され、自殺衝動に苛まれた少女をみらいの魔法が捕えた。
 ロープに簀巻きにされたお嬢様へと、『スタンド使い』康一が近づき
「音を響かせろ『エコーズ』ッ! 」
『エコーズACT1』がその能力をもって万里小路に音を響かせる。
『生きて!』という康一の声が、彼女の頭に反響していく。
 かつて小林玉美(こばやしたまみ)の『ザ・ロック(錠前)』に心を縛られた母の自害を止めたときのように『エコーズ』の能力を応用し、万里小路の心へと直に声を伝えたのである。
「……あっ……わたくしは何を……?」
 正気を取り戻した万里小路が床にへたり込む。
「まりこうじさん! よかった、早く医務室へ」
 明乃に手を取られながら、困惑している様子の万里小路が医務室へと連れていかれる。
 艦橋をはじめ、無線室・水中聴音室・電探室・機関室等、明乃達は手分けをして艦内の至るところを巡り、『虚無』に捕らわれた少女を保護していた。
(これで全員の無事を確認できた……本当に、よかった……)
 万里小路の手を引きながら、明乃はひとまずは死傷者が生じたなかったことに安堵する。
 やがて、医務室までたどり着くが、そこは大多数の人がすし詰めにされているような有様であった。
「艦長……今度はどんなパンデミックが起きているんだ?」
「み、みなみさん? 大丈夫なの?」
「晴風」の衛生長兼保健委員を務める小さな天才、鏑木美波(かぶらぎみなみ)がやや憔悴した表情で声をかけた。
「大丈夫なわけないだろう……自傷行為を繰り返す生徒達で、医務室は大盛況だよ……」
「そっか……でも、みなみさんが無事でよかった」
 明乃の言葉に、美波は自嘲的な笑みを返しながら
「わたしだって無事なわけではない。『抗うつ剤』を投与して、辛うじて正気を保っているのだからな……自殺衝動を引き起こすウイルスなんて聞いたこともないが、神経伝達物質を乱すような特性を持っているのか?」
「大丈夫だよ……わたし達に手を貸してくれる人を見つけたから」
「あぁ、あのわけのわからない力を持つ輩か」
 明乃の言葉を裏付けるように、医務室では様々な『異世界人』達が異能を行使し、「晴風」のクルー達を治療していた。
 仗助の『クレイジーダイアモンド』が少女達の怪我を治していき
 エミリアの治癒魔法の光が汚染された精神を浄化する。
 そして……
「ほら、大人しく食べてくださいっ!」
「何しやがるんでぃ、べらぼぉーめ!」
 江戸っ子気質の機関長・柳原麻侖(やなぎわらまろん)がワイワイと騒いでいた。
 傍らの静御前が麻侖の小さな口に寿司(回復アイテム)を無理矢理に詰め込んでいる。
 やがて、傷だらけだった彼女の細腕は淡い光に包まれながら治癒されていく。
「あんなんで怪我はちゃんと治るんだから、医者としての存在意義を揺るがされるよ」
 美波の愚痴じみた言葉を、明乃は苦笑で応じるしかなかった。
「アビラウンケンソワカ……アビラウンケンソワカ……」
「あ、ありがとうございます……」
 ろくろと紅緒、二人の陰陽師は霊符を翳し、「晴風」給養員を務める杵崎姉妹の怪我を治療していた。
「これで、治癒符は使い切った! 俺達もあの『ケガレ』を祓いに行くぞ!」
「わたし達も持っているお寿司は全部食べさせました!『神喰い』の討伐に参りましょう!」
双星の陰陽師』、焔魔堂ろくろと化野紅緒。
鬼斬』の姫君、静御前義経
 怪異討伐の専門家達が医務室を飛び出した。
 ペニス―ツマンとの激闘は依然、続く。

ペニス―ツマン VS 2016年春アニメキャラ その2

 陽炎型航洋直接教育艦「晴風」。
 その内の教室のような一室に『異世界人』達は集い、自己紹介を兼ねて互いの世界の情報を交換していた。
 艦長・岬明乃(みさきあけの)と副長・宗谷ましろが経過を見守る中、議論は進む。
「……成程。つまり我々は、文化や時代背景、そして前提となる常識そのものが異なる世界から集められた、という訳か……」
 年長者である番場宗介が一区切りするように、まとめあげた。
「つまり、ここは遥か未来の日本なんですね。よくわかりませんが、これは紛れもなく、『神喰い』の影響ですね!」
 うんうんと静御前が思案顔で頷くが、おそらく何も理解していない。
「いや、そうとは限らない。君たちが私の知る歴史上の偉人、『静御前』と『源義経』であるとしても、日本で『神喰い』という怪物が跋扈したという記録は残っていない。そもそも、幻暦(げんりゃく)という紀年法にも覚えがない。根本的に私の知る日本とは別世界であると考えた方がいいだろう」
