シン・ペニス―ツマン VS シン・ウルトラマン

 日本政府と外星人との間で執り行わられた調印式は、供与されるはずだった『ベーターボックス』が強奪されたことで中断された。

 実行したのは光の星からの使者『ウルトラマン』とその仲間である禍威獣特設対策室専従班、通称『禍特対』のメンバーである。

「アフターケアも万全です。しばしお待ちください。

 ……君と戦うのは残念だ。ウルトラマン

 メフィラスが外星人としての本来の姿を現し、『ベーターボックス』を起動する。
 閃光と共に60mもの巨大化を果たした後には、音もなく空を飛来し、宿敵たるウルトラマンを追い立てる。
 禍特対が搭乗するCH-47が見守る中、二人の巨人は工業地帯で対峙した。

「メフィラス。ベーターシステムを持って、さっさとこの星から立ち去れ 」
「謹んで、お断りする 」

 神永新二と融合を果たした『ウルトラマン』。
 外星人第0号を自称する『メフィラス』。
 ベーターシステムの機能によって巨大化した二人の外星人が一触即発の空気を醸し出す。

……待て、ウルトラマン。厄介な来訪者が現れたようだ」
「何?」

 突如メフィラスから放たれた静止の言葉に、ウルトラマンが当惑の声を漏らす。

「君の仲間達が攫われたようだ。私の『ベーターボックス』諸共に」

 メフィラスの言葉を聞くや否や 、ウルトラマンは禍特対の仲間達が搭乗しているはずのCH-47へと振り返る。
 そこには搭乗員を失いもぬけの殻となった輸送ヘリコプターが自動操縦でホバリングし、虚しく宙空で静止していた。

「これはお前の差金か、メフィラス?」
「違う。私にとっても想定外の出来事だ」

 怒りを滲ませ問いかけるウルトラマンに、メフィラスもまた不機嫌そうな声音で応じる。

「一時停戦といこう、ウルトラマン

 私は『ベーターボックス』、君は仲間達。互いに取り戻すものがあるだろう」
「停戦を受け入れよう、メフィラス。

 先ほど言葉にした『来訪者』とやらが、禍特対を誘拐した実行犯ということか?」

 互いに停戦を了承した外星人達が情報を共有していく。
 やがてメフィラスは一つのキーワードを口にした。

「その通りだ、ウルトラマン
 実行犯の名は『ペニスーツマン』。
 マルチバース世界を荒らし回る異常者だ」

⭐︎⭐︎⭐︎

 一方、禍特対のメンバーは鬱蒼とした森林の中を探索していた。
 CH-47の中でウルトラマンとメフィラスの戦いの動向を見守ろうとした矢先に、突如空中に出現した『ジッパー』のような裂け目から伸びた触手に捕われたのである。
 保管していた『ベーターボックス』諸共に『ジッパー』の中へと放り込まれた後には、この世のものとは思えないような森林の中へと転移していた。

「嘘……土壌も植生も地球の何処にも当てはまらない……

 もしかしたら、私達は別の惑星にいるのかも……」
「そんな!!! 僕達は外星人の星に拉致されたって事ですかっ!?」

 植物を調べていた汎用生物学者・船縁由美の言葉に、若き非粒子物理学者である滝明久が狼狽の声を上げる。

「落ち着いて。今居るここが別の惑星だと仮定しても、現時点で宇宙服なしで私達は生存しているでしょう。大気と気圧と重力と諸々の問題をクリアしてる星なんて、人類が観測した中でも地球以外には存在しないというのに。余りにもおあつらえ向きだと思わない? 少なくとも私達を誘拐した外星人からの接触があるまでは、命の保障はされるはず」
「『ベーターボックス』を目的とした強奪の巻き添えだとしたら、我々が外星で生存している事そのものが不自然だという訳だな。現時点でメフィラスからのコンタクトがないということは、別の外星人からの襲撃だと考えるのが妥当だろう」

 分析官の浅見弘子が現状に対する見解を述べて、専従班の班長を務める田村君男がまとめ上げる。

「最悪の事態に備えよう。このまま神永との連絡が取れず、また外星人からの接触もないままであれば、ビバークを行う可能性も出てくるかもしれない。さしあっては水と食料の確保に動こう。船緑と滝は川の水質の調査、浅見は食料採集に……」
「……あのー、ちょっといいっすかー」

 班長の田村が禍特対の生存の為に動こうと采配をとっていると、音もなくスーツ姿の男が現れた。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
 スーツの男が纏う異様な雰囲気を見て、禍特対のメンバーは眼前の男が外星人の類だと断定した。

坂上逆孤(さかのうえさかこ)と申します」
「……禍威獣特設対策室専従班、班長の田村君男だ。単刀直入に問おう。お前の目的は『ベーターボックス』か? それとも我々との接触か?」

 油断なく拳銃に手を添えながら、田村が射抜くような視線で坂上に問う。

「多分それ船橋市湾岸部を拠点とするレディース、膣龍(ヴァギナ・ドラゴン)ですよ」
「なにっ?」

 坂上が発した突拍子もない言葉に、田村が困惑の声を上げる。

「ハローアイムサカコ。ユーキャンプレイエキサイティングマスターベーション。バットユーアーロンリーインユアライフフォーエバー。ソーリーファッキンギークボーイズ」
「……貴方、ふざけているの? そんな出鱈目な発音の英語でペラペラと下劣な言葉を捲し立てて。セクハラで訴えられたいのかしら?」

 浅見が呆れた様子で肩をすくめる。

「任意のポケモンキャラ+くさそうで検索してしまう…僕の悪い癖(ゴミの杉下右京)」
「それは僕もよくしますけど……ていうかさっきから脈絡がないことばかり言ってますよね? 地球の言語を習得するのに悪いインターネットでも参考にしたんじゃないですか?」
「神永君やメフィラスはよく学習してたって事なのかしらねー。人類と同じような姿形に擬態しているけど、生物としてはそこまで知能は高くないとか?」

 発言内容に緊張感を削がれたのか、滝と船緑が呑気なコメントを残す。

「あんたはここでふゆと死ぬのよ……!
 メイクアメリカグレートアゲイン!!!」
「……全員退避だ! 出来るだけ離れろ!」

 突如、坂上が放つ瘴気とも形容できる圧力が増大した。
 危機をいち早く感じ取った田村班長が号令をかける。
 やがて坂上は徐にスラックスのジッパーを下ろし、己の逸物をぼろんと出しながら宣言する。

「変身!」

 逸物から放たれる白濁とした閃光に包まれながら、その姿は異形へ変貌していく。
 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。

「ペニスーツマン……爆現!」
「擬態を解いたか!? 待て! 我々に交戦の意思はない!」
「陰茎崩壊前夜 待ってよマスターベイター
 泣いてんだったらシコりな シコりな」

 田村が懸命に言葉を投げかけるが、ペニスーツマンは狂気的な台詞を垂れ流しながら亀頭部をビクビクと震わせる。

「そこまでだ、ペニスーツマン」

 突如、眩い閃光と共に二人の男が現れた。
 禍特対と絆を結んだ外星人『ウルトラマン

 神永新二と胡散臭い笑みを浮かべる外星人第0号『メフィラス』である。

「神永さんっ!! と、メフィラス!?」

 最も頼りにしている男の登場に浅見が安堵の声を漏らすが、宿敵たるメフィラスも同時に現れたことに困惑する。

「『プランクプレーン』を通しても、別次元にある『ヘルヘイムの森』を探知するのは簡単な事ではなかったよ、ペニスーツマン。最もその労苦を担ったのはウルトラマンだが。女性の匂いを嗅いで回るような変態行為は、紳士たる私にはとても出来る事ではないからね」

 メフィラスの軽口に浅見が顔をこわばらせるが、神永は構わずにペニスーツマンと相対する。

「ペニスーツマン。私の仲間に危害を加える前に、この世界から立ち去れ」
「休日勤務するたも~休日勤務するたも~
 殺してたも~殺してたも~」

神永の言葉に反応せずに、ペニスーツマンは曖昧な台詞を吐き、腰をカクカクと振りながら挑発する。

「会話は無意味だ、ウルトラマン。長らくマルチバース世界を巡った結果、彼は精神に異常をきたしている。我々に出来ることは、多少のお灸を据えてやって、この世界から追い返してやることだけだろう」
「ならばやる事は一つだな」

 神永が『ベーターカプセル』を取り出し、メフィラスもまたナックルダスターの形状をしたリモコンを拳に装備する。

「奴を倒すまで間は互いに攻撃を行わない。共闘し、速やかにペニスーツマンを世界から排除する。異論はないな、メフィラス」
「異論はないよ、ウルトラマン。私としても現生人類へ徒に害をなすペニスーツマンを野放しにするのはグッドではない。それにしても物別れした君と共闘とは……」

 メフィラスが薄い笑みを浮かべながら、言葉を紡ぐ。

「『昨日の敵は今日の友』。私の好きな言葉です」

 次の瞬間には、神永が『ベーターカプセル』を、メフィラスが『ベーターボックス』のリモコンスイッチを押し、ベーターシステムを点火させた。
 眩い閃光を纏い、二人の外星人は60mもの巨体へと変貌していく。

「『妖術 肥大蕃息の術』!」
 ペニスーツマンの股間から小槌が生える。
 腰をカクカクを振ることで妖術が発動し、ペニスーツマンの身体がムクムクと肥大化していく。
 やがてその身体はウルトラマンと同じく60m程の巨大サイズまで成長した。

「前よりちょっと大きめに調整しました。KMFと同サイズだと踏み潰されるだけなので……」

 ペニスーツマンが誰ともなしに説明する。
 ウルトラマンはそんな言葉を妄言だと無視し、ペニスーツマンへとタックルを仕掛け、その下半身へとしがみ付く。

「場所を移動させよう」
「了解した」

 ウルトラマンの意図を読んだメフィラスがペニスーツマンの後ろ側へ回り込み、羽交い締めにする。

「ヤクレンジャー ガンジャガンジャ
 ガンジャ戦隊 ヤクレンジャ〜」

 ペニスーツマンが陽気な歌を唄いながら身を振るわせ抵抗する。
 やがてスペシウム133の応用により歪められた重力が、3体の巨人の身体を浮かび上がらせた。

「タッチ決済に対抗してエッチ決済というわけか……

 フォフォフォ! こりゃ一本取られたわい。お前就職四季報の表紙でシコってんだろ?」

 狂気の言葉を垂れ流しながら、ペニスーツマンは2体の外星人に抱えられ上空を滑空していく。
 ひとまず巨人達の戦場から離れられたことに禍特対のメンバーは安堵した。

「『ペニスーツマン』と名乗ったあの外星人も巨大化するテクノロジーを持っていたのね……とてもそんな知性は感じ取れなかったけど……」
「僕達の文明の技術って、あのちんこ星人以下なんですかね……」

 船緑が訝しげな表情で考察し、地球との技術力の差を感じとった滝は愚痴を搾り出す。

「メフィラスは確かに『共闘』と言っていた。ペニスーツマンとやらはメフィラスにとっても敵対すべき外星人なのだろう。今我々が出来ることは、ウルトラマンと……癪だがメフィラスの健闘を祈ることだけだ」
「神永さん。あんなセクハラ星人なんて、思いっきり尻を蹴り飛ばしてやりなさい!」

 田村が真摯な表情で戦場となった上空を見つめ、浅見は仲間である神永/ウルトラマンへと檄を飛ばした。

⭐︎⭐︎⭐︎


「自分この仕事無理っす。無理っす。ほんと無理っす。もっと有能な人にやらせてください。無理っす。いや無理っす。どう考えても無理っす。絶対無理っす。この仕事無理っす。無理っす」

 禍特対から遠く離れた地点で上空から落とされたペニスーツマンは、ウルトラマンとメフィラスの攻撃を受け続け、何やら弱音を吐いていた。

「彼の言葉を額面通りに受け取るなよ、ウルトラマン殴打の感触でわかっていると思うが、ペニスーツマンに対して物理的な攻撃は殆ど意味を成さない」
「わかっている….しかし、何という硬度だ」

 ウルトラマンとメフィラスの細長く力強い脚がペニスーツマンへと蹴り込まれた。
 ネイマールのように回転しながら森林を転がり、やがて全身に木々が突き刺さった様相でペニスーツマンは立ち上がる。

「何気なく歩いてたらどんぐりを踏み潰してしまい野ネズミに説教されてる」
「どんぐりどころではないと思いますが……『ヘルヘイムの森』は別次元の世界とはいえ、これ以上の環境破壊は避けるべきでしょう」

 ペニスーツマンの妄言に、メフィラスが呆れた様子で応じる。

「恵みの雨を降らせよう……『ハイメガザーメン砲』!」

 ペニスーツマンの頭部より、莫大な量の精液が鉄砲水の如く射精された。
 ペニスーツマンの十八番とも称される必殺技を前に、ウルトラマンは両手を前に突き出しスペシウムエネルギーを展開させる。

「ファッ!?」

 ペニスーツマンが驚愕の声を漏らす。
 ウルトラマンが展開した長方形状のバリア『リバウンド光線』により、ザーメンの奔流は四方八方に霧散した。

「エネルギー攻撃を仕掛ける」

 ウルトラマンがスペシウムエネルギーを鋸状に収束させ、『八つ裂き光輪』を投げつけた。

「何のぉ!久々の『包茎ガード』!」

 迫り来る脅威に、ペニスーツマンは頭部の皮を引っ張りあげ防壁とすることで凌ごうとする。

「ひぎぃぃぃ~」

 無論、申し訳程度しか効果はなく、ペニスーツマンの皮には裂傷が刻まれた。

「エネルギー攻撃は有効なようだ。同時に発射するぞ、メフィラス」
「いいだろう、ウルトラマン

 ウルトラマンが両腕を交差し、メフィラスが右腕を前方に突き出した。

「オーオオー さあ無になって死のう
 ラララララ すぐにわかるから」

 かの有名な必殺技が来ると直感で理解したペニスーツマンは辞世の句のような歌を唄い出した。

「「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」

 ウルトラマンの『スペシウム光線』とメフィラスの『グリップビーム』。
 二条の光波熱線がペニスーツマンへと迫り来る!

