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ペニス―ツマン  VS 仮面ライダードライブ

「『ぺぺローション』を流行らせるロイミュード?何の冗談だよ、ベルトさん」

 

 真紅の愛車『トライドロン』を運転しながら、泊進ノ介が怪訝な声で言った。
 運転席のフロントに設置されたベルトさんことドライブドライバーの液晶モニターに、困惑の表情パターンが浮かび上がった。
「それがな、ふざけてなどいないのだよ、シンノスケ。これはれっきとしたロイミュード犯罪、即ち我々『特状課』の管轄という訳だ」
 困惑の色が含まれているが、ベルトさんは至極真面目に事件についてのいきさつを語り始める。
 なんでも、近頃『ぺぺローション』の売上が異常な数値で急増しているという。ひと月前と比べると発注数は数十倍にも達しており、メーカーの生産が追い付かないほどの一種の社会現象にもなっていた。
 あの天皇陛下が御用達にしているという衝撃的なニュースが報道されたのも記憶に新しい。
「それで、その異常な社会現象はロイミュードによって引き起こされたと、ベルトさんは言いたいんだな?」
「Exactly!その通りだシンノスケ。この現象は何者かが確固たる目的をもって引き起こしていると私は考える。そして我々は、その黒幕の尻尾をとうとう掴んだのだ。気を引き締めてかかるのだぞ、シンノスケ」
 ボケーっと景色を流し見ながら、はいはいと進ノ介は気の抜けた返事をする。
 ふざけた冗談としか思えない事件に、進ノ介のギアは極限まで落ちていた。
「そもそも『ぺぺローション』とは何なのですか?アロマオイル等の一種、なのでしょうか?」
 助手席の詩島霧子が首を傾げながら、言葉を漏らす。
 進ノ介が曖昧な表情で言葉を濁していると、ベルトさんの液晶モニターに満面の笑顔の表情パターンが浮かび上がる。
「良い質問だ、キリコ。『ぺぺローション』とは、中島化学産業が誇る日本で最も有名なローションのことだ。その用途は、主に性行為の補助に使用される。マット・素股・手コキ等のプレイ、またはバイブやオナホールの使用する際にも有効だ。特に『ペペ』はローションの代名詞と呼ばれるほどに信頼性が厚く、無味、無害、無臭の三拍子揃っていると専ら評判だ。キリコも、シンノスケとの『夜のドライブ』の際に使えば、パートナーを満足させ……ウワォ!?何をする、シンノスケッ!?」
 ペラペラとまくしたてるベルトさんのスイッチを進ノ介が無言で切った。
 恐る恐る助手席に顔を向けると、そこには羞恥で顔を真っ赤に染めた霧子がぷるぷると震えていた。
「確保ですっ!そんな卑猥で淫らで破廉恥な性犯罪者はわたし達の手で確保しましょう!泊さん、飛ばしてください!」
 激高した霧子に逆らえず、進ノ介はペダルを踏みしめ現場へとトライドロンを急行させた。

 

 ☆☆☆

 

 事件現場は市民公園であった。
 住宅街に無理矢理開かれた公園であるため面積は狭く、遊具も少ない。
 しかし、そこは紛れもなく『事件現場』という様相を呈していた。
「大丈夫ですか、しっかりしてください!」
 霧子が地べたに倒れていた母娘へ駆け寄り、身体を揺する。
 同時に、母娘の全身がローション塗れであるという事実に顔が青ざめるほどに絶句した。
「何てことだ。これは性犯罪じゃないか……」
 進ノ介が静かな怒りを込めた声音で呟いた。
 事件現場を目撃した瞬間から、脳細胞はトップギアに入っている。
 数ある犯罪の中でも、特に弱い立場にある女性や子供を魔の手にかける『性犯罪』を、進ノ介は嫌悪していた。
 被害者の介抱を同性である霧子に任せ、進ノ介は犯人探しに奔走する。
 間もなく、『犯人』はあっさりと見つかった。
「坂上逆孤(さかのうえさかこ)。重加速犯罪、及び『ぺぺローション拡散事件』の首謀者、並びに婦女暴行の疑いで確保する!」
 砂場に座り込んでいるスーツ姿の男を鋭く見据え、進ノ介が宣言した。
 進ノ介の声に耳を傾けず、男は砂を『ぺぺローション』で固めながら、砂遊びに興じていた。
 構わず手錠を取り出した進ノ介を牽制するように、男は口を開いた。

