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岸辺露伴は動かない Ep:114514 『W大学の哲学科』

高田馬場駅」からロータリーを抜け、多種多様な『ラーメン屋』が居並ぶ道を20分程かけて歩き通した先に、『W大学』のキャンパスに辿り着いた。

 

「ふぅん。100年以上の歴史を誇るってワリには、意外と小綺麗じゃあないか」

 

 時計台が目を引くタイル張りの建物『大隈記念講堂』を見ながら、ぼくは適当に呟いた。
 ぼく、岸辺露伴に大学に通った経験はない。
 言い訳をするようで癪だが、16歳の時より「ピンクダークの少年」を『週刊少年ジャンプ』で連載している漫画家に、足蹴く毎週の講義に通うような時間は許されなかったのである。
 そんな縁のない場所にわざわざ訪れた理由は、ひとえに『取材』のためだ。
 来週掲載分の「ピンクダークの少年」の1シーンに、『大学』のキャンパスを描くコマがある。
『大学』を知らないぼくには、『リアリティ』のある絵が描けるとは到底思えなかった。
 創作において『リアリティ』を何よりも重視することを信条しているこの岸辺露伴は、『大学』という未知なる空間をくまなく描写するために、漫画内で登場するキャンパスのモチーフとした『W大学』まで足を運んだのである。
「ええと、『文学部』は向こうの『戸山キャンパス』にあったのか。歩き損だな、全く……」
 広い入口に備え付けられていた案内板を確認すると、キャンパスを間違えてしまったことに気付く。
 漫画内に登場させるキャンパスは『文学部』の『哲学科』の学生が通学するキャンパスである。
『リアリティ』を追求する以上、あらゆる妥協は許されない。
 ぼくは踵を返し、歩いてきた道を戻ろうとした。
 一歩踏み出した瞬間、グニャリと立ち眩みのような感覚に襲われ、ぼくの視界は暗闇の中に閉ざされた。

 

☆☆☆

 

「……何だッ! 今の感覚はッ!? まさか『スタンド能力』!!」

 

 自らを襲った奇妙な感覚に、ぼくはまず『スタンド攻撃』の可能性を疑った。
 警戒しながら周囲を見渡すと、そこにはほんの数秒前とは全く異なった景色が広がっていた。
 先程まで居たキャンパスよりも、落ち着いた雰囲気を感じさせる空間だった。
「ネットで確認した通りの建物ッ! ここは……ぼくが向かおうとしていた『戸山キャンパス』じゃあないか……どういうことだ?」
 どういう訳か、ぼくは目的のキャンパスの入口に突っ立っていた。
 人間を瞬間移動させるような『スタンド攻撃』を受けてしまったのか?
 それとも、自分でも気づかない間にボォーっと歩いて辿り着いたとでもいうのか?
 疑問は尽きないが、ひとまず状況を整理するために、ぼくは道行く学生の一人に声をかけた。
「ちょっといいかな? そこの君、そうだ、君のことを言っている」
「……ハァ、何でしょうか?」
 覇気の感じられない、何とも冴えない学生がけだる気な反応を返す。
「質問をしたいんだが……ここは『哲学科』の学生が通うキャンパスで間違いないか?」
「そうっすよー。ここは『哲学科』のキャンパスであってます」
「そうか……すまない、時間を取らせたな」
「いえいえー。それじゃあ、自分『ゼミ』があるんで……」
 そそくさと学生は人波に紛れるように過ぎ去っていった。
「随分と覇気のない学生だな……スーツ姿だったし、卒業間近になっても『内定』が取れていない『就活生』なのかもしれないな」
 好き勝手言いながらぼくはキャンパス内に入り、早速『取材』に取り掛かった。
 先程体験した奇妙な現象を含めて、この『W大学』には『何か』があると確信していた。
 漫画家として有意義な『取材』ができると胸を膨らませ、最も目を引いた高層棟に入ろうとした、その直後のことだった。
「きゃわわわ~~~! どいてくださいぃぃ~~~!!」
「イチゴのタルト」のように甘ったるい声がキャンパスに響いた。
 慌てて周囲を見渡すも、声の主の姿はどこにも確認できない。
 まさかと思い『上』へ顔を向けると……
「なッッ!? 馬鹿なッッ!!!」
 そこにはファンシーなファッションに身を包んだ女学生が宙を舞っていた。
 いや、『宙を舞う』などという曖昧な言い回しではなく、重力に引かれ『落下』していたと言うべきか。
 あろうことに、女学生は16階もある高層棟から『投身自殺』をはかっていたのだ。
「『ヘブンズ・ドア―――(天国への扉)』ッッッ!!」
 考えるよりも先に、ぼくは自らの『スタンド能力』、『ヘブンズ・ドア―』を出現させていた。
「ピンクダークの少年」の主人公をモチーフとした像(ビジョン)がぼくの身体から浮かび上がり、落下してくる女学生へと手を伸ばす。
 瞬間、女学生の顔は剥がれるように『本』のページと化し、現れたページへと素早く『命令』を書き込んだ。