「『スペルマシウム光線』!」

 ペニスーツマンは徐にジッパーを下げ、自らの股間から桃色の光波熱線を放射した。

スペシウム光線』と『グリップビーム』
 そして『スペルマシウム光線』が鬩ぎ合う。
 大気がイオン化する程の熱量が発生し、『ヘルヘイムの森』の木々が燃え上がり灰燼と化していく。

「オタクのくせに喫茶店で勉強しようとしたら熱々のコーヒー全身にかけられて終わった。今志々雄真実になってます……」

 鬩ぎ合いを制したのはウルトラマンとメフィラスであった。
 焼き焦げたスーツから煙を上げながら、ペニスーツマンは大の字に倒れ伏す。

「君が使用している技術が『ベーターシステム』のそれと関連するかはわからないが……どうやら巨大化した状態での戦闘は、私とウルトラマンに一日の長があるようだな、ペニスーツマン」
「大人しく我々の居る世界から去れ。さもなくば、私は躊躇うことなくこのまま君を焼却させる」

 二人の言葉を受け、ペニスーツマンはフラフラと頼りない足取りで起き上がり、別の世界へと繋がる銀色のオーロラを出現させた。

「……うぅ……マイクロビキニを装備させたウールくん巨大化計画はここで潰えるか……」

 ペニスーツマンはボソボソとボヤきながら、逃亡すべく別次元へと繋がるオーロラへと足を踏み入れる。

「……やられっぱなしってのも悔しいので、ここは置き土産を一つ」

 去り際にペニスーツマンが不穏な言葉を吐いた。

「陰茎呪法 極ノ番『きんたま』」

 ペニスーツマンが消失した後に残ったのは、宙にフワフワと浮かぶ巨大な陰嚢だった。

「エネルギーが凝縮された爆弾か……!?
 大気圏外まで運び出す!」
「待て! 触れては駄目だ! ウルトラマン!」

 禍特対を守るべく、ペニスーツマンの置き土産を運び出そうとウルトラマンが『きんたま』に触れた、その瞬間であった。

 白濁の爆発が『ヘルヘイムの森』を覆い尽くした。

⭐︎⭐︎⭐︎

「『鼬の最後っ屁』……私の苦手な言葉です」
「最後の件に関しては、私の行動が軽率だった」

 珍しく不愉快そうな声音のメフィラスに対して、ウルトラマンは素直に反省した。
 禍特対のメンバーを含めた全員は、オーバーロードであるペニスーツマンが居なくなったことで消滅した『ヘルヘイムの森』から地球へと帰還した。
 しかし、ペニスーツマンが残した『鼬の最後っ屁』によって、全員が集中豪雨のように降り注ぐザーメンを全身に浴びていた。

「……ともかく全員が五体満足で帰還できたことは幸運と言えるだろう」

 田村班長の言葉もいまいち響かず、禍特対のメンバーはゲンナリとした表情で押し黙っている。

「メフィラス。これで振り出しに戻った訳だが……戦いを継続するか?」
「よそう、ウルトラマン。残念だが私はここで手を引こう。

 君を殺してまで手に入れるだけの価値は、もう無さそうだ。

 君の言うとおり、『ベーターボックス』は私が持ち帰る事にする」

 突如、態度を改めたメフィラスを怪訝に思うが、ペニスーツマンとの激闘でスペシウムエネルギーを消耗したウルトラマンにとっては都合のいい回答だった。
『ベーターボックス』を返却されたメフィラスはウルトラマンをバイザーのような眼で見つめながら

「確かに受領した。どうやら、ペニスーツマン以上に厄介なものが来ているようだ。

 面倒に巻き込まれる前に退散するとしよう。……さらば、ウルトラマン

 メフィラスは『ヘルヘイムの森』から帰還した際に、確かに目撃していた。
 上空で静かに佇む金色の巨人、新たなる光の国の使者『ゾーフィ』を。

 ウルトラマンと禍特対の戦いは……
『天体制圧用最終兵器ゼットン』との対決に続く。

☆☆☆

 哲学する男性器『ペニスーツマン』
 いくつもの世界を周り、その瞳は何を見る

ペニス―ツマン VS 仮面ライダーゼロワン

 人工知能搭載人型ロボ・ヒューマギアが、様々な仕事をサポートする新時代。
 AIテクノロジー企業『飛電インテリジェンス』の若き社長、飛電或人は苦い顔で様々な書物と睨めっこしていた。
 社長室に備え付けられた豪奢なデスクの上に散乱しているのはアダルトグッズ関連の資料である。

「……イズ、やっぱり考え直さない? 飛電がアダルト産業に参入するなんて……」
「お言葉ですが或人様、性の分野は馬鹿にできない規模のマーケットなのですよ。これからの時代をリードする事業に相応しいかと」

 側に控えるのは社長秘書を務める秘書型AIアシスタント、イズである。
 朗らかな笑顔で事業についての見識を補足されたが、納得いかない様子の或人の表情は険しいままである。

「いつぞやのお仕事勝負のときにも、天津さんが似たような事を言ってたよね。それ、本当なのかなぁ……? いや、もちろんアダルト産業を軽視している訳じゃないんだけど」
「事業拡大するにあって、コンサルタントをお招きしました。アダルト業界に精通したスペシャリストの方で、必ず飛電の発展のためになりうる人材かと。一度或人様にお目通しいただければと思うのですが、いかがでしょうか?」
「また俺の知らない間に話が進められている!? いや待って待って!! もうそこまで来ているの!? 俺、その人の名前も経歴も何も知らないんだけど!?」
「お見えになられたようです。案内致します」

 混乱している或人を気にせずに、イズは秘書としての業務に励むためスタスタと離れていった。
 やがて、履歴書がどこかにないか慌ててデスクを漁っていた或人の元に、その男は現れた。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。

「こちらが元株式会社まんこソフトウェア代表取締役社長を務め、『ドスケベ総合リゾート ドスケ部』のラブホテル経営をも手掛けたアダルト事業のスペシャリスト、現在は株式社飛電インテリジェンスのアダルト事業の販売コンサルタントを担当する膣階堂陰唇(ちつかいどう・いんしん)様です」
「よろしくオナシャス」
「って、アンタは坂上逆孤(さかのうえさかこ)じゃないか!? お仕事勝負のときの!!」

 或人の突っ込みにイズと膣階堂、改め坂上は目を見開き驚愕した。

「ッッ!? 申し訳ございません、或人様! まさかヒューマギアの分析を欺く程の変装能力とは…… 自らのいたらなさを恥じ入るばかりです……」
「この坂上の完璧な変装を見破るとは……」
「いや、鼻の下にあからさまな付け髭をくっつけただけじゃないの! どうして誰も気づかないんだよ!」

 飛電インテリジェンスの新規事業のコンサルタントとして現れた男は、あろうことか無効試合に終わった『お仕事5番勝負』のアダルトグッズ販売対決にてZAIA側に雇われた営業マン、坂上であった。
 付け髭をベリベリと剥がしながら坂上が虚無に満ちた視線を或人へ向ける。

「バレてしまっては仕方ない。ロボスナちゃんのバックアップデータを渡してもらいましょうか。あの子、私がキモ過ぎて機能停止しちゃったのよね……」
「そういえばアンタにはヒューマギアを持ち逃げされていたな! 彼女は会社の大切な商品であり、社員なんだ! 絶対に返してもらうぞ!」

 或人が鋭い視線で坂上を睨み、飛電ゼロワンドライバーを装着する。

『ジャンプ!』『オーソライズ

 或人がベルトの右側にある認証装置『オーソライザー』に『ライジングホッパープログライズキー』をスキャンすると、バッタ型のライダモデルが衛星ゼアから転送された。
 ライダモデルが坂上を威嚇するように社長室を跳ね回る。
 相対する坂上は朧気な表情を崩さず、スラックスのジッパーを下ろし、己の逸物をぼろんと出した。

「「変身!!」」

『プログライズ!』
『飛び上がライズ!ライジングホッパー!』
『A jump to the sky turns to a rider kick』

 或人が『ライジングホッパープログライズキー』をライズスロットにセットする。
 バッタ型のライダモデルが分離・変形し或人の身体に装着され、やがて仮面ライダーゼロワン『ライジングホッパー』へと変身を遂げた。

「ペニスーツマン、爆現」

 坂上は己の逸物から放たれる白濁とした閃光に包まれ、その姿を異形へと変貌させていく。
 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
 サーモンピンクの怪人・ペニスーツマンが威風堂々とゼロワンと対峙する。

「前のように呆気なく終わると思うなよ! 久々のトリちゃんで行くぞ!」

 お仕事勝負の時の戦闘ではゼロワンの強みを活かす前にペニスーツマンの猛攻を浴び、敗北している。
 前回の二の舞にはさせないと気合を入れ、ゼロワンは『フライングファルコンプログライズキー』をオーソライズさせた。

『プログライズ!』
『Fly to the sky! フライングファルコン!』『Spread your wings and prepare for a force』

 ハヤブサ型のライダモデルがアーマーへと分解し、ゼロワンのパワードスーツに装着されていく。
 派生形態である『フライングファルコン』へと変身を遂げたゼロワンは付与された飛行能力を駆使して宙を舞う。

「オナニーーーーーーー!!カムサハムニダハートマークハートマークハートマーク️ 『ペニスウィング』!!!」
「おりゃあ! 捕まえた!」

 ペニスーツマンが奇声を上げ、鋼のように勃起させた亀頭部を振り回すが、猛禽類の如く飛翔するゼロワンに捕らえられた。
 両肩の主翼に内蔵された「ウイングフェアレンサー」からエネルギーが迸り、ペニスーツマンを抱えたゼロワンが猛烈な勢いで社長室の壁をブチ破る。

「或人様!?」
「イズ! 俺のデスクの中に……あっ、こらっ! 暴れるな!!」
「今後の人生1秒たりとも仕事したくない。何もしたくない。虚空になりたい……」

 狼狽するイズを横目に、ペニスーツマンを捕らえたゼロワンは飛電インテリジェンス本社の外へと飛び出していく。

「おちんちんさんへ。私に黙って自傷行為するのはやめてください……『カウパーバリア』」
「うわぁ!? このっ! 滑る!?」

 ペニスーツマンが危機的状況から抜け出すべくヌメヌメとしたカウパー液を排出した。
 ゼロワンの拘束からすっぽ抜けたペニスーツマンが上空から落下する。

「最近虚空のほうも俺を見つめてくるようになった……」
「しまった!? よりにもよって人が多い所に!!」

 市民の憩いの場である自然公園へと落下したペニスーツマンは虚無めいた言葉を吐きながら、その亀頭部をビクビクと膨張させた。

「騒がしいちんぽ  笑えないちんぽ
 思い付く限り  眩しいちんぽ
 明けないちんぽ  落ちてゆくちんぽ
 僕のちんぽ掴んでほら『スペルマ流星群』」

 詩的な言葉を呟いた後に、ペニスーツマンが白濁の玉を亀頭部より打ち上げた。
 天高く打ち上げられた白濁の玉は花火の如く爆ぜ、辺り一帯を塗り潰すかのような精液の豪雨が降り注ぐ。
 アスレチックで遊ぶ子供達やベンチで身を寄せ合うカップルにも構わず放ったペニスーツマンの範囲攻撃がゼロワンへと襲いかかる。

『プログライズ!』
『Warning, warning, this is not a test!』

 警告音が鳴り響く中、バッタ型のライダモデルのアーマーがゼロワンへと装着されていく。

「そうはさせるか!」

『ハイブリッドライズ!』
『シャイニング!アサルトホッパー!』
『No chance of surviving this shot』

 アサルトグリップを接続した『シャイニングホッパープログライズキー』を使用し、ゼロワンは派生形態である『シャイニングアサルトホッパー』へと変身した。

「『シャインシステム』起動!」

 青きエネルギー波動弾『シャインクリスタ』が或人の脳波コントロールを元に縦横無尽に疾走する。
 コンクリートをも穿つ勢いで降り注ぐ精液の豪雨は、『シャインクリスタ』から八方に放たれるレーザーにより全てが蒸発した。

「何とか全員守ることが出来た……! アイツ、なんて無茶苦茶な攻撃をするんだ!」
「月曜日、心機一転すべての仕事が崩壊する日……!」

 範囲攻撃から市民を守り抜いた或人が安堵するも、ペニスーツマンは攻撃の手を緩めない。
 ハッ、ハッ、ハッ・・・・・・と不気味なリズムで呼吸を刻みながら、ペニスーツマンは頭の男根をダラリと垂らしながら姿勢を落とした。

「摩羅の呼吸 弐ノ型 『叡智叡智一閃(えちえちいっせん)』ッッッ!?」
「……その技はもう見ている」

 居合抜きの如く超高速で男根を振るう、雷の呼吸を組み込んだペニスーツマンの勃起技が空を切る。
『シャイニングアサルトホッパー』の超高速移動と演算能力を用いて、ペニスーツマンの技を見切ったのである。
 隙だらけのペニスーツマンの背後より、ゼロワンがアックスモードのオーソライズバスターを振りかぶる。

『Progrise key confirmed. Ready for buster』
『バスターボンバー!』

ライジングホッパープログライズキー』を装填した放ったオーソライズバスターの一撃が、ペニスーツマンの身体をくの字に曲げながら吹き飛ばす。

「腰がバグってて自動的にパリコレみたいな歩き方になってしまう」

 吹き飛ばされ大木へと全身を叩きつけられたペニスーツマンが身体をクネクネと捩りながら立ち上がる。

「タフな奴だな……でも、アンタが負けを認めるまで、いつまでも付き合ってやるよ! いくぞ、次はコイツだ!」
『エブリバディジャンプ!』
オーソライズ!』

 ゼロワンが『メタルクラスタホッパープログライズキー』をスキャンさせた。

『メタルライズ!』
『Secret material!  飛電メタル!』
『メタルクラスタホッパー!』
『It's high quality』

 サバクトビバッタを模したライダモデルの群れがゼロワンの身体に群がるように覆っていく。
 それらは銀色の装甲へと変化し、やがて仮面ライダーゼロワン『メタルクラスタホッパー』へと変貌させた。

「仕事辞めてとしあきで食っていこうかな?
 うっそ〜 『ハイメガザーメン砲』!」

 フェイントを混ぜつつ、ペニスーツマンが十八番である精液の奔流を亀頭部より射精した。
 迫り来る脅威を前にゼロワンは一歩も動かず、ただ無造作に手を翳した。

「お前の攻撃は全て、予測済みだ!」

 あらゆる分子を分解する機能を持つクラスターセルがバリアのように密集し、『ハイメガザーメン砲』を防いだのである。

「降参するなら今のうちだぞ!」
『ドッキングライズ』

 ゼロワンがプログライズホッパーブレードとアタッシュカリバーを接続する。

「100時間寝たい。私の望みはそれだけです」
「後悔するなよ! どぉりゃああ!!!」
『アルティメットライズ』

 ゼロワンがプログライズホッパーブレードを大きく振るい、最強の必殺技『アルティメットストラッシュ』を撃ち放った。
 巨大なクラスターセルの斬撃がペニスーツマンへと迫り来る。

「……マラガミ神楽『艶舞(えんぶ)』!」

 それは戦いにおいては不自然な程に優雅な所作であった。
 白濁の炎を纏った艶やかな男根の一振りが、『アルティメットストラッシュ』を真正面から打ち破る。

「な、何なんだその技は……!?」
「ラーニングするのはヒューマギアだけの特権ではないという事どすえ」

 前回の戦いのときのデータよりも遥かに強化されたペニスーツマンの技に、或人は驚きを禁じ得なかった。
 動揺している隙を見逃すはずもなく、ペニスーツマンはぬるりとゼロワンへ歩み寄る。

「マラガミ神楽『歓喜天・大膨張(かんきてん・だいぼうちょう)』!」

 ペニスーツマンの亀頭部が気球のように肥大化していく。
 白濁とした炎を纏った超質量の打ち下ろしがゼロワンへと襲い掛かる。

「うわあああああ!!!」

 クラスターセルを密集させたシールドでも受け切ることが出来ず、マラガミ神楽の直撃を受けたゼロワンは変身解除まで追い込まれた。

「何て強さなんだ……でも、まだ俺には希望がある……!」

 満身創痍となった或人だか、その目の戦意は微塵も衰えていなかった。

「プログライズホッパーブレードにはヒューマギアのバックアップデータが保存されているんですよねぇ? あれ、渡して貰えませんかねぇ? そうしてもらえば大人しく立ち去りますんでぇ……」
「ヒューマギアのバックアップデータをみすみす渡すなんて
 そんな提案は……ていやんでぇ!!!

 はい、アルトじゃあ〜〜〜……ないとォォ!!!」

 ペニスーツマンの譲歩するかのような提案に、或人は持ちネタのギャグをもって否定した。

「は? (威圧)」
「今のは、貴方が持ち掛けた愚かな『提案』と江戸弁で『何を言っていやがるのだえ』の転訛である『てやんでぇ』をかけた、大変素晴らしいギャグです」

 珍しく不機嫌な様子で言葉を漏らすペニスーツマンに、突如現れたイズが懇切丁寧にギャグを説明した。

「イズ! よかった、間に合ったんだな!」
「はい、或人様。これを……」

 イズが取り出したのは蒼く装飾された『ライジングホッパープログライズキー』であった。
 切り札『リアライズver.』のプログライズキーを受け取った或人が真剣な表情でイズを見つめる。

「イズ……アイツは強敵だ。力を貸してくれ」
「承知しました。或人様」

 或人の頼みを待ち望んでいたかのように、イズは即座に『飛電ゼロツードライバー』を取り出し装着した。

『ジャンプ!』
『ゼロツージャンプ!』
『Let's give you power! Let's give you power!』

 或人がプログライズキーをオーソライズさせ、イズがゼロツーリベレーターを展開させる。
 待機音声が鳴り響く中、三種のバッタ型のライダモデルが出現し飛び跳ね回る。

「チョモランマのてっぺんから〜
 チンポーチンポー  シコりたい♪」

 戦闘体制へ移ろうという二人を前に、ペニスーツマンは腰をガクガクを振りながら不敵に挑発した。

「「変身!」」

『イニシャライズ! 』
『ゼロツーライズ! 』

リアライジングホッパー!』『A riderkick to the sky turns to take off toward a dream』
『Road to Glory has to Lead to Growin' path to change one to two!』
仮面ライダーゼロツー!! It's never over』

 飛電或人の強き想いから生まれた仮面ライダーゼロワンの最終形態『リアライジングホッパー』。
 飛電或人の夢の集大成であるゼロワンを超えたゼロワン『仮面ライダーゼロツー』。
二人の仮面ライダーが並び立つ。

「「お前を止めるのは!」 」
「俺たちだ!」「私たちです!」
「まあ射精は止められないんですけどね」

 二人の決め台詞ににべもなく返し、ペニスーツマンは亀頭部を横に傾けゴキっと肩を鳴らした。

OTAKU  OTAKU  OTAKU
 オタクが逮捕〜♪ オタクが逮捕〜♪」

 陽気な歌を口ずさみながら、ペニスーツマンが地面を滑るように突貫する。
 二人が変身している最中に油断なく『ペペローション』を全身に浴びていたのだ。

「『アクセルローション』のバリエーション……『ペニスピナー』!!」

 ローションによる摩擦の軽減から生まれる超スピードを維持したまま、フィギュアスケート選手の如く高速回転したペニスーツマンが迫り来る!