「我はメシア、明日世界を再生する」

 唐突な言葉に困惑する進ノ介に畳みかけるように、男は語る。
「頭がうんこになっちゃいました~、べろべろべろ~」
「乳首比丘尼
「はにゃむめも純」
「疾風の如く髪の毛を生やす」
「原因不明な動悸がする」
 意味のわからない言葉を並び立てられ、進ノ介はいよいよ精神異常者と相対しているのではないかと疑いはじめた。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
 坂上が醸し出す『虚無』は、警察官として様々な凶悪犯罪者と相対し、また仮面ライダーとして数多くの敵と戦い抜いてきた進ノ介にも、得体の知れない悍ましさを感じさせていた。
「動揺するな、シンノスケ!間違いなく、目の前の男が今回の事件の犯人だ!」
「わかっているってベルトさん!でも、一筋縄ではいかない。刑事としての勘がそう言っている!」
 瞬間、ゴォンという爆音が轟き、眼前の砂場に大爆発が起こる。
 そこにはコブラ型の下級ロイミュードが坂上を守るように出現していた。
 坂上は徐にスラックスのファスナーを下げると、己の逸物をぼろんと出した。
 ソコには、真紅のネオバイラルコアが埋め込まれていた。
「変身」
 一声と共に、坂上とロイミュードは電子的な光に包まれ、その姿を変貌させた。
 ソレは異形であった。
 身体には変化は見られず、きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
「ペニス―ツマン、爆現」
 威風堂々とした宣言を受け、進ノ介に緊張が走る。
「融合進化態か……厄介だな」
「どういうことだ……ナンバリングプレートが存在しないとは……」
 総数108体しか存在しないロイミュードには、各々に番号が割り振られている。
 しかし、坂上が媒体として選んだロイミュードにそれが存在しないという事実にベルトさん内部のクリム・スタインベルトの頭脳が違和感を覚える。
「細かいことを考えるのはやめだ!いくぞ、ベルトさん!」
「OK! Start Your Engine」
 進ノ介が左腕のシフトブレスにレバー形態のシフトスピードを装填する。
 そして、ガチャリとシフトレバーを倒し、ドライブドライバーへ変身信号を伝達させた。
「変身!」
「ドライブ!!タイプ・スピード!!」
 進ノ介の身体が真紅の装甲に包まれ、やがてトライドロンから飛んできたタイヤが左胸に襷のごとく装着される。
 仮面ライダードライブ・タイプスピードが目の前のペニス―ツマンと相対した。
「さぁ……ひとっ走り、付き合えよ!」
 決め台詞を放つと、ドライブは疾風の如く駆けだした。
 トライドロンから排出されたハンドル剣を手に、眼前のペニスロイミュード(仮)へと一直線に突撃した。
「トゥア!」
「TURN!」
 圧縮SO-1合金で生成された青い刀身がペニス―ツマンを襲撃する。
 ハンドル剣は鍔部のハンドルを回転させることで運動エネルギーを注入するギミックがある。ドライブの腕力で打ち込まれるその斬撃は、ロイミュードの鋼の身体すら易々と切り裂く威力を誇る。
「にゃー」
 しかし、怪人ペニス―ツマンは幾度斬り込まれようと、曖昧な言葉を漏らすだけであった。
 やがて、ペニス―ツマンはその亀頭をぶるると震わせた。
「こんな見かけでも、融合進化態か。かなり固いぞ」  
「シンノスケ!警戒しろ、何かしらの攻撃が来るぞ!」
 ベルトさんの警告を受け、ドライブは咄嗟にシフトレバーを三度動かした。
「スピ・スピ・スピード!!」
 軽快な音声と共に左胸の『タイプスピードタイヤ』 が唸りをあげ回転する。
 やがて反重力フィールドの恩恵を受けたドライブが円を描くように高速移動する。
 瞬間、ピッとペニス―ツマンの頭頂部から液体がレーザーのように放射された。
 それは加速したドライブに当たることなく、公園の数少ない遊具であるシーソーをバターの如く両断した。
「危ないな……何を飛ばしたんだ、アイツは」
「今、成分を分析したが……九割以上が唯の水のようだ。他には塩素、ナトリウム、カリウムマグネシウム、リン酸、クレアチニンアンモニア、そして……尿酸。非常に言いにくいのだが、奴は尿を飛ばして攻撃したようだ……」
「うわ、バッチィーな!愛車に小便かけられるなんて、車乗りとして想像するだけでもゾッとするよ」
 軽口を叩きながらも、ドライブは加速した状態でペニス―ツマンへと迫って行く。
 そして、左腕のシフトブレスに紫色のシフトカーを装填し、素早くレバーを動かした。
「タイヤコウカーン!!ミッドナイト、シャドー!!」
 胸部の転移ポータルへと十字手裏剣の形をした紫色のタイヤが装備され、仮面ライダードライブ・タイプスピードシャドーへと変化した。
「一気に決めるぞベルトさん!」
「ヒッサーツ!!」
 ドライブがシフトブレスのイグナイターを押すと、ベルトさんの音声が鳴り響く。
 そして、ドライブがシフトレバーを倒し
フルスロットル!!シャドー!!」
 トライドロンが高速でペニス―ツマンの周囲を爆走する。
 三体に分身したドライブがトライドロンの高速移動の反動を利用し、全方位から連続でキックを浴びせた。
 紫の閃光と共に、ドライブはペニス―ツマンを蹴り抜いた。
 人形のように軽々と吹き飛ばされたペニス―ツマンは、木製のベンチを砕きながら地面へ突っ伏していた。
「完全にふらふらになってしまった」
 炸裂した『スピードロップ』はペニス―ツマンを満身創痍にしていた。
 しかし、何処か余裕のある声色がドライブとベルトさんに警鐘を鳴らす。
「んあー」
 びくりびくりと全身を震わせながら、ペニス―ツマンが声を漏らす。
「何だ、また小便か?トイレの近い奴だな」
「違うぞシンノスケ……奴はダメージにエクスタシーを感じているのだ。このままではオーガニズムに達してしまう……」
 深刻な声音で言うベルトさんに、ドライブが言葉を失った。