 

«『五点着地』で受け身を取れ!»

 

『五点着地』。
 正式には『五点接地転回法』という名称の、陸自空挺団が開発した着地法。
 何でも、爪先・脛・太腿・背中・肩の五点で落下による衝撃を分散させることで、全 身で落下の際の衝撃を吸収し、やわらげる技術だという。
 正しくこの着地法を行えば、理論上は10m以上の高さからの落下をも無傷で凌げる、らしい。
 女学生は熟練の空挺隊さながらの動きで衝撃を分散させたことで、一命を取り留めていた。
 無論、高さが高さなので骨折は間逃れなかったようだが……
「はぅぅ~~~……アレぇ? アタシぃ、なんで生きているんですかぁ?」
「……なぁ、君。別に説教じみたことを言うつもりはないんだが……若い身空で命を投げ出すこたぁないんじゃあないのか?」
 骨折の激痛も感じさせないような呑気な声色でとぼける女学生へと、ぼくは柄にもなく諭すようなことを言ってしまう。
「はぇ~~。あなたはもしかして漫画家の岸辺露伴さん? アタシ、大ファンなんですぅ~。こんなとこで会えるなんて、感激ですぅ~。よかったらでいいんですけどぉ~、その『Gペン』、記念にプレゼントしてもらえませんかぁ~~?」
 先程まで『自殺』をはかろうとしていたのが信じられないような間の抜けた声で捲し立てる女学生に、ぼくは苛立ちを隠そうともせずに応じる。
「やるよ。この『Gペン』はぼくの一番の『愛用品』で、漫画を描くのに必要不可欠な『仕事道具』で、魂の一部ともいえる『分身』だけど、こんなもんいくらでもくれてやる。ただし、もう二度とぼくの前で『自殺』をしようなんて馬鹿な真似をしないと約束するのが条件だ」
 有無を言わせず、ぼくは『Gペン』を女学生に押し付けるように握らせた。
 それにしても、漫画家に『サイン』や『イラスト』を求めるならともかく、仕事道具をねだるなんて、この娘は漫画志望か何かなのだろうか?
「はぅぅ~~~、感激ですぅぅ~~~。アタシ、一生大事にしますゔゔッッッ!!!」
 瞬間、ぼくの視界は真紅に染まった。
 渡した『Gペン』を、女学生がその細い首筋の頸動脈へ深々と突き立て、鮮血が勢いよく噴射されたためだ。
「ふ、ふざけるなッ! 何て馬鹿なことをッ! おいッ!誰か、誰かいないのか! 手遅れかもしれないが、救急車を呼んでくれッ!」
 ぼくの言葉も約束も無視し、『自殺』をはかった愚かな女学生を救うべく周囲の人間に呼びかけるも、奇妙なことに誰もが反応を示さなかった。
 傍観者でいたい『対岸の火事』だから、なのか?
 それにしては野次馬に取り囲まれている様子はないが……
 それとも、今時の若者は人が死にかけていようと一切の関心を持たないような冷酷な生き物になってしまったとでもいうのだろうか?
「そこの君ッ! さっき会ったばかりの君のことだッ! 無視するんじゃあないぞ。見ての通りの状況だ。救急車を呼ぶのを頼めるか?」
 たまたま、先程会ったスーツ姿の学生を見つけたので手伝いを頼むと、彼は覇気のない表情で首を傾げた。
「……ハァ……『哲学科』で自殺者なんてそれこそ日常茶飯事ですし……救急車なんて呼んでたらキリがないと思うんすけど……」
 学生は「見知らぬ酔っ払いを介護しているお人好し」を見るような目でぼくを一瞥した後に、高層棟へと入っていった。
 冷たくなっていく女学生の体を支えながら、ぼくは言葉を失い絶句していた。
「……言っている意味がわからない……冗談じゃあないんだぞ……人が一人死んでいるというのに……」
 奇妙な悍ましさを感じながら、ぼくは学生を追いかけるように高層棟へと進んでいった。
 この『大学』は『何か』が決定的に狂っている。
 その『何か』を解明し『取材』するために、ぼくは『深淵』へと足を踏み入れた。

