シン・ペニス―ツマン VS シン・ウルトラマン

 日本政府と外星人との間で執り行わられた調印式は、供与されるはずだった『ベーターボックス』が強奪されたことで中断された。

 実行したのは光の星からの使者『ウルトラマン』とその仲間である禍威獣特設対策室専従班、通称『禍特対』のメンバーである。

「アフターケアも万全です。しばしお待ちください。

 ……君と戦うのは残念だ。ウルトラマン

 メフィラスが外星人としての本来の姿を現し、『ベーターボックス』を起動する。
 閃光と共に60mもの巨大化を果たした後には、音もなく空を飛来し、宿敵たるウルトラマンを追い立てる。
 禍特対が搭乗するCH-47が見守る中、二人の巨人は工業地帯で対峙した。

「メフィラス。ベーターシステムを持って、さっさとこの星から立ち去れ 」
「謹んで、お断りする 」

 神永新二と融合を果たした『ウルトラマン』。
 外星人第0号を自称する『メフィラス』。
 ベーターシステムの機能によって巨大化した二人の外星人が一触即発の空気を醸し出す。

……待て、ウルトラマン。厄介な来訪者が現れたようだ」
「何?」

 突如メフィラスから放たれた静止の言葉に、ウルトラマンが当惑の声を漏らす。

「君の仲間達が攫われたようだ。私の『ベーターボックス』諸共に」

 メフィラスの言葉を聞くや否や 、ウルトラマンは禍特対の仲間達が搭乗しているはずのCH-47へと振り返る。
 そこには搭乗員を失いもぬけの殻となった輸送ヘリコプターが自動操縦でホバリングし、虚しく宙空で静止していた。

「これはお前の差金か、メフィラス?」
「違う。私にとっても想定外の出来事だ」

 怒りを滲ませ問いかけるウルトラマンに、メフィラスもまた不機嫌そうな声音で応じる。

「一時停戦といこう、ウルトラマン

 私は『ベーターボックス』、君は仲間達。互いに取り戻すものがあるだろう」
「停戦を受け入れよう、メフィラス。

 先ほど言葉にした『来訪者』とやらが、禍特対を誘拐した実行犯ということか?」

 互いに停戦を了承した外星人達が情報を共有していく。
 やがてメフィラスは一つのキーワードを口にした。

「その通りだ、ウルトラマン
 実行犯の名は『ペニスーツマン』。
 マルチバース世界を荒らし回る異常者だ」

⭐︎⭐︎⭐︎

 一方、禍特対のメンバーは鬱蒼とした森林の中を探索していた。
 CH-47の中でウルトラマンとメフィラスの戦いの動向を見守ろうとした矢先に、突如空中に出現した『ジッパー』のような裂け目から伸びた触手に捕われたのである。
 保管していた『ベーターボックス』諸共に『ジッパー』の中へと放り込まれた後には、この世のものとは思えないような森林の中へと転移していた。

「嘘……土壌も植生も地球の何処にも当てはまらない……

 もしかしたら、私達は別の惑星にいるのかも……」
「そんな!!! 僕達は外星人の星に拉致されたって事ですかっ!?」

 植物を調べていた汎用生物学者・船縁由美の言葉に、若き非粒子物理学者である滝明久が狼狽の声を上げる。

「落ち着いて。今居るここが別の惑星だと仮定しても、現時点で宇宙服なしで私達は生存しているでしょう。大気と気圧と重力と諸々の問題をクリアしてる星なんて、人類が観測した中でも地球以外には存在しないというのに。余りにもおあつらえ向きだと思わない? 少なくとも私達を誘拐した外星人からの接触があるまでは、命の保障はされるはず」
「『ベーターボックス』を目的とした強奪の巻き添えだとしたら、我々が外星で生存している事そのものが不自然だという訳だな。現時点でメフィラスからのコンタクトがないということは、別の外星人からの襲撃だと考えるのが妥当だろう」

 分析官の浅見弘子が現状に対する見解を述べて、専従班の班長を務める田村君男がまとめ上げる。

「最悪の事態に備えよう。このまま神永との連絡が取れず、また外星人からの接触もないままであれば、ビバークを行う可能性も出てくるかもしれない。さしあっては水と食料の確保に動こう。船緑と滝は川の水質の調査、浅見は食料採集に……」
「……あのー、ちょっといいっすかー」

 班長の田村が禍特対の生存の為に動こうと采配をとっていると、音もなくスーツ姿の男が現れた。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
 スーツの男が纏う異様な雰囲気を見て、禍特対のメンバーは眼前の男が外星人の類だと断定した。