「「ハァァ!!!」」
「ファッ!?」

 ゼロワンとゼロツーが瞬時に消え失せ、同時にペニスーツマンの側面から蹴りを打ち込んだ。
 予測能力と超高速移動を駆使し、ペニスーツマンの攻撃にカウンターを喰らわせたのである。
 ペニスーツマンは明後日の方向へネイマールのように回転しながら地面を転げ回り、やがて木製のベンチを破壊しながら静止した。

「何もしてないのに腰がぶっ壊れた……それにしても、2対1とは卑怯な……」

 ペニスーツマンが腰を押さえながらフラフラと立ち上がる。

(ウヴァさんと雁夜おじさんは有給を取っている……

 カミリキインベスくんは自分探しの旅に出てるし……

 ウールくんは後ろからパンツを引っ張るイタズラをしたら口を利いて貰えなくなった……

 スピアーとアブリボンポケモンバンクに預けてしまっている……となれば)

「現れよ、我が眷属……アナザークウガ!!」

 ペニスーツマンがオーブを取り出し、白濁とした光『エロフォトン』を集約させ秘められた力を解放する。
 現れたのは仮面ライダークウガを基にした異形の巨大怪人、アナザークウガだった。

「『アナザーライダー』ッ!?」

 突如現れた巨躯を前に、或人が警戒を強める。
『魔王』を名乗る青年、常盤ソウゴとその仲間達が対峙し続けてきたという、歴史改変を目論む時間犯罪者『タイムジャッカー』。
 そして彼らが生み出した異形の存在『アナザーライダー』。
 ゼロワンの世界を舞台に仮面ライダージオウと共に繰り広げた『アナザーゼロワン』そして『アナザー1号』との激闘は記憶に新しい。


「お・・・・・・お・・・・・・オクレ兄さん

 しかし、その体色は勇ましい赤ではなく、禍々しい黒でもなく、弱々しい白だった。
 アナザークウガはそう弱々しく呟いた後に、煙のように消失した。

「よくわかんないけど、アテは外れたようだな!」
「結局『スーパータイムジャッカー』って何だったんですかねぇ……結局のところ信頼できるのは己がイチモツだけか……」

 ペニスーツマンが思考を切り替ると、ゼロワンとゼロツーへと頭の男根を差し向けた。

「くらいなさい……『おしっこレーザーカぉッッッ!?」

 突如背後から衝撃を受けたペニスーツマンは地面へと叩きつけられた。
 ゼロワンが超高速で背後まで移動し、蹴撃を喰らわせたのである。
 ウォーターカッターの如き勢いで放射されるはずだった小便が、頭の男根からチョロチョロと漏れ出る。

「ならばその足を止めるっ! どんよりとせよ、『重加そヘァッッッ!?」

 ペニス―ツマンの股間に装填された真紅の『ネオバイラルコア』が、超高速で接近したゼロツーによって蹴り上げられた。
 仮面ライダードライブの世界で獲得した『ロイミュード』として能力『重加速』は不発に終わる。

「こうなったら距離を取って魔法をあ痛ッ!?」

 ペニスーツマンが仮面ライダーウィザードの世界で習得した『指輪の魔法』をもって反撃を試みるも、左手のウィザードリングをゼロワンの手刀によって弾かれ失敗に終わる。

「猪口才なっ! これでもくらえ『ザーメンとりもアヒィィッッッ!?」

 粘着性のザーメンを射精する『ザーメンとりもち』は、ゼロツーがペニスーマンの裏筋を優しくそっと撫でたことにより暴発させられた。

「きょ、今日は定時で上がらせてもらいってあれぇ!? い、いつものパターンが……!」

 劣勢を悟ったペニスーツマンが鎧武の世界の『オーバーロード』の能力で『クラック』の中へ逃げ込もうとするも、ゼロワンとゼロツーにより逃げ道を塞がれた。
 ペニスーツマンのサーモンピンクな顔色が絶望に染まっていく。

「お前にはもう何もさせない! イズ、このまま押し切るぞ!」
「はい! 或人様!」

 仮面ライダーゼロツーに備わりし次元跳躍装置『クォンタムリーパー』は様々な可能性を同一世界上に展開させる事を実現させる。
 衛星ゼアが予測する2兆通りの可能性の中からペニスーツマンに有効とされる攻撃を最適に選択し、最速で実行し続けているのである。
 ゼロワンとゼロツーによる無慈悲なまでの波状攻撃が、ペニスーツマンをなす術なく追い詰めていく。

「ちょ、ちょっと本当にシャレにならない……こうなれば久々の『怒りのハイパーモード』ォォ!!!」

 ペニス―ツマンの全身が金色の光に包まれていく。
『怒りのハイパーモード』と呼ばれしその姿は、全ての能力が893倍に増幅される恐るべき形態である。しかし、代償として前立腺の感度が334倍になってまうという欠点も持つ、諸刃の剣ともいうべき姿であった。

「怒りのハイパーマラガミ神楽『金精大明神・朝太刀の舞(こんせいだいみょうじん・あさだちのまい)』!!!」
リアライジングインパクト!』
『ゼロツービッグバン!』

 金色のオーラを刃状に男根に纏わせ、ペニスーツマンが渾身のマラガミ神楽をお見舞いする。
 対するゼロワンとゼロツーは各々のプログライズキーを押し込み、必殺のダブルライダーキックをもって真っ向から激突した!

☆☆☆

 破壊的な激突音が轟いた後に、立っていたのは二人の仮面ライダーであった。
 ダメージによりペニスーツマンの姿を維持できなくなった坂上逆孤は地べたに蹲っている。

「四肢全てから出血しており唇も噛んでめちゃめちゃ腫れとる……」

 坂上は地面に這いつくばりながら虚無の表情で敗北を噛み締めていた。
 もはや打つ手なしと思考を放棄しかけた、その瞬間であった。

「さぁ、坂上さん! 待ち逃げしたウチの商品を返してもらうぞって、あれ?」

 ゼロワンの変身を解除した或人が坂上に近づいたのと同時に、一体のヒューマギアが眼前に突如出現した。
 緑の体色と身体の至る所に昆虫の造形が含まれている異形の少女型のヒューマギア。
 それはまさしく坂上がお仕事勝負の際に持ち逃げした愛玩ヒューマギア『電撃分身スナッチちゃん』であった。

「……解析の結果、この個体はお仕事勝負の時に私がプロデュースした愛玩ヒューマギア『電撃分身スナッチちゃん』で間違いないようです」

 同じく変身を解いたイズが耳のモジュールをピカピカと光らせながら、機能停止し無造作に横たわるスナッチちゃんを分析した。

「とうとう堪忍したってことかな、坂上さんって居ない!?」

 或人とイズがスナッチちゃんに気を取られていた間に、坂上は影も残さず消えていた。
 好き勝手に暴れて荒らし回った罪を償ってもらいたい気持ちはあったが、ひとまず大事な商品を取り戻せたことに或人は安堵する。

坂上さんを取り逃しちゃったのは残念だけど、スナッチちゃんも戻ってきてひとまずは一件落着ってところかな?」

 或人が大きく伸びをしながら、そう結論した。

「はい……しかし、今回の騒動は私の失態です……やはり、アダルト産業に参入する計画は白紙に戻されるのでしょうか?」

 ペニスーツマンという強敵を撃退したものの、イズの表情は浮かないままだ。
 坂上という脅威を引き入れてしまったことに、責任を感じている為である。

「いやいや白紙になんて戻さないって! あと、ちょっと考えたんだけど……もし嫌じゃなければ、イズが新規事業の責任者になってもらえないかな?」

 

 或人の申し出を受けたイズが驚きの表情で瞠目する。

 

「ほら、お仕事勝負のときも凄い活躍していたし、外部の人間に任せるよりも飛電のことを誰よりも知り尽くしているイズに任せるのが適任かなーって。もちろん、社長秘書との兼任になるから忙しくなるとは思うけど……」
「お任せください、或人様。必ずやり遂げてみせます」

 或人の提案をイズは即断即決で受け入れた。

「それに私は秘書型ヒューマギアで叡智(えっち)な分野に対応できる機能がありますので、適任かと思います」
「前にも言ったと思うけど、秘書ってそういうもんじゃないでしょ!」
「秘書は叡智な概念なので妥当かと。では小粋なジョークでもって、これを証明するとしましょう」

 イズが菩薩の如き表情で微笑む。
 嫌な予感が走った或人が表情を強張らせた。

「万国祭はまんこ臭「はい! アウトォォ!!!」

 イズの言葉を或人の絶叫が遮った。
 或人とイズの力で、飛電インテリジェンスはこれからも発展していくだろう。
 人とヒューマギアが共存し笑い合える世界を作るという夢に向けて、二人は飛んでいく。

☆☆☆︎

「まったく世話が焼ける……」

 中性的な容姿の青年、ウールが坂上を背負い路地裏を歩いている。
 ペニスーツマンの姿も維持できなくなる程の絶体絶命のピンチに、ウールはロボスナちゃんで或人とイズを気を引いた上で、『タイムジャッカー』の能力で時間を停止し逆上を回収したのであった。

「今回だけは助けてあげるよ。本来の歴史で僕はスウォルツやオーラに裏切られて死んでいたんだろ? 命を救ってもらった借りはこれでチャラだから、ってこら! 勃起するな! 放り投げるぞ!」

 ウールくんのツンデレ的な台詞に坂上のイチモツがむくむくと起こり立つ。
 プリプリと怒りながらウールは、坂上が展開した『クラック』の中へと入り、ペニスーツマン一門の本拠地へと帰還した。

ペニスーツマン VS コードギアス

 ジルクスタンと超合衆国の間に協定が結ばれた。
 乾いた砂漠の街中にあるアジトでそう報告を受けた細身の青年がほっと息をついた。
『悪逆皇帝』として死に、『共犯者』C.C.の我儘によって生き返った『絶対遵守』の力を持つ青年ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアである。

『黒の騎士団』の活躍により、ルルーシュは『戦士の国』ジルクスタンから最愛の妹ナナリーを取り戻すことに成功した。
 事後処理については、かの大将軍ボルボナ・フォーグナーが各方面との交渉を取り持ったとのことだ。
『ゼロレクイエム』によった成し遂げられた平和の世界にこれ以上の血が流れるのは、ルルーシュにとっても本望ではない。
 後顧の憂いがなくなったルルーシュは一つの決意を固めていた。

(もうナナリーは一人で立派に生きられる……俺がいたら邪魔になるだけだ……『ゼロ』はスザクに託した……ならば俺がやることは、C.C.と……)
ルルーシュッ! 大変だ!」

 ドアを蹴破る勢いで飛び込んできた扇要に、思索に耽っていたルルーシュが驚愕する。

「な、何事だっ!?」
「見たこともないような怪物に、いつのまにかアジトが包囲されているんだ!」
「怪物だと? ジルクスタンの新型兵器だとでもいうのか!? 具体的に報告をしろ!」

 ルルーシュは即座に思考を切り替え、緊急事態の対応に集中した。

☆☆☆

「A班C班は『鹿』を引きつけ後退! E班は密集している『蝙蝠』を殲滅! K班は10秒後に現れる『白虎』を奇襲しろ!」

 数十分後、ルルーシュは声を張り上げ『黒の騎士団』に指示を飛ばしていた。
『蜃気楼』の次世代機となる蒼きKMF『月虹影』の索敵能力を駆使し戦況を解析しながら、突如現れた驚異への対処を的確に行っている。
 扇要の報告の通り、『黒の騎士団』は未知なる怪物の襲撃を受けていた。
 灰色の体色にずんぐりとした達磨のような体型の異形が、やがて各種の獣の特性を備えし成長型へと変貌する。
 それは『インベス』と呼ばれし異世界の侵略者であった。

「……ジルクスタンの生物兵器とは考えられないな……このような切り札があれば、あの一戦のときにシャムナが出し惜しみする理由がない……後、考えられるのはギアス饗団関係だが……」
「残念ながら私にもあのような化物に見覚えはない。少なくともギアス饗団絡みではないだろう。分派である『ファルラフ』も同様のはずだ」
 緑髪の美女C.C.が端的にルルーシュの分析を補足した。
「……だろうな。そもそも協定が結ばれた舌の根が乾かぬ内に反故にするような愚を、フォーグナーが犯すはずがない……であれば、これはジルクスタンとは関連しない、完全なイレギュラーだと考えるのが妥当だろう」
『予言』の力を持つ強敵シャムナとの激戦の疲労が抜けてないルルーシュが憔悴した様子で声を絞り出す。
「……どのような未確認生物でも、未知なるギアスユーザーであろうとも、ナナリーへの驚異となるならば……この俺が排除する!」
 この場には最愛の妹ナナリーもいる。
 ルルーシュは未知なる驚異と相対する覚悟を口にした。

☆☆☆

「ハァァッ! 焼け落ちろ!」

『黒の騎士団』のエースパイロット、紅月カレンが咆哮した。
 同時に真紅のボディが輝くKMF『紅蓮特式』の右腕より輻射波動砲が放射される。
 輻射波動を浴びたインベス達の体液は瞬時に沸騰され、やがて一匹残らず爆散した。

「せっかく全部終わったと思ったのに、何だってのよもうっ!」

 復活したルルーシュと共にナナリーを取り戻しひと段落といった矢先に、未知なる怪物達は現れた。
 平穏を乱した怪物達に向けてカレンが怒りを露わにする。

「ここから先は通さない! ハァァ!!! 」

 純白のKMFランスロットsiN』を駆るのは新たなる『ゼロ』となった青年、枢木スザクである。
 龍のような造形の怪物、セイリュウインベス強化体と対峙した『ランスロットsiN』がエナジーウイングを輝かせながら空中を疾走する。
 やがて、MVS(メーザー・バイブレーション・ソード)の一閃が龍の首を切り落とした。