 

☆☆☆

 

『深淵』へと足を踏み入れたと、ぼくは比喩で言ったつもりだったが、高層棟の内部は紛れもなく地獄絵図だった。
 学生の言葉は嘘ではなかった。
 建物内の至る所に、自殺者の亡骸が転がっていた。
 大量の睡眠薬を撒き散らし、テーブルに突っ伏す女学生達。
 規則的な順番で天井からぶら下がる『首吊り死体』。
 焼身自殺をはかった学生達の末路は、ベンチ脇に黒焦げのオブジェのように設置されていた。
「……『異常』だ。何もかもが常軌を逸脱している。これは個人の『スタンド能力』による現象ではありえないッ! もっと強力な……世界の法則を歪めるような『何か』の力が背後で動いているッ!」
 確信めいたものを胸の内に秘めながら、ぼくは建物内を駆ける。
 目標はあの『学生』だ。
 この『異常』な空間で唯一出会った、自殺志願者ではない『普通』の人間。
 彼が『何か』の鍵を握っていることは、疑いようがないッ!
 学生達の死体を踏み越えながら、ぼくは虱潰しに講義室を見て回っていく。
「彼は『ゼミ』に行くと言っていたッ! ならば、建物内にある『ゼミ室』や『研究室』の何処かに、彼は居るはずッ!」
 体感で30分程の時間を走り回った末に、ぼくは『学生』を見つけ出した。
 5階の壁際に位置する比較的狭めな『ゼミ室』に、死体ではない生きた人間の気配を感じたのだ。
 勢いよく扉を開き中へ入ると、そこには教壇に立つ教授の元、件の『学生』を含めた 10人足らずのゼミ生達が講義を受けていた。
「……これこれこういう訳となります。坂上君、何か質問はありますか?」
「特にありません(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )」
 起立しながら、件の学生は平然とした顔で脱糞していた。
『下痢便』が黒いスラックスに染み込んでいき、鼻を突く異臭が辺りに立ち込める。
奇妙なことに教授も他のゼミ生も、生じた惨劇に顔色一つ変えていない。
「すみません。トイレに行ってきます」
一言残すと、『学生』はそそくさと扉へ向かってきた。
「……なぁ、君……」
「……すみません。早く、パンツとズボン履き替えたいんで……」
 流石の岸辺露伴も、脱糞した直後の人間に『取材』することを躊躇ってしまった。
 彼が『ゼミ室』から立ち去った直後、糞の放つ悪臭とは異なった臭いが教壇の方から生じた。
「死にましょうか、臭いですし」
「教授に賛成します」
「異議なし」
 教授は何処からか取り出したポリタンクの中身を、教壇と周囲のゼミ生達にブチまけていた。
 ゼミ生達も応じるように、各々が『ライター』や『マッチ』を手に取っている。
「この臭いは『灯油』ッ!!! 待て、早まるなぁぁぁッッッ!!!」
 ぼくの制止の声も空しく、教授とゼミ生達は一斉に『焼身自殺』を決行した。
 小さな『ゼミ室』の一角が炎上し、人間が火達磨になっていく悍ましい光景が眼前に広がった。
「……残念だがもう彼等を助けることはできないッ! だが、『情報』は貰っていくッッッ!!!」
 のたうち回るゼミ生の一人へと、ぼくは『ヘブンズ・ドアー』の能力を発動させた。
 ゼミ生の体が薄く剥がれ、『本』のページへと変わる。
『人生の体験』が記された『本』のページへと、ぼくは素早く目を走らせていく。
何しろ『本』と『火』の相性はサイアクなのだ。
 炎上する身体のページは現在進行形で失われつつあり、既に所々が焼け焦げて焼失してしまっているッ!