坂上逆孤(さかのうえさかこ)と申します」
「……禍威獣特設対策室専従班、班長の田村君男だ。単刀直入に問おう。お前の目的は『ベーターボックス』か? それとも我々との接触か?」

 油断なく拳銃に手を添えながら、田村が射抜くような視線で坂上に問う。

「多分それ船橋市湾岸部を拠点とするレディース、膣龍(ヴァギナ・ドラゴン)ですよ」
「なにっ?」

 坂上が発した突拍子もない言葉に、田村が困惑の声を上げる。

「ハローアイムサカコ。ユーキャンプレイエキサイティングマスターベーション。バットユーアーロンリーインユアライフフォーエバー。ソーリーファッキンギークボーイズ」
「……貴方、ふざけているの? そんな出鱈目な発音の英語でペラペラと下劣な言葉を捲し立てて。セクハラで訴えられたいのかしら?」

 浅見が呆れた様子で肩をすくめる。

「任意のポケモンキャラ+くさそうで検索してしまう…僕の悪い癖(ゴミの杉下右京)」
「それは僕もよくしますけど……ていうかさっきから脈絡がないことばかり言ってますよね? 地球の言語を習得するのに悪いインターネットでも参考にしたんじゃないですか?」
「神永君やメフィラスはよく学習してたって事なのかしらねー。人類と同じような姿形に擬態しているけど、生物としてはそこまで知能は高くないとか?」

 発言内容に緊張感を削がれたのか、滝と船緑が呑気なコメントを残す。

「あんたはここでふゆと死ぬのよ……!
 メイクアメリカグレートアゲイン!!!」
「……全員退避だ! 出来るだけ離れろ!」

 突如、坂上が放つ瘴気とも形容できる圧力が増大した。
 危機をいち早く感じ取った田村班長が号令をかける。
 やがて坂上は徐にスラックスのジッパーを下ろし、己の逸物をぼろんと出しながら宣言する。

「変身!」

 逸物から放たれる白濁とした閃光に包まれながら、その姿は異形へ変貌していく。
 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。

「ペニスーツマン……爆現!」
「擬態を解いたか!? 待て! 我々に交戦の意思はない!」
「陰茎崩壊前夜 待ってよマスターベイター
 泣いてんだったらシコりな シコりな」

 田村が懸命に言葉を投げかけるが、ペニスーツマンは狂気的な台詞を垂れ流しながら亀頭部をビクビクと震わせる。

「そこまでだ、ペニスーツマン」

 突如、眩い閃光と共に二人の男が現れた。
 禍特対と絆を結んだ外星人『ウルトラマン

 神永新二と胡散臭い笑みを浮かべる外星人第0号『メフィラス』である。

「神永さんっ!! と、メフィラス!?」

 最も頼りにしている男の登場に浅見が安堵の声を漏らすが、宿敵たるメフィラスも同時に現れたことに困惑する。

「『プランクプレーン』を通しても、別次元にある『ヘルヘイムの森』を探知するのは簡単な事ではなかったよ、ペニスーツマン。最もその労苦を担ったのはウルトラマンだが。女性の匂いを嗅いで回るような変態行為は、紳士たる私にはとても出来る事ではないからね」

 メフィラスの軽口に浅見が顔をこわばらせるが、神永は構わずにペニスーツマンと相対する。

「ペニスーツマン。私の仲間に危害を加える前に、この世界から立ち去れ」
「休日勤務するたも~休日勤務するたも~
 殺してたも~殺してたも~」

神永の言葉に反応せずに、ペニスーツマンは曖昧な台詞を吐き、腰をカクカクと振りながら挑発する。

「会話は無意味だ、ウルトラマン。長らくマルチバース世界を巡った結果、彼は精神に異常をきたしている。我々に出来ることは、多少のお灸を据えてやって、この世界から追い返してやることだけだろう」
「ならばやる事は一つだな」

 神永が『ベーターカプセル』を取り出し、メフィラスもまたナックルダスターの形状をしたリモコンを拳に装備する。

「奴を倒すまで間は互いに攻撃を行わない。共闘し、速やかにペニスーツマンを世界から排除する。異論はないな、メフィラス」
「異論はないよ、ウルトラマン。私としても現生人類へ徒に害をなすペニスーツマンを野放しにするのはグッドではない。それにしても物別れした君と共闘とは……」

 メフィラスが薄い笑みを浮かべながら、言葉を紡ぐ。

「『昨日の敵は今日の友』。私の好きな言葉です」

 次の瞬間には、神永が『ベーターカプセル』を、メフィラスが『ベーターボックス』のリモコンスイッチを押し、ベーターシステムを点火させた。
 眩い閃光を纏い、二人の外星人は60mもの巨体へと変貌していく。