「怪物の数は多いけれど、今のところKMFで問題なく対処出来ている。問題は、奴らは……」
「そう、問題は『怪物は何処から現れた』かだ……」
 スザクとルルーシュが通信で会話を交わす。
「ジルクスタンとの協定は結ばれたとはいえ、決して警戒は怠ってはいなかった。あれだけの数の敵が『黒の騎士団』の警戒網を掻い潜ったなんて、僕には未だに信じられないよ」
「俺は『黒の騎士団』に落ち度があるとは考えていない。まだ仮説だが、敵は未知なるギアスユーザーである可能性が高い」
「またギアスっ!? 今度は一体どんなインチキ能力だっていうのよ!!」
『認識阻害』のギアスの使い手クジャパット。
 かの暗殺部隊の隊長に苦戦した記憶も新しいカレンが悪態をついた。
「今回の襲撃の首謀者は、怪物のような戦力とは別に、恐らくだが『空間を跳躍する能力』を有しているはずだ」
 ルルーシュが立てた仮説に、スザクとカレン、二人のエースパイロットが息を飲む。
「『空間を跳躍する能力』か。なるほど、そんな能力があるならどのような警戒網も無力化されるはずだね」
「……確証はあるの?」
 カレンの指摘に応ずるように、ルルーシュは二人へと映像データを送信した。
「『月虹影』の機能を駆使し集めた監視カメラの映像データだ。空間に出現する亀裂のようなモノを通り怪物達が現れるらしい。つまり、首謀者は戦場のいつ如何なる場所にも自らの戦力を自在に配置することが可能なのだろう」
「そんなギアスを持つ相手にどうやって戦えというの……?」
「……君の声を聞けばわかる。対抗策はあるんだろう、ルルーシュ?」
 ルルーシュの分析にカレンは顔をしかめるが、スザクは確証を持って問いかけた。
「戦場にタイムラグなく戦力を配置出来る能力は脅威ではあるが、裏を返せば首謀者の意図が色濃く反映されるという訳だ。実際に怪物達が不自然に発生した為に、能力を突き止めることが出来たからな」
 ルルーシュは不適に笑いながら解説を続ける。
「未知なる戦力や特異なギアスを持っていたとしても、それを扱う頭脳が三流以下ならば意図を読むのも容易い。首謀者は不自然にバラけるように怪物を配置している。大方こちらの戦力を分散させるのが目的だろう。念の為、ナナリーの側にはジェレミアとアーニャを配置したが……要らぬ心配だろう。敵の狙いは一つ、戦力を分散させることで手薄になる……」
「司令塔であるルルーシュか、側に仕えるこの私、ということだろう?」
 ルルーシュの解説を遮るように、C.C.が結論を言い放った。
 不満気な顔で押し黙るルルーシュを見て、満足した様子でC.C.が微笑んだ。
「僕達を近くに配置したのは、敵の狙いを外す為だったということか」
 ルルーシュとC.C.が乗る『月虹影』の側には
『紅蓮特式』と『ランスロットsiN』が配置されている。
 戦力が偏り過ぎており、通常では考えられない采配のようにも見えるが、これは首謀者が襲撃してきた際に最大戦力で迎え撃つための秘策であった。
「……その通りだ。俺の予測だとそろそろ首謀者が現れてもいい頃だが……」
「待ってルルーシュ、スザク! 民間人が巻き込まれている!」
 カレンの指摘に、ルルーシュとスザクの二人が前方へと意識を向ける。
 そこには一人のスーツ姿の男がぽつんと突っ立っていた。
「日本人が何故こんな所に!? ともかくここは危険だ! そこの君っ! 避難誘導に従ってすぐにこの場から……グゥッ!?」
 スザクがスピーカーを通して避難を促したその瞬間、目を押さえて蹲った。
 スザクはかつてルルーシュに『生きろ』という呪いにも似た『ギアスの呪縛』をかけられた。
 現在、スザクは強靭な精神力でこれを制御し、自らの潜在能力を引き出す力に変えている。
「……お前は一体、何者なんだ」
 警戒心を露わにしながら、スザクが呟いた。
『ギアスの呪縛』が反応したということは即ち、スーツ姿の男がスザクの命を脅かす程の驚異を秘めていることを示している。
「アラサーになるとシコるのも命がけだからアベンジャーズみたいな顔つきになりますよ」
 スザクの問いかけを無視しながら、スーツ姿の男は訳の分からないひとり言を呟いた。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。
坂上逆孤(さかのうえさかこ)と申します」
「サカノウエ、日本人か……年齢は20代後半……体格的に兵士や工作員には見えないが……」
 名乗りを上げたスーツ姿の男・坂上を注意深く観察し、ルルーシュが分析をしていると
「またの名を、哲学する男性器『ペニスーツマン』…… 」
 坂上が放つ瘴気とも形容できる圧力が増大した。
 やがて坂上は徐にスラックスのジッパーを下ろし、己の逸物をぼろんと出しながら宣言する。
「変身!」
 逸物から放たれる白濁とした閃光に包まれながら、その姿は異形へ変貌していく。
 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
「ペニスーツマン……爆現!」
「一体何なんだあの怪物は!?」
「……妙だな、あの男はギアスユーザーでもコードユーザーでもないようだが……」
 ペニスーツマンへと変身を遂げた坂上が威風堂々と名乗りをあげる。
 坂上のショッキングな変貌に狼狽するルルーシュを他所に、C.C.は怪訝な表情でペニスーツマンを観察していた。
「このままではサイズ感が合わないっすね。『妖術 肥大蕃息の術』!」
 突如、ペニスーツマンの股間から小槌が生えた。やがて腰をカクカクを振ることで妖術が発動し、ペニスーツマンの身体はムクムクと肥大化していく。
 やがてその身体はKMFと同じく4.5m程のサイズまで成長した。
「巨大化しただと!?」
 突如巨大化した未確認生物に驚愕し、思考が追いついていない様子のルルーシュへとペニスーツマンかその亀頭部を差し向けた。
「在宅勤務中にオナニー!! 何考えてる日本人!? 『ハイメガザーメン砲』!!」
ルルーシュ! 下がって!」
 日本人への不満をぶち撒けながら、ペニスーツマンが代名詞ともいえる技を射精する。
『月虹影』へと放たれた白濁の奔流を、カレンが操縦する『紅蓮特式』が遮った。
 輻射波動を円盤状に収束させ作り出したシールドによって受け止められたザーメンの奔流は、その熱量により一瞬で蒸発し消失した。
「くっさいっ!!! アイツ、なんてもん飛ばしてくるのよ!」
 蒸発したザーメンによって生じた悪臭にカレンが顔を顰める。
戊辰戦争で散った幕臣の集合体がトトロなんだよね……」
「そこだっ!」
 虚空を見つめて独り言を呟くペニスーツマンへ向けて、スザクが駆る『ランスロットsiN』が『ヴァリス』を撃ち放った。
 エメラルドの閃光にペニスーツマンが防御行動も取らずに呑まれていく。
「……暑すぎて焼きオタクになってる」
 ハドロン砲の洗礼を浴びたペニスーツマンがネクタイを締め直しながら平然と言い放った。
 多少スーツが焦げ付いているものの、負傷した様子はない。
「強化された『ヴァリス』がまるで通用しないなんて……!」
『シーセブン・アンチマテリアル・ヴァリス』。
 最新鋭へとバージョンアップされたはずの武装が効果をなさないことにスザクが絶句する。
「なら、こいつを喰らえ!」
『紅蓮特式』の代名詞ともいえる右腕の武装・『輻射推進型自在可動有線式徹甲砲撃右腕部』より放たれた輻射波動砲がペニスーツマンへと容赦なく浴びせられた。
 マイクロ波の嵐によって全身を加熱されたペニスーツマンは
「……暑すぎて熱田神宮になってる」
 と全身をクネクネと捩りながら呟いていた。
 あまりこたえていない様子である。
「何なのよ! あの生き物は!?」
ハドロン砲や輻射波動でも効果が薄いとなると、尋常ではないエネルギー兵器に対する耐性を有しているのだろう。ならば……!」
「わかっているよ!」
 ルルーシュの分析に応ずるように、『ランスロットsiN』が二振りのMVSを掲げた。
 意図を理解したカレンもまた『試製一號熱斬刀』を『紅蓮特式』の左腕に装備させた。
「ひとりにひとつずつもらえる自由と情熱のペニス……『カウパーバリア』からの『アクセルローション』!!!」
 ペニスーツマンの亀頭部よりヌメヌメとしたガマン汁が分泌された。
 続け様に、摩擦係数を下げることにより加速する奥義『アクセルローション』により、ペニスーツマンが高速で突撃していく。
 本来はぺぺローションを用いる技であるが巨大化した分の量を用意することが出来なかった為に、自らのカウパー液で代用した格好だ。
「神斬りにいくううううううあああああああ」
「は、速いっ!? このぉッッッ!!!」
 咆哮しながら迫り来るペニスーツマンへと『紅蓮特式』の肩部から『飛燕爪牙』が放たれる。
 しかし高速のKMF戦闘に慣れているカレンでさえも、滑るように疾走するペニスーツマンを捕らえることは叶わなかった。
「『アクセルローション』のバリエーション『ペニスピナー』!」
「舐めるなァァァ!!!」
 フィギュアスケート選手の如く高速回転し突貫するペニスーツマンに対し、カレンは正面から迎え撃った。
『紅蓮特式』の右腕の先に輻射波動を収束し展開させた『輻射回転衝角防御壁』をペニスーツマンへと叩き込む。
 灼熱のドリルとサーモンピンクのドリルが真っ向から激突する!
 やがて強大な衝撃波と共に両者は勢いよく弾かれた。
「カレン!! 無事か!?」
「今日の着地点が見えないのでこのまま粉砕骨折して死のうと思います……」
 スザクからの呼びかけに対し、応答したのはペニスーツマンのみであった。
 激突の衝撃によりカレンは気絶し、『紅蓮特式』も沈黙している。
「うおぉぉぉ!!!」
 己を鼓舞する為に哮けり、スザクが『ランスロットsiN』を縦横無尽に疾走させた。
 ペニスーツマンを驚異的な敵であると認識した上で、『ギアスの呪縛』の力を利用し自らの潜在能力を引き出していく。
ランスロットsiN』がエナジーウィングを煌めかせ、横回転しながらペニスーツマンへと迫り来る。
「むむっ!?『タートルヘッドバッド』!!」
 横回転し放たれた『ランスロットsiN』のキックを、ペニスーツマンが鋼の亀頭部でもって迎撃した。
「ハァァ!!!」
「……ぴえん超えてpain(痛みを伴うほどのぴえん)……」
 横蹴りの威力を受け止められずふらつくペニスーツマンへとスザクが追い討ちをかける。
ランスロットsiN』が振るう二刀のMSVの乱舞がペニスーツマンを切り刻んでいく。
「ぺ、『ペニスウィング』!!!」
 ペニスーツマンが亀頭部を横薙ぎに叩きつけ、『ランスロットsiN』が振るっていた二刀のMSVを弾き飛ばした。
「まだまだぁ!!!」
 スザクは微塵も怯まずに吠え、『ランスロットsiN』の両腕腰部から4基の『スラッシュハーケン』を射出した。
 両腕と両脚の付け根に楔を打ち込まれたペニスーツマンは、宙空で磔になったように拘束される格好となった。
「今は死を待つだけの人生ですね」
「この距離ならぁぁ!!!」
ランスロットsiN』が拘束したペニスーツマンを引き寄せ、ゼロ距離から『ヴァリス』の引き金を引いた。
「何!?」
 しかし、スザクの決死の接射攻撃は空を切る形に終わった。
「今日のゴール、それは霧の中」
 ペニスーツマンは咄嗟に自らに施した『肥大蕃息の術』を解呪していた。
 人間サイズへと縮小した結果、打ち込まれた『スラッシュハーケン』は外れ、『ヴァリス』のゼロ距離射撃を回避することが叶ったのである。
「『スペルマ流星群』のバリエーション『ネバネバ流星群』!!!」
 ペニスーツマンは亀頭部から白濁の玉の射精し、やがて花火の如く弾けたそれは精液の雨を撒き散らした。
 至近距離で弾けた精液の雨はスザクの操縦技術でもっても回避することは出来ず、『ランスロットsiN』の純白のボディが白濁に汚されていく。
 それは『ザーメンとりもち』で放たれるような、粘着性のある精液であった。
「くそっ!? 動け! 動いてくれ!!!」
 粘着性のザーメンに全身をぶっかけられた『ランスロットsiN』は完全に沈黙していた。
 各部の関節は固められ、脚部のランドスピナーも動かず、コクピットブロックを切り離すことさえも叶わない。
「『ブレイズルミナス』も体液に吸収されてしまうのか!? エナジーウィングも動かせない!? すまないルルーシュ! 僕達は失敗した! 逃げて作戦を立て直してくれ!」
 スザクの悲痛な叫びが沈黙した『ランスロットsiN』の中で木霊した。


☆☆☆


「一体どうなっているんだ!?」

『月虹影』のキーボードへとルルーシュが乱暴に拳を叩きつけた。

KMFに匹敵にする身体能力に人並みの知能を持つ怪物だと!? こちらの常識が一切通用しない相手に、どのような戦略を立てろというんだ!?」
「ついで言うとKMFを無力化するザーメンを吐き出すぞ」
「体液と言え!」
 軽口を叩くC.C.を叱りつけるルルーシュに余裕はない。
 スザクとカレン。
『黒の騎士団』が誇る最大戦力を無力化されたルルーシュは窮地に追い込まれていた。
ルルーシュ……私は二度同じ事を言うつもりはないぞ?」
「……わかっている」
 C.C.に諌められるまでもなく、ルルーシュは冷静さを取り戻し、改めて思考を加速させる。
「スザクとカレンとの戦闘から導き出された奴の能力・特性・性格・目的……全てを暴き出し、戦略を立てる!」

 ルルーシュが尊大に宣言し、C.C.は不敵に微笑んだ。

☆☆☆

「疲れすぎてつかこうへいになってる」

 ペニスーツマンが憔悴した様子で呟いた。
『紅蓮特式』と『ランスロットsiN』との連戦は確実にペニスーツマンを消耗させていた。

はえー?」

 もう一仕事頑張るぞいっ!と気合いを入れようとした矢先に、突如眼前の『月虹影』が両手を上げる姿勢をとった。
 俗に言う降伏のポーズである。
 コクピットブロックも開いており、ペニスーツマンを受け入れる体制だ。
 ペニスーツマンは特に警戒することもなく『月虹影』の中へと踏み込んでいった。

「ちょっとぉ、暗いんですけどぉ?」

 内部は全ての電源が落とされており、暗闇に染まっていた。
 ペニスーツマンが文句を言いながらキョロキョロと手探りで中を調べようとした、そのときであった。

「サカノウエ・サカコ……いや、ペニスーツマン、だったか……? ともかく我々は降伏する」

 突如電源が入り、ホールドアップの姿勢のルルーシュとC.C.がペニスーツマンを出迎えた。

はえー? そんな簡単に諦めちゃっていいんですか? ちょっと、解釈違いなんですケド……まぁ、いいや」

 少し落胆した様子のペニスーツマンが胸元から懐中時計のようなものを取り出した。

「C.C.さんの力、いただきますぅ」
「好きにするがいい。ただし、目的を果たした後はこの場から去ると約束しろ」
「ヒロインレース、最初から最後までずーっとC.C.さんが先頭引っ張ってそのままゴールしたな」
「うん? あぁ、まぁな……?」


 突拍子もないことを言われ困惑するC.C.へとペニスーツマンは『ブランクウォッチ』を押し当てた。


「ぐっ!? 私に、触れたな……!」
 ペニスーツマンが押し付けた『ブランクウォッチ』 へ力が流出していくのを感じながらも、C.C.は自らの能力を発動させた。
「お……お……オクレ兄さん……」
 C.C.の額のコードが輝き、『ショックイメージ』がペニスーツマンを直撃した。
 ペニスーツマンはトラウマの奔流に呑まれながら、何やらうわ言を呟いている。
 底無しの虚無のような精神のペニスーツマンと共鳴したC.C.もまた頭を押さえている。
「うぅ……! る、ルルーシュ!」
 C.C.が叫び、ルルーシュの作戦が成功したことを伝えた。
 電源を落とした『月虹影』へ入った際に、ペニスーツマンは『暗い』と発言していた。
 これで目はないが、何らかの形で視覚情報を得ていることが確定した事で条件はクリアされた。
 次にC.C.の『コード』の力を求めて接触した際に『ショックイメージ』を発動し、隙を作る。
 コードユーザーでもなく、視覚がある知的生物であれば『絶対遵守』のギアスは有効であるとルルーシュは結論したのだ。


「《ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる》」
 ルルーシュが『絶対遵守』のギアスの力で、荘厳に宣言する。


「《死ぬまで射精しろ!》」


 ルルーシュの『命令』がペニスーツマンの脳髄へと刻まれていく……


「イエス・ユアハイネス!」


 虚な瞳?で重々しく承ったペニスーツマンの亀頭部から白濁の爆発が生じた。

☆☆☆

「ゴハァッ! ゲホォッ!」

 全身が精液でベトベトになりながらむせるルルーシュが『月虹影』から抜け出した。

「緊急の策にしてはまぁまぁ上手くいったんじゃないか?」

 同じくエロ漫画でしかお見えにならないような状態のC.C.がルルーシュの肩を支えている。

「あ、あんなものが策と言えるものか……一か八かの賭けを策などと……」

 憔悴した様子のルルーシュが言葉を絞り出す。

「勃起したペニスを叩けつけたり、ザーメンを浴びせたりと、口にするのも悍しい奴の技の数々だが……突き詰めると萎えていたら無力化できるという訳か。死ぬまで射精させるという命令は致命的に違いないだろう」

 C.C.が感心した様子でルルーシュの作戦を褒め称えるが、内容が内容なだけにルルーシュは気まずく苦い表情になっていた。

「ひとまずは無力化したが……アレは一体何だったんだろうな……」
「『ショックイメージ』のときに奴の記憶を垣間見たが……一言で表すならアレの正体は『異なる世界を巡る旅人』だな」

 C.C.の表現にルルーシュを怪訝な表情で首をかしげる

「『旅人』だと?」
「そう、『旅人』だ。この世界であれだけ暴れ回って撃退された以上、もう別の世界に旅立っているだろう。アレはそういう、傍迷惑で無責任で曖昧な生き物だ」

 C.C.の解釈が正しければ、ペニスーツマンはもうこの世界には居ないという。
 完全に理解出来た訳ではないが、C.C.の言葉を信じる事にして、ルルーシュは漸くひと段落つくことにした。

「……ともかくシャワーを浴びたい」
「そうだな。ところで、こんな姿をナナリーに見られでもしたら、あらぬ誤解を生んでしまうのではないか?」
「絶対にナナリーに見られないようにしろよ! いいか!? 絶対にだぞ!!!」
 魔女のように微笑むC.C.へとルルーシュが喚いた。
 危機を乗り越え、絆が深まった二人は並んで歩んでアジトへ戻っていく。
 明日からもまた並んで歩んで生きていくことになるのは映画の結末の通りである。

☆☆☆

「か、『カウパーバリア』でギアスへの耐性を得なかったらテクノブレイクするところだった……!」

『ギアス』への耐性を身につけて、ようやく『絶対遵守』の命令から解放されたペニスーツマンがヘルヘイムの森で仰向けに倒れていた。
 ペニスーツマンは起き上がり、懐から新しく手に入れた『ライドウォッチ』を取り出した。

「ようやく手に入れた『C.C.ライドウォッチ』……これにウヴァさんから借りたコアメダルを混ぜ込んでっと……」

 ウヴァさんのクワガタコアメダルが『C.C.ライドウォッチ』に吸い込まれていく。
 やがて『ライドウォッチ』の絵柄に写し出されたC.C.のイラストに、大きな角・正確には大顎が追加で描かれた。

「『クワガタC.C.ライドウォッチ』、ゲットだぜ。次はこのウール君とかいう生意気そうな少年をメスにしたいなぁ〜〜〜」

 手に入れた『クワガタC.C.ライドウォッチ』を満足げに眺めながら、ペニスーツマンが更なる欲望を吐き出した。

☆☆☆

 哲学する男性器『ペニスーツマン』
 いくつもの世界を周り、その瞳は何を見る?