 番場の説明に、静御前は首を傾げながらも「つまり『神喰い』の影響なんですね!」と勝手に結論付けた。
「同じ日ノ本の国であったとしても、歴史に『ズレ』が生じている、ということか……」
「おそらく、そうだろう。私の知る日本では、君のいう『カバネ』の驚異にさらされたという歴史は存在しない。更に言えば技術レベルにおいても違いが見られる。江戸時代に蒸気機関を用いた技術はそこまでの水準には達していないはずだ」
 片腕に物騒な武器を取り付けた青年、生駒(いこま)の呟きに、番場が応じながら
「歴史の『ズレ』といったが……その最たるものが現在、我々がいるこの世界だろう。さながら『日本沈没』のように国土が海に沈み、海上都市と化した日本。ここには日本人が多いようだが、これを当たり前に受け入られる者は少ないはずだ」
「私たちにとっては、海に沈んでいない日本というのが想像できないのですが……」
 明乃が何気なく漏らした言葉に、番場をはじめとする『日本人』達が常識の隔たりを感じ取る。
「火星をテラフォーミングするような計画が進められている未来でも、そんなパニックホラー映画じみた現象は起こっていないぞ……」
 西暦2620年を生きる膝丸燈が呆れた調子で言う。
「人を食らう『奇獣』が生息する世界、『ヒーロー』が職業として存在する世界、人類の存亡をかけて『陰陽師』が戦う世界、『スタンド使い』という超能力者が存在する世界、人のトラウマが具現化する秘境『納鳴村(ななきむら)』が在る世界……ここまではあくまで日本……いや、地球という枠組みの中で語ってきたが……」
 番場が、銀髪のハーフエルフ・エミリアと魔法使いの少女・リコへと視線を向ける。
「……まさか、ここは大瀑布の向こう側にある世界……なの?」
「ナシマホウ界にもいろいろあるのね……勉強不足だわ……」
 ファンタジー世界の住民は共に頭を抱えていた。
 情報量の多さと常識の不一致に、聡明な二人でも理解が追い付いていない様子であった。
「剣と魔法の世界でも、一括りってわけじゃないよ。こちらの世界では、魔法の杖が『杖の木』から生み出されるなんていう風習はないからね」
「リコも『ルグニカ王国』って国は知らないみたいだし、同じマホウ界じゃないのかも?」
 精霊猫パックとナシマホウ界の(すなわち日本の)少女・朝日奈みらいが補足する。
「問題は、如何なる理由で我々は異なる世界から召集されたのか、という点だ。先ほど襲撃してきた『奇獣』への対策と元いた世界への帰還方法についても併せて……」
「……悪りぃ。ちょっといいですか?」
 ジャージ姿の青年、ナツキ・スバルが番場の言葉を遮るように立ち上がった。
 注目を浴びるスバルは、真剣な表情で室内を見渡しながら
「これからのことについて話し合うのも大事だと思うんすけど……あぁと、その……結論から言えば、さっきの怪物にはもっとヤバい元締めみたいな奴がいるんだ。あいつらはだだの尖兵で、近いうちに親玉がやってくる。だから、まずはその対策を……」
「ちょっと待て」
 ミッシェル・K・デイヴスが鋭い声音で割り込んだ。
「スバルといったな? お前はあの化け物を知っているのか?」
「……それは……」
 ミッシェルの指摘に、スバルは押し黙ってしまう。
 ナツキ・スバルは『死に戻り』という力を持っている。
 自らの死をトリガーに特定のポイントまで時間を巻き戻すという、非常に強力な能力である。
 そのため、スバルはこの先の展開、ペニス―ツマンとの激戦を既に経験していた。
 しかしながら、この『死に戻り』の能力に関することは、他人に話すことができないというデメリットが存在する。
 無理に口に出そうとすれば時間が止まり、『漆黒の腕』に心臓を握りつぶされるような激痛に襲われるというペナルティーが発生するのである。
 この先の展開を伝えたくとも、その根拠を口に出せない。そのようなジレンマの中で、スバルは苦悩していた。
「少なくとも、僕の記憶にはあんな姿形の『魔獣』に覚えはないよ。リアも同様のはずさ……スバルはどうかは知らないけどね」
「ちょっと、パック! そんな言い方……」
 パックの保身に走るような言動に、エミリアが抗議の声をあげる。
 そんなやり取りを気にも留めずに、ミッシェルはスバルを鋭く睨み付ける。
「……私は多くの部下と共に危険な任務についていた。今こうしている間にも、火星では部下達は戦い、中には命を落としている者もいるかもしれない……私と燈が抜けたとなっては猶更だ。私達は、一刻も早く元の世界に戻らないといけないんだ」