「『妖術 肥大蕃息の術』!」
 ペニスーツマンの股間から小槌が生える。
 腰をカクカクを振ることで妖術が発動し、ペニスーツマンの身体がムクムクと肥大化していく。
 やがてその身体はウルトラマンと同じく60m程の巨大サイズまで成長した。

「前よりちょっと大きめに調整しました。KMFと同サイズだと踏み潰されるだけなので……」

 ペニスーツマンが誰ともなしに説明する。
 ウルトラマンはそんな言葉を妄言だと無視し、ペニスーツマンへとタックルを仕掛け、その下半身へとしがみ付く。

「場所を移動させよう」
「了解した」

 ウルトラマンの意図を読んだメフィラスがペニスーツマンの後ろ側へ回り込み、羽交い締めにする。

「ヤクレンジャー ガンジャガンジャ
 ガンジャ戦隊 ヤクレンジャ〜」

 ペニスーツマンが陽気な歌を唄いながら身を振るわせ抵抗する。
 やがてスペシウム133の応用により歪められた重力が、3体の巨人の身体を浮かび上がらせた。

「タッチ決済に対抗してエッチ決済というわけか……

 フォフォフォ! こりゃ一本取られたわい。お前就職四季報の表紙でシコってんだろ?」

 狂気の言葉を垂れ流しながら、ペニスーツマンは2体の外星人に抱えられ上空を滑空していく。
 ひとまず巨人達の戦場から離れられたことに禍特対のメンバーは安堵した。

「『ペニスーツマン』と名乗ったあの外星人も巨大化するテクノロジーを持っていたのね……とてもそんな知性は感じ取れなかったけど……」
「僕達の文明の技術って、あのちんこ星人以下なんですかね……」

 船緑が訝しげな表情で考察し、地球との技術力の差を感じとった滝は愚痴を搾り出す。

「メフィラスは確かに『共闘』と言っていた。ペニスーツマンとやらはメフィラスにとっても敵対すべき外星人なのだろう。今我々が出来ることは、ウルトラマンと……癪だがメフィラスの健闘を祈ることだけだ」
「神永さん。あんなセクハラ星人なんて、思いっきり尻を蹴り飛ばしてやりなさい!」

 田村が真摯な表情で戦場となった上空を見つめ、浅見は仲間である神永/ウルトラマンへと檄を飛ばした。

⭐︎⭐︎⭐︎


「自分この仕事無理っす。無理っす。ほんと無理っす。もっと有能な人にやらせてください。無理っす。いや無理っす。どう考えても無理っす。絶対無理っす。この仕事無理っす。無理っす」

 禍特対から遠く離れた地点で上空から落とされたペニスーツマンは、ウルトラマンとメフィラスの攻撃を受け続け、何やら弱音を吐いていた。

「彼の言葉を額面通りに受け取るなよ、ウルトラマン殴打の感触でわかっていると思うが、ペニスーツマンに対して物理的な攻撃は殆ど意味を成さない」
「わかっている….しかし、何という硬度だ」

 ウルトラマンとメフィラスの細長く力強い脚がペニスーツマンへと蹴り込まれた。
 ネイマールのように回転しながら森林を転がり、やがて全身に木々が突き刺さった様相でペニスーツマンは立ち上がる。

「何気なく歩いてたらどんぐりを踏み潰してしまい野ネズミに説教されてる」
「どんぐりどころではないと思いますが……『ヘルヘイムの森』は別次元の世界とはいえ、これ以上の環境破壊は避けるべきでしょう」

 ペニスーツマンの妄言に、メフィラスが呆れた様子で応じる。

「恵みの雨を降らせよう……『ハイメガザーメン砲』!」

 ペニスーツマンの頭部より、莫大な量の精液が鉄砲水の如く射精された。
 ペニスーツマンの十八番とも称される必殺技を前に、ウルトラマンは両手を前に突き出しスペシウムエネルギーを展開させる。

「ファッ!?」

 ペニスーツマンが驚愕の声を漏らす。
 ウルトラマンが展開した長方形状のバリア『リバウンド光線』により、ザーメンの奔流は四方八方に霧散した。

「エネルギー攻撃を仕掛ける」

 ウルトラマンがスペシウムエネルギーを鋸状に収束させ、『八つ裂き光輪』を投げつけた。

「何のぉ!久々の『包茎ガード』!」

 迫り来る脅威に、ペニスーツマンは頭部の皮を引っ張りあげ防壁とすることで凌ごうとする。

「ひぎぃぃぃ~」

 無論、申し訳程度しか効果はなく、ペニスーツマンの皮には裂傷が刻まれた。

「エネルギー攻撃は有効なようだ。同時に発射するぞ、メフィラス」
「いいだろう、ウルトラマン

 ウルトラマンが両腕を交差し、メフィラスが右腕を前方に突き出した。

「オーオオー さあ無になって死のう
 ラララララ すぐにわかるから」

 かの有名な必殺技が来ると直感で理解したペニスーツマンは辞世の句のような歌を唄い出した。

「「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」

 ウルトラマンの『スペシウム光線』とメフィラスの『グリップビーム』。
 二条の光波熱線がペニスーツマンへと迫り来る!