ペニス―ツマン VS 鬼滅の刃

鬼狩りの剣士、竈門炭治郎・我妻善逸・嘴平伊之助の三名は人里離れた森の中を歩んでいた。
柱稽古がひと段落した最中、三人の拠点としている蝶屋敷付近の山で鬼が潜んでいるとの報告が入ったためだ。
各々の鎹鴉(かすがいからす)に導かれるように、炭治郎・善逸・伊之助の三人は、夜の帳が下りた森林を進んでいく。

「……なぁなぁ、炭治郎〜。そろそろ山を降りようよぉ〜」
「善逸……まだ鬼を見つけていないのに下りる訳にはいかないだろ?」

疲れ果てた声で呟く善逸に対し、炭治郎が呆れた様子で言葉を返した。

おざなりな対応をされた善逸は、納得がいかない様子で目をカッ!と見開き

「こんな人相書きを信用する方がどうかしてるだろっ! 首から下は洋装を着込んで、首から上はチンコが生えてる化物なんてさっ!」
などと叫んでいた。
至急された人相書きを天高く掲げながら、善逸はぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。
『ぺにすーつまん』と悍しい書体で書き記された怪人。
それは人相書きというよりは妖怪画と呼称するのが相応しい程に禍々しい姿であった。
様々な異形の鬼と相対してきた鬼殺隊の剣士である三人でも、このような変わり種をお目にかかったことはなかった。

「落ち着け、善逸。そういう形の鬼かもしれないぞ」
「いいや!違うね!絶対に子供の悪戯か何かだよ!俺達は無駄足を踏まされたんだよっ!」
「まぁまぁ……ともかく無駄口を叩く前に任務を遂行しよう。夜明けまでは見回りを続けるぞ」

喚く善逸を炭治郎が長男としての技量をもって宥めた。

「ギャハハハハッッッ!!! チンコの妖怪! 頭に弱点ぶら下げるなんて馬鹿みてぇだな! それに俺の方がチンコがデケェ!」

伊之助もまた喧しく騒いでいた。
掲げている刃こぼれした日輪刀の先には、ズタズタに裂かれた『ぺにすーつまん』の人相書きが突き刺さっていた。

「ちんこちんこ煩いぞ伊之助!まったく、禰󠄀豆子が居なくて本当によかった……」

山中で吠える伊之助を諫めながら、炭治郎は己が妹が同行していないことに安堵した。
日光を克服した最初の鬼となった禰󠄀豆子は現在、無残の手が及ばないよう鬼殺隊に匿われている為、任務には参加していない。
禰󠄀豆子もまた上弦の鬼とも戦い抜いたこともある猛者であるが、あのような卑猥な造形の異形と嫁入り前の妹を鉢合わせることにはとても抵抗があったのである。

「もし、コレが本物の鬼だとしたら、動きを見せない無残への手掛かりになるかもしれない。だから気を抜かずに……んっ?」

炭治郎はその優れた嗅覚で、善逸は聴覚、伊之助は触覚でもって違和感に気付いた。

「みんな、構えろっ! 何かが来るぞっ!」

炭治郎の言葉を受け、各々は日輪刀を構えながら油断なく来訪者を待ち構えた。

「はぁっ……はぁっ……よ、ようやく見つけたぞ……」

横道の藪の中より現れたのは、中世的な顔立ちの若い青年・タイムジャッカーのウールだった。
何やら息が上がっている様子である。

「何だぁ、お前……? 男なのに女みてーな格好しやがって! 弱っちそうな奴だな!」
「う、うわぁ……あ、アンタどこかの娼館から抜け出してきたのか……!?」

伊之助は困惑した様子で威嚇し、善逸はドン引きした声色で言葉を絞り出した。
青年の身に纏う衣装が常軌を逸脱していたからである。
頭には眩い黄色の鬘を被り、その上には兎の耳のようなリボンが付けられている。
上半身には臍出し袖無しのセーラー服。
鼠蹊部を申し訳程度に隠すミニスカートからは黒のTバックがはみ出ていた。
極め付けには、紅白の模様のニーソがその細い両脚を包み込んでいる。

「ち、ちがうっ! この格好は今の主人の趣味に合わせているだけだ! 僕は買春なんてやっていないっ!」
「嫌ァッッッ!!! 耳が腐るっ! 俺はそっちのケはないから! 心の底から勘弁してぇぇぇッッッ!」
「善逸! 失礼だぞ! 何か事情があるのかもしれないだろ! 俺達だって遊郭に潜入したことだってあるじゃないか!」
「あぁもう! 話を聞け!」
拒絶反応から悲鳴を上げる善逸を炭治郎が諫めた。
ウールはウンザリとした様子でため息を吐きながら

「ともかく、僕の目的はお前だ、我妻善逸」
「エェッ!? あ、アタイ……!?」

ウールに名指しされた善逸が吉原遊郭に潜入した時のようなテンションで狼狽える。

「僕の主人がお前をご指名なんだ。悪いようにはしないから、一緒に来てくれ」
「ふ、ふざけんなッ!!! そんな格好させるような奴のご指名にホイホイついて行ってたまるかよ!」
「まぁ、そうなるよね……仕方ない……」

拒否されるのは想定済みといった様子で、ウールはおもむろに右手を眼前に掲げた。

「ウオラァ! させるかぁーーー!!!」
「なっ!?」

突如、伊之助が日輪刀を投げつけた。
迫りくる刀に対し、ウールは咄嗟に体を反らせながら回避する。しかし次の瞬間には、首根っこの後ろを掴まれ地面に組み伏せられた。

「グゥ!? いつの間に……」
「暴れないでください! 俺達に危害を加えないと約束するのであれば、このまま解放しますから!」

日輪刀を投擲され気をそらされた瞬間にはもう、炭治郎は呼吸法により上昇させた身体能力を駆使し距離を縮めていた。
オーラやスウォルツとは違い、肉体的にはさほど強くないウールには炭治郎の力を振り解くことができない。

(く、くそぅ! 時間を止めることさえ出来ればこんな奴ら……!)

ウールは指を鳴らすことでタイムジャッカーとしての力、『時間停止』を発動することが出来る。
しかしながら、炭治郎により腕を万力の如き力で締め上げられている為、苦しげな声で呻くことしか叶わなかった。

「炭八郎、気を付けろ! そいつは鬼じゃねぇが、何か妙な力を使おうとしているぞ! その指が怪しいぜ! 俺の肌がビリビリと感じるんだよ!」
「わかっている! この人からは敵意の臭いを感じるから! 鬼が血鬼術を発動させる前のような危険な臭いも一緒にだ!」
「う、嘘だろ……生身の人間に、このタイムジャッカーであるこの僕が……!」

ウールは事前にタイムジャッカーの情報源を元に、我妻善逸が所属する鬼殺隊について調査を行っていた。
それは鬼と呼ばれし異形の撲滅を目的とする復讐者の集団。
鬼と渡り合う為に、隊員は独自の鍛錬を積み、超人的な技を身につけるという。
ウールの知識でいえば魔化魍から人々を守り続けた2005年の仮面ライダー響鬼に近い存在だろう。
どのような戦士であれど、アナザーライダーを生み出すときのように時間を止めさせすれば問題はないと高を括っていたことがウールにとって災いした。

「離せ! くそっ!」
「善逸は鬼殺隊に必要な、大切な仲間なんです……どうか諦めてください!」
「炭治郎ォォォーーーっ! ありがとなぁーーーっ! これで俺の貞操は守られたよぉーーーっ!」

敵を完全に取り押さえた炭治郎を見て、善逸は安堵の涙を流しながら奇声を上げた。
そんな最中であった。

「U.N.オーエンはオタクなのか?
お前ゆ虐見ながらシコッてんだろ? 」

何の前触れもなく、洋装を身に纏った男が現れた。
その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。

「撮った風景写真だけ見たいのにアニメキャプとかゲームのスクショとか野間口くんとかが混在してて絶望」
「いつの間に、居たんだ……!?」

物憂げな表情で洋装服の男が呟いた。
炭治郎は驚愕の表情で男を見据える。
気配も臭いも全く感じさせず出現した怪しげな男に対し、ウールを抑える手を緩めないままに対峙した。

坂上逆孤(さかのうえさかこ)と申します」
「俺は鬼殺隊の竈門炭治郎だ! お前の目的は何だ!」
「やばい……やばいよ、炭治郎……そいつから酷く嫌な音がするんだ……鬼の音とは違うんだけど、聞いているだけで吐きそうになる気持ち悪い不協和音なんだ!」

警戒心を露わにする炭治郎に警告するように善逸が言葉を絞り出す。
そんなやり取りを気にもかけずに、洋装服の男・坂上は徐にスラックスのジッパーを下ろし、己の逸物をぼろんと出しながら宣言した。

「またの名を、哲学する男性器『ペニスーツマン』……変身!」

逸物から放たれる白濁とした閃光に包まれながら、その姿は異形へ変貌していく。
身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。

「こんなことあるっ!?」

眼前に出現した異形はまさしく、人相書きに記されていた怪人『ぺにすーつまん』そのものであった。
あまりにも衝撃的なビジュアルに善逸は白目を剥いて気絶した。

「ま、待ってくれ、坂上……! 僕は失敗なんてしてない! これから挽回するところだったんだ! だから……」
「『ザーメンバンジーガム』」
「や、やめろォ!」

必死に弁解するウールへとペニスーツマンは容赦なく射精した。
組み伏せていた炭治郎は転がるようにして避けるが、ウールは粘着性の精液に絡め取られた。

「『ザーメンバンジーガム』はガムとゴムの両方の性質を持つクローバー︎」
「う、うわぁぁぁぁッッッ!!!」

ゴムの収縮の力で引き寄せられたウールは、そのままペニスーツマンが展開したクラックの穴へと放り込まれた。

「答えろ! お前は鬼舞辻無惨の手の者なのか!?」
「鬼舞辻無惨? いやぁ、知らないっすねぇ……偏差値20以下の人……?」
「無惨を知らない….? なら、この人のいう主人とはお前のことなのか!? 何故、善逸を狙うんだ!」
「いやだって、メインヒロインですしおすし……島風くんと化した善逸くん見たくない?」
「何を言っているんだ!?」
「マンコバズーカ下痢うんこコンサルティング株式会社」
「駄目だ! 会話が成り立たない!」

狂気じみた妄言をたれ流すペニスーツマンとの会話を切り上げ、炭治郎は改めて日輪刀を構え直した。

「猪突猛進! 猪突猛進!」

ウールへと投擲した日輪刀を拾った伊之助は、刃こぼれした二刀の日輪刀を掲げながら、ペニスーツマンへと突貫した。

「俺の推理が正しければこの職場催淫ガスが散布されて泣く泣く撤退することがある」
「勝手に泣いてやがれ! 紋逸の野郎はこの伊之助様の子分だ! テメェなんかには渡さねぇぞォォォッ!!!」

ネクタイを締め直しながら囁くペニスーツマンを無視しながら、伊之助が二刀を振りかざす。

「獣の呼吸 弐ノ牙 『切り裂き』!!」

ペニスーツマンの亀頭部へと、十文字の斬撃が刻まれた。

「なっ!? 硬てぇ!!」

しかしてその感触は、数々の鬼の頸を斬り落としてきた伊之助にとっても、経験したことのない程の強度であった。

「『タートルヘッドバッド』!」
「がはぁ!?」

困惑している伊之助へと、ペニスーツマンはのけ反った勢いを利用しながら、ガチガチに勃起した亀頭部を猪の被り物へと叩きつけた。

「伊之助! 大丈夫か!?」
「型破りなオナニーで保守的な日本企業を打破 してみせる……『アクセルローション』!」

吹き飛ばされた伊之助を炭治郎がどうにか受け止める。
そんな隙を見逃さず、ペニスーツマンは全身にローションを浴びることで技の準備を整えた。
摩擦力低減を利用した移動法『アクセルローション』により加速したペニスーツマンが高速で襲いかかる。

「雷の呼吸 壱ノ型 『霹靂一閃』」
「んあっ!?」

迫り来るペニスーツマンを迎え撃ったのは、善逸が放った雷光の如き一閃であった。
ペニスーツマンの衝撃的なビジュアルを目撃し気絶していた善逸は『眠り』に入り、戦闘態勢に移っていたのである。

「『八閃』」
「あばばっっっ!? お腹でガスがぎゅるぎゅる言いまくっててうんこではなく俺の人間性だった……!?」

続けざまに善逸は合計で八度、ペニスーツマンを斬りつけた。
八回の踏み込みが一度にしか聞こえない程の神速での居合い斬りに、加速したペニスーツマンであってもなす術なく切り刻まれた。

「水の呼吸 捌ノ型 『滝壷』!」

駄目押しとばかりに、炭治郎が空中より怒涛の威力の打ち下ろしをペニスーツマンへと浴びせた。
技の直撃を受けて、もんどり打って転がるペニスーツマンを見ながら、炭治郎は苦い顔で呟く。

「何て硬さなんだ……! もしかしたら、上弦の鬼以上の強度かもしれない……!」

水の呼吸の中でも上位の威力を誇る捌ノ型『滝壷』でも傷一つ負わせることが出来なかったことに炭治郎は歯噛みする。
身体に負担はかかるが『ヒノカミ神楽』を使うしかないと決意しながら

「善逸! 伊之助! 同時に攻撃するぞ!」
「わかった」
「チィ! 俺に命令すんじゃねぇ!」

炭治郎の号令の元、三人の鬼狩りの剣士は即座に動いた。
かつての上弦の陸・墜姫を攻略した時のように、三人は連携を取りながらペニスーツマンへ迫っていく。

「むむっ!? 『ペニスミラージュ』!」

迫り来る剣士達を迎え撃つべく、ペニスーツマンは頭部から霧状のザーメンを射精した。幻覚効果を有する白濁した霧が辺りを立ちこめる。

「そんなもん効くかぁ! 獣の呼吸 拾ノ牙 『円転旋牙』!」

伊之助は両手の日輪刀を高速回転させ、白濁の霧を吹き飛ばした。

「雷の呼吸 壱ノ型 『霹靂一閃』『神速』」

伊之助が霧払いした瞬間を射抜くように、善逸が稲光の如く駆け抜けた。
ペニスーツマンの亀頭部の根本へと超速度の居合抜きが刻まれる。

「いやーきついっす(素)……」
「まだだぁ! ヒノカミ神楽 『碧羅の天』!」

タタラを踏むペニスーツマンへ追い討ちをかけるように、炭治郎が切り札たるヒノカミ神楽をお見舞いした。

「ハッ…ハッ…アッー!アーツィ!アーツ!アーツェ!アツゥイ! ヒュゥー、アッツ!アツウィー、アツーウィ!アツー、アツーェ! すいませへぇぇ~ん!アッアッアッ、アツェ!アツェ!アッー、熱いっす!熱いっす!ーアッ! 熱いっす!熱いっす!アツェ!アツイ!アツイ!アツイ!アツイ!アツイ!アー・・・アツイ!」

炎を纏っていると錯覚する程の斬撃を受け、ペニスーツマンは身を焼かれるような痛みに悶絶した。

「ハッ……ハッ……ハッ……」
「呼吸が荒くなっている……攻撃が効いているのか……? いや、これは……まさか……!?」

息を荒らげるペニスーツマンを観察していた炭治郎に戦慄が走る。

「オラァ! チンコ野郎! その頸、伊之助様が貰ったぁ!」
「伊之助! 待つんだ!」

炭治郎の制止を振り切り、伊之助がペニスーツマンへと突撃した、その瞬間のことであった。

「摩羅の呼吸 壱ノ型 『破瓜の一突き』」
「がはぁ!?」

ペニスーツマンは、鋼の如く硬化させた亀頭部を槍のように突き刺し伊之助を迎撃した。
サーモンピンクの一撃を腹に受けた伊之助は、近くの大木に全身を叩きつけられた。

「雷の呼吸 壱ノ型 『霹靂一閃』っ!」
「摩羅の呼吸 参ノ型 『螺旋扇情男根(らせんせんじょうだんこん)』」

善逸が超速の居合斬りを仕掛けるも、ドリルの如く回転し突貫するペニスーツマンにより弾かれ吹き飛ばされた。

「ぐっ……!?」
「伊之助! 善逸! くそっ! まさか呼吸法を使えるなんて!?」

人間を超越している異形が、身体能力を向上させる呼吸法を駆使するという驚異。
炭治郎はペニスーツマンを、上弦の鬼にも匹敵する、いまだかつてない強敵であると改めて認識した。

「……負けるものか!」

呼吸を整え、気炎を吐く。
やがて炭治郎の額の『痣』が黒々とした色に変化した。

「サルみたいにシコりたさが増してるんだけど、 かなり見すぼらしくなりました…… 」

炭治郎が放つ剣気が増したことを感じ取ったペニスーツマンが気圧させる。
構わずに、炭治郎は日輪刀を握りしめ、竈門家に伝わる神楽を舞った。

「摩羅の呼吸 伍ノ型 『大亀頭・拝み倒し』」
「ヒノカミ神楽 『陽華突』!」

ペニスーツマンが肥大化させた亀頭部を打ち下ろすと、炭治郎は天へと捧げる突きで迎え撃った。

「ヒノカミ神楽 『日暈の龍 頭舞い』!」
「摩羅の呼吸 肆ノ型 『暴れん棒・乱舞』」

龍が舞い踊るような剣戟と小便を切るためにちんこを振り回すような動きが激突する。

(重くて速い……! それに、悪臭で鼻が効かなくて動きが読めない……! 『隙の糸』も見つからないし、一体何なんだこの生き物は……!)