「……嘘だろ、ベルトさん……オーガニズムってのはつまり……」
「避けろシンノスケ!奴は『射精』するつもりだッ!」
「『スペルマ流星群』」
 ベルトさんの叫びと同時に、ペニス―ツマンはその頭頂部から白濁の玉を打ち上げた。
 やがて上空に達した白濁の玉が花火の如く爆ぜ、公園を塗りつぶすように精液の雨が降り注いだ。
「ドライブ!!タイプ・フォーミュラ!!」
 来るべく危機に対応するため、ドライブはタイプフォーミュラへと変化していた。
「フォ・フォ・フォーミュラ!!」
 シフトレバーを三度動かし、ドライブ・タイプフォーミュラの速度はマッハ2.45まで加速される。
 降り注ぐ白濁の雨をドライブは超スピードで回避した。
「ハァ……ハァ……なんて奴だ……こんな敵は始めてだ……」
 タイプフォーミュラのGの負担に進ノ介は息を切らしていた。
 それ以上に、相対するペニス―ツマンの下劣なる攻撃に精神を擦り減らしていたのだ。
「そうだっ!霧子!霧子は無事かっ!?」
 今だ公園に居るはずのバディの姿を思い出し、進ノ介の脳裏に最悪の予感が過る。
 入口付近へと視線を動かすと、そこには白濁に染まった霧子の姿が居た。
 その身を挺して、被害者である母娘を守っていたのだ。
 汚されたバディを目撃した進ノ介は静かに激高した。
「久しぶりだよ……怒りで頭がシーンと冷えたのは……お前を逮捕して、必ず自らの罪と向き合わせる!」
「罪?なんのことを言っているのですか?」
 進ノ介の怒りの言葉を、ペニス―ツマンはぽかんとした口調で返した。
「ふざけるな!婦女暴行の現行犯が!幸せな母娘だけでなく、霧子にも手をかけたお前が言い逃れるか!」
「手をかけたってというか、精液をかけたんですけどね……いや、それよりも私はそこの母娘を襲ったりなんてしてないんですよ」
「いい加減なことを……この期に及んで自分の罪を認めないつもりか!」
 突如変貌したように流暢に話すペニス―ツマンに、進ノ介は怒りを抑えきれない口調で言い返す。
「その人の言う通りです。私はその方から『ぺぺローション』を購入しただけです。わたし達は指一本触れられていません」
「そーだよー。その後に、ローション使ってお母さんとレズセックスしてたら、気持ち良すぎてそのまま寝ちゃったのー」
 突如、被害者達から援護の声が上がった。
 仮面ライダードライブの中の進ノ介はぽかんとした表情で立ち尽くしていた。
 霧子は咽かえるような精液の臭さに耐え切れず失神している。
「オホン……では、我々は誤解の末に君を攻撃してしまったということ、なのかね?」
「そうっすよ~。びっくりしましたよ、ホント」
 何とか取り繕いながらベルトさんが声をかけるも、動揺の色は隠せていない。
「なぁ、アンタ。じゃあ『ぺぺローション拡散事件』の首謀者ってのも誤解なのか?」
「あっ、それは本当っす。発注数間違えちゃたんで、うへへ~」
「どうやって『ぺぺローション』を拡散させたんだ?」
「皇室に忍び込み、天皇陛下に快楽を覚えさせて流行らせたっす」
「やっぱり性犯罪者じゃないかっ!」
「その通りだ、シンノスケ!」
 怒りを胸に、進ノ介はシフトトライドロンをブレスに装填させた。
「ファイヤー、オールエンジン!!」
 姿形はともあれ、ペニス―ツマンは強敵であると認めざるを得なかった。
 故に、仮面ライダードライブの最強形態でもって打ち砕くことを二人は決意した。
「ドライブ!! タイプ・トライドロン!!」
 トライドロンがアーマーへ変化しドライブに装着され、全てのシフトカーがシフトトライドロンへと結集していく。
 進ノ介とクリム・スタインベルトが本当の意味で一心同体となった“人機一体”の戦闘形態、仮面ライダードライブ タイプ・トライドロンが出現した。
「にゃんにゃかにゅん」
 不可思議な言葉を呟きながら、ペニス―ツマンもまたその姿を変貌させた。
 ペニス―ツマンの全身が金色の光に包まれていく。
 怒りのハイパーモードと呼ばれしその姿は、全ての能力が893倍に増幅される恐るべき形態である。しかし、代償として前立腺の感度が334倍になってまうという欠点も持つ、諸刃の剣ともいうべき姿であった。
「超進化態だと!通りで、恐るべき力を秘めている訳だ」
「ベルトさん、小細工は抜きだ。全力で、フルスロットルで飛ばしていくぞ!」
 何処からともなく飛来してきたトレーラー砲を掴み取り、ドライブがペニス―ツマンへとその砲身を向ける。
 上部のシフトランディングスロットにシフトスピードを、下部のシャッターゲートパネルにシフトトライドロンが装填された。
「ヒッサーツ!!フルスロットル!!」
「フルフル・スピード・ビッグ大砲!!!」
 シフトトライドロンに込められた全エネルギーを束ね、巨大な光弾となったトライドロンそのものが放たれた。
 仮面ライダードライブ最強の必殺技『トレーラービッグインパクト』がペニス―ツマンを襲撃する。
「喰らいなさい……『ハイメガザーメン砲』!!!」
 ペニス―ツマンの頭頂部より、瀑布の如く精液が放射された。
 通常の893倍に増幅された『ハイメガザーメン砲』が『トレーラービッグインパクト』と鬩ぎ合う。
「何という奴だ!まだ精巣に精液が残されていたとは!」
「言ってる場合かベルトさん!畳みかけるぞ」
 ドライブはシフトトライドロンのボタンを連続で押し、また幾度もレバーを動かした。
「カモン・カモン・カモン・カモン・カモン・カモン」
「タイヤ・タイヤ・タイヤ・カキマゼ―ル!!!」
 連続でカキマゼールを発動し、シフトカー全てのタイヤが融合した白いタイヤがドライブの元へ結集された。
「ヒッサーツ!!フルスロットル!!トライドロン!!!」
『トレーラービッグインパクト』の後押すように、必殺のキック『トライドロップ』が炸裂した。
 仮面ライダードライブが誇りし最大の技の重ね掛けとペニス―ツマンが射精した『ハイメガザーメン砲』が拮抗する。
 やがて、視界を埋め尽くす極彩色の爆発が起こり、進ノ介の意識が途絶えた。