 

«僕は■■■、出身は下北沢で、趣味はチンポチンポセイヤセイヤ……»
«専攻は『東洋哲学』。でも、就職に役立つか■■■»
«『深淵』に触れてしまった!■■■■■■『虚無の哲学』はチンポチンポセイヤセイヤ»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»

炎上するゼミ生の『本』の内容は一部が焼け焦げていたが、それとは別に理解し難い内容が記載されていた。
「焼失している部分はともかく、『文字化け』を起こしたような意味不明な文章は一体ッ!? だが、手がかりは掴めたぞッ! 『深淵』と『虚無の哲学』ッ! これが意味することをあの『学生』に問い詰めるッ!!!」

 

『疑惑』は『確信』へと変わっていた。
 人々の自殺衝動を発現させている『何か』を、あの『学生』は抱えている。
ヘンゼルとグレーテル」のように床に零れている『下痢便』を追跡しながら、ぼくは『学生』の元へと駆けていく。

☆☆☆

 件の『学生』は『男子トイレ』で遭遇した。
 どうやら、天井からぶら下がっている『首吊り死体』のスラックスを拝借しているようだった。
「これもこれでおしっこまみれなんですけど……まぁ『下痢便』まみれのモノよりはいくらかマシですよねぇ……」
「率直に聞く……きさまは一体『何者』なんだ……?」
 相も変わらず覇気のない声でのたまう『学生』へと、ぼくは鋭く質問を切り込む。
「はぇー……自分ですか? 名前は坂上逆孤(さかのうえさかこ)っす。またの名を『哲学するだ……」
「『ヘブンズ・ドアァ―――ァァァッ』!!!」
 質問の返答を待たず、ぼくは『ヘブンズ・ドア―』を発動させた。
「質問に答える必要はない。答えを『読む』ことができるのが、ぼくの能力だからな」
 全身の皮膚が剥がれるように『本』と化した『学生』坂上がフラフラとたたらを踏む。
 浮かび上がった彼の『人生の体験』をぼくは遠慮なく読み込んだ。

 

«名前は坂上逆孤。またの名を哲学する男性器『ペニス―ツマン』»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»
«最近のお気に入りの妄想は『ウヴァさんと雁夜おじさんのレズセックス』»
«『哲学』の『深淵』に座す境地……『虚無の哲学』»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»

 

「『哲学』の『深淵』……『虚無の哲学』ッ! やはりこいつが原因だったかッ!」
明確な答えを得て好奇心を刺激されたぼくは更に奥のページを読み進めた。

 

«『深淵』を覗く時、『深淵』もまたこちらを覗いているッ!»

 

 最後の文章を読んだ瞬間、全身に怖気が迸った。
 気づけば、ぼくの右手が『Gペン』(予備分)を握りしめていた。
「嘘だろッ! まさか、ぼくもまた『虚無の哲学』とやらに取り込まれてしまったのかッ!?」
 右腕がぼくの意識を離れ、『Gペン』を首筋に突き立てんと勢いをつけて動き出す。
「う、うぉぉぉぉぉッッッ!!!」
 ギリギリのタイミングで『ヘブンズ・ドア―』の像(ビジョン)を動かし、暴走するぼくの右腕を止めた。
ヘブンズ・ドア―』が体が触れたため、ぼくの全身は剥かれるように『本』と化していく。
 男子トイレの鏡に写り込むそのページの内容に、ぼくは言葉を失った。

 

«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»
«チンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤチンポチンポセイヤセイヤ»

 