ヒノカミ神楽の連発によって、炭治郎の身体は悲鳴を上げていた。
それでも炭治郎は、一瞬でも気を抜けば押し切られると奮い立ち、ペニスーツマンへと刀を打ち込んでいく。

「ヒノカミ神楽 『炎ぶ……!?」
「摩羅の呼吸 捌ノ型 『八岐大蛇珍宝(やまたのおろちんぽ)』!」

ヒノカミ神楽がもたらした身体への負担により、技を繰り出すのが一瞬遅れてしまっていた。
そんな隙を見逃さず、ペニスーツマンは陰茎のしなりと慣性の法則を利用した勃起技を撃ち放った。
亀頭部が八つに増えたと錯覚する程のスピードで、鋼鉄のペニスの嵐が上下左右から炭治郎へと襲いかかる。

「お、おぉッ! 『炎舞一閃』ッ!!!」

炭治郎は咄嗟にヒノカミ神楽に雷の呼吸の踏み込みを掛け合わせた。
高速の突進から繰り出された灼熱の一撃は、遅れて技を打ち込んだにも関わらず、ペニスーツマンへと一方的に斬撃を刻み込んだ。

「ハァ……ッッッ! ハァ……ッッッ! こ、呼吸を整えないと……!」

身体への負担が限界まできた炭治郎が膝をつき、息を整えていく。
充分な手応えは感じたはずだとペニスーツマンへと視線を向けると

「ムクムクムク!(勃起)」

裂傷を刻まれながらも、ペニスーツマンは亀頭部をビンビンさせながら突っ立っていた。

「ま、マズい……早く呼吸を……」
「『ハイメガザーメン砲』」

ペニスーツマンの頭部より、莫大な量の精液が鉄砲水の如く射精された。
迫り来る驚異に対抗すべく、炭治郎が動かない身体に鞭打ちながら日輪刀を握り締めた、その時であった。

「水の呼吸 陸ノ型 『ねじれ渦』」

炭治郎の目の前に一人の青年が立ち塞がる。
彼が放った渦を巻くような剣戟により、精液の奔流は四方八方に飛び散った。

「義勇さん!」
「下がっていろ」

『水柱』冨岡義勇が助太刀に参上した。

『焦りから「おまんこがぐちょぐちょ!まるで漫湖だ〜〜〜Loveヶ崎!」って絶叫したら逮捕されて泣く泣く撤退することがある」

義勇が放つだだならぬ圧力を前に、ペニスーツマンが息を飲む。

「蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 『複眼六角』」
「ファッ!?」

義勇に気を取られていた虚を突くように、『蟲柱』胡蝶しのぶが舞い降りた。
蝶の紋様の羽織りを翻し、目にも止まられる速度の六連突きをペニスーツマンへと叩き込んだ。
炭治郎達が刻んだ傷へと寸分違わずに打ち込まれた連撃は、しのぶの日輪刀に仕込まれた毒をペニスーツマンへと蝕ませた。

「や、やめちくり〜」
「貴方に打ち込んだのは、『男性自身を鎮める薬』ですよ。その様子だと、充分に効果は発揮したようですね」

しのぶが笑顔で打ち込んだ毒の解説を行う。
鋼の如くガチガチに勃起していたペニスーツマンの亀頭部は、目に見えてフニャフニャになっていた。
如何なる勃起技も射精技も、勃起を封じられては用をなさない。
胡蝶しのぶは唯の一手でペニスーツマンを無力化していた。

「今日も定時で上がらせてもらいますぅ!」

ペニスーツマンは背後の空間にクラックを展開し、そそくさと逃げ去っていった。

その見事な逃げっぷりに、一同は鬼舞辻無惨を想起していた。
カァ……と鎹鴉の鳴き声が夜の森林に虚しく響いた。

星星星

「結局、アレは鬼じゃなかったんだろ! やっぱり無駄足じゃないかよ!」

花屋敷にて、善逸がいつものように喚いていた。

「そりゃあ、普通に無惨の名前を口にしていたし、血の臭いも全くしなかったし、少なくとも、人喰いではないはずだよ」
「そりゃあそうかもしれないけどさぁ! 俺は被害に遭いかけたんだよ! 性的に消費されたんだよ! 心の中の何かが奪われたんだよ!」
「善逸……俺達は鬼殺隊だろ。文字通り鬼を殺すのが目的だ。あのちんこ男が鬼とは関係ないのであれば、俺たちの出る幕はない。そうだろ」
「あぁもう! 正論なんて聞きたくないんだよ! もっと俺に優しくしろよぉ!」

ぎゃあぎゃあ喚く善逸を炭治郎が嗜める。
いつも通りの日常が繰り広げられていた。

「あのちんこ男……デカかった……いや、ミミズに小便かけて腫れた俺様のちんこの方がデカかったね!」
「下品な事を叫んでないで、静かになさってください!」

伊之助もまた、委員長タイプの鬼殺隊士・神崎アオイによって諌められていた。

(あのちんこ男……熊よりも猪よりもデカかった……! 鬼じゃあないってんなら奴はまさか山の王……!?)

独特の感性でペニスーツマンの姿に神秘性を見出した伊之助は、布団の中でガタガタと震えていた。

星星星

とある夜。
花屋敷が夜の帳の中で静まり返った時間に、与えられた自室で善逸はコソコソと着替えていた。
眩い黄色の鬘、兎の耳のようなリボン、臍出し袖無しのセーラー服、極短のミニスカートに黒のTバック、そして紅白の模様のニーソ。
紛れもなく『島風くん』の衣装そのものであった。
善逸宛で匿名で送られてきた衣装に身を包んだ善逸は鏡の前で己を見つめていた。

「やっぱり俺っていけるんじゃないかな……真剣に……」

己の中の新たな可能性を見つけた善逸が恍惚としていると

「善逸、稽古場に鍔を置きっぱなしにしてた……ぞ……」

ノックもせずに入ってきた炭治郎が笑顔のまま固まっていた。

「……こ、こんなことある……!?」
「……善逸……今後は、禰豆子にはあまりに近づかないでほしい……」
「待ってくれ炭治郎ォォォ!!! これは違うだぁーーーっ!!!」

善逸の甲高い叫びが夜の蝶屋敷に木霊した。

星星星

 哲学する男性器『ペニスーツマン』
 いくつもの世界を周り、その瞳は何を見る?

ペニス―ツマン VS アベンジャーズ

※時系列は『シビルウォー』の前くらい

 国民的ヒーロー・超人・スパイ等が集まり結成されたドリームチーム『アベンジャーズ 』は、ヒドラの残党を追跡していた。
 メンバー達はナイジェリアの郊外にある古びたビルの廃墟の前に集合していた。
 ヒドラの残党が潜んでいるとの情報を掴んだ為である。

「トニー達と合流した後に、敵のアジトへ突入しよう。ただ……その、上手く言えないが……嫌な予感がする。禍々しい気配を感じるというか……ともかく皆、気を引き締めてかかってくれ」

アベンジャーズ 』のリーダーである『キャプテン・アメリカスティーブ・ロジャースが仲間達へと言葉を投げかけた。
 第二次大戦中から戦い抜いてきた戦闘経験が、何かしらの警鐘を鳴らしている様子であった。

「キャップ! 生体反応を探ってみたんだが、建物の中には、どうやら一人しか居ないみたいだぜ」
 そんなキャプテンへと『ファルコン』サム・ウィルソンが状況を報告した。
 支援偵察型のロボットドローン『レッドウィング』を駆使し、建物内部をスキャンして得た情報である。

「一人しか居ないというのは妙だな……敵の狙いは待ち伏せか……それとも情報自体がガセだったか……」
ヒドラが潜んでいるというのは、確実に裏を取った情報よ。反応が一人だけというのは気になるところだけど、何かしらの理由があるはず。例えば……」
 弓矢の達人『ホークアイ』クリント・バートン。
 諜報活動に長けた女スパイ『ブラック・ウィドウ』ナターシャ・ロマノフ。
 元S.H.I.E.L.D.のエージェントである二人がサムが得た情報を元に考察を始めた。

「仮に待ち伏せしようとする腹づもりなら……我々『アベンジャーズ 』をたった一人で相手取ろうと考えているのか? とんだ傲慢さだ。いやはや、肖りたいものだよ」
「トニー……君がこれ以上傲慢さを磨きあげたら、どんな生き物になってしまうんだい?」
 エージェント達の考察を遮るように、二人の鋼の戦士が上空より舞い降りた。
『アイアンマン』トニー・スターク。
『ウォーマシン』ジェームズ・ローズ。
 共にパワードスーツを駆使するヒーローである。

「トニー……多忙な所を協力してもらって、すまない」
「君にするな。ナイジェリアなんて、ニューヨークからでもプライベートジェットがあればひとっ飛びさ。僕だって『アベンジャーズ』の古株だ。『ニュービー』達に負けてはいられないってね」

 スティーブが労いの言葉を投げかけ、トニーは大げさに身振りを交えながら肩をすくめた。
 そんなトニーの視線の先には『アベンジャーズ』に新たに加わった二人のメンバーが佇んでいた。

「皆様のお役に立てるよう尽力しましょう」
「えぇ……少しでもこの力が役に立てば……」
 究極のアンドロイド『ヴィジョン』
 可憐なサイキッカー『スカーレット・ウィッチ』ワンダ・マキシモフ。
『ウルトロン』との戦いを経て、新たに『アベンジャーズ 』へと加わったメンバーである。

「全員集まったようだな。これより、アジトへと突入する。生体反応は一人だけになっているようだが……伏兵が潜んでいる可能性は否定できない。敵は元S.H.I.E.L.D.の特殊部隊出身の者も居るはずだ。くれぐれも油断せずに行こう!」

 キャプテンアメリカの指揮の元、『アベンジャーズ 』は廃墟のビルへと突入した。

☆☆☆

 廃墟のビルの内部は、外見とは打って変わって、銃火器や研究機材等が所狭しと詰め込まれていた。
 ヒドラの残党が潜んでいるという情報は確かな様子であった。
 キャプテンアメリカを中心に、『アベンジャーズ』は細心の注意を払いながら、捜査を進めていく。

「隣の部屋から生体反応を一人確認した。どうやら本当に一人で待ち構えているようだ」
「……気を引き締めて行こう」
 トニーからの報告を受け、キャプテンアメリカは真摯な面持ちで号令をかけた。

「『アベンジャーズ 』だ! 武器を捨てて投降しろ!」
 キャプテンアメリカが先陣を切り、ドアを蹴破るような勢いで部屋へと突入し、ヒドラの残党と思われる人物へと投降を呼びかけた。

「キモオタを5人集めて最強のキモオタ、キモオタXを作りたいんですよ〜。確かにキモオタXを作るのは難しい。でも俺はぜ〜〜〜ったいに作るぞ?」

 粗末なパイプ椅子に腰かけたスーツ姿の男が、何やら訳の分からないひとり言を呟いていた。
 その男の瞳には『虚無』が秘められていた。
 その表情は難問に挑み続ける哲学者のように苦悩に満ちているようで
 また単位を修得できずに留年が決まった大学生のような絶望を秘めて
 はたまたFXで有り金全部溶かす人の顔のようでもあった。

「君は……ヒドラの協力者か? それとも……」
2.5次元オタク女性さんだらけの店で一人でスパゲッティ食ってる」
「何だって?」
「柔らかい尻になりたい」

 相対しているキャプテンアメリカにさえ、男は視界に入れていない様子であった。
 虚空を見つめながら、何やら狂人めいた言葉を吐いている。

「体格からして兵士ではないようね。でも、とてもじゃないけど正気だとは思えない……洗脳を受けているのかもしれないわ」
「あるいは強化人間か……ワンダ、どう思う?」

 ナターシャとトニーの推測に対し、ワンダは悲しげな表情で答えた。

ヒドラの人体実験は過酷だから……その過程で精神が崩壊してしまった人も多くいたわ……この人も実験の犠牲者の一人かもしれない……」

(バッキーのように洗脳を受けているかもしれないということか……)

 ヒドラに洗脳されし暗殺者『ウインター・ソルジャー』バッキー・バーンズ。
 スティーブは自らの生涯の親友を思い浮かべながら、悲痛な表情を浮かべた。

「落ち着いて聞いてくれ。大人しく投降するのであれば、我々は決して手荒には……」
坂上逆孤(さかのうえさかこ)と申します」
「そ、そうか……僕はスティーブ・ロジャース

 突如、パイプ椅子から立ち上がり自己紹介を始めたスーツ姿の男に、対話の可能性を見出したキャプテンアメリカが律儀に名前を名乗った。

「またの名を、哲学する男性器『ペニスーツマン』……オタクのみんなももうゴールしていいぞ(死刑宣告)」

 坂上は徐にスラックスのジッパーを下ろし、己の逸物をぼろんと出しながら宣言した。

「変身!」

 逸物から放たれる白濁とした閃光に包まれながら、その姿は異形へ変貌していく。
 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
 瞬間、『アベンジャーズ 』のメンバーに戦慄が走った。その珍妙な姿形とは裏腹に、『チタウリ軍団』や『ウルトロン』のような恐るべき力を感じ取ったのである。

「『アベンジャーズ 』! 戦闘開始だ!」

 思考を切り替え、キャプテンアメリカが号令を下す。
 次の瞬間にはパパパンッ!と乾いた銃声が響いた。
 真っ先に動いたブラック・ウィドウがハンドガンの引き金を引いた為である。

「早く健康な肉体と穏やかな精神が欲しい。今はそれだけです」

 正確無比な射撃により、ペニスーツマンの胸元に三発の銃弾が撃ち込まれたが、意に介した様子はなかった。

「……銃弾程度では、傷一つ負わないようね」
「なら、これはどうだ!」

 アイアンマンが掌よりリパルサーレイを照射した。
 粒子ビームを浴びたペニスーツマンは吹き飛ばされ、実験機材を巻き込みながら転がっていく。

「臀部が痛えなあーーー!!健康な尻に取り替えてえなああああああああ!!!!!!!『おしっこレーザーカッター』!」

 ペニスーツマンの亀頭部より、ウォーターカッターの如き勢いで小便が放射された。
 アイアンマンとスカーレット・ウィッチは飛翔し、キャプテンアメリカとブラック・ ウィドウは素早く身を伏せることでこれを回避した。