 

 ☆☆☆

 

「泊さん!泊さん!しっかりしてください!」
 霧子の悲痛な声に進ノ介は意識を取り戻した。
 変身は解除され、制服姿で精液に塗れた地面に横たわっていた。
 傍らには精液でべたべたになった愛車トライドロンが見守っている。
「アイツは……あのロイミュードは倒せたのか……?」
 意識が朦朧となりながら、進ノ介が呟いた。
「わからない……膨大なエネルギーの衝突によって生じた空間の裂け目に、奴は吸い込まれていった。少なくともこの世界からは消失したと考えてもいいだろう」
「そうか……」
 ベルトさんの分析に、進ノ介が顔を俯かせる。
 警察官としての勝利は犯人を『逮捕』することにある。
 現行犯を取り逃がしたとあっては、警察官としての敗北を意味していた。
「あの男、最後にこう言い残していました。
『時には社会に迎合しても強く生きてほしい』……と
 一体、何が言いたいのでしょうか?」
 激励の言葉とも受け取れる捨て台詞に、霧子は困惑の表情を浮かべている。
 進ノ介もベルトさんも、その意味を理解することは叶わなかった。
「言わせておけばいいさ。今度この世界に現れたときには、絶対に俺が、仮面ライダードライブが逮捕する。そして自分の罪を認めさせてやる!」
 仮面ライダードライブ泊進ノ介が力強い言葉と共に決意した。

 ☆☆☆

 哲学する男性器ペニス―ツマン
 いくつもの世界を周り、その瞳は何を見る?