 ぼくの『人生の体験』が記載されるはずの『本』のページが、奇妙な文字列に侵食されていたのである。
 このままでは『深淵』に呑まれてしまうッ!
 全てのページが『虚無の哲学』に侵食される前に、何とかしなければッッッ!!!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッッッ!!!」
 躊躇せずに、ぼくは侵食された『チンポチンポセイヤセイヤ』のページを破り捨てた。
 体が軽くなったのを自覚しながら、『Gペン』で首元を突き刺ささんと暴走していた右腕が大人しくなったことを感じ取る。
「……ハァ……ハァ……そういえば、聞いたことがある……大学の『哲学科』に属する学生の『自殺率』が高いということを……フランスの『ジル・ドゥルーズ』、ドイツの『ヴァルター・ベンヤミン』……歴史上の著名な哲学者の中にも自殺で生涯を終えた者がいる……」
 息を整えながら、ぼくは考察を進めていく。
「……まさか、ぼくが体験しているこの現象が哲学者達の『自殺』の原因なのかッ!? 『哲学』を極めた先に存在する『深淵』、『虚無の哲学』が人の精神を『自殺』へと追い立てるというのかッ!?」
 恐ろしい事実を認識しながら、ぼくはゆらりと立ち上がる『学生』へと目を向ける。
「だが、もう『危機』は去ったッ!」
 不敵な態度でぼくは言い放つ。
 事実、『学生』坂上の目にはぼくの姿は映っていないのだから。

 

«岸辺露伴の姿は『認識』できない!»

 

 そう、最初に『ヘブンズ・ドア―』の能力で『本』に変えた際に、『命令』を書き込んでいたのだ。
 この男と関わりを持った者は『虚無の哲学』に呑まれ、自殺衝動に苛まれてしまう。
ならば、彼の『認識外』にあれば害を受けることはないッ!
「だけどそれでも、それでもなおあなたが干支神という名の輝かしき星、すなわち頂点(ピリオド)を目指すのならば、このウサたんカンパニー代表取締役最高経営責任者、ちょっぴり意識高い系に言うところのCEO、CEOである私ウサたんことウサPP……」
『学生』坂上、否『虚無の哲学者』が意味不明な言葉を羅列する。
 同時に、ぼく達が居る空間が歪み、風景はドロドロとバターのように溶けていく。
「……変身」
 一声と共に、『虚無の哲学者』の姿が眩い光に包まれた。
 身体には変化は見られず、きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が『陰茎』というか『男性器』というか『亀の頭』のような形状へ変化していた。
「何だッ!? その『姿』はッ!?」
「『ハイメガザーメン……」
 亀頭男が『攻撃』の動作に入り、ぼくが咄嗟に『ヘブンズ・ドア―』を出現させ防御の姿勢を取らせた、その直後……
 ぼくは元居る世界へと戻っていた。

☆☆☆

 気づいたときには、ぼくは元居た場所、『W大学』の『本キャンパス』の正門に突っ立っていた。
 周囲を行く学生達も自殺衝動に呑まれた様子もない。
「……ハァ……ハァ……恐ろしい敵だった……! あと一歩、ほんの一瞬の判断が遅れていたら、ぼくの命はなかった……それにしても最後に見せたあの『姿』は一体?」
 坂上が去り際に見せた男性器を頭部に載せたような奇妙な姿。
 あの異形が、彼の『正体』だというのだろうか?
「たしか、それらしいことが『本』に書いてあったな……名前は坂上逆孤、またの名を……哲学する男性器『ペニス―ツマン』、だったか?」
 思案しながら、ぼくはキャンパスを離れ、歩き出す。
 十二分に『大学』の『取材』が行えた以上、ここにいる理由はない。
「思わぬ収穫があった……『哲学』の怪人『ペニス―ツマン』か……また一つ、素晴らしい漫画のネタを得ることができた。さて、『ラーメン』でも食べて帰るとしよう。どれを選ぶか、目移りしてしまうな……」
『ラーメン激戦区』の通りを歩きながら、ぼくは帰路についた。

 

⇒『W大学の哲学科』―取材終了