 静かな声であったが、威圧するような激情が込められた声であった。
「待ってくれ、俺はっ!」
「知っていることがあるならば、全て話してくれ! 何か話せない事情があるようだが、今はそんなものに拘泥している余裕はないっ!」
 ダンッ!と長テーブルに拳を叩きつけながら、ミッシェルは叫んでいた。
 威圧されたスバルが彼女から目を背けていると
「何か知ってるなら、話してよ。時間がないのはわたし達も一緒なんだ」
 気づけば、おかっぱ頭の少女・無名がスバルの目の前まで歩いていた。
「おいっ! 無名っ!」
「生駒だって気づいているでしょ? 甲鉄城を守る『カバネリ』が二人もいなくなったら、どうなるか。話さないっていうなら、ちょっと痛い目にあってもらうよ?」
 剣呑な雰囲気を醸し出す無名を前に、スバルを庇うようにエミリアが立ちあがる。
「ちょ、ちょっと、待って。乱暴なことをするのは……」
「どいてくれないと、きみも痛い目にあってもらうよ。えるふだっけ? そっちの飼い猫はよくわからないけど、きみ自身は『カバネ』よりは脆そうだし……」
「リアに手を出すっていうなら、僕も手加減はできないよ」
 精霊猫パックが冷気を生み出し、無名が首元の枷紐に手をかける。
「馬鹿! よせ、無名っ!」
「パックも落ち着いて!」
 生駒が背後から抱き着くような形で無名を止め、エミリアがパックを宥める。
 そして、一触即発となった空気に呼応するように
「何だかよくわからんが、貴様は元いる世界に帰る方法を知っているのだな! 今すぐ、私と静を戻してもらおうか! できれば、ラブな感じのホテルの一室などになっ!」
 興奮した様子の義経がスバルに詰め寄り
「ちょっと待ってください! 一人によってたかって、こんなのあまりに一方的ですよっ!」
 光宗がスバルを庇うように声をあげる。
 かつて納鳴村で真咲が疑いの目を向けられ、一人の少女が吊し上げられるまで暴走した『真咲狩り』を彷彿させる光景を、見過ごすことができなかったのである。
「そいつの言う通りだ! いい加減にしろよっ! こんなぎゃあぎゃあ騒がれたら、話せるもんも話せないだろうが!」
「……ろくろが一番……声が大きい……」
 八重歯をむき出しに吠えるろくろを、紅緒が平坦な声で諫めた。
「あぁぁぁ……不幸だぁ……訳のわからない怪物だけでなく、異世界人までが暴れまわるなんて……『晴風』はもうおしまいだぁ……」
「ちょっとシロちゃん、落ちついて……とにかく、この騒ぎを収拾しないと……!」
 頭を抱えながらうずくまるましろを余所に、明乃がわいわいと騒ぎ立てる『異世界人』達を宥めるため動こうとする。
「な、何かおっかない空気になっとる……」
「……ブツブツ……異なる世界……異能力……それでも『個性』に通じるものはあるはず……ブツブツ……」
 不安気な声を漏らすお茶子の隣では、モジャモジャ髪の少年・出久がブツブツと念仏のように何かを呟いていた。
 やがて意を決した表情で、出久が勢いよく立ち上がる。
「待ってくださいっ! おそらく、その人には話せない『理由』があるはずなんです!」
 出久の元へと、会議室中の視線が集まる。
「……言ったはずだぞ。どんな事情があろうと、拘泥している時間はないと」
「事情があるから、ではなく『個性』の制約的なものだとしたら?」
 怪訝な顔で眉を顰めるミッシェルへと出久が説明を進める。
「僕達の世界では、殆どの人が『個性』と呼ばれるコミックのヒーローみたいな能力を持っているんですが……それぞれの『個性』は決して万能なものではないんです。例えば、僕の『個性』は超人的なパワーを発揮できるけど、このようにコントロールができなければ、自分の身体を傷つけてしまうというデメリットがあるんです」
 言いながら、出久が骨折した右手の指を見せつけた。
 ボロボロに負傷した指を見て、ミッシェルや無名、スバルに詰め寄っていた者達も含めた全ての人間が息を呑む。
「多分、スバル君の『個性』は『予知』のようなものだと思うんです。ただし、『予知した情報の根拠を話すことはできない』という風なデメリットがあるものだと。それが、彼が話せない『理由』であると、僕は推測します!」
 出久の言葉に、スバルは目を見開き驚愕した。
(こいつ……マジでスゲェ……これなら全員の力を合わせて、アイツと戦うこともできるんじゃないか……?)