「建物内は狭くて不利だ。ワンダ、この男を外まで飛ばしてくれ!」

 スカーレット・ウィッチへ指示を飛ばしながら、キャプテンアメリカがペニスーツマンへと突貫する。

「助けてください、臭い屁が止まりません……『タートルヘッドバット』!」
「ハァッ!!!」
 ペニスーツマンが鋼の如くガチガチに勃起した亀頭部を迫り来るキャプテンアメリカへ叩きつけた。
 キャプテンアメリカはその象徴たるヴィヴラニウムの盾を構え真っ正面から受け止めた。
 ギィーンッ!と衝撃音が鳴り響く中、キャプテンアメリカが叫ぶ。

「ワンダ、今だ!」
「ハァァッッッ!!!」

 キャプテンが作った隙を見逃さず、スカーレット・ウィッチがテレキネシスをペニスーツマンへと浴びせた。

「……腰と尻に刻印蟲埋め込まれてる」

 真紅のエネルギーがペニスーツマンに纏わりつき、その身体は宙に浮いていく。
 コンクリートの壁をぶち抜き、ペニスーツマンは廃墟ビルの外まで吹き飛ばされた。

「尻が痛くてペンギン歩きしかできなくなった」

 よろよろと起き上がるペニスーツマンの前に、逃走経路を潰すため外に控えていた四人のヒーローが立ちふさがった。

ヒドラの強化人間か……それにしても、趣味の悪い姿をしてるな」
「人間の頭を巨大なペニスにすげ替えるなんて、何を食べたらそんな発想に至るのかね」
「洗脳されている可能性を考慮して、キャップからは出来れば生け捕りにしろと指示が出ている。なるべく殺すなよ?」
「得体の知れない力を秘めているようです……! 皆さま、どうか油断なさらぬよう……」

 ホークアイ・ウォーマシン ・ファルコン・ヴィジョンの四人がペニスーツマンと相対する。

「今回の旅行、タクヤさんの体みたいな時間配分になってしまったのが反省だンアーーーッッッ!?」

 腕を組みしたり顔?で反省点を語るペニスーツマンに、ホークアイが射ち放った矢が突き刺さる。
 電撃を放つトリックアローがペニスーツマンの身体を痙攣させた。

ホークアイって人の武器、銃じゃダメなの?」
「お前!? 俺を知っているのか?」
「今だ!!!『ハイメガザーメン砲』!」

 会話で動揺を誘い隙を見出したペニスーツマンが、精液の奔流を亀頭部より放射した。

「なっ!?」

 ホークアイは精液の奔流に呑み込まれ、その衝撃と悪臭に意識を刈り取られた。
 ウォーマシンとファルコンは上空に逃れ、ヴィジョンは密度操作の能力を用いて透過し回避した。

「あのペニス男、恐ろしい量の精液を射精したぞ!」
「クソッ! よくもクリントを!」

 宙を駆けながら、ウォーマシンが両腕からバルカン砲を、ファルコンが二丁のマシンピストルを、ペニスーツマンへ向け撃ち放つ。

「会社のソフトボール大会やスポーツ大会、立食形式の懇親会には二度と行かねえ。それが俺の忍道だから……」

 銃弾の雨を浴びながらも、ペニスーツマンはクネクネと身を捩りながら何やら決意めいたものを語っていた。

「銃撃が効いていない! 奴は見かけよりも頑じょウァァァッッッ!!!」
「サムッ!?」

 ファルコンの鋼の翼は、粘着性の精液により絡め取られていた。
 飛行能力を失ったファルコンは無残にも墜落していき、やがて地面に叩きつけられた。

「『ザーメンとりもち』」
「サムにザーメンを当てたというのか! 攻撃の精度も高い……!」
「ローディ……下がってください……!」

 複数のミサイルすら回避する空中機動能力を誇るファルコンに、ペニスーツマンは易々とザーメンをぶっかけた。
 その攻撃の精密性に戦慄するローディを守るように、ヴィジョンがペニスーツマンと対峙する。

「インフィニティーストーンを6つ集めた和田さんは指パッチンして全世界の女子大生を暴行するけど代償に死ぬのでエクゾディア5枚集めた和田さんが勝つと思います」
「貴方は……この額の石が目的なのですか……!?」

 ペニスーツマンはネクタイを締め直しながら、ヴィジョンの額に熱烈な視線?を向けていた。
 アンドロイドであるはずのヴィジョンが悍ましさに表情を歪ませた。

「オタクに必要なのは安定した雇用と健康な肉体とキモくない趣味とsyamuゥゥゥーーーーッッッ!!!」

 突如、背後より撃ち込まれ複数の小型ミサイルにより、ペニスーツマンは爆炎に身を包まれた。
 アイアンマンが発射したマイクロミサイルである。

「ローディ、状況はどうなっている?」
「クリントとサムがやられた! そしてどうやら、奴の目的はヴィジョンの額にあるストーンのようだ」
「そうか……奴の目的はストーンをおびき寄せることだったのかもしれないな……」

 ヴィジョンの額の石は、ロキが持っていた『杖(セプター)』に内包されていた『マインドストーン』である。
 インフィニティストーンの1つである『マインドストーン』を元に、マキシモ姉弟の特殊能力やウルトロンは生み出された。
 巨大な力を秘めし『マインドストーン』を得ることが、ペニスーツマンの目的であるとトニーは推測した。

「ヴィジョンという人、高潔な心を持っているのは分かったが顔の色が親しみにくすぎる」
「見慣れればチャーミングに感じるさ。魅力がわからないような輩に、ウチのヴィジョンを渡す訳にはいかないな」

 軽口を叩きながらも、トニーは怒りを胸にアイアンスーツのガントレットをペニスーツマンへ差し向けた。
 相対するペニスーツマンは、懐からローションを取り出した。

「『アクセルローショ……あ痛ッ?」

 ペニスーツマンが取り出したローションは、キャプテンアメリカがフリスビーのように投擲した盾によって砕かれていた。

「小癪な……アヒィッッッ!?」

 ペニスーツマンの背広に小さなバッチのようなディスクが貼り付けられた。ブラック・ウィドウの持つリストバンド型の装備『ウィドウ・バイト』から発射されたスタンガンである。
 3万ボルトの電撃が身体を駆け巡り、ペニスーツマンが悶絶する。

「ハァァーーーッッッ!!!」
「はわわ……塗るバンテリンを臀部に塗りたくった結果、尻からサイコフィールドが発生している……」

 ペニスーツマンの身体が真紅のエネルギーに包まれると、やがて両腕を後ろで交差するような形で蹲った。
 スカーレット・ウィッチがテレキネシスを用いてペニスーツマンを拘束したのである。

「今だ、トニー! 最大火力を浴びせるんだ!」
瓦礫に当たった反動で戻ってきた盾をキャッチしながら、キャプテンが叫ぶ。

「言われるまでもないさ。ローディ! ヴィジョン!」

 アイアンマンが両手からリパルサーレイを放ち、肩部からマイクロミサイルを掃射した。
 ウォーマシンは両腕両肩の銃火器を解放し、バルカン砲・ミサイルの一斉掃射を浴びせた。
 そしてヴィジョンは額の『マインドストーン』を輝かせ、極太のエネルギービームを発射した。
 数多のミサイル群と強烈なエネルギービームの洗礼を受けたペニスーツマンは、その身を焦がされながら瓦礫の山へと吹き飛ばされる。

「……腰がくしゃみ程度の衝撃に耐えられん」

 三人のヒーローの一斉攻撃を受けたペニスーツマンが、頼りない足取りで起き上がった。

「Killiter Ichaival tron……」

 突如、廃墟に無駄にいい声が響き渡った。
 集音マイク型のペンダントへ握りしめながら、ペニスーツマンが聖詠を唱えたのである。

「クリスちゃん……シンフォギアの力、お借りします……」

 シンフォギア・システム。
 FG式回天特機装束の名称である。
シンフォギアの世界』で出会い、交戦した雪音クリスから得た『魔弓イチイバル』の力を、ペニスーツマンは発現させた。
 その両手にボウガン型のアームドギアが出現し、腰部に赤いリアアーマーが形成されていく。

「Yes! Party Time!! Yes! Golden Time!!」

 やがて、ペニスーツマンが纏うシンフォギアからポップな音楽が流れ始めた。
 シンフォギア・システムは、身に纏う者の戦意に共振・共鳴し、旋律を奏でる機構が内蔵されている。
 心の内から浮き上がる旋律を歌い上げることで、ペニスーツマンはその機能を十全に発揮する。

「パワードスーツとは……奴はまだ切り札を隠し持っていたのか!?」
「アレはナノテクか? 僕にもまだ構想段階だというのに、まさかペニス男に技術面で先を越されるとは……」

 キャプテンアメリカとアイアンマンがペニスーツマンが纏ったスーツに警戒を示した。

「揺らせ!激しく Heart Beat! 君の Emotion! さらけ出せたら無敵だ・ね!
 歌おう Singing! 踊ろう Dancing!」
「それにしても、何で奴は歌っているんだ? あのアーマーにはカラオケ機能でも付いてるとでもいうのか……?」

 シンフォギアの機能を知らないローディは、熱心に歌い続けるペニスーツマンの行動に疑問を呈する。

「こ・こ・から ちゃんと見てるよっ!」

 歌詞に合わせるように、ペニスーツマンが熱烈な視線?をヴィジョンへ向けた。
 身をこわばらせるヴィジョンに対し、ペニスーツマンがアームドギアを変形させた。

「目と目があった時 始まるのはLove Story??」

ーBILLION MAIDENー
 ペニスーツマンがアームドギアを変形させた四門のガトリング砲を掃射した。
 狙いはヴィジョンである。
 ヴィジョンは密度操作の能力を用いて透過しようと試みたが……

「がっ……!? な、何故……密度の操作が……!?」

 イチイバルの弾丸はヴィジョンを捉え、アンドロイドの身体に風穴を開けていた。
 シンフォギア・システムにはノイズの位相差障壁を無効化する為に、攻撃対象を『調律』し、通常物理法則下へと無理矢理引きずり出す機能が備わっている。
 能力を無力化され致命傷を受けたヴィジョンが、無念の表情を浮かべ地面へと倒れた。

「食い気味な気持ち 持て余す Hey Boys!!
 Right Now!! 聞かせて Right Here!! 私に」

ーMEGA DETH PARTYー
 ペニスーツマンの歌唱が響くと同時に、腰部のリアアーマーから数多のミサイルが撃ち放たれた。

「よくも、ヴィジョンをやってくれたな!」
「火力ならこちらも負けていない!」

 アイアンマンが両手からリパルサーレイを放射し、ウォーマシンは両腕のバルカン砲を用いて、飛来するミサイル群『MEGA DETH PARTY』を撃ち落としていくが……

「ウワァァァーーーッッッ!」
「ローディーーーッ!!! 」

 撃ち漏らした一つのミサイルがウォーマシンを直撃した。

「フライデー、ローディのバイタルをチェックしろ!」

 トニーが瞬時に駆け寄り、ローディのバイタルをAIにチェックさせた。
 幸い命に別状はなかったが、衝撃によりローディの意識が奪われていた。

「勝負のコスチューム 迷ってる Hey Girls!!」

ーまんこ破壊光線ー
 歌い上げながら、ペニスーツマンがスカーレット・ウィッチへと身体を向けると、その両乳首から桃色の怪光線を放射した。

「い……いや……」
「ワンダっ!」
 本能的に危険を感じ取ったことでかえって竦んでしまったスカーレット・ウィッチをブラック・ウィドウが突き飛ばした。

「アァァァッッッ!?」

 女性器を破壊せしめる怪光線を受け、ブラック・ウィドウが崩れ落ちた。

「Right Now!! コールして Right Here!! アイツに
 良い子を脱ぎ捨て 輝く夜に繰り出そう!」
「このままでは全滅する! 皆、一箇所に固まり互いを守り合うんだ!」

QUEEN's INFERNDー
 クロスボウから連射されたエネルギー矢の豪雨をヴィヴラニウムの盾で防ぎながら、キャプテンアメリカは懸命に指示を飛ばしていた。
 気絶したブラック・ウィドウを背負い、ペニスーツマンの攻撃の雨の中進んでいると

「ネオンの中で泳〜ぐ〜 熱帯魚のように 今日こそっ!……ん?」
「下がるんだ! ワンダ!」

 キャプテンの制止の言葉も虚しく、真紅のエネルギーを両手に蓄えながら、スカーレット・ウィッチがペニスーツマンへと突撃していた。

「ナターシャは私を庇って……それだけじゃない……よくも仲間達を……!」

 ペニスーツマンと真っ向から相対したスカーレット・ウィッチがその真紅のエネルギーを霧状に噴射した。
 かつて『アベンジャーズ』の面々が苦しめられた、マインドコントロールの能力である。

「……平成の終わりにかこつけて半生を振り返ろうと思ったんですけど精神崩壊したので止めました……」
「これで大人しく……こ、これは……うぅ……」

 マインドコントロールの能力を受けたペニスーツマンは虚空を見つめながら立ち尽くしていた。歌唱が止まったことにより、纏っていたシンフォギア『イチイバル』は粒子となって消失した。
 しかし、スカーレット・ウィッチはペニスーツマンの心理、即ち『虚無の哲学』に触れてしまっていた。
 それは常人では耐え難い狂気の坩堝。
 強化人間であるワンダさえもその意識を葬られた。
 これで戦闘可能な『アベンジャーズ』のメンバーは、キャプテンアメリカとアイアンマンの二人だけとなった。
 両者は並び立ち、早口で作戦を立てていく。

「僕が時間を稼ぐ……! トニー、君はメンバーを回収し離脱してくれ!」
「おいおい! 何を言っているキャプテン! あのペニス男はとてもじゃないが……」
「これまでの戦いで奴は消耗している。僕でも多少の時間は稼げるはずさ。君はスーツの機動力を活かし、メンバーを回収して逃す。これが今の状況で取れる最善の行動のはずだ!」
「消耗していると言ったな! このまま二人で戦い押し切るべきではないのか!?」
「奴の力量は底が知れない! そんなリスクは犯せない! ここは『アベンジャーズ』の全滅を避けるべきだ」

 言い切ると盾を構え、キャプテンは走り出した。
 トニーの脳裏にかつてのトラウマが蘇る。『アベンジャーズ』が自分一人を残して全滅してしまうという、最悪の幻想を。

「クソッ! こんなときにソーやハルクがいれば……!」

 キャプテンアメリカの背を見送りながら、トニーは毒づいた。
 別世界アスガルドから来訪した雷神『ソー』。
 超怪力を誇る緑の巨人『ハルク』ブルース・バナー。
 共に『アベンジャーズ』の古参メンバーであり、戦闘力においては最強を誇るといっても過言ではない力を持つヒーローである。
 ソーは故郷アスガルドへ帰り、バナー博士はソコヴィアでの戦いの後から行方不明になっていた。
 いない者に縋るなんてヤキが回ったものだ、などと内心で自嘲しながら、トニーは負傷したメンバーを抱え、安全な場所へ運んでいった。

☆☆☆

「ハァァ〜〜〜『ペニスウィング』!」
 ガキィン!と金属音が鳴り響いた。
 ペニスーツマンのガチガチに勃起させた亀頭部とキャプテンアメリカの盾が衝突した音である。
 衝撃に耐えきれずキャプテンは吹き飛ばされ、瓦礫へと体を打ち付けられた。全身が精液に塗れており、星条旗をモチーフとしたユニフォームもボロボロになっていた。
 満身創痍のキャプテンアメリカは歯を食いしばり立ち上がり、そして不敵にファイティングポーズを取りながら

『“I can do this all day.” (決して諦めない)』

 そう宣言した。
 キャプテンアメリカの心はペニスーツマンにさえも折ることは出来なかった。

「……普段何気なく接してる会社の人も実はこの世の終わりみたいなパンツ履いてるかもしれない」

 何度でも立ち向かってくるキャプテンに対し、ペニスーツマンは気圧された様子であった。
 そして攻撃を躊躇した、その瞬間であった。

 ビカッ!と雷が迸った。
 虹色の柱と共に。

「落雷……! これは……!」

 落雷で生み出されたクレーターの中心には、鋼のハンマーを手にした筋骨隆々とした大男が立っていた。
 その隣には、大男よりも更に一回り大きな緑色の巨人が咆哮していた。

「ソー! ハルク!」
「我が親友ヘイルダムより、世界を滅ぼす程の危険を感じたと報告を受けてだな。及ばずながら助太刀に来たぞ、キャプテン!」
「ありがとう! 何よりも心強い援軍だよ。それで、ハルクの方は……?」
「ウォォォッッッ!ハルク、コロシアムに、帰る!」