「『スペルマシウム光線』!」

 ペニスーツマンは徐にジッパーを下げ、自らの股間から桃色の光波熱線を放射した。

スペシウム光線』と『グリップビーム』
 そして『スペルマシウム光線』が鬩ぎ合う。
 大気がイオン化する程の熱量が発生し、『ヘルヘイムの森』の木々が燃え上がり灰燼と化していく。

「オタクのくせに喫茶店で勉強しようとしたら熱々のコーヒー全身にかけられて終わった。今志々雄真実になってます……」

 鬩ぎ合いを制したのはウルトラマンとメフィラスであった。
 焼き焦げたスーツから煙を上げながら、ペニスーツマンは大の字に倒れ伏す。

「君が使用している技術が『ベーターシステム』のそれと関連するかはわからないが……どうやら巨大化した状態での戦闘は、私とウルトラマンに一日の長があるようだな、ペニスーツマン」
「大人しく我々の居る世界から去れ。さもなくば、私は躊躇うことなくこのまま君を焼却させる」

 二人の言葉を受け、ペニスーツマンはフラフラと頼りない足取りで起き上がり、別の世界へと繋がる銀色のオーロラを出現させた。

「……うぅ……マイクロビキニを装備させたウールくん巨大化計画はここで潰えるか……」

 ペニスーツマンはボソボソとボヤきながら、逃亡すべく別次元へと繋がるオーロラへと足を踏み入れる。

「……やられっぱなしってのも悔しいので、ここは置き土産を一つ」

 去り際にペニスーツマンが不穏な言葉を吐いた。

「陰茎呪法 極ノ番『きんたま』」

 ペニスーツマンが消失した後に残ったのは、宙にフワフワと浮かぶ巨大な陰嚢だった。

「エネルギーが凝縮された爆弾か……!?
 大気圏外まで運び出す!」
「待て! 触れては駄目だ! ウルトラマン!」

 禍特対を守るべく、ペニスーツマンの置き土産を運び出そうとウルトラマンが『きんたま』に触れた、その瞬間であった。

 白濁の爆発が『ヘルヘイムの森』を覆い尽くした。

⭐︎⭐︎⭐︎

「『鼬の最後っ屁』……私の苦手な言葉です」
「最後の件に関しては、私の行動が軽率だった」

 珍しく不愉快そうな声音のメフィラスに対して、ウルトラマンは素直に反省した。
 禍特対のメンバーを含めた全員は、オーバーロードであるペニスーツマンが居なくなったことで消滅した『ヘルヘイムの森』から地球へと帰還した。
 しかし、ペニスーツマンが残した『鼬の最後っ屁』によって、全員が集中豪雨のように降り注ぐザーメンを全身に浴びていた。

「……ともかく全員が五体満足で帰還できたことは幸運と言えるだろう」

 田村班長の言葉もいまいち響かず、禍特対のメンバーはゲンナリとした表情で押し黙っている。

「メフィラス。これで振り出しに戻った訳だが……戦いを継続するか?」
「よそう、ウルトラマン。残念だが私はここで手を引こう。

 君を殺してまで手に入れるだけの価値は、もう無さそうだ。

 君の言うとおり、『ベーターボックス』は私が持ち帰る事にする」

 突如、態度を改めたメフィラスを怪訝に思うが、ペニスーツマンとの激闘でスペシウムエネルギーを消耗したウルトラマンにとっては都合のいい回答だった。
『ベーターボックス』を返却されたメフィラスはウルトラマンをバイザーのような眼で見つめながら

「確かに受領した。どうやら、ペニスーツマン以上に厄介なものが来ているようだ。

 面倒に巻き込まれる前に退散するとしよう。……さらば、ウルトラマン

 メフィラスは『ヘルヘイムの森』から帰還した際に、確かに目撃していた。
 上空で静かに佇む金色の巨人、新たなる光の国の使者『ゾーフィ』を。

 ウルトラマンと禍特対の戦いは……
『天体制圧用最終兵器ゼットン』との対決に続く。

☆☆☆

 哲学する男性器『ペニスーツマン』
 いくつもの世界を周り、その瞳は何を見る