 元いた世界でスバルは、『死に戻り』がもたらす弊害、認識の齟齬と情報を共有できない歯がゆさに酷く苦しんでいた。
 思考の方向性が異なる『異世界人』だからこそ、完全ではないがスバルの能力の一端を理解できたのだといえよう。
「校長先生がよくやってる水晶さんの占い、みたいなのかな?」
陰陽道における式占(ちょくせん)……のようなもの……?」
「『死相が見える』っていう子は納鳴村にも居たけれど……」
 出久の解説に、半数以上はなんとか納得しているものの、一部はただ困惑している様子であった。
 そんな混乱の中、仗助と康一、二人の『スタンド使い』が出久の隣に並び立った。
「指、ボロボロじゃあねぇか……ちょっと見せてみな?」
「えっ? 何を……」
 困惑する出久の手を取り、リーゼントの青年・仗助は自らの『スタンド』を出現させた。
『クレイジーダイアモンド』の『治す』能力をもって、出久の骨折した指は完全に治癒されていく。
「あ、ありがとうございます……これはリカバリーガールと同じ『個性』……いや、治癒力の活性化どころじゃない……まるで時間が逆行しているような……」
 ブツブツと呟き続ける出久を余所に、仗助は周りを見渡すように宣言する。
「見ての通り、これが俺の『スタンド』……『クレイジーダイアモンド』の能力って奴ッス。壊れた物や怪我した生き物を元通りに治す能力なんスけど、もちろん万能な力って訳じゃあない。俺自身の怪我を治すことはできないし……失われた命を戻すこともできない」
 突如出現した人型のスタンド像に呆気にとられる『異世界人』達へ向け、小型のエイリアンのような像(ビジョン)を傍らに浮かべた康一が続ける。
「僕の『スタンド』は『エコーズ』と言います。漫画のような擬音を操るっていう、結構応用が利く能力なんですが、これにもパワーが弱いっていう欠点があります」
 二人の『スタンド使い』の解説に、無名は首を傾げた。
「何が言いたいの?」
「……要は異能は万能ではないということだろ。超人的な身体能力を持つ『カバネリ』が人間の血を必要とするのと同じように、異能にも何かしらの欠点があると言いたいんじゃないか?」
 むぅ……と頬を膨らませる無名を宥める生駒を横目に、ミッシェルがスバルと向かい合う。
「……先ほどは済まなかった。こちとら、SFチックな世界観なんでな。魔法やら超能力なんてモンには疎いんだ」
「い、いや……俺も何も説明しなかったわけで……」
「俺の上司が悪かったな。ちょっと怒りっぽいところがあるんだけど、それは誰よりも部下想いだからなんだ。美人さに免じて許してやってくれ」
「お、おぅ……」
 ミッシェルと燈の謝罪に面食らい、スバルは曖昧な反応を返す。
「……さて、話はまとまったようだな。これからは、スバル君の持つ『予知』のような能力に頼ることになるだろう」
 語りかけてくる番場へ向け、今まで放っておいた癖にどの面さげて言うんだこのおっさん……と口元まで出かけた言葉をスバルは何とか飲み込んだ。
「深くは追及しない。答えられる範囲でいいので答えてほしい。君のいう『奇獣』達の元締めは、いつ襲撃すると予測する?」
「あと数時間以内に来るはずだ……まず姿に面食らうと思う。何たって、アイツは……」
 スバルが言いかけた瞬間に、ガグォン!という爆音が船内に轟いた。
 同時に荒波に翻弄されたような揺れが、スバル達を襲う。
「う、そ……だろ……早すぎる!? 前のときはもっと……」
「甲板に向かおう。まずは事態を把握するべきだ」
 番場が困惑するスバルを立たせ、『異世界人』達は会議室を後にした。
 やがて、彼らは甲板で一人の男を目撃する。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
「オタクくんは赤ちゃんがそのままおじさんになったみたいな顔してるね藁」
「坂上(さかのうえ)ェェェッ!!!」
 スーツ姿の男、坂上逆孤(さかのうえさかこ)へとスバルが憎悪を込めた声で激昂する。
『哲学する男性器』ペニス―ツマンとの決戦の火蓋が切って落とされた。