 ハルクは子供のようにただをこねていた。
 とある星まで流れ着き、バトルロイヤルのチャンピオンとして君臨してチヤホヤされていたところを、『虹の橋』により突然拉致された為である。

「ヘイルダムの千里眼で探し出したのだが、何故か別の惑星に居たぞ」
「それは気になるところだが、今の状況では後回しだな……」

 捜索していたブルース・バナーが眼前にいる。
 ナターシャに早く伝えたいという気持ちを抑え、キャプテンは言う。

「突然呼び寄せてしまって、すまない。ただ今だけは、協力をしてもらえないか?」
「チンポコの男、ぶっ飛ばしたら、帰れる?」
「あぁ、遠慮なくぶっ飛ば(Smash)してくれ!」

 瞬間、ハルクはペニスーツマンへと飛びかかった。緑色の豪腕がペニスーツマンの亀頭部へと叩き込まれる。

異世界召喚系の作品、タカヤ-夜明けの炎刃王-しか分かんねえんだよな……」

 ハルクの怪力に吹き飛ばされたペニスーツマンが、ふらふらとを頼りない足取りで立ち上がる。
アベンジャーズ』との連戦は、確実にペニスーツマンを消耗させていた。

「雷を見たからまさかとは思ったが、ソーに、ハルクまでいるじゃないか! 一体どんなトリックを使ったんだ?」

 負傷したメンバーの避難を終えたアイアンマンが合流した。その声色は困惑と、隠しきれない歓喜が滲み出ていた。

「新しく虫歯が見つかったんですけど次の診察まで3週間空くのでもう終わりですね……」

 強力な助っ人の登場に、ペニスーツマンは心なしか怖気ついている様子であった。
 そんなペニスーツマンの背後へと、ドォーン!と爆音が轟いた。
 駄目押しとばかりにもう一人、最期の助っ人が流星の如く降臨した。

「これがフューリーの言ってた『ペニス星人』? 本当にこんなふざけた生き物が存在するのね」

 異星人の力を得た超人『キャプテンマーベル』キャロル・ダンヴァースは、眩いエネルギーを全身に煌めかせ、ペニスーツマンを油断なく見据えていた。

「彼女は……ワンダのような強化人間か? フューリーの名前を出していたようだし、味方だと考えていいだろう」
「おいおい、誰かあの娘の知り合いはいないのかい?」
「知らないな。だが気に入った! 向こう気の強い面構えがな!」

アベンジャーズ』のBIG3キャプテンアメリカ・アイアンマン・ソーの面々がキャプテンマーベルの登場に困惑したが、思考を切り替え受け入れた。

「チンポコの男、ぶっ飛ばすのは、ハルクだ!」
「別に競争するつもりはないんだけど……」

 対抗心を燃やし吠えるハルクに対し、輝くエネルギーを両腕に纏いながらキャプテンマーベルは呆れた様子で腕を組む。
 キャプテンアメリカは自らの象徴たる盾を構え、アイアンマンはガントレットを敵へと差し向け、ソーはムジョルニアを天高く掲げた。

「皆、行くぞ……アベンジャーズ・アッセン……」
「今日は、定時で上がらせてもらいますぅ!」

 キャプテンアメリカが号令をかけようとした刹那、劣勢を悟ったペニスーツマンは背後の空間にクラックを展開した。そそくさとヘルヘイムの森へと避難し、やがてその場から消失した。

☆☆☆


「ひとまずは、我々の勝利だ。皆、よくやってくれた」

 突如撤退したペニスーツマンに対し唖然としていたが、切り替えキャプテンアメリカは勝利を宣言した。

 ソーやハルクはほぼ何もしていない為、どうにも不完全燃焼な表情を浮かべている。

「それで、君は何者なんだ?」
「私はキャロル・ダンヴァース。恩師マー・ベルの思想を受け継いだヒーロー『キャプテンマーベル』よ」

 トニーとキャロルが簡単に自己紹介を交わす。
 トニーは顎に手を添えながら

「そうか、よろしく。ところで、さっきはフューリーの名前を出してきたが……」
「そうだった! フューリー! 彼に謝りに行かないと!」
「ん、どうしてだい?」

 キャロルの慌てように、トニーが怪訝な顔で問う。

「通信機には『地球でペニス星人が暴れてる。君の力で鎮めてくれ』とメッセージが入っていたの。普通にセクハラメールだと思って出会い頭にぶっ飛ばしてしまったんだけど……念のために現場に来てみたら本当だったみたいで……」
「それは……ご愁傷様だな……」

 キャロルの力は凄まじい。
 果たしてフューリーの身体が原型を保っているかどうか疑問である。

「あのペニス星人は、私が責任をもって、宇宙の果てまで追いかけてでも仕留めるわ」
「僕らも同じだ。ここまでやられたからには、必ず『復讐(アベンジ)』を果たしてみせるさ」

アベンジャーズ』がペニスーツマンを明確な敵と見定めた。
 ペニスーツマンの明日はどっちだ。

☆☆☆

 哲学する男性器『ペニスーツマン』
 いくつもの世界を周り、その瞳は何を見る?

ペニスーツマンが異世界転生 第3射精

「この野郎醤油瓶……!」

 坂上が金髪の少女を睨みつけ、啖呵を切った。
 逸物を露出させることで怪異ペニスーツマンへと変貌せんとジッパーに手をかけると
「兄ちゃんは下がってな」
 大きな掌に肩を叩かれた坂上が振り返った。
「見たところ貴方は『冒険者』ではないのでしょう? 僕たちにお任せあれ」
「我らが姫騎士アリサが必ずや『デザイア』の魔物を討伐してみせまする」
 筋骨隆々な戦士然とした大男、眼鏡をかけた魔法使い風の青年、身の丈以上の杖を抱えた僧侶のような老人にそれぞれ声をかけられた。
 件の金髪の少女の仲間であると、坂上は推測した。
「輝け!『 ピュアホワイトスパーク』!」
 姫騎士と呼ばれた少女アリサが剣を掲げると、純白の稲妻が剣先より迸った。
 稲妻が少女を取り囲む巨大な蟷螂達を貫き、虫達を炭へと変えていく。
 そんな光景を坂上が苦虫を噛み潰したような顔で見守っていた、そのときであった。
「よくもアタシの子供達を焼きやがったな!」
 舌ったらずの声が森林に木霊した。
 小さな幼女が、鋭い目付きで姫騎士とその仲間たちを見据えていた。
 緑色の体色に、小さな頭から長い触覚が生えたその姿は、明らかに人間離れした外見であった。
「エッッッッ!」
 しかし、坂上にとって、昆虫を擬人化したようなその姿はどストライクであった。
 思わず絶叫し、坂上は軽く射精をしてしまっていた。
「魔物生み出す元凶……『デザイア』の一角、スナッチ……! 今日があなたの命日になります!」
 姫騎士アリサが凛とした声音で、昆虫の如き幼女へと宣言した。
「魔物を生み出す? 違うな。生み出しているのはお前達人間の『欲望』さ! アタシ達はお前達の悪意をエサにしているだけにすぎないんだよ」
 魔物を生み出す元凶と呼ばれた虫幼女スナッチが不敵な笑みを浮かべて応じる。
 彼女がボロ布を継ぎ接ぎしたようなワンピースの上からお腹をさすった。
 そのお腹は、さながら臨月に入った妊婦のように、その小さな体にアンバランスな程に膨れていた。
 やがて、スナッチの股下から、ポロッと野球ボール程の大きさの『卵』が産み出された。
「……行け!『クッコロスパイダー』っ!」
 スナッチが自ら産み落とした『卵』を蹴り飛ばした。
 宙空を飛ぶ『卵』が緑色の閃光と共に爆ぜる。
 瞬間、坂上よりも頭一つ大きい針金細工の人形のようなシルエットが出現した。
「八個の単眼、発達した上顎、それに出糸突起……! え、エロい……!」
「剣よ、閃けっ!『ミルクホワイトストリーム』!」
 蜘蛛を人型にしたような怪物を前に何やら興奮している様子の坂上に気にかけず、姫騎士アリサが舞うように剣技を繰り出した。
「……ど……どうして……?」
 人間離れした速度で振るわれた剣技を、クッコロスパイダーは予測していたように避け、アリサの身体を糸で捕縛していた。
「さぁ、『欲望』を解放しろ!」
 スナッチが口元を三日月のように歪ませ、宣言した。
 糸で手足を拘束されたアリサが、蜘蛛の触肢に甲冑を取り外され、為す術もなく肌を露わにされていく。
「い、いや……助けて! みんな助けてぇッ!!!」
 クッコロスパイダーの口元から飛び出たグロテスクな生殖器が姫騎士の秘部を貫かんとする。
 仲間達に必死に助けを求めたアリサは、驚愕に目を見開いた。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
「ちくしょう勃起が半端ねぇ!」
「後生だ! 眼鏡を、フィニッシュ前に眼鏡をかけさせてくれ!」
 仲間達三人はアリサの痴態を見物しながら、あろうことか自慰に興じていた。
 仲間の一人、魔法使い風の青年のリクエストに応じて、クッコロスパイダーが何処からか取り出した眼鏡をそっとアリサにかけた。
「み、みんな……なに、を……?」
「鈍いヤツだなぁ!『クッコロスパイダー』はお仲間の『欲望』から生み出された魔物なんだよ! 揃いも揃って仲間達は、お前が魔物に敗北し、無様に純潔を散らす様を心の底で望んでいたのさ!」
 アリサが絶望に染まった表情で、改めて仲間達を見つめた。血走った眼でアリサの痴態を凝視しながら、一心不乱に己の逸物を擦る男達がそこにいた。
「すみません! すみません! 姫騎士アリサ! 至高のオカズが目の前にあるんです! オナニーせずにはいられないのです!」
「……アアア………アァァァァッッッ!!!」
 魔法使い風の青年から投げかけられた言葉が、姫騎士アリサの心を粉々に砕いた。
 獣のように咆哮するアリサを前に、クッコロスパイダーは黙々と己が務めを果たした。
 アリサが純潔を失ったのと同時に、仲間達三人は生涯最高ともいえる射精を果たした。
「蜘蛛は頭部の触肢にスポイトのように精液を貯めて、これを生殖器のように使い雌と交接するからなぁ……口からチンコが出たのはその名残なのか」
 スナッチの姿を見て既に射精を果たしていた坂上は、穏やかな海のように落ち着いた賢者タイムの精神で、クッコロスパイダーの生態について考察していた。
「……しんでしまえ……あなた達なんて……みんな……死んでしまえ……!!!」
 クッコロスパイダーに現在進行形で陵辱されているアリサが仲間達へ向かって怨嗟の叫びをあげた。
 瞬間、虫幼女スナッチのお腹がボコっと膨れ上がった。やがてその股下から、ポコンとバスケットボール程の大きさの『卵』が産み出される。
「アハハハッッッ! 今回のは大物だなぁ! いけぇ、『パイプカットマンティス』!」
 緑色の閃光と共に『卵』から生み出されたのは、身の丈5m以上もある巨大な蟷螂であった。
「ハァッ……ハァッ……ガァゥッッ!?」
 蟷螂の魔物・パイプカットマンティスが自慰に耽る仲間達を、その巨大な鎌でもって横一文字に両断した。
パイプカットどころじゃないんだよなぁ……」
 腰の辺りで切り離されている死体三体を前に、坂上が冷静なコメントを残す。
 そんな坂上へと、パイプカットマンティスが鎌を振り上げ威嚇した。
「別に私はオナニーなどしてないのに……男なら見境なしってことですかね」
 そんなことを呟きながら、坂上は徐にスラックスのジッパーを下ろし、己の逸物をぼろんと出した。
「変身!」
 坂上が威風堂々と宣言する。
 逸物から放たれる白濁とした閃光に包まれながら、その姿は異形へ変貌していく。
 身体には変化は見られず、依然きっちりとしたスーツが着込まれていた。
 しかしながら……その頭部が陰茎というか男性器というか亀の頭のような形状へ変化していたのである。
「我が名は哲学する男性器『ペニス―ツマン』……命をかけて、かかってこい!」
 ペニスーツマンの『異世界』における最初の戦闘の幕が切って落とされた。

ペニスーツマンが異世界転生 第2射精

 まるで星空の中に放り出されたような、神秘的な空間であった。
 上下左右真っ暗な闇に包まれた中、遥か遠くで星々が瞬く宇宙のような異空間に、怪異ペニスーツマンから人間の姿へ戻ったサラリーマンが覇気のない表情で漂っていた。
「驚かないで聞いて欲しいのだが……君は死んでしまったのだよ、坂上逆孤(さかのうえさかこ)君。否、『ペニスーツマン』と呼ぶべきなのかな?」
「……はぁ。あの姿でも電車に轢かれれば死ねるものなんですねぇ……」
 眼前に出現した『人型の影』から徐に言葉が投げかけられた。
 どこか他人事のような返事をするスーツ姿の男、坂上へと『人型の影』は続ける。
「奇異な能力を宿す男、坂上よ。哀れにも冤罪で命を落とした君に、今一度チャンスを与えよう。君にはとある世界へと……」
「『異世界転生』……でしょうか?」
 言葉を遮られた『人型の影』が、ユラユラとその輪郭を揺らした。
「日本人は説明の手間が省けて助かるよ。その通り、ファンタジーな世界へと旅立ち、その能力を活かし、力を振るって欲しい。その奇異な力は現代の日本では持て余していたことだろう」
「持て余していたことを否定はしませんが……」
「ならば問題あるまい。転生者には所謂『チート能力』などと呼ばれる特典が与えられるのだが……」
 どうも煮え切らない態度をとる坂上を押し切るように『人型の影』が強引に話を進める。
「君には必要あるまい。既に特殊な能力を身につけているようだからな」
「出来ればスマホ繋がるようにして頂けると助かるのですが……現代っ子なので……」
 坂上の申し出に、数瞬『人型の影』が考え込むと
「そうか。ならば『異世界で使用可能なスマートフォンの持ち込み』という特典をつけておこうか。それでは、良き活躍を期待している」
『人型の影』の激励の言葉を最後に、坂上は眩い光に包まれ、やがてその意識を刈り取られた。

☆☆☆

「……どうすればいいのだろう」
 スーツ姿の男、坂上逆孤は途方に暮れていた。
 鬱蒼と茂る深林の中、木陰で体育座りしながら、坂上はただスマホを弄っていた。
「こんな森の中に放り出されるとは思わなかった……」
 怪異ペニスーツマンへと変貌する能力を持っていても、基本は平凡極まりないサラリーマンである坂上に、サバイバル技術など持ち合わせているはずもない。
 唯一の生命線であるスマホで『アウトドアで役立つサバイバル技術』などを検索しているが、豆知識をいくら仕入れたところで、直面している現実的な問題に解決するには至らなかった。
「着の身着の儘で転生されたものだから、ペットボトルもビニールシートも清潔な布も持っていないんだよなぁ……」
 ひとまず飲み水を確保しようとネット検索したものの、出てくるのは『ペットボトルで濾過する方法』やら『朝露を集める方法』やら気の遠くなる知識ばかりであった。
「一応は『チート能力』?扱いだからなのか、スマホのバッテリーが114514%で固定されているのがせめてもの救いか……」
 そんなことを呟きながら、坂上はフラフラと深林を探索していく。
 何にせよ水と食料を確保しなければ、と意気込み歩き慣れない森林をえっちらおっちらと進んでいく。
「解除方法が分からなくていまだに英検の試験監督と日雇いバイトの募集メール届く……んん?」
 スマホに表示される新着メールを見ながらうんざりと呟いていると、坂上は違和感を覚えた。
 キョッ!キョッ!キョッ!という怪音が森林に響いているのである。
 その奇怪な音は、坂上には聞き覚えがあるものであった。
「間違いない。これは蟷螂の鳴き声ですね……」
 坂上は人間の女体ではなく、虫の類に欲情する性癖を持つ男である。
 故に、昆虫の生態に関して造詣が深く、その知識を活かし鳴き声を分析したのであった。
 坂上は、さながら誘蛾灯に惹かれる羽虫のように、その鳴き声の出所へと歩んでいった。

「光よ集え、『ホワイトエッジ』!」

 其処には、妖精の如き美貌の少女が舞うように剣を振るっていた。

 白銀の鎧を着込んだ金髪の少女が、巨大な蟷螂の群れを相手に、光を纏った大剣をもってその悉くを斬り伏せていた。
異世界』に相応しい幻想的な光景を目撃した坂上は……

更年期障害だから唐突に世界にブチギレてしまう……!」

 斬り伏せられる蟷螂達を見て、怒りに震えていた。
 やがて坂上は、スラックスのジッパーに手をかけ、戦う決意を